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異世界生活に奴隷ハーレムを添えて ~元世界一位の最強奴隷パーティ育成術~  作者: 杏仁みかん


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第1話 遭遇

 春の日差しのような柔らかい光が全身を包み込み、小川のせせらぎと草が揺れる音が風に乗って耳をくすぐる。


 透き通った涼しい風が頬を撫で、それは今まで嗅いだことのない甘さを纏っていた。



 軽く周囲を見渡すと、すぐ傍には小川が流れている。


 その奥には針葉樹の森が。


 そして遥か遠くには雪を被った大きな山々が、静かに佇んでいる。



「えっ……俺、死んだ?」



 状況を理解できないまま、俺はただ目の前に広がる壮観な景色に圧倒されていた。


 その景色は、暖かい日差しは、透き通った空気は、まるでここが天国かと思ってしまうほどだった。



 何が…起きたんだ?


 さっきまで部屋にいたよな。


 それで、椅子に座り損ねて……



「ガサガサッ」


頭の中で混乱が渦巻く中、後ろから草を踏むような音がした。


 反射的に振り向くと―――



「えっ……」



視線の先には、信じられないほど巨大なヘラジカが立っていた。


 手のひらを広げたような巨大な角に、馬のように長く伸びた顔。


その堂々たる体躯は、軽く体高2メートルを超えている。


ただじっと見つめられるだけで、息が詰まりそうなほどの威圧感が全身にのしかかるようだ。



「………」



 俺は腰が抜けたようにその場に座り込んだ。


 どんどん呼吸が浅くなり、頭が真っ白に染まっていく。


 無意識に喉が鳴り、手のひらには冷たい汗がじっとりと滲んでいた。



 数秒間、互いに見つめ合う。


その緊張を破ったのはヘラジカの方だった。


巨体を揺らすように首を振り上げ、大きな角を左右に振り回しながら、前足を高く上げる。



 俺は直感的に死を感じ、慌ててその場から逃げた。


 腰が抜けていて上手く立つことが出来なかったが、それでも両手を必死に使いなんとか立ち上がり、途中で何度か転びながらも、ただがむしゃらに走り続けた。


 動物に出くわした時に背中を見せてはいけないという知識はあったが、実際に出くわすとそんなことを思い出す暇も無く体が勝手に動いていた。



無我夢中で走り続けるうちに、一本の小道が目の前に現れた。

 

