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第9話

 「あや恋」は、リアルタイム放映型の恋愛リアリティーショーである。完全収録型と異なり、撮影が進んでいる間に放映が開始される。


 メンバーたちは、ついに放映開始の時を迎えて、緊張や期待など様々な想いを抱えていた。


 第一話は関係者の想定通り、いや、想定以上の反響が返ってきた。


「すげーな。ずっとトレンドに乗り続けてる」


「あんまり見ると病みそう」


 精神衛生上、エゴサーチなどはあまり推奨されていないが、スマホの使用自体は特に禁止されていない。結局、全員が反響を気にしてあれこれと見てしまっていた。


「やっぱり番組自体に対しては賛否両論だね。でも、色々実情を知ってもらえているみたいで、それは良かった」


 所謂「泣ける映画」ではさほどクローズアップされない進学や就職の問題、きょうだい児の問題など、現実的な課題についても注目が集まっている。エンターテイメントとしての訴求力の高い恋愛リアリティーショーながら、そういったお堅い側面にも視聴者の関心が集まっているのは、壮治の狙い通りと言えた。


「彩香さんには、情報番組から姉妹での番組出演依頼も来ている。この撮影が終わったら検討してほしいとのことだ」


 壮治から呼び出された彩香は、そのように告げられた。まさか情報番組に姉妹での出演依頼が来るような事態になるとは。ネットTV局の恋愛リアリティーショーに出ていることだって、一世一代の勇気を振り絞ってのことだというのに、地上波の情報番組など果たして出られるのか。

 だが、それも社会的に意義のあることであれば、頑張ってみたいと彩香は思う。まずは妹に意思確認をしてからのことだが。


 そのように多数の話題を巻き起こしての番組放送であるが、撮影はすでに中盤へと進んでいた。


「これから番組制作を進めていくにあたって、みなさんには一つの課題をこなしてもらいます。それは、映像作品の制作です。自身の闘病生活を振り返ってのものでも、家族へのメッセージでも、他のメンバーへの想いでも、それぞれ自由に映像作品を作ってください」


 プロジェクターで資料が提示され、壮治が説明していく。


「そして、映像作品の制作にあたっては、メンバーから一人を指名して共同作業で製作してもらうことになります。異性でも同性でも構いませんが、恋愛にしろ友情にしろ、何らかの撮れ高は意識してください」


 恋愛の撮れ高を意識しろ、という指示に彩香は思わず苦笑いする。

 彩香は拓海を共同作業に指名するつもりだ。今の感じだと、わざわざカメラを意識しなくても、拓海のこと自体を意識してしまって自動的に撮れ高が発生しそうな有様である。


「では、指名のシーンから撮っていきます!」


 スタッフの指示により、一人ずつ前に出て指名していく。

 

「それじゃあ、彩香さんお願いします」


「はい、私が指名するのは……拓海くんです」


 予想通りの相手かもしれないけれど、一応間を作って指名する。拓海は嬉しそうな顔で、「一緒に頑張ろう」と声をかけてくれた。拓海の映像制作でも彩香を指名してくれたので、その分二人で過ごせる時間も長くなる。


「彩香ちゃんはどういう映像を作ろうと思っているの?」


「えっとね、妹が夏休みだから、こっちまで来てもらって一緒に水族館に行こうと思うの。それで、拓海くんには映像につけるBGMの制作を手伝ってもらいたくて」


「なるほど、音楽制作ということだね」


 現在考えている水族館での映像イメージを共有し、二人でどんな曲にしようかと相談する。拓海にギターで伴奏を行ってもらい、弾き語り形式のデュエットにしようと話し合った。


 歌詞は家族への想いとも、ラブソングともどちらにも取れるように考えていく。


「このあや恋に合わせてヒットしてくれたら嬉しいな」


「きっと人気が出るよ。彩香ちゃんの歌声、透明感があってすごくいいし」


「拓海くんこそ」


 互いに褒めあって、照れてしまい顔を逸らした。


 そんな甘酸っぱい制作打ち合わせの期間を経て、数日後。


「お姉ー! 久しぶり! うわ、その人が拓海さん!? 生で見るとすっごいイケメン! 番組の中の人を見るのって不思議な感覚だね」


 リゾート感たっぷりのキャミソールワンピースに身を包んだ妹は、沖縄の太陽を背景に大はしゃぎしている。


 元々聞いていた妹とのエピソードとはイメージが違ったのか、拓海は目を白黒させていた。


「見てるよー番組! お姉も大活躍じゃん」


「恥ずかしいからあんまり言わないでよ。赤の他人な視聴者の感想だって気まずいのに、家族に見られているとか……」


「だって出るの決めたのは自分でしょー! それに、私も映像作品に出演してあげるんだから、感謝してよね!」


「それはありがたいと思ってるってば」


 そんな彩香たちを見て、拓海が笑う。

 

「はは、仲良い姉妹なんだな」


 はしゃいでいる様子を客観的に見られていて恥ずかしくなったのか、律香は照れたように頭を掻いた。


 そうして顔合わせを終えると、三人はスタッフの用意した車に乗り込んだ。前回はマイクロバスで大勢が参加していたが、今回は小さな乗用車である。

 久しぶりに顔を合わせた姉妹に遠慮してか、拓海は一人助手席に乗り込み、彩香と律香は後部座席に隣同士で座る。

 

「あーあ、理央君と愛菜ちゃんにも会いたかったなー。私、りおあい推しなんだよね」


「もう、ミーハーしないの」


 番組の放映を経ても気まずくなることなく仲の良い姉妹に、運転席のスタッフも微笑ましげにしている。

 そうして、恋に番組の内容にと絶えない話題をかしましく話しながら、車は水族館にたどり着いたのだった。

 

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