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異世界生活に奴隷ハーレムを添えて ~元世界一位の最強奴隷パーティ育成術~  作者: 杏仁みかん


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第18話 緊急事態っぽい

 

 薬草を摘み終えた俺は、ポーションの調合に使う材料を取りに、一度宿屋へと戻っていた。


 森を出ると、日はまだ高く昇っており、雲ひとつない青く澄み切った空が広がっている。



 ……なんだったんだ、あの矢。



 木の幹に突き刺さっていたそれは、そこまで深く刺さってもなかった。


 それに比較的新しいように見えた。



 誰かが最近放ったものを回収し忘れたのか、それとも目印として意図的に刺したのか。


 抜いて持ってこようかとも思ったが、勝手に持ち帰って何か余計なトラブルに巻き込まれてもな。


 そもそも弓を持ってない俺には必要ないし―――



「今すぐにステンホルムに行って、助けを求めるべきだ」


「助け?あいつらが何をしてくれるんだ。カネを取るだけ取って適当にベルクを倒して帰るだけだろ。そんなの一時しのぎにすぎん」


「それでも、何もしないよりマシだろ」


「いや、まずは森で何が起こっているのかを調べてから―――」


「調べるって、誰が調べるんだよ」


「そんなことより、まずはもっと頑丈な柵を畑に―――」


「ベルクが壊せないような柵なんてどうやって作るんだ」


「それは……」



 宿屋の扉を押し開けると、フルーラさんを含めた十人ほどの男性が、一つのテーブルを囲いながら何かを話し合っているのが目に入った。


 空気は重く、乾いた緊張が部屋の隅々まで染み渡っている。


 眉間にしわを寄せ、腕を組みながら指先を落ち着きなく動かす者。


 言葉を探すように、何度も口を開いては閉じる者。


 その話し合いは静かではあるものの、落ち着いたものではなく、声や表情からは確かな焦りが伝わってくる。


 窓の外には真っ青な空が広がっているのに、宿屋の中だけが別の空間に取り残されたようだった。



 俺はその様子に困惑しながら、静かにカウンターへと向かった。


 カウンターにはラフタスさんが何かを飲みながら一人で座っている。



「なにかあったんですか?」


「あぁ、お前…か……」



 俺が声をかけると、ラフタスさんはゆっくりと顔をこちらに向けた。


 しかし、そのまま言葉もなく固まったように動かない。



「どうしました?」


「……いや、なんでもない。ベルクが村に下りてきたらしい」


「ベルク?それって……スティグが言ってました?」


「そうだ、お前が見たんだろ?」


「まぁ……はい」


 ……アイツ、伝え方間違えてないか。


 ただ、木こり小屋にベルクが出ただけだぞ。


 それも一頭だけ。


 この前ベルクに遭遇したガームシュールの群生地も、木こり小屋からそう遠くはない。


 それを考えれば、あそこにベルクが現れたって、別に不思議なことじゃないような気がするが……。


 こんな大事になるようなことなのか?