体力の限界を迎えた俺は、その小道に滑り込むように倒れ込んだ。


 朦朧とする意識の中、走ってきた方に目線を向けると、そこにアイツの姿は無く、視線を遠くに移すと小川でのんびりと水を飲んでいるアイツの姿が見えた。



 安心した俺は仰向けになり、肩を大きく揺らしながらなんとか呼吸を整えようとした。


背中に伝わる土の柔らかな感触が、幼い頃に遊んだ記憶を思い起こさせる。



「はぁ…はぁ…はぁ……」


横腹には押しつぶされるような痛みが走り、ふくらはぎはパンパンに張りつめていた。


 息をするたび、喉の奥に鉄のような血の味が染み渡る。


 胸が破裂するんじゃないかと思うくらい心臓は激しく鼓動している。



 俺はしばらく空を見つめながら息を整えると、ゆっくりと体を起こした。


 そしてその時、着ていたジャージが全く違うものになっていることに気づいた。


「なんだ……これ?」


 膝上まで丈のある薄茶色のTシャツのようなものをポーチ付きの革ベルトで締め、上には茶色のフード付きマントを羽織っている。


 ズボンは黒いものを、靴は膝下まである革のブーツを履いている。


「これ……『旅人』の装備?」



 それは、まさに俺が新規キャラクター作成で選んだ職業(ジョブ)『旅人』の初期装備そのものだった。


 てことは、ここって……



「オラトリアム・オンラインの世界…?いや…まさか、そんな……でも……」



 そんな馬鹿げた話あり得ない、と思っていてもどこかで期待してしまってる自分がいて、自然と口角が上がっていた。



 もっと…もっと、ここがオラトリアム・オンラインの世界だって裏付けるものは……。



 興奮が膨れ上がるのと同時に、もしかしたら違うんじゃないかという不安も膨れ上がっていた。


 俺はそんな不安を少しでも早くかき消したくて急いで辺りを見回した。


「あっ、そういえば…」


 俺は思い出したかのように腰回りを触りながらベルトにポーチが付いているのを確認すると、慌ててポーチの中身を確認した。



「これも…これも、これも全部”オラトリアム・オンライン”のアイテム……。じゃあ……」



 俺はポーチの中から取り出したアイテムの中から双眼鏡を手に取ると、遠くで小川の水を飲んでいるヘラジカに向けて覗き込んだ。



「……やっぱり」



 双眼鏡を覗き、ヘラジカの方に向けるとヘラジカの上に『ベルク』と赤色の文字で表示されていた。


 更に首元に双眼鏡を向けると、ベルのようなものがぶら下がっているのが見える。



 この双眼鏡は向けた相手の種族名、そして自身のレベルと比較した時の危険度を色で知ることができる。



 アイツの名前はベルク。


 レベルは20前半。


 中型の草食獣でかなりの気分屋で普段は攻撃的ではないが、繁殖時期や縄張り争い、子供を連れている時には積極的に攻撃してくることがある。



「……」


 間違いなくオラトリアムオンラインに登場するモンスターだ。



 俺は双眼鏡を降ろすと、右手で頬を思いっきりつねった。


「痛い……」



 そして大きく目を見開きながら空を見上げると、ゆっくりと、そして大きく息を吸った。



 理由なんてどうでもいい。


 俺は本当にオラトリアム・オンラインの世界で生きてるんだ。



 そう思った瞬間、今、目に入るもの、耳に入るもの、肌で感じるものの全てが尊く愛おしいものに感じられるようになっていた。


 そして、それと同時に俺の中に薄っすらとあった不安は完全に消え去り、胸がはち切れそうな程の興奮と期待だけが残っていた。



 俺は立ち尽くしたまま今起きていることを噛みしめ、しばらくすると我に返ったように周りに散乱したアイテムを、一つ一つ舐めまわすように見ながらポーチにしまい始めた。



「金貨って意外と重いんだな……」



 今まで2Dでしか見たことのなかったアイテムが実際にそこにあるだけで俺は嬉しくなり、アイテムをポーチに収めるたびに現実味が増していく。


 気づけば、頬が緩みっぱなしだった。



 アイテムをしまい終えると、俺はすぐ近くの砂道へと目を向けた。


 道は特に整備されていないが馬車が通ったような車輪の跡が残ってる。



 結構な頻度で人が通っているっぽいナ。


 でもこれどっちに行けば…。



 道は一本道で行き先を示すような看板はない。


 悩みながら道の先に目を向けると、片方が森に繋がっているのが見えた。


 ここがオラトリアム・オンラインの世界なら今の状態で森に入るのは良くない。


 俺が選んだ『旅人』は他のジョブに比べて戦闘能力が極めて低い。


 他のジョブなら初めから魔法やスキルを使うことができ、初期装備としてある程度使い物になる武器が支給される。


 しかし『旅人』にはそれらが一切ない。


 その代わりに、このポーチに入っている双眼鏡や通貨といった支援アイテムが支給される。



 そのため、どんなモンスターが生息しているか分からないまま森に入って戦闘になる避けたい。



「見渡しの良い平原の方がまだマシか」



 とりあえず今の目標は無事に街や村に辿り着くこと。


 どんな人がいるのか、言葉は通じるのか。


 そもそも、この世界の人たちは普通の”人”なのか。


 それともNPCなのか。


 俺の他にプレイヤーはいるのか。


 分からないことだらけだが、街について人と接触すれば少しずつ分かってくるだろう。



 俺はフードを深く被ると、期待に胸を躍らせながらも辺りを警戒しながら森と反対方向へ歩き出した。



 ――― 数時間後 ―――



「はぁ……」


 つ、疲れた。


 ベルクから逃げるときに何回も転んだせいで節々が痛い。


 何より足が限界だ。


 運動不足でふくらはぎがパンパンって言うのもあるけど、それ以上に靴擦れが辛い。


 今履いてる革のブーツは現代の靴みたいにクッション性もなければ足にも馴染まないし、歩くたびに痛くてたまらない。


 そのせいで、最初に比べると歩くペースがどんどん落ちてきている。


 それに、少しづつ喉も乾いてきた。



 せっかく異世界に来れたのに、このまま誰にも会えずに餓死とかないよなぁ。


 不安は消え去ったはずなのに、今度は別の不安要素が出てきた…。



 ただ、そんな中でも分かったことがある。



「――ステータス――」



 喰代コウタ(18)人間Lv1 旅人Lv1

 HP:100/100

 SP:50/50

 MP:10/10


 武器:なし

 防具:薄茶色のチェニック

 :黒色のホーズ

 :皮のブーツ

 :小さなポーチ

 :猟師のフード


[スキル]

[パラメーター]



