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05 アルヴィナ迷子になる


「もしかして、私迷子になっちゃったのかしら……」



 ホーホーとフクロウの鳴き声がどこかから聞こえる、森の中。木々は私よりも背が高く、私を囲むようにうっそうと生い茂っていた。

 先ほどよりもじめじめとしており、先ほどいた場所では見かけなかったコケがそこら中に生えている。足を取られたら滑りそうだ、と考えながら、私は木に絡まった髪をほどくのに苦戦していた。

 最悪のお茶会の後、私はリーリヤに着替えを手伝ってもらい、森に入るように服を着替えた。

 ドレス姿ではさすがに森に出向くのは危ないため、パンツスタイルにし、ブーツを履いた。しかし、このブーツは少し大きさがあわず、ぎゅっと紐で硬く結んでようやく脱げなくなったのだ。

 そうして、森に入ってかれこれ数十分が経つが、安全区域で見つけた兎を追いかけていると知らぬ道に出てしまい、帰り道もわからず路頭に迷ってしまったというわけだ。

 これには、さすがの私も心細さが限界を迎えそうだった。

 リーリヤには、森に一人で入るのは止められたため、あの時素直に聞いていればよかったと思ったのだ。それに、森の中で遭難したとなれば、あのシュフティ嬢がこれ見よがしに笑ってくるに違いない。



「……って、私は周りの評価を気にするほうだったっけ?」



 スヴェルカーニエ王国では、人の顔色を窺って生活することはなかった。皆群れの仲間――国、国民という意識でやってきたし、姉弟とも分け隔てなく接していた。

 けれど、フィクスシュテルン王国に来て人間の世界がやたら人の目を気にし、評価を気にし、顔色をうかがいながら生活していると知ってしまった。身分の差、政略……いろんなものが入り混じり、息が詰まりそうだった。

 そのうえ、獣人に対する偏見の目にさらされ、私が頼れるのはリーリヤとヴィルフリート様、そしてカスパーさんだけだった。

 同盟を結ぶために嫁がされたわけだが、初めはこんな国だとは思わなかったのだ。嫁がされた、というよりは私が嫁ぐことを決めて飛び込んだのだ。


 文化が違うと言えど、スヴェルカーニエ王国は人間の国を模して作った国家であったため、きっと似ているところがあると安直な考えが私の中にあった。でも、実際は全く違う別世界。

 それでも、ここで生きていくしかないのだから少しでも文化に慣れよう、人と関わろうとしたが、たった一人の獣人が何かを変えられるわけもなく、壁にぶつかっているというのが現状。

 心細くなっているのは、きっとそのためだ。



「弱音を吐いちゃダメ!」



 パシン――と、私は、自分の頬を叩き、気合を入れなおした。

 ファーストペンギンは、勇敢なペンギンだけど、恐怖がないわけじゃない。でも、仲間のために一人海に飛び込むのだ。そんなペンギンに私は憧れていた。この結婚だって、私が受け入れたのだ。今さら弱音を言っていても仕方がない。

 とりあえずは、この森から抜け出すことを条件に歩くことを決めたのだ。もしかしたら、道中でヴィルフリート様と出会うかもしれないし。

 そんな期待を胸に歩き始めると、パキっと誰かが木を踏む音が聞こえた。もしかして、人が? と思い振り返ると、そこには黒いローブに身を包んだ怪しげな男が二人立っていた。

 どう見ても狩猟大会に参加している人には見えない。懐からナイフを取り出すと、黒いマスクの下が不気味に動いたのが見えた。



(何……この人たち)



 明らかに、理性的な目ではないような彼らの瞳に体が恐怖に震える。



「……誰……ですか?」



 絞り出した声が彼らに届いたのかは分からないが、返事もなく男たちはこちらに向かって来た。その手の中にはナイフが光っている。

 どうやら話が通じる相手ではないらしく、私に詰め寄ると、ナイフを振り下ろした。



「――っ!!」



 咄嗟に数歩下がるが、すぐに木に背中が当たる。もう逃げ場はないと悟った私は、恐怖に震える足を何とか動かし、男たちのいない方へと走り始めた。しかし、すぐに追いつかれると、一人は足払いをして私の体を倒し、もう一人が馬乗りになって私の腕をひねり上げる。



