第11話
「私の協力者は、彩香ちゃんで!」
愛菜がそう言った時、彩香は驚きを隠せなかった。あれほど理央に一途な愛菜なのである。当然、課題制作の協力者には理央を選ぶと思っていた。
とはいえ、指名されたなら協力するのみだ。彩香は愛菜と共に、映像作品の制作に取り掛かった。
「愛菜ちゃんは、どういうの作ろうと思ってるの?」
「私はですねー、いろんな服を着て踊る、ルックブック風のダンス動画にしようと思ってて」
そう言って愛菜の語った構想は、音楽とともにPVのような形で次々と様々なファッションに身を包みつつ、得意なダンスを踊るというものだった。
「いいね、それ」
「私ね、ずっと自分の容姿にコンプレックスあったんです。丸顔だし……。だけど、好きな人に可愛いって思ってもらえるように、魅力いっぱいの姿を撮ってもらうんだ!」
愛菜はくるくるとウィッグの髪を指先でいじりながら、元気いっぱいに話す。その顔は可愛らしくて、容姿にコンプレックスを抱く必要があるようには到底見えない。
けれど、同じ年頃の彩香には、愛菜の気持ちはよくわかった。
人の目というのは恐ろしいものだ。SNSで簡単に大衆へ向けて自分を晒せる時代だからこそ。人からの称賛の眼差しが欲しくなり、そして人からの侮蔑の眼差しを恐れてしまう。
彩香自身、自分の曲を動画サイトにアップしているのだ。コメントなどで傷つくこともある。
ましてや面と向かって酷い言葉を投げかけられた愛菜が、堂々と自分の魅力をアピールしていこうという姿は、なんだか気高くて格好いいと彩香は思った。
彩香が物思いに耽っていると、愛菜の企画を聞いたスタッフが近づいてきた。
「愛菜さん、ルックブック風動画の制作ですが、せっかくなので愛菜さん自身で服を作ってみませんか? 一からだと大変なのでリメイクという形で」
「わ、ほんとですか? 楽しそう!」
二人で仲良く作業をしている様子を撮りたいのだとスタッフが言う。確かに愛菜が着替えて踊るだけでは、制作協力者としての彩香の出番もない。
そうしてスタッフの用意した服で、愛菜と彩香はリメイクしたオリジナルの服を作ることになった。
「なんかこうやって作業していると、もし文化祭に出れてたらこんな感じだったのかなーって思いますね! 楽しい!」
「愛菜ちゃん、文化祭出られなかったんだ?」
「そうなんですよー。一年の時は出られたんですけど、二年生の時は入院してて。メイド喫茶やりたかったなー」
「あはは、メイド喫茶だったんだ。じゃあリメイクでメイドさんっぽい服作っちゃう?」
「いいですねそれ! 作っちゃう作っちゃう」
黒いワンピースに白のエプロンを合わせて、エプロンにはフリルやレースをたっぷりとつけていく。
その他にも、古着風のアメリカンカジュアルな服を用意したり、思い切りギャルテイストの服を作ったりと、愛菜の可愛らしいルックスに合わせて様々なリメイクを施した。
一心に作業をしていると、諸々の悩み事も吹き飛ぶような気がする。
彩香にとっては、恋のことが少し心の負担になっていたのだ。そういう意味では、理央に向かって直向きに恋をしている愛菜が彩香は羨ましかった。
「彩香ちゃんは……」
不意に愛菜が口を開く。
「理央くんのことどう思ってるんですか?」
それは、第二印象マッチング以来愛菜が気にしていたことだった。
スタッフや理央自身は彩香の気持ちを知っているが、愛菜はそれを知る機会がなかった。だからこそヤキモキしていたのだろう。拓海に対する彩香の曖昧な態度もそれに拍車をかけていた。
それを聞くために制作協力者に彩香を選んだのだと、愛菜は言う。
「友達だと思ってるよ」
なんの躊躇もなく、彩香はそう答えた。もう自分の中で、誰に惹かれているかの答えははっきりと出ている。ただ一歩を踏み出す勇気がないだけで。
「ともだち……」
「うん、私は……、私は拓海くんが好き。どうしたって病気のこととか色々考えてしまうから、前に進めないでいるけど、それでも、好き」
人に言うことで改めて自分の気持ちを確かめる。
大切なひとを、失うかもしれないリスクを抱えている不安。自分が周りを置いて逝くことは何度だって考えてきたけれど、置いていかれることなんて考えたこともなかった。
けれど一歩を踏み出さなくたって、もう拓海への気持ちははっきりと定まってしまっているのだ。付き合う付き合わないは関係なく。
それならもはや、彩香に残されている道は腹を括ること以外ないのかもしれなかった。
「愛菜ちゃん、すっごく可愛い!」
服のリメイクが終わり、次は映像の撮影を進めていく。愛菜のダンスは彩香の素人目から見ても、なかなかのものだった。
カーゴパンツにピンク色のトレーナーを着て、普段愛らしい愛菜とはギャップのあるヒップホップダンスなどを踊っている。いくつも服を着替えて、メイド服でそのようなダンスをしている姿は面白くも可愛らしい。
「私、本気で視聴者投票カップリングの一位狙ってるので、人気出たらいいなぁ」
「そうなんだ? 実は私も投票一位の一日特別デート狙ってるんだよね」
「うわ、ライバルじゃないですか!」
愛菜はふざけてイーッと威嚇する真似をした。ライバル関係だけれど、番組の意向で三角関係をやらされていた時とは違い、爽やかな気分で競うことが出来る。
出演者のカップリングは、徐々に固まりつつあるのだった。