 俺が”ステータス”と口にすると、目の前に自身のステータスが書かれたパネルが表示された。


 ゲームではキー1つでステータスを見ることが出来ていたが、この世界では『ステータス』とわざわざ口に出さないとステータスを見ることは出来ない。



 そして、このパネルは触れることができないようで、触ろうとすると透けて突き抜けてしまう。


 ただ、それでも一応反応はしているようで、スクロールしたり選択することは出来るようだ。



 俺は[スキル]を選択すると、足を止め、ステータスパネルを見つめた。


 ここには取得した種族スキルや職業(ジョブ)スキルが表示されるが、種族スキルはレベルが上がってないから何も習得していないし、職業(ジョブ)スキルも職業(ジョブ)に『旅人』を選択してるから何も習得していない。


 ただ、そんな俺でも一つだけ習得しているスキルがある。



『捕食』



 俺の”オリジナルスキル”


 ゲームでは邪魔でしかなかったけど、この世界ではうまく使ってやる。


 前みたいなことには絶対にならない。



 ステータスも見つめながらそんなことを考えていると―――



「ガタガタガタ」



 後ろから何かの音が微かに聞こえてきた。


 何かと振り返ると、遠くから一台の馬車が近づいてきているのが見えた。



「はっ、よかった……」


 のか?


 話ができるのかも分からないし、いい人とも限らない。


 盗賊とかかもしれない。


 まずは街にでも行って、遠くから人を観察してから接触しようと思ってたんだけどな……。



 ただ、足も痛いし体力的にも限界が来てる。


 今このチャンスを逃せば、そもそも街に行けるのかも分からない。



 俺は急いでポーチから双眼鏡を取り出すと、馬車に向けて覗き込んだ。


 覗き込んだ先には麦わら帽子を被り、白いひげを蓄えたおじさんが馬で馬車を引いていた。



 人間、色は黄色。


 今の俺でも頑張れば倒せるレベル。


 見た目的に盗賊には見えないし武器を持っているようにも見えない、もし襲われても何とか抵抗はできそうだ。


 馬車の荷台には荷物を積んでいて、他に人も見当たらない。



 俺は双眼鏡をポーチにしまうと同時に、中から鞘に入った小さなナイフを取り出した。



 このナイフは『旅人』に与えられる武器…いや、武器とは言えないか。


 リーチは短いし、攻撃力も全く無い。


 戦闘を想定した武器じゃなくて、植物の採取やモンスターの解体用の道具だ。



 まぁ、そんなナイフでも俺だったら技術でカバーできる。


 戦闘になったら、あのおじさん1人くらい何てことないだろう。


 もちろん平和に終わるのが一番良いんだけど。



 俺はナイフをポーチの取りやすいところにしまいポーチを閉じ、深く被っていたフードを脱ぐと、馬車の方に向かってゆっくりと歩き始めた。



 裸眼でもおじさんの顔が見えるような距離になると、向こうも馬車を止め、何とも言えない顔つきでこちらの様子を伺っていた。


「あの、すみません……」


 俺は警戒されているのかと思い、少し遠くから声を掛けようとしたが、しばらく人と話してこなかったからか、自分でも聞き取れないほどの掠れた声が出てしまった。



「あ、あのっ、すみません」


 おじいさんに届くようにと少し力を入れて声をかけると、今度は思ったよりも大きな声が出てしまった。


 会話どころか声もほとんど出していなかったから声量の調整が難しい。



「は、はい。どうしましたか?」


 おじいさんは驚きながら、少し緊張した顔つきで聞いてきた。



 よかった、言葉は問題なく通じるみたいだ。


 見た目は明らかに外国人なんだけどな……。


「すみません驚かせてしまって。旅をしている者なんですが道に迷ってしまって。よければ近くの街や村までの道を教えてもらえませんか?」



 俺がそう言うと、おじいさんは安堵したように優しい声で喋り始めた。


「ええ、もちろんですよ。ここから一番近い村は”バーク”ですね。この道をまっすぐ行って森を抜ければ着きますよ」


 そう言って、おじいさんは俺が来た方向を指さした。



 バーク?


 そんな村ゲームにあったか?



「その、バーク?にはどのくらい歩けば着きますかね…?」


「そうですね…1時間も歩けば着くと思いますが……。」



 1時間…か。


 今の状態で行くにはちょっとキツイな。


 正直、今立ってるだけでも辛い。


 少し座って休んでから行こうかな。



「もしよろしければ、この馬車に乗っていかれますか?」


「えっ、良いんですか!?」


「ええ。ちょうど隣町からバークに帰るところでしたから。積み荷のせいで少し狭いですが、それでも良いなら」


「はい、もちろんです!ありがとうございます!」


 俺はおじいさんに深々と頭を下げると、荷台の後ろへと回った。


 すると、


「え……」


 荷台には積み荷と一緒に、一人の男が座っていた。

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