「それに、ついさっき村の畑にベルクが出たらしい」


「あっ……ならよかったです」


「よかった?」


「あ、いや、なんでもないです……」


 言葉が口を滑った瞬間、空気が少しだけ重くなった気がした。


 しかし、ラフタスさんは気にした様子もなく、ジョッキの中に僅かに残っていたエールを一気に飲み干した。



「あら、よかった。帰ってきてたんだね。まだ森から戻ってないみたいだったから心配してたんだよ」



 そのとき、奥からおばさんがジョッキを手に現れた。


「そうだったんですね。すみません、心配かけて」



 俺が軽く頭を下げると、おばさんは微笑みながらジョッキをラフタスさんの前に置いた。


 そして、少し呆れたようにため息をつくと、視線を奥のテーブルへと向けた。



「はぁ、なにしてるんだか。あの子は」


「あの子?」


 俺はおばさんの視線を追って、後ろを振り返る。


 そこには、話し合いの輪の隅で何か言いたげにもぞもぞしているスティグの姿が目に入った。


 口を開きかけては閉じ、手元で指をいじりながら、タイミングをうかがっているようだった。



「……なにやってるんですか、アイツ」


「さぁ、なんだろうね……”村に来たベルクは全部俺が倒してやる”って言いだそうか迷ってる、ってとこかしら」


「っふぅ……そりゃいい」


 ラフタスさんは、ジョッキを一気に傾けると、一瞬で空になったそれを机にコトンと置いた。


 そして、ひげに白い泡をつけたまま、明らかに冗談だとわかる口調で、肩をすくめる。



「そうすれば冒険者にカネを払う必要もないし、頑丈な柵を建てる必要もない。スティグも自分がいかに強いかアピール出来て最高だな」


「あの子に倒せるわけないでしょ。一頭だって無理よ」


「でも、現に倒してるじゃないか。怪我で森に行けない間、ずっと村中に自慢して回ってたぞ」


「はぁ……”たまたま”でしょ。しかも、最初の一発は”走ってる”ノロジカを狙って外した矢がたまたまベルクに刺さっただけ、なんて言うじゃないかい。そんな腕じゃ、まだまだだよ」


「……まぁ、正確には”止まってる”ノロジカですけどね」


「なんだい、ならもっと無理じゃないか」


 俺がぽつりと訂正すると、おばさんは余計呆れたように、スティグのことを見つめた。



「…………なぁ」


「はい?」



 ラフタスさんの声は低く、さっきまでの軽口とはまるで別人のようだった。


 そして、目の前のジョッキを見つめたまま、真剣な面持ちで言葉を続ける。



「本当にノロジカは止まってたのか?」



 その問いに、俺は一瞬言葉を詰まらせた。


 何かよくないことを言ってしまったかと、さっきの発言を思い返すが分からない。



「え、えっと……はい。矢が外れた後は、走って逃げていきましたけど」



「なら、もう一つ聞きたいんだが、



 ―――スティグが矢を放った瞬間、お前見てたか?」




 その言葉に、おばさんが困惑したように眉を寄せた。


 さっきまで穏やかだった空気が、急に張り詰める。



「弓を放った瞬間……?」


「止まってるノロジカに向き合って矢をうった時だ」


「……えーっと」


 なぜそんなことを聞くのか、俺にはわからなかった。


 おばさんも黙り込み、周囲のざわめきが遠くに感じるほど、空気が静かになっていく。


 俺は軽く焦りながら、必死で数日前の記憶を手繰った。



 たしか、あの時、俺は薬草を摘んでいて。


 それで、返事がなかったからアイツの方を見たら、ノロジカと弓を構えたアイツがいたから……。



「見て…ました」


「それ以外で、ベルクに向けて矢をうった時は見てたか?」


「それ以外?えーっと……二回目は俺の上った小屋に走ってきたベルクに当てて……その時は見てませんでした。三回目は……至近距離で当てれそうだったけど『輪唱』のせいで当てれなくて……それは見てました」


「……他に変わったことは無かったか?ベルクと出会った時の様子とか、なんでもいいんだが」


「変わったことというか……ベルクにスティグの外した矢が刺さってはいましたけど、それ以外は特に……」


「その日のことじゃなくてもいいぞ。薪割の時とかに、何か”違和感”とかなかったか?」


「違和感?そうですねぇ…………あっ……まぁ、関係ないんですけど、矢といえば幹に刺さってる矢を見ました」


「幹に矢?」


「はい。ムーシュルームの群生地……それこそ、スティグが間違ってベルクを撃った場所で……あれ、そういえば、矢が刺さってたのって、スティグが矢を撃った方向……だったか?」


「なるほどな」


「ラフタスさん、どういうこと?」


 おばさんも、俺と同じようにラフタスさんが何を言っているのか分からないようだった。


 ただ、俺とは違い、その顔には明らかな動揺が浮かんでいた。


 眉がわずかに震え、手に持った布を無意識に握りしめている。



「思ってるより、面倒なことになったかもな」


 ラフタスさんはそう呟くと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。



「ちょ、ちょっとラフタスさん!どういうこと?」


「ここじゃ話せない、あとで話す。ただ、その前にスティグからも話を聞いておきたい」


 そう言って、話し合いの輪に近づくが、その中には既にスティグの姿はない。



「なぁ、スティグはどこに行った