「いっ……た……」

「大人しくしろ」

「なあ、こいつがあの獣人の王女なのか?」

「だろうな。こんなところに、一人女が歩いているなんておかしいだろう。ただでさえ、獰猛な動物がうじゃうじゃいる森に、女一人って」

「ああ、元が獣だから危機感がないのか。それとも、仲間だと思ってんのかあ? この狩猟大会を何だって思ってんだ」



 彼らは私を前に話し始めた。

 私が獣人であることを知っているうえに、誰かに私を捕らえるように指示されたような内容もちらつかせている。

 その首謀者が誰かはわからないが、少なくとも獣人にいい感情をいだいていない人間だろう。



(……こんなところでやられて溜まるものですか!!)



 私は先ほどと同じように魔法で彼らを氷漬けにしようと思ったが、何故か魔法が不発に終わった。もう一度挑戦してみたが次も不発。

 なぜだろうと思っていると、男の一人がその答えを教えてくれた。



「俺たちの依頼主が、魔法を封じるチャームを持っていてよかったぜ。じゃなきゃ、今頃俺たちは氷漬けになっていただろうな」

「まったくだ。もう、抵抗しても無駄だから、俺たちに殺されな? 王女様」

「……魔法を封じるチャーム?」



 見れば、男の腕に何かが巻き付かれているのが見えた。それが、魔法を妨害するチャームのようだ。

 この世界にはそんなものがあるなんて初耳だ。ただ、何故彼らは私が氷魔法を使うことを知っているのだろうか。



(身内の犯行……いや、この場合は)



 犯人を捜す前に、まずはこの状況をどうにかしなければならない。犯人捜しはそれからだ。

 私は、意を決して男たちと向き合った。しかし、男たちは私を殺すことしか考えていないようでナイフを大きく振りかぶる。



「恨むなら、恨みを買った自分を恨むんだな――っ!?」

「んなっ!? あっちいいっ!!」



 男の一人のナイフは、私に当たることなく、木の根元に突き刺さった。

 そして、紅蓮の炎が彼らを取り囲み燃え広がる。

 私は、口から火を吐き終わり、ふぅと息を吐いた。



『……ふぅ、これは魔法認定には入らないのね』

「な、おま、なんだその姿!?」

『あら、知らないの? ペンギンを見るのは初めて?』

「ペ、ペンギン?」



 男たちは目を剝いて私を凝視した。その驚きようは、先ほどのシュフティ嬢にも匹敵する。

 私は、一か八かナイフの軌道を読んでペンギンの姿に戻り避けたというわけだ。そして、人間の姿で発動する氷魔法とは違い、ペンギンの姿で魔力を込め口から火を噴けば、先ほどのチャームの効果が発動しなかったのか火はその場で燃え広がったのだ。

 私は、ペンギンの姿では火を噴く魔法を使うことができる。これがなぜ魔法認定されなかったのかは理解できないが、もしかしたらあのチャームは人間の魔法を封じるものであって、獣人の魔法を封じるものじゃないのかもしれない。


 私は、男たちが慌てふためいているすきを見計らい、人間の姿に戻りその場を駆けだした。待て! と後ろから声が聞こえたが、炎は想像以上に燃え広がって、男たちは追ってこれなかったようだ。

 森の中には、どんよりとした空気が漂いだんだんと空も暗くなって気がした。そして、ぽつりぽつりと上空から雨が降り出し、一瞬のうちに森は豪雨に飲まれた。

 私はそんな暗い森の中を何を座標にするでもなくひたすらに走り続けていた。とにかく、逃げなければというそんな本能からきた行動が私を突き動かしていたのだ。



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