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第14話

 翌日は提携病院での定期診察の日だった。シュノーケリングを前にして、まずは病院で体調をチェックすることになっているのだ。

 マイクロバスで一行は病院へ向かう。

 大きな病院の診察室は占拠できないから、院内の会議室のようなところで、健康診断をすることになっていた。


「お忙しい中ご協力いただいてありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ、番組の反響は聞いていますよ。骨髄バンクのドナー登録者数も、その上献血まで増えていて、我々としても助かっています」


 会議室には担当してくれる医師が慌ただしく駆け込んできて、壮治と挨拶をする。


「それでは早速、一人ずつ問診させていただくのでこのブースへ入ってください。問診が終わったら採血するので、あちらの看護師さんに着いていってね」


 そう言われ、パーテーションで区切られた空間へと一人ずつ入っていく。みんな体調には問題なく、その分サクサクと列は進んでいく。

 あっという間に彩香の番が回ってきて、パーテーションの奥へと赴いた。


「桂木さんですね。担当医の早川です。よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


「13歳の時に発症して、6年間再発もなく維持療法も終了しているんですね。体調はどうですか?」


 早川は資料に目をやりながら、彩香の体調を確認する。


「特に体調不良とかはないです。倦怠感とか風邪を引きやすいとかも、起きてないです」


「うん、頭痛とか眩暈とかもないね?」


「はい」


「うん、体調の方は大丈夫そうだね。それじゃあ、採血ブースの方へ行ってください」


 彩香にとっては、自分のことよりもむしろ、再発リスクが高いという拓海のことの方が心配だった。


 採血ブースに行くと、少し眉を顰めている、気の強そうな看護師が手早く採血のための準備を整えていた。


「はあ、あなたが桂木さんね? 番組、見てるわ」


「あ、ありがとうございます」


「あのね、プライバシーとか、番組で色々センシティブな話をするでしょう? そういうの、大丈夫? あなたたちはまだ若いんだもの、大人に振り回されちゃダメよ」


 どうやらその看護師が不機嫌そうなのは、番組に対して不信感があるかららしい。それはむしろ彩香たちを心配してのことのようなので、彩香にとってはむしろありがたいな、という心情だった。


「あ、大丈夫です。プロデューサーさんにはこっちの要望も色々聞いてもらえているので」


「それならいいんだけど……。はい、じゃあ腕を出してください。アルコールのアレルギーはないですね?」


 看護師は、一人一人に困っていることがないか聞いた上で採血をしていたようで、彩香が大丈夫だと答えると、そのままパッパと採血を済ませた。


「何か困ったことがあったり、大人の人に無理を言われることがあったらいつでも聞くから、病院に来てね。もちろん体調不良の時にも!」


「ありがとうございます」


 シンガーソングライター志望の彩香は、芸能界の良からぬ噂を耳にすることもこれまでにあった。幸い「あや恋」は良心的な撮影環境だったが、この先芸能活動を志望していく中で、このように心配してくれる大人もいるのだということが、彩香には心強く感じられたのだった。


「はあ、定期診察も終わったなー! これで今日は休みか!」


 理央が大きく伸びをして、撮影のない一日休日が訪れたことにはしゃぐ。

 

「うん。看護師さん、いい人だったね」


「そうね。私も気になってたんだけど、彩香は大丈夫? 「りおあい」との三角関係のことで、結構ネットで言われているでしょう?」


 結衣が心配そうに彩香の顔を覗き込んだ。


「まあ、確かにあの時のことは、りおあいの邪魔するなーとか色々言われてはいるけど、大丈夫だよ。私、そんなにやわじゃないもん。それに、拓海くんと本格的に近づいてからは、むしろ応援してくれてる人が多いよ」


「全く、壮治さんも人が悪いよね。番組を盛り上げるためとはいえ、三角関係を演じさせるなんて」


 結衣がぶつぶつ文句を言っているが、彩香はさほど気にしていなかった。


 それというのも、大切な拓海が移植待機中の立場だと判明したのだ。番組の視聴率が上がれば上がるだけ、エンディングで放映されている骨髄移植の案内CMもたくさんの人に見られることになる。そのことが今は、彩香にとって拓海と共に生きていくための希望となっていた。

 

 番組MCの人たちも、理央にアプローチした彩香をフォローするような発言をたくさん入れていて、それも壮治の指示だろうと考えていた。

 壮治への信頼もあり、彩香はこのまま無事に番組終了まで完走できることを、ただただ楽しみにしていた。

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