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世界線移動の原因解明

未来からの伝言:

https://ncode.syosetu.com/n9910gg/


未来からの伝言(完結編):

https://ncode.syosetu.com/n4207gi/

■ 2020年9月11日(金)


時刻は7時50分過ぎ、目が覚めるとやはり昨日と同じ病院のベッド上であった。何もしていないのに元の世界線に戻れるわけがないのは当然だろう。寝起きでぼーっとしているとドアが開いて看護師の早川佐奈が朝食を持って入ってきた。寝起きでしかもこんな状況なので食欲なんてない。しかし、昨日、明日から食事を出してくださいとお願いしたのは俺だ。朝食はコッペパンが二つだけであったので、それらを無理矢理に食べた後、ベッドに横たわって再び考えはじめた。特に今回の世界線移動の原因を追及してみたが、やはり西浦真美と俺の共通点は多すぎる。その二人が同時にこの15.39という世界線に移動した結果をもたらした原因が必ずあるはずで、何かを見落としてるような感じがしていた。あとは元の世界線に戻る方法についてもそうだ。たしかに一度は11の世界線から元の世界線に戻ることができたので、その方法を使えば戻れるかもしれない。ただし、それにはある条件が必要だということに気が付いた。その条件とは、この15と元の17の世界線の違う空間がなければならない。やり方そのものはタイムリープと変わらないので、同じような空間だと単にこの15.39という世界線の過去に飛ぶだけになってしまう。つまり、それだと俺だけが戻れることになってしまう。17の世界線には俺と莉奈の新しい住居があるので別空間のことをイメージできる。しかし、この世界の西浦真美の部屋が同じようなものであれば彼女一人だけがタイムリープしてしまうだけになる。原因追及と元の世界線に戻る方法、今の俺がどれだけ考えてもその二つの解が見つからない。


あまり考えすぎると焦りがでてしまうと思った俺は、テレビカードを購入して病室でテレビを見ていた。本来はテレビなんてあまり見ないが、何もしていないとまたいろいろ考えてしまう。チャンネルを変えて何か集中して見れそうな番組を探していると、見たことのある恋愛アニメ映画が放送されていた。このアニメは一度見たことがあるので内容はわかっているが、この世界線ではどういう別の内容になっているのではないかと思った。しかし、それとは裏腹に全て俺の知っている内容であった。


お昼になると昼食が運ばれてきたが、徐々に食べていかないといけないということでご飯と味噌汁、小さな豆腐だけが運ばれてきた。この体はずっと昏睡状態だったので胃袋が小さくなっていて食欲がわかないのかと思いながら朝食と同じく無理矢理全部食べた。


時刻は14時を過ぎた頃、病室のドアからノックする音が聴こえた。俺は「はい」と言うとドアが開いて変装した西浦真美が大きなリュックを背負いながら現れた。


水嶋祐樹「西浦さん、俺の家ではゆっくり休めた?」

西浦真美「ええ。水嶋君のお母さまはいい人でよかったわ」

水嶋祐樹「俺の部屋のパソコンの電源は入れてくれた?あと俺のスマホも・・・」

西浦真美「水嶋君の部屋にあったパソコンの電源は入れてきたわ。でもスマホは壊れていたから持ってこなかったわ」

水嶋祐樹「この世界では俺のスマホが壊れていたなんて運が悪すぎ・・・でもそれはどうしようもないか」

西浦真美「その代わりじゃないけど、こんなものがあったから持ってきたの」


西浦真美はリュックの中からノートパソコンと電源コードを取り出した。このノートパソコンは俺が外出先から使うために購入したものだ。しかし、実際はほとんど使わず、元の世界線では莉奈がネット検索するためのパソコンとして使用されている。


水嶋祐樹「西浦さんナイスだよ!このノートパソコンの存在を忘れていたんだけど、これさえあればスマホは別にいらない」

西浦真美「そのノートパソコンにWifi機能はついているの?」

水嶋祐樹「もちろんだよ。その機能があるパソコンを選んで購入したからね!」

西浦真美「それだったらよかったわ。それとこの病院のWifi接続パスワードはこの紙に書いておいたわ」

水嶋祐樹「よし、早速このノートパソコンを起動してWifi接続してみるよ」

西浦真美「そのノートパソコンで何をするつもりなの?」

水嶋祐樹「もし、この世界線の俺と今の俺が過去に同じような行動をしているのであれば、俺の部屋のパソコンにリモートアクセスできるようにしているはず!頼むぜワールドラインナンバー15の俺!!」

西浦真美「水嶋君の部屋にあるパソコンの電源をつけてほしいってお願いされたのはそういうことだったのね」


ノートパソコンが起動するとすぐさまWifi接続を行い、俺はリモートアクセスするアプリを入れてないか確認した。アプリはすぐに検索結果に出てきた。やはりこの世界線の俺も同じような行動をしている。あとはリモートアクセス認証のパスワードが問題だが、恥ずかしながら現在の俺は自分の生年月日に設定していたはず。無事にアプリを起動させてリモートアクセスの認証画面でパスワードを入力してみた。なんとパスワードまで同じでうまく認証されてリモートアクセスに成功した。


水嶋祐樹「よしっ!ここまでくればこの世界線での俺の行動が少しはわかるはず」

西浦真美「ところでね、本当にこの世界線のわたしと、ここにいるわたしが会ってしまうとタイムパラドックスが起こるの?」

水嶋祐樹「正確にはタイムパラドックスとは言わないんだけど、どうして?」

西浦真美「以前、別の藤堂君がいる11の世界線に移動したとき、わたしは分裂能力を使ってポジティブな状態になったわよね。そして11の世界線にいるわたしに会った。その時は何も起こらなかったじゃない」

水嶋祐樹「あのワールドラインナンバー11世界線の西浦さんは、脳と体だけが動いていたけど意識そのものはなかった。そしてポジティブな西浦さんの意識と融合させることによって意識を復活させた。でも復活したのは西浦さんは意識融合を終えてすぐに一つに戻った後のことだから会ったことにはなっていない。ところが、この世界にいる西浦さんは意識がハッキリしているから、ばったり会ったりしたらタイムパラドックスのようなことが生じる可能性が高いということだね」

西浦真美「なるほど!そこまで頭が回らなかったわ・・・」


俺の自宅にあるパソコンにリモートアクセスした後、早速メールボックスを開いてみた。メールの受信ボックスには2018年の7月20日以降のメールは届いていなかった。ここで受信ボタンを押してしまうと昏睡状態中に届いたメールが一気に受信されてくるので、すぐさまメールの定期チェックを解除した。メールボックスを遡って辿っていくと2018年7月13日の金曜日に「2018年7月に決心した俺へ」という件名のメールが届いていた。すぐにそのメールを確認してみた。


2018年7月に決心した俺へ

2033年の水嶋祐樹だ。

どうやら笹原莉奈を助ける方法を見つけ出して決心したようだな。

何回もタイムリープを繰り返したことで、さぞ辛い想いをしたことだろう。


さて、その決意をして笹原莉奈を無事に救い、そっちの俺自身の命を救うには、

一つだけしておかなければならないことがある。

それは2018年8月9日にある女性芸能人が黒ヶ岳で山岳事故を起こす。

その女性芸能人と知り合いになっておくことが必須条件になる。

そうすれば俺が命を落とすことはない。

その理由に2033年の俺が存在しているからだ。


このことに関しては詳しいことは伝えられないので申し訳ない。

もちろんこのメールのことに関しては他言無用


以上、幸運を祈る!


このメールを読んだ俺は新垣優こと黒岩優と知り合いになった理由がわかった。それにこの決心とは自分が犠牲になって笹原莉奈を救うという解だろう。しかし、再び謎は深まってしまった。このメールだけで、その女性芸能人というのがどうして黒岩優だとわかったのか?という点だ。登山趣味の女性芸能人など他にも沢山いるはず。頭を悩ませて難しい表情をしていると、西浦真美は「水嶋君、何を考えているの?」と聞いてきた。そういえば、西浦真美は新垣優こと黒岩優という女優と俺が知り合いになっていることを知らない。俺は西浦真美にそのことを説明して、今疑問に思っていることを話した。


西浦真美「水嶋君、難しく考えすぎて簡単なことを見落としているわよ」

水嶋祐樹「簡単なこと?」

西浦真美「新垣優は有名人だからわたしでも知ってるのよ。でも、芸能人の過半数は東京に住んでいるんじゃないかしら?」

水嶋祐樹「あっそうか!新垣優は俺の実家近くに住んでいるからだ!」

西浦真美「知り合いになるには近くに住んでいる人でないと可能性は低いわよね。そうやって絞っていけば新垣優に辿り着けるんじゃない?」

水嶋祐樹「昨日からわけのわからない状態になっていたから、つい難しく考えすぎていたよ」

西浦真美「でもどうして新垣優と知り合いになっておくことが必須条件になったのかはわからないわ」

水嶋祐樹「それはおそらくだけど、2033年には俺の知り合いになっているからだと思う。そうしないと莉奈を助ける行動に出た瞬間に世界線が移動して俺自身が命を落とすことになるかもしれないからだよ」

西浦真美「つまり、過去の条件を一致させておく必要があったということね。そして、2033年には水嶋君はまだ生きていることを逆手にして自分を犠牲にした・・・ということかしら?」

水嶋祐樹「そういうことだね。ただ、この世界線での莉奈の運命は2年前の7月21日に終わってしまっていたのかどうかはわからない」

西浦真美「その日の沢登りを中止すればよかったんじゃないの?」

水嶋祐樹「それが出来なかったんだと思う。むやみに過去を改変してしまうと、もっと状況が悪くなる可能性があるからね。むしろこの世界の俺はその方法を試してみたのかもしれない」

西浦真美「試してみても無駄だった。むしろ状況はさらに悪化してしまったということね!?」

水嶋祐樹「これで一つの謎は解けたけど、この世界の過去を知ったところで今の状況解決にはなっていないんだけどね」


そんな話をしているとあっという間に面会時間が終了になった。


西浦真美「明日はどうすればいい?」

水嶋祐樹「明日も今日と同じ時間にここに来ればいいよ」

西浦真美「でもこの世界のわたしが面会に来るようなことになったらまずいでしょ?」

水嶋祐樹「それについては対策は考えてる。俺が会社に電話して”しばらくこの病院や俺の家付近にはこないでほしい”と伝えておくよ。もちろん事情も一緒にね!」

西浦真美「それなら安心して来ていいのね?」

水嶋祐樹「でも念のため変装だけはしておいたほうがいいよ」

西浦真美「わかったわ」


西浦真美が病室から出て行った後、俺はリモートアクセスしているノートパソコンで過去のメールを辿ってみた。元の世界線と同じような内容のメールが2033年から何通か送られてきている。そう考えると、2年前の7月21日まで、この世界は元いた世界とかなり似通っている。とはいえ、この世界での過去をこれ以上知ったところで現状は変わらない。もしかすると受信ボタンを押せば2033年からのメールが届いているかもしれない。そう思った俺は恐る恐る受信ボタンをクリックしようか悩んだ。ただ、この世界の俺が意識を取り戻した時に7月21日より未来のメールを受信していると困惑するに違いない。しかし、確認してみたい気持ちは大いにある。そこでふと思いついたのが、ここで受信しなくてもいいということだ。つまり受信メールはサーバーに残るように設定しておいて別のメーラーで受信すればいい。俺はメールサーバーのアドレスを確認して、今のメーラーを閉じてログアウトした。そして、このノートパソコンに入っているメーラーで受信することにした。


受信メールをサーバーに残るようにメーラーを設定したのが、2年分のメールを受信するのでかなり時間はかかるだろう。メーラーの受信ボタンを押してから、俺はナースセンターに向かった。担当看護師である早川佐奈は帰宅したとのことで、別の看護師さんがやってきた。その看護師さんは身長が150cmあるかないかくらいの、黒髪のポニーテールに小さな小顔で目のクリっとした可愛らしく若い女性、綾長美玖という名札を下げていた。俺は「会社に意識が戻ったことを伝えたいのですが、看護師さんのスマホか携帯電話を貸してもらえませんか?」と聞いてみた。その綾長美玖という看護師は「わたしのですか?電話ならこちらを使ってもらえればいいですよ」と答えた。しかし、ここには周りに沢山の人がいるので話を聞かれてはまずいのだ。俺は「会社の機密情報の話もするので、ここだとまずいんです。お願いします!緊急に電話しなければいけないのです!!」と頼み込むようにお願いした。綾長美玖は難しい表情をしながら少し考え込んでいた。俺は何度も何度も「お願いします」と言った。そんな必死な俺の言葉に打たれたのか、綾長美玖は「そこまでのことでしたら、ちょっとこっちに来てください」と言ってナースステーションから離れた場所に移動した。そして綾長美玖は立ち止まり「このことは絶対に内緒にしてくださいよ」と言いながらポケットの中からスマホを出した。俺は「ありがとうございます。通話料はお支払いします」と言うと、綾長美玖は「後で病室に伺いますのでその時に返してください」と言ってスマホを手渡してくれた。


俺はスマホを持って病室に入るとすぐに会社に電話をした。西浦真美が通話に出ると「水嶋君、意識が戻ったのね!?」と叫ぶように聞いてきた。俺は「西浦さん、今から俺の言うことは信じられないかもしれないけど聞いてほしい」と言って、今回の世界線移動のことをこの世界の西浦真美に伝えた。俺の話を聞いたこの世界の西浦真美はかなり驚愕していたが、特殊能力者ということもあって信じてもらえることができたようだった。俺がこの世界線にいる西浦真美に伝えた重要事項は、この病院や実家には近づかないこと、そして別の世界線から来たもう一人の西浦真美が存在していること、別の世界線の自分と会うと深刻なタイムパラドックスのようなことが引き起こされる可能性があることだ。ところが電話越しの西浦真美は「一度でいいから会って話はできないかしら?」と聞いてきた。この世界の西浦真美と話してみたい気はするが、明日と明後日はまずいのだ。俺はしぶしぶ「今日ならもうさっきもう一人の西浦さんが来たから大丈夫だと思うけど、面会時間は19時までだから不可能だと思う」と答えた。すると西浦真美は「今日は週末前で特に重要な仕事はないから今から早退してそっちに行くわ」と言った。そこまでして会いに来てくれるのであればと思った俺は「わかった」と答えて電話を切った。


時刻は16時を過ぎた頃になっていた。季節的には外はまだ明るいのだが、その様子でさえこの病室では伺えない。そしてノートパソコンのメーラーを見てみるとDMなんかを含めたメールが315件届いていた。俺は2033年から送られてきたメールはないか探していると、2020年9月7日の月曜日に「2020年9月に目覚めた俺へ」という件名のメールが届いていた。俺はそのメールを開いてみた。


2020年9月に目覚めた俺へ

2033年の水嶋祐樹だ。


まず、長い眠りだったと思うがお疲れ様だと言っておく。

俺の感覚だと2018年7月21日から2020年9月15日までは一瞬のことだったと思う。

そっちの俺が決心して行動してくれたおかげで、世界線は少し変動した。

つまり笹原莉奈は永遠の昏睡状態になることを回避されて未来でも無事であるということだ。

これで任務は終了したが、笹原莉奈の気持ちに答えてあげてほしい。


またメールを送るが、まずは自分が幸せになることだけを考えていくことだ。

もうこれまでのメールのことは関係者に話をしてもいい。

とにかくお幸せに!


俺はこのメールを読んでかなり焦った。2020年9月15日というと来週の火曜日なのだ。この世界線にいる本来の俺が意識が戻るまでたったの4日間しかない。実際は14日に戻るとすれば、あと3日間でワールドラインナンバー17の俺と西浦真美は元の世界線に戻らないといけない。それにしても、莉奈は死ぬのではなく永遠の昏睡状態に陥るはずだったのにも驚いた。もしこの世界線にいる俺が莉奈に恋心を抱いているなら、死なれるより辛い状況になっていたのだろう。


それからしばらくすると、綾長美玖が病室に入ってきたのでスマホを返した。後で通話料金を払うと言ったら「そんなこと別にいいですよ」と答えてくれた。なんと優しい看護師さんなんだろうと思った。その後、あと3日間のうちにこの状況をなんとかしなければならないという焦りが込み上げてきた。俺はこれまで今回の世界線移動の原因や元の世界に戻る方法論を考えていた。それはもちろん重要なことなのだが、俺達が無事に元の世界線に戻れた後のこの世界を考えはじめた。何が原因かわからないが、その原因を解決させるためにタイムリープして過去を改変させた場合、この世界での今の出来事も改変されてしまうのだろうか。もしそうだった場合、この世界線にいる莉奈や西浦真美の記憶が書き換えられるかもしれない。つまり、昏睡状態であった俺は9月10日に目覚めるのではなく史実通り9月15日に目覚める。今回はそのような結果になるような方法を考えなければならない。つまりこの15と元の17の世界線の変動を同時に起こさないければいけない。そんなことを考えていると既に時刻は18時前になっていた。焦っているせいか時間が早く過ぎると感じていると、病室のドアからノックする音が聴こえた。俺は「はい」と言うとドアが開いた。そこには変装も何もしていない西浦真美そのものだった。


水嶋祐樹「この世界線の西浦さんよね?来てくれてありがとう!」

西浦真美「わたしは確証を得るためにここに来たのよ」

水嶋祐樹「何の確証?」

西浦真美「水嶋君が電話で話してくれたことの確証よ」


その言葉を聞いた俺は少し困惑していた。しかし、もしワールドラインナンバー17の俺達と似通った世界ならと思いながら俺は口を開いた。


水嶋祐樹「ところで、西浦さんが大好きな藤堂君はもう入社してるの?」

西浦真美「えっ!?どうして藤堂君の存在を知っているの?」

水嶋祐樹「たしか2018年の11月下旬にはじめてのデートして、2019年の1月下旬には一緒にスノボに行ったんじゃない?」

西浦真美「驚いたわ!どうして昏睡状態だった水嶋君がそんなことを知っているの?」

水嶋祐樹「だから電話で話したでしょ?俺はここと似通った世界線から移動してきたってね」

西浦真美「だったらわたしと藤堂君の関係はどうなるのか知っているの?」

水嶋祐樹「この世界ではどうなるかわからないけど、別の二つの世界線では西浦さんと藤堂君は結ばれているよ。この世界の西浦さんの気持ちもまんざらではないって表情してるね」

西浦真美「そ、そんなこと・・・ないわよ」

水嶋祐樹「そうやってこういう話をすると赤面になって照れるところが西浦さんぽいよね。やはりどの世界線でも同じ人格だってことはわかったよ」

西浦真美「そう、やっぱりあなたは別の世界の人なのね・・・」

水嶋祐樹「藤堂君は恥ずかしくなるような発言ばかりするけど、実際はしっかり者で西浦さんの心を童心に戻す楽観的な性格の持ち主である。これに間違いある?」

西浦真美「そんなことまで知っているのね。これで確証を得ることができたわ!」

水嶋祐樹「ハッキリしてもらえたなら良かったよ。この世界にはもう一人の西浦さんが来ているからバッタリ会うようなことにならないように注意してほしい」

西浦真美「それはわかったけど、この世界の水嶋君の意識ではないとすると、元の世界に戻る方法は考えているの?」

水嶋祐樹「それが全くわからないんだよ。目覚めたら昨日の9月10日でこの世界に来ていたということしか・・・」

西浦真美「ダンプカーの事故があった次の日のことなのね。あんな悲惨なこと今の水嶋君の世界では起こってないと思うけど・・・」

水嶋祐樹「それって緑色の大きなダンプカーが会社のビル入口に突っ込んだって事故のこと?」

西浦真美「そうだけどよく知っているわね。あなたのいる世界でも同じことが起こったの?」

水嶋祐樹「うん、9月9日の15時30頃だったかな!?同じ事故が起こったよ。もうあの光景が頭に焼きついて離れなかったんだけどね」

西浦真美「この世界でも同じくらいの時刻に事故が起きてるけど、偶然なのかしらね!?」

水嶋祐樹「いや、この世界は俺のいた世界とかなり似通っているみたいだから、同じようなことが同時に起こるのかもしれない」

西浦真美「似通った世界か・・・それだとわたしと藤堂君もいずれは結ばれるのかしらね!?」


この世界の西浦真美の話を聞いて一つのヒントを得たような気がした。9月9日のあの大参事だった事故がこの世界でも起こっている。これこそワールドラインナンバー17の俺と西浦真美の共通点といえるのではないだろうか。因果関係はよくわからないがあの事故がこの世界でも同時に発生しているとしたら時空にねじれた現象が発生して俺と西浦真美は同時にこの世界線に移動した。そう仮定すると元の世界線の莉奈がこの世界線に移動していないことが明白である。これも俺の仮説であり確証は持てないが、9月9日の寝る前にあの大参事な事故の映像がずっとフラッシュバックしていたのは間違いないのだ。


水嶋祐樹「西浦さん、ありがとう!今日は来てもらってよかったよ!!それにしてもどうして早退してまでここに来てくれたの?」

西浦真美「どうして早退してまで会いに来たかって・・・相変わらず、そういうことには鈍感なのね。わたしの気持ちがわからないままなの!?」

水嶋祐樹「西浦さんの気持ち?」

西浦真美「変な意味に取らないでほしいんだけど、これでもわたしは水嶋君のことが大好きなのよ。おそらく、あなたの世界のわたしもそうだと思うわ」

水嶋祐樹「それはありがとうと言えばいいのかな?」

西浦真美「まあいいわ。それより、あなたが元の世界に戻ったらこの世界の水嶋君はどうなるの?」

水嶋祐樹「昏睡状態に戻ると思うけど近いうちに意識は回復することはわかっているんだよ。未来人が教えてくれたと言っても信じられないだろうけどね」

西浦真美「わたしはその言葉を信じるわ。どの世界でも水嶋君はわたしに嘘は言わないと思っているから!」


もし、今回の世界線移動の原因が9月9日にあったあの大参事の事故が関係しているとするならば、今度はその原因を調査して追及しないといけない。あの日の夜、テレビで流れていたニュースをちゃんと見ておくべきだったと後悔した。元の世界線のあの日に戻ることができればと思った瞬間、俺はあることに気づいてアイデアが浮かんだ。


水嶋祐樹「西浦さん、二つのお願いがあるんだけど聞いてくれないかな?」

西浦真美「二つのお願いって?」

水嶋祐樹「まず一つは帰宅したら西浦さんがいつも寝ている部屋の写真を送ってきてほしい」

西浦真美「わたしの部屋の写真!?それがどうして必要なのよ?」

水嶋祐樹「元の世界での西浦さんの部屋と全く同じがもう一人の西浦さんに確認してもらうだけだよ」

西浦真美「そういうことなら別にいいけど、少し恥ずかしいわ!」

水嶋祐樹「片付けたりしないでそのまま写真を撮ってこのメールアドレスに送ってきてほしい。もう一つは9月9日にあった大参事の事故について詳しい情報を調べてほしい」

西浦真美「わかったわ。それより、もう一人のわたしが存在するんだったら一度会ってみたいわ!」

水嶋祐樹「電話でも話したけど、そんなことをしたらタイムパラドックスみたいなことになりかねないから危険だよ」

西浦真美「夢中会議室で会うのはどうかしら?あそこは別次元だから大丈夫なんじゃない?」


たしかに夢中会議室は異次元空間なので何があってもこの世界には影響しない。ただし、この二人の西浦真美が夢中会議室に現れるのかどうかはわからない。しかし、もし二人の西浦真美が顔合わせできれば、元の世界に戻れる可能性は高まる。


水嶋祐樹「わかった。今晩、夢中会議室からみんなを集めてみるよ。ただし、会えるかどうかはわからないけどね」

西浦真美「もし上手くいったら、あなた達が元の世界に戻れるまでは毎晩のように夢中会議室で会うのはどうかしら?わたしもそれまで調査して報告するわ」

水嶋祐樹「ありがとう!それでいいよ」

西浦真美「じゃあそろそろ面会時間が終了するから、わたしは行くわね」


この世界の西浦真美とも長い話になってしまったが、そのおかげで最大のヒントを得ることができたのかもしれない。西浦真美が病室が出ていくと夕食が運ばれてきた。俺の浮かんだアイデアが上手くいくといいんだが・・・そんなことを考えながら、夢中会議室に行く準備をした。ちなみに夢中会議室を開く方法は簡単で、寝る前に心の中で真っ白い空間を思い浮かべるだけでいいので特殊能力者であれば誰でもできる。



■ 2020年9月12日(土)


目が覚めると真っ白な広い空間にいた。ここはまさに夢中会議室なのだ。空間の真ん中にテーブルがあり、青い椅子が四つあるのも元の世界線と全く同じであった。俺の隣では莉奈が眠っており、向かいには二人の西浦真美が眠っていた。一人は水色のパジャマを着ている西浦真美、そしてもう一人はジャージ姿の西浦真美だ。俺がみんなを起こすと、ジャージ姿の西浦真美が「あれ!?誰が会議を開いたの?あっ!わたしがもう一人いる!!」と驚いていた。その驚きようからしてジャージ姿の西良真美はワールドラインナンバー17であることがすぐにわかった。水色のパジャマの西浦真美は「どうやら成功したようね」と落ち着いていた。莉奈は二人の西浦真美を見て「西浦さんが二人いる!!!」と大声で叫んだ。俺はジャージ姿の西浦真美のほうを見て「俺が夢中会議室を開催したんだよ」と言った。ジャージ姿の西浦真美は「どうして?別世界の自分に会うとタイムパラドックスが起きるんじゃないの?」と聞いてきたので、俺は「この空間は別次元だからその心配はないんだよ。ワールドラインナンバー15の西浦さんが、もう一人のわたしと話をしてみたいらしいんだよ」と答えた。水色のパジャマの西浦真美は「本当にもう一人のわたしが現れていたんだ!?それにしても、どこからどう見てもわたしそのものね」と言った。


水嶋祐樹「えっと俺と同じ世界線の西浦さん、俺達が元の世界へ戻るまで夢中会議室は毎晩開くことにしたんだよ。ワールドラインナンバー15の西浦さんもそれに協力してくれるって言ってくれたんだ」

西浦真美(WL17)「それは有難いことだけど、もう一人の自分と話すってなんだか変な感覚だわ」

西浦真美(WL15)「わたしも変な感覚だわ」

笹原莉奈「水嶋さんは二人の西浦さんが存在しているって証明するために夢中会議室を開いたのですか?」

水嶋祐樹「いや、それだけの理由ではないよ。この夢中会議室が存在していることで、俺達が元の世界の世界へ戻れる可能性が高まるんだよ。それにここにいるみんなに協力してほしいと思ってね」

笹原莉奈「協力ですか?」

水嶋祐樹「俺達はなんとしてでも9月14日には元の世界に戻らないといけない」

西浦真美(WL17)「どういうこと?9月14日ってあと2日間しかないじゃないの」


俺は未来から送られてきたメールに書かれていた内容、つまり15日にこの世界の俺は目覚めてしまうことや、9月9日の大参事の事故がこの世界線でも同時刻に発生したことなど、ワールドラインナンバー17の西浦真美に説明した。


西浦真美(WL17)「水嶋君は9月9日のあの事故が今回の世界線移動の原因だと考えているのね?」

水嶋祐樹「俺達のいた17の世界線とこの15の世界線で同時にあの事故が発生したことによって、時空がねじれが生じてしまった。つまり俺達のいた17の世界とこの15の世界の時空が繋がってしまって俺達は世界線移動をしてしまった。そう解釈すれば全てのつじつまが合うんだよ。あの大参事の光景を見たのは俺と西浦さんだけだから、莉奈だけは世界線移動しなかったことも説明がつく」

西浦真美(WL17)「たしかにつじつまは合うけど、原因がそれだったとしても元の世界に戻れる方法はわからないわよね?」

水嶋祐樹「それは過去改変するしかないんだけど、まずはあの事故の原因を調査する必要がある。もちろん、この世界での事故の原因と一緒にね」

西浦真美(WL15)「だからあの事故のことを調査するのね?」

西浦真美(WL17)「でも、この世界の過去なんて変えられるのかしら?タイムリープしたとしても、水嶋君は昏睡状態が目を覚ますだけよね?」

水嶋祐樹「この世界の過去ではなく、俺達がいた元の世界線での過去改変だよ。この世界で過去改変をして世界線変動させてしまったら、俺達の存在が消えるかもしれないからね。それにこの世界にいる西浦さんや莉奈ちゃんの記憶も変わってしまう」

西浦真美(WL17)「意味はわかったけど、元の世界線に戻る方法は考えているの?」

水嶋祐樹「それだけが全くわからないんだよ」

西浦真美(WL17)「過去改変するにしても、元の世界に戻る方法がわからないとどうにもならないわよね?」

水嶋祐樹「とにかくその方法は考えてみるよ。それとこの世界の西浦さんは事故の詳しい情報を調査してほしいのと、莉奈ちゃんは新垣優に会いに行ってほしい」

笹原莉奈「新垣優さんのことは知っていますが、わたしは話したことがありません」

水嶋祐樹「明日、新垣優の電話番号と居場所を教えるので”水嶋さんからのお願い”という理由だったら会ってくれると思う」

笹原莉奈「水嶋さんのお願いって?」

水嶋祐樹「テレビ局ならあの事故の情報を持っているはず。9月9日に事故を起こした運転手の名前や勤務先などを新垣優のコネを使って聞き出してほしい。写真があればそれも撮影しておいてもらえると有難い」

笹原莉奈「わかりました。やってみます!」

西浦真美(WL17)「でも、それはこの世界での情報よね?元の世界の情報と違っているかもしれないじゃない」

水嶋祐樹「それを確かめるために、今から俺は元の世界の9月9日に飛ぶことにしたよ」

西浦真美(WL17)「元の世界に戻る方法がわからないんじゃなかったの?」

水嶋祐樹「俺だけはそれが可能なんだよ。ただ、再びこの世界に戻されるだろうけどね」

西浦真美(WL17)「どういうことか説明してよ」

水嶋祐樹「世界線移動とタイムリープの方法は何かを強くイメージして眠りにつくこと。ただし、西浦さんがそれをしたところで単にこの世界線でのタイムリープになってしまう。なぜなら、この世界と元の世界はかなり似通っているから、部屋や風景は同じだと思う。でも俺だけはこの世界に存在していない空間をイメージすることができる」

西浦真美(WL17)「この世界に存在していない空間って?」

水嶋祐樹「俺と莉奈の住んでいる家だよ。この世界では二人はまだ結婚していないからそんなものは存在していない」

西浦真美(WL17)「そっか!!!たしかにそうだわ!!よく考えたわね・・・」

笹原莉奈「あの、水嶋さんの元いた世界では、わたしは結婚して一緒に住んでいるのですね?なんだかうらやましいです」

水嶋祐樹「この世界の俺は自分を犠牲にしてまで莉奈ちゃんを救ったくらいだから同じような未来はあると思うよ」

笹原莉奈「自分を犠牲にしてまで?」

水嶋祐樹「まあ、それはそのうちわかると思う。じゃあ、俺はそろそろ元の世界の9月9日に飛ぶね」

西浦真美(WL17)「必ず戻ってきてよ!」


そうやって俺は9月9日の出来事や莉奈との寝室を強くイメージしながら眠りについた。その後、笹原莉奈も眠りについたのだが、二人の西浦真美はお互いに話していた。思考から感覚まで全く同じで二人ともかなり驚いていたようだ。もう一人の自分と話をするなんて普通は体験できないことだろう。



■ 2020年9月9日(水)二回目


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。目を開けるとそこは間違いなく俺と莉奈の寝室だった。俺はすかさずスマホで日付を確認して、2020年9月9日の元の世界線に戻ってこれたことがわかった。この日のことはよく覚えているので、自分の行動も出来る限り同じにしないといけない。朝食はトースト二枚だったはず。全く同じ行動なんてできないが、重要なことは西浦真美のスマホにワールドラインナンバーアプリを入れること、大参事の事故の発生、西浦真美をホテルで宿泊するようにさせる、夕食はラーメン屋に行くことだろう。その点に注意して行動すれば世界線変動は起きないはず。


しかし俺は出勤中に一つだけ別の行動をとった。それは新垣優こと黒岩優に電話をかけた。


黒岩優「もしもし水嶋さん?こんな平日に何かありましか?」

水嶋祐樹「突然の電話ごめんね。黒岩さんだけは俺が特殊能力者であることを知っているよね?」

黒岩優「そのことなら覚えてますよ。もちろん誰にも話していません」

水嶋祐樹「信じられないかもしれないけど、俺は未来からやってきたんだよ」

黒岩優「未来から!?あの、どういうことでしょう?」

水嶋祐樹「今日の15時30分頃に俺の会社のビルにグリーンの大きなダンプカーが衝突してしまう。まさに大参事の事故になるんだよ」

黒岩優「にわかには信じられないですが、未来からやってきたということはその事故を防ぎにきたのでしょうか?」

水嶋祐樹「黒岩さん、今日はテレビ局での収録とか予定されていない?」

黒岩優「今日はお昼からずっとテレビ局でお仕事です」

水嶋祐樹「それはちょうどよかった。俺はその事故を防ぎにきたんじゃなくて、その事故の情報を知るためにやってきたんだよ。テレビ局なら、その事故の詳しい情報を掴んでいると思うから、黒岩さんのコネで詳しい情報を聞き出してもらえないかな?」

黒岩優「ちょうど今日の17時から情報番組の出演予定ですが、その番組で報道されるかわからないですよね?」

水嶋祐樹「かなり大きな事故だから報道されると思うけど、されなかったら諦めるよ」

黒岩優「では、もし報道されたら詳しい情報を聞いておきますね」

水嶋祐樹「何か情報を掴んだ場合、申し訳ないんだけど21時過ぎに俺に電話してもらえる?」

黒岩優「21時過ぎですね。わかりました」


会社に出勤して覚えている限り同じ行動をした。まず昼食は会社近くの定食屋にあるチーズチキンランチ。そのままファミリーレストランのほうへブラブラと歩いていって、小松結衣が宮ノ下和宏と出てくるところに遭遇。そして午前中、児島信二にお願いしていたロイド用のワールドラインナンバーアプリを西浦真美のスマホに入れておき、時が流れるのをまった。そして15時31分、突然ドーンッという大きな音が鳴り響き、床が揺れた。日根野部長が「なんだ?地震か!?」と大きな声で言った。その瞬間に俺は「ちょっと音が鳴ったほうを見てきます」と言ってフロアを飛び出した。もちろん同じ行動でエレベーターのほうへ走っていくと、西浦真美が窓から下のほうを見ていた。俺が「西浦さん」と大きな声で呼ぶと西浦真美が振り向いて「水嶋君、大変なことになってしまっているわ!」と言った。もう知っている光景だったが、もう一度見るしかないと思い、窓から下を眺めるとグリーンの大きなダンプカーがこのビルの入口に突っ込んでいた。何度見ても凄まじく悲惨な光景であるのはいうまでもない。本来ならここでダンプカーのナンバープレートを確認したかったが、そんなことをしてしまうと世界線が変動するかもしれない。その後、俺は『西浦さん、心配だったら、今夜はホテルに泊ったら?万が一、勝手にタイムリープしても俺に相談してくれればいいから!』と西浦真美にテレパシーを送った。すると西浦真美から『そうね。そうすることにするわ』というテレパシーが送られてきた。その後、社長命令により社員全員が強制帰宅となった。


裏口からビルの外へ出てきた俺は、前回とは少しだけ違う行動をとった。ビルの入口のほうへ歩いていってビルに突っ込んだダンプカーのナンバープレートを確認した。そのナンバーは1212とかなり覚えやすかった。あとはダンプナンバーを確認してみると西神(建)3885となっていた。その二つだけ確認して俺はさっさと帰宅した。


俺が家に帰宅したのは17時前で、前回と変わらない。そして莉奈のスマホメールに『今日は早く帰宅したから夕食の準備はしなくていいよ』というメッセージを送っておいた。18時20分を過ぎたころに莉奈は帰宅してきた。もちろんそのあとは莉奈の運転で家から15分ほどの場所にあるラーメン屋に行った。帰宅して時計の針を見ると21時をまわっていた。莉奈が先にシャワーを浴びている時、ダイニングテーブルに一人座ってテレビをつけた。もちろん同じく21時のニュースが流れていたのだが、ここで前回とは違う行動をとった。それは女性のニュースキャスターが「次のニュースです。今日、15時30分頃・・・」と喋り出したのでチャンネルを変えずにそのまま見ていた。するとやはり今日あった事故についてのニュースが報道されていた。しかし、このニュースで流れた情報からは運転手の名前や年齢、どこの建設会社かまでは報道されていなかった。そしてテレビの電源を切った後、俺のスマホが鳴った。電話の相手はもちろん黒岩優だった。


水嶋祐樹「黒岩さん、何か情報は掴めた?」

黒岩優「水嶋君のいう通りに大参事の事故が起こったのでびっくりしました!報道された記者の方から情報は聞きましたが、詳しいことはまだわからないそうです」

水嶋祐樹「その報道記者から聞いた情報を教えてほしい」

黒岩優「事故を起こした運転手は佐々波建設の社員で小柳悟志という57歳の男性だそうです。現在も病院に搬送されて意識不明の重体。事故を起こした原因もまだわかっていないようですが、おそらく居眠り運転だろうというのが警察の見解だそうです」

水嶋祐樹「そこまでの情報で充分だよ!黒岩さんありがとう!!今度、神ノ平に登る時、お礼に高級な牛肉を入れてすき焼きするから楽しみにしていてね!!!」

黒岩優「それは楽しみです!お役に立ててよかった!!」


電話を切ったあとすぐに莉奈が風呂から出てきたので、続いて俺もシャワーを浴びた。着替えを済まして寝室へ向かうと莉奈が不思議そうな表情をしながら「なんか今日の祐樹君って変な感じがする」と言った。俺は「変な感じ?」と聞いてみると莉奈は「なんとなくだけど、祐樹君の行動を見てると、今日の出来事をまるで知っているかのような感じがしたの」と答えた。俺は不自然な行動をしたつもりはなかったが、莉奈も特殊能力者の一人であるので勘が鋭い。しかしここで真実を話してしまうと余計に時空が歪んでしまうおそれがある。だからといって莉奈にごまかしは効かない。


水嶋祐樹「莉奈、全部は話せないけど俺と西浦さんは別の世界線に移動してしまうんだよ」

水嶋莉奈「別の世界線ってどういうこと?」

水嶋祐樹「今ここはまさに俺がいる世界なんだけど、西浦さんを別世界に置いてきてしまっているから助けにいかないといけないんだよ」

水嶋莉奈「わたし、祐樹君みたいに頭がよくないからわかんないだけど、西浦さんを助けにいくの?」

水嶋祐樹「うん!莉奈がそう感じて当然なのは、今の俺は未来からやってきたからなんだよ」

水嶋莉奈「タイムリープしてきた祐樹君ってこと?」

水嶋祐樹「そうだけど、これ以上のことはまだ話せない・・・ごめん」

水嶋莉奈「謝らなくていいよ。でもこれでスッキリした!未来からやってきたんだったら、今日の出来事がわかって当然だよね」


なんとか詳しい事情を話さずに莉奈を納得させることができた。そして時刻は22時30分が過ぎており消灯して就寝することにした。ここで俺が15.39の世界線に移動できなければ西浦真美を置き去りにすることになる。そうならないように俺はあの世界線での病室を強くイメージしながら眠りについた。



■ 2020年9月12日(土)


午前7時30分に目を覚ますとやはり別の世界線である病室のベッドだった。思惑通り15.39の世界線移動ができたのだ。9月9日の大参事になった事故の詳細情報は掴んでいた。あとはこの世界で起こった事故情報と照らし合わせるだけだ。俺はノートパソコンを開いて忘れないように元の世界線で起こった事故の情報をテキストに書き込んだ。そして笹原莉奈に新垣優こと黒岩優の居場所と電話番号をメールで送っておいた。


俺は2020年9月9日に元の世界線へタイムリープに成功したわけだが、今の西浦真美には不可能かもしれない。とにかくこの世界線での西浦真美から送られてきた部屋の写真が元の世界線からきた西浦真美の部屋と一致したら完全に不可能だと確証される。ただ、元の世界線から西浦真美は9月9日の夜にホテルで就寝したと思われる。ただ、そのホテルがこの世界でも存在するのであれば、別空間にはならない。どうやって西浦真美とともにこの世界線から元の世界線に移動すればいいのか悩ましい。どちらにしても元の世界線から来た西浦真美にこの写真を見せて一致しているかどうかの確認が必要になる。一致していれば西浦真美を元の世界に戻すのは困難になるだろう。


昼食を済ませて14時の面会時間がはじまった頃、病室のドアからノックする音が聴こえた。俺は「はい」と言うとドアが開いて変装した西浦真美が入ってきた。西浦真美は「水嶋君、元の世界線の9月9日には飛べたの?」と聞いてきたので、俺は「ああ、バッチリあの事故の情報は掴んできたよ。ただ予想通りにまたこの世界線に戻されてしまったけどね」と答えた。西浦真美のスマホに入っているワールドラインナンバーアプリで確認すると、やはり15.39と表示していた。


西浦真美「もし、今回の世界線移動があの事故に関連しているとしても、わたし達二人が元の世界線に戻る方法まではわからないわよね?」

水嶋祐樹「それが最後の課題といえるかな・・・ちなみのこの画像を見て欲しい」

西浦真美「これはわたしの部屋じゃない!どうして水嶋君がこんな画像を持っているの?」

水嶋祐樹「これはこの世界線にいる西浦さんに送ってもらったんだけど、やっぱり部屋の風景も同じなんだね」

西浦真美「細かいところまではわからないけど、私の部屋そのものだわ。でもどうしてこんな写真を送ってもらったの?」

水嶋祐樹「一致するか確認したかったんだよ。元の世界線に戻るには、この世界にはない全く別の空間を強くイメージする必要がある。でも部屋が一致しているとただのタイムリープになってしまう」

西浦真美「そういうことだったのね・・・そうだ!9月9日はわたしホテルに宿泊したから、ホテルの部屋をイメージするのはどうかしら?」

水嶋祐樹「おそらく、そのホテルもこの世界には存在しているはずだよ」

西浦真美「水嶋君と莉奈ちゃんの住んでいる家をイメージするのもだめなの?」

水嶋祐樹「それは俺も考えたけど、言葉で伝えたところでイメージできないだろうし、俺はそんなに上手く絵なんて書けない。無理矢理退院して、俺の実家からもう一度元の世界線の9月9日に戻れば写真は手に入るだろうけど、退院することはこの世界線の過去改変になるからできない」

西浦真美「打つ手なしじゃない・・・」


たしかに打つ手なしといった感じだ。しかしここで諦めるわけにもいかない。一か八かの賭けになるが最後の手段を使うしかない。それでダメだったらお手上げだ。


水嶋祐樹「西浦さん、今から人格入れ替わり能力を使ってみよう」

西浦真美「わたし達が入れ替ることに意味があるの?」

水嶋祐樹「西浦さんが俺の体に乗り移った時、過去のことを思い出してみてほしい」

西浦真美「なるほど!やってみるわ!!」


お互い見つめ合って人格を入れ替えてみたが、過去のことを思い出そうとしても、それは本来の自分のものでしかなかった。つまり五感は乗り移った人の物で間違いないが、記憶は本来の自分のものということだ。元の体に戻った俺は「やっぱりだめか・・・」と呟いた。西浦真美はまるで絶望に陥ったかのように落ち込んでいたが、俺は何かを見落としているような気がしていた。


水嶋祐樹「そんなに落ち込まなくても、まだ手段はあるから!」

西浦真美「まだ何か方法があるというの?」

水嶋祐樹「根本的に方法が間違っているのかもしれない。しかも何か簡単なことを見落としてる気がするんだよ」

西浦真美「それってこの世界から元の世界に戻ることよね?ここが元の世界と全く別の世界だったらこんなに悩まなくて済んだでしょうね」

水嶋祐樹「それだ!西浦さんお手柄だよ!!!」

西浦真美「どういうこと?」

水嶋祐樹「この似通った世界から元の世界へ戻る方法を考えるから行き詰ってしまうんだよ。一旦、別の世界へ移動してからだと元の世界に戻ることができる。ただし、9月9日に起こったあの大参事の事故を防いで過去改変しておかないと、またこの世界に戻されてしまう」

西浦真美「別の世界になんて移動できるの?」

水嶋祐樹「たった一つの世界線だけは移動できる。西浦さんも行ったことのある世界だよ」

西浦真美「ああー!あの藤堂君の世界ね!?」

水嶋祐樹「そう。俺達はワールドラインナンバー11に移動してから、先に9月9日に起こったあの大参事の事故を防ぐことで過去改変する。それには西浦さんにも協力してもらうかもしれない。もちろん、9月9日の西浦さんの行動も改変してホテルに宿泊しないようにすればいい。ただ、もう少しこの方法を完璧なものにするために、今晩、俺だけがナンバー11の世界線に移動して藤堂君に相談してみるよ」

西浦真美「なんだか複雑なんだけど希望を持っていいのよね?」

水嶋祐樹「希望を持っていたほうがいいね。とにかく、ナンバー11の藤堂君は時空やタイムリープの知識が俺よりあるから助けてくれると思うよ!」

西浦真美「そうね、わかったわ。じゃあそろそろ面会時間が終了するからわたしは行くわね」

水嶋祐樹「ちょっと待った!申し訳ないんだけど、あとで俺の服を持ってきてほしい。こんな姿で外は歩けないからね」

西浦真美「水嶋君の家に帰っても退屈だから別に構わないわよ」


西浦真美が病室から出て行った後、俺はノートパソコンを開いた。新しいメールをチェックしてみるとこの世界の西浦真美からメールが届いていた。その内容は9月9日に起こった事故の調査結果だった。ダンプカーは近くの修理工場に運ばれていたようだが、まだ解体されておらず1212というナンバープレートでダンプナンバーは西神(建)3885とのことだった。ちなみにそのダンプカーは佐々波建設という会社が所有しているもので、その会社の住所までは記載されていた。佐々波建設の場所はうちの会社の最寄り駅から一駅先であった。それ以上のことはわからなかったようだが、俺は西浦真美にお礼のメールを送信しておいた。この事故情報は元の世界で得た情報と全く同じである。それから1時間程すると今度は笹原莉奈からメールが届いた。予想通り”水嶋さんからのお願い”という理由に効果があり、すぐに会えたそうだ。そして事故情報を入手できたとのこと。運転手は佐々波建設の社員で小柳悟志という57歳の男性で、現在は意識が回復しているとのこと。事故の原因は居眠り運転だったとのことがわかった。運転手の年齢や名前まで元の世界と一致していたが、そのほうが都合がいい。



■ 2020年9月13日(日)


目が覚めると真っ白な広い空間、つまり夢中会議室にいた。昨日と同じように俺の隣では莉奈が眠っており、向かいには二人の西浦真美が眠っていた。俺はすぐにみんなを起こして、ワールドラインナンバー11の世界線に移動することを伝えた。


西浦真美(WL15)「そのナンバー11に行ったのは約2年前の11月だったんでしょ?今もその世界に藤堂君の家があるかわからないんじゃないかしら?」

水嶋祐樹「藤堂君の両親が引っ越していないことを祈るしかないんだよ」

笹原莉奈「もし引越ししているとどうなるの?」

水嶋祐樹「ただ世界線移動に失敗するだけだと思うけど、あれほどの豪邸から引越すとは思えないんだよ」

西浦真美(WL15)「移動が成功したとしても、どうやってその世界にいる藤堂君を見つけ出すの?」

水嶋祐樹「移動先は藤堂君の実家だから、両親が海外出張から帰ってきていると思う。それか藤堂君が西浦さんと・・・いや、まあ聞き込みするよ」

西浦真美(WL15)「藤堂君とわたしが何?別に隠す必要ないでしょ!」

西浦真美(WL17)「その世界でのわたしは藤堂君と結婚しているらしいわ」

西浦真美(WL15)「ええええええーーーーー!?」

笹原莉奈「でもお似合いのお二人ですね」

水嶋祐樹「だからナンバー11の世界にいる藤堂君と西浦さんが両親と一緒に住んでいる可能性が高いってことだよ」

西浦真美(WL15)「どの世界でもわたしは藤堂君と結ばれる運命にあるのね!?」

西浦真美(WL17)「それはわからないわよ。わたしの世界では藤堂君とお付き合いしているけど、結婚はまだしていないわ」

水嶋祐樹「とにかく今からワールドラインナンバー11に飛ぶね。あと二人の西浦さん同士二人で思う存分話しておけばいいよ」

笹原莉奈「あの、明日お見舞いに行ってもいいですか?なんだか水嶋さんとたくさんお話したくて・・・」

水嶋祐樹「別に構わないけど、俺は今の莉奈ちゃんとは別の世界にいる存在だから錯覚しないでね」

笹原莉奈「それはわかっています」


俺はそのまま瞼を閉じて何も置かれていないただ薄緑の壁に障子がある部屋を強くイメージした。意識がなくなるまで強くイメージし続けていると次第に意識を失って眠りについた。その後、莉奈はさっさと眠ってしまったが二人の西浦真美はひたすら話し続けていた。別世界とはいえ、自分と話すことってそれほど面白いことなんだろうか。



■ 2020年9月13日(日) - ワールドラインナンバー11の世界


目が覚めると20畳くらいの広い畳の部屋にいた。これは間違いなく藤堂晃の実家であるとすぐにわかった。間違いなくワールドラインナンバー11の世界に移動してきたのだ。そう思って起き上がった俺は家の中に誰かいないか確かめてみた。障子を開くと奥から味噌の匂いがしてきたので、その方へ歩いて行くと広いキッチンで女性が料理をしていた。藤堂晃の母親かと思ったが後ろ姿からして若く、どこかで見たことのあるような感じがした。俺は恐る恐るキッチへ入っていくと足音に気が付いたのかその女性が振り向いた。その女性は「キャー!」と叫び出したのだが、間違いなく西浦真美そのものであった。


西浦真美「み、水嶋君が化けてでたーーー!!」

水嶋祐樹「西浦さん落ち着いて!一度病院で会ったことあるでしょ?えっと・・・俺は別の世界からやってきたんだよ!!」

西浦真美「えっ!?もしかして2年前に会いに来てくれた別世界の水嶋君?」

水嶋祐樹「そうだよ。というか、もう西浦さんじゃなくて藤堂真美になってたね」

西浦真美「ややこしいから西浦さんって呼んでくれていいけど、どうしてまた別世界から来たの?」


そんな話をしているとキッチンに藤堂晃がやってきて「真美!どうしたんだ!?」と駆けつけてきた。俺はほっとして「藤堂君、俺だよ!今はナンバー17の世界に生きてる水嶋だよ。驚かせてしまったようで申し訳ない」と言った。すると藤堂晃もほっとした表情になって「突然水嶋さんが現れて真美が驚いたということだったのですね。それなら安心しました」と言った。この世界の西浦真美(本来は藤堂真美になっているが、ややこしいので旧姓にします)も落ち着きを取り戻した。俺は「藤堂君、助けてほしい・・・」と呟くと藤堂晃は「何か大変なことでも起こりましたか?とにかくそこのテーブルについてください」と言った。俺はテーブルにつくと向かい側に藤堂晃、向かって左側に西浦真美が座っていた。俺は「少し長い話になるんだけど・・・」と言って、これまでの出来事を語っていった。こと細かく起こった出来事を話していったせいか説明するのに40分近くかかった。


藤堂晃「なるほど、それは厄介な問題に直面していますね。ただ、水嶋さんの理論で一つ逆のように思うことがあります」

水嶋祐樹「逆ってどういうこと?」

藤堂晃「元のナンバー17の世界線に戻るのが難しいのは真美、いや西浦さんではなく水嶋さんのほうです」

水嶋祐樹「どういうこと?俺がタイムリープをして9月9日に飛んで過去を改変したらナンバー15の世界線移動を避けられるんじゃないの?」

藤堂晃「たしかにそうすれば西浦さんの記憶が書き換えられてこの世界から元のナンバー17の世界に戻すことは可能でしょう。しかし、水嶋さんの記憶はそのまま残ってしまいますから、再び15の世界線に移動してしまいます」

水嶋祐樹「たしかに・・・そこまで考えられなかったけど、そもそも藤堂君はどうやって世界線移動してたの?以前、ナンバー1の世界線から健全に生きてる俺達を探したとか言ってたよね?」

藤堂晃「僕が最後に水嶋さんの実家に伺った時、世界線の数値を見れるアプリケーションを持っていると話しましたよね。実は僕の持っているアプリケーションには別の機能も入っていまして、世界線数値と座標を入力すれば、その指名した世界線の座標の位置にある風景がパノラマ撮影できるのです。夢中会議室は異次元空間なのは知っていると思いますが、その撮影した写真を強くイメージしながら眠ることで世界線移動が可能になります。その仕組みについては話すと一日では終わりませんが、簡単なメカニズムを説明するとネットワーク信号の粒子を別の世界線のものに変更していると言えばいいのでしょうか。その粒子レベルまで小さくなった物質は並列世界に干渉できるようになるというわけです」

西浦真美「あなた、そんな難しいものを作っていたのね!?」

藤堂晃「実は僕が発明したものではありません。水嶋さんが息をひきとる前に自分が使っていたパソコンのメールに重要なアプリケーションがあると教えていただきました。そして水嶋さんのメールを確認してみると2033年の僕、つまり藤堂晃から送られてきていました。そのメールにアプリケーションが添付されていて使い方や詳しい理論が書かれていました。何度もそのメールを読んで理論を理解したというわけです」

水嶋祐樹「なるほど・・・それにしても別世界の写真が撮れるようにしていたなんてすごいよ!」

藤堂晃「実際に移動したのはナンバー5にいた水嶋さんの世界と合わせると6つです。ナンバー15の世界線のことは話を聞いて初めて知りましたよ。とにかくまず話を整理しましょう」

水嶋祐樹「そうだね。いろんなことがありすぎて混乱してたから・・・」


藤堂晃は俺が語ったことを整理するかのように話はじめた。そして藤堂晃は重要なポイントとして、9月9日に起きる大参事の事故、ナンバー15への世界線移動、記憶の書き換えということであった。最後の記憶の書き換えというのが気になる。


藤堂晃「水嶋さんと西浦さんが世界線移動したことによって、ナンバー15の世界線も変動したと思います。つまりナンバー17の世界で9月9日に起きる事故を防いだとしたらナンバー15の世界線は変動前の状態に戻りますが、その世界にいた西浦さんや笹原さんの記憶、そしてナンバー17の西浦さんの記憶も書き換えられて何も無かったことになります。ここで問題になってくるのはタイムリープをして過去改変をした水嶋さんの記憶です。先ほども言いましたが、その事故の記憶を持ったままの状態だと再びナンバー15の世界線へ移動してしまいます。だからといって西浦さんが過去改変してしまうと、今度は永遠に15の世界線から移動できなくなるか、もしくは意識そのものが消えてしまいます。それらを避けるには全て無かったことにする方法しかありません」

水嶋祐樹「全て無かったことにするなんてできるの?」

藤堂晃「水嶋さんは9月9日にタイムリープをして過去を改変しようとしていますが、その方法がそもそも間違っているのです。でも、そこにこだわってしまう理由はわかりますので僕は偉そうな事を言えないのですが、まだ事故の映像が頭にインプットされていない状態の水嶋さんに過去改変をお願いすれば全ては無かったことになります。つまり事故が起こるその前の日の9月8日にタイムリープをして事故の詳細や原因を記載した内容でスマホのメールに送れば過去の水嶋さんが改変する行動にでると思います。ただし、それによって水嶋さんの記憶も書き換えられてしまいます。それとナンバー15と17の世界線は似通っているとのことでしたので、水嶋さんと西浦さんのお二人には僕がいるこの世界線に移動してもらってからの実行となります」

水嶋祐樹「この世界に西浦さんを連れてきたらまずいんじゃないかな?この世界線にいる西浦さんとバッタリ会ってしまったらタイムパラドックスのようなことが起こるんじゃない?」

藤堂晃「理論上、別世界の自分と会っても何も起こりません。ただ、ナンバー15と17の西浦さんがバッタリ会ってしまうと意識が融合して、どちらか一方の存在が消えてしまう可能性がありますので避けたほうがいいでしょう。僕のいるこの世界の真美であったら環境や生活が全く違いますので何の問題もないと思いますよ」

西浦真美「もう一人のわたしが来るの!?ぜひ会って話してみたいわ!!」

水嶋祐樹「でも、本当にあの大参事の事故が世界線移動の原因になっているのか不安なんだよ。それにあの事故は避けられない事象だとすれば過去改変に失敗してしまう可能性もあるよね?」

藤堂晃「その事故が引き金になったことは間違いないと思います。水嶋さんがおっしゃった通り、ナンバー15と17の世界で同時刻に起こったことによって、時空がねじれて空間が繋がってしまったと思います。それと、その事故は避けられない事象かどうかについてですが、ナンバー15の世界の未来には水嶋さんが存在している、つまり未来があります。それに対して、ナンバー17の世界には未来がありませんので過去を改変することは可能だと思います。もしもの時に備えて、最終手段としてトランセンド状態になって自らそのダンプカーに突っ込んでしまえばいいと思います」

水嶋祐樹「なるほどね!!さすが藤堂君は詳しいよ!!!相談して本当によかった」

藤堂晃「とにかく、今日の夜、正式には明日14日ですが、僕もナンバー15の世界線に移動して水嶋さんと西浦さんのお二人を迎えに行きます。真美、明日は会社を休むので社長に上手く伝えておいてほしい」

西浦真美「わかったわ」

水嶋祐樹「藤堂君がわざわざ迎えにきてくれなくても、俺と西浦さんが眠る前に手を繋いで15の世界線からこの11の世界線へ移動すればいいんじゃないの?」

藤堂晃「その方法でも可能ではあるんですが、水嶋さんの記憶だけでは二人が移動するだけの強いイメージはできないと思います。それに僕のいるこの世界の部屋の状況も少し変わっていますから難しいでしょう。僕であればかなり強くイメージすることができますのでお二人を移動させることができるというわけです!」

水嶋祐樹「そういうことなんだ・・・藤堂君、本当にありがとう!これで希望が出てきたよ。会社まで休ませることになって申し訳ない」

藤堂晃「いえいえ、困ったことはお互い様ですし、水嶋さんには大きな借りがありますから、こんなことくらいどうってことありませんよ。それより朝早くになりますが、水嶋さんは酒でも飲んで眠って15の世界線で待機していてください。真美、冷蔵庫からビールが何本かあったから、それを全部出してきてほしいのとブランデーも用意してきて!」

西浦真美「おつまみも必要になるわよね!?わたしの手料理をご馳走するわ!!」

水嶋祐樹「西浦さんありがとう!!」


俺はビールをひたすら飲みながら、おつまみとして西浦真美の手料理を食べていたのだが意外に美味しかった。元のナンバー17にいる西浦真美のことを考えてみると、こんな美味しい手料理が作れるなんて想像もつかない。それから1時間程経って、500ミリリットルのビールを6本飲んでしまっていた。ほろ酔い状態になっているものの、まだ眠れないのでブランデーを飲みはじめた。さすがにビールとちがってアルコール度数が高いので、だんだん酔いが回ってきた。その時に藤堂晃が「水嶋さん、そろそろそこのソファーで眠ってほしいのですが、目を閉じながらナンバー15の世界を強くイメージしてください」と言った。俺はグラスに入ったブランデーを一気に飲み干すとソファーに横たわると目を閉じてナンバー15の世界にいた病室を強くイメージした。だんだん意識がなくなってようやく眠りについた。



■ 2020年9月13日(日) - ワールドラインナンバー15の世界


目を覚ますと病室のベッドの上だった。目の前には西浦真美が隣の椅子に座っており、時刻は14時を少し過ぎていた。あれほど酒を飲んだはずだが、体にアルコールが残っている感覚はなかった。


西浦真美「やっと目が覚めたようね。また昏睡状態に戻ったのかと思っって心配してたのよ」

水嶋祐樹「西浦さん、ナンバー11の藤堂君と話してきたよ。今晩というか明日の14日の夢中会議室からナンバー11の世界線に移動することになったよ」

西浦真美「詳しく説明して!」


俺は藤堂晃と話したことや元の世界線に戻る方法についての計画を西浦真美に詳しく説明した。西浦真美は不安そうな表情をしていたが、もう時間もないのでこの世界線からナンバー11の世界線に移動しなければならないことも伝えた。


西浦真美「本当にその方法で上手くいくか心配だわ・・・」

水嶋祐樹「これは藤堂君と話をしていて気づいたことなんだけど、この方法で必ず上手くいく保証があるんだよ」

西浦真美「どこにそんな保証があるの?」

水嶋祐樹「この世界線ナンバー15に移動した俺達は既に数日を過ごしているよね。だとしたら今現在の元の世界、つまり世界線ナンバー17の2020年9月13日はどうなっているのか。もし元の世界に戻れないとしたら俺達の存在が消えていて大騒ぎになっているはず。特に莉奈はすぐに行動に出ると思う。以前から何度か俺は莉奈に言っていた。万が一、何か起こって俺がいなくなるようなことになった場合、ナンバー11の世界線にいる藤堂君に相談すればいいと伝えていたんだよ。藤堂君と話している間に、俺はそのことを思い出したんだよ。ところが、ナンバー11の世界線にいる藤堂君から莉奈が訪れてきたとは聞いていない。ということは今現在も世界線ナンバー17では何も起こっていなくて、俺や西浦さんは何かしらの方法で2020年9月10日に戻ることができたということになるんじゃないかと思う」

西浦真美「その水嶋君が伝えていたことを莉奈ちゃんが忘れているって可能性はないの?」

水嶋祐樹「莉奈は記憶力だけは抜群にあるから覚えているはず。特にそんな追い込まれる状況になったらすぐに思い出すよ。莉奈はタイムリープはできないけど、世界線移動ならできるからね。保育士という職業柄なのか強くイメージする力も持っている」

西浦真美「それが保証なのね。あっそろそろ面会時間が終了するからわたしは戻るね」

水嶋祐樹「このナンバー15の世界線にいる最後の日だけど、街中を彷徨ったりしないでね。じゃあ今晩夢中会議室で会おう!」


西浦真美が病室から出て行った後、俺はベッドに横たわりながらもう一度、元の世界に戻る計画について頭の中で整理してみた。まず、今晩夢中会議室から世界線ナンバー11の藤堂君の家に移動する。それから9月8日に実家の屋根裏部屋にタイムリープして俺のスマホメールに9月9日の大参事の事故を防ぐように促す内容を送る。それからもう一度世界線ナンバー11に戻ってから、俺と西浦さんの二人が元の世界線へ戻る。簡単にまとめるとこういうことだが、一つ疑問に思った。それは元の世界線に戻る日付はいつなのか?である。以前はナンバー11の世界線に移動した日付に戻ったが、今回はこのナンバー15の世界線に移動する前に戻れるのだろうか。それより未来の日付に戻ってしまうのだろうか。未来の日付に戻った場合、数日間の空白があるが、記憶が書き換えられるのだろうか。そのメカニズムはどれだけ考えてもわからなかったが、出来れば元の世界線の9月10日の朝に戻りたい。


しばらくこのことは忘れてぼーっとしていると病室のドアからノックする音が聴こえた。俺は「はい」と言うとドアが開いて莉奈が入ってきた。そういえば、夢中会議室でお見舞いに来ると言っていたことを思い出した。莉奈は何か悩んでいるような表情をしながら椅子に座った。


水嶋祐樹「莉奈ちゃん、そんな表情をしてどうかしたの?」

笹原莉奈「えっとですね・・・今こうしてお話している水嶋さんは別の世界の人なんですよね?つまり意識が違うといいますか・・・」

水嶋祐樹「そうだよ。本来のこの世界の俺の肉体に意識が入ったんだけど記憶は全く違う」

笹原莉奈「この世界の水嶋さんが自分を犠牲にしてまでわたしを救ったと言っていましたよね?」

水嶋祐樹「たしかに言ったけど、それはこの世界線の俺が説明してくれると思うよ」

笹原莉奈「そのことはいいのですが、どうして今ここにいる水嶋さんがそんなことを知っているのですか?」

水嶋祐樹「厄介なことを聞いてくるねえ・・・うーん、どう説明すればいいんだろう」

笹原莉奈「それに9月14日には元の世界に戻らないといけないって言ってましたが、それはこの世界の水嶋さんが目を覚ます日が9月15日だと知っているからではないですか?」


この莉奈も元の世界と同じ人格で妙に鋭いところがある。だからといってごまかしは効かない。どのみち過去改変をすることによって記憶は書き換えられるので、今は話していることも忘れてしまう。そう思ったので俺は莉奈に説明した。


笹原莉奈「そ、そんな・・・わたしを助けるためにいろいろしてくださっていたなんて・・・」

水嶋祐樹「この世界の未来の水嶋祐樹が存在しているということは、死ぬことは絶対にないはずなんだよ。それを逆手にとったこの世界の俺は自分を犠牲にしたというわけだよ。そして、これも未来の人からメールが届いていてわかったことだけど、目覚めるのは莉奈ちゃんの予想通り9月15日なんだよ」

笹原莉奈「まだちょっと信じられませんが、この世界の水嶋さんは必ず9月15日に目覚めるのですね?」

水嶋祐樹「そうなんだけど、実は俺と西浦さんがこの世界に移動したことで、ここの世界線もわずかに変動はしているんだよ。それも同時に元に戻さないといけない」

笹原莉奈「もしこのまま9月15日になってしまうと、どういうことが起こるのですか?」

水嶋祐樹「それはハッキリとわからないことなんだけど、意識が融合してしまってどちらかの存在が消えてしまうか、この世界にいた本来の俺の意識が永遠に戻らなくなるか、どちらにしてもいい結果にはならないと思う」

笹原莉奈「わかりました・・・いろいろ教えていただいてありがとうございます。ということは明日には元の世界に戻るということですよね?」

水嶋祐樹「そうだね。今晩というか次の夢中会議室から移動するよ」

笹原莉奈「今の水嶋さんやもう一人の西浦さんとお話できるのも最後になるわけですか・・・」

水嶋祐樹「ところで気になったことがあるんだけど、この世界の俺が目覚めたら莉奈ちゃんはどうするつもりなの?」

笹原莉奈「どうするってどういうことですか?」

水嶋祐樹「莉奈ちゃんはこの世界の俺に自分の気持ちを伝えるの?」

笹原莉奈「それはまだ考えていません。それにわたしは水嶋さんと普通に付き合うってなんか違う気がしています」

水嶋祐樹「結婚前提で付き合うのであればいいんだよね?」

笹原莉奈「たしかに結婚前提であればお付き合いしますが、まるでわたしの気持ちを知っているかのようですね」

水嶋祐樹「だって、元の世界でも結婚前提ということを条件で交際がはじまったんだけど、俺が告白したときに普通に付き合うのは違うような気がすると言われたからね」

笹原莉奈「水嶋さんのほうから告白したんですね・・・この世界でも同じようにわたしは告白されるのでしょうか?」

水嶋祐樹「それはわからないよ。そもそも莉奈ちゃんはいつからそういう自分の気持ちに気づいたの?」

笹原莉奈「あれは忘れもしない2年前の8月4日です。水嶋さんと海に行った夢を見たんです。とても綺麗なエメラルドグリーンの海だったのですが、そこで水嶋さんに『好きだ』と言われたんです。その瞬間わたしは目を覚ましてドキドキしました。それからそういう気持ちになりました」


2年前の2018年8月4日というと俺が莉奈に告白した日だ。しかもエメラルドグリーンの海というのも一致している。まるで別の世界線での出来事の夢を見ていたかのようで不思議になった。


水嶋祐樹「驚いたんだけど、その2年前の8月4日はたしかにエメラルドグリーンの海に行って、その夜キャンプをしている時に俺は告白したんだよ!もしかすると今の俺のいた世界線での出来事をこの世界にいる莉奈ちゃんは夢で見たのかもしれないね」

笹原莉奈「あの夢は別の世界で起こった出来事だったということでしょうか?」

水嶋祐樹「そうかもしれないけど、まあ似通った世界だから偶然かもしれないけどね」

笹原莉奈「そろそろ面会時間が終わりますね。もっとお話したかったんですが、なんだか淋しいです」


本当に淋しそうな表情をして莉奈は病室から出て行った。なんだか元の世界にいた莉奈を悲しませたみたいな気分になったが、どのみち記憶は全て書き換えられるんだ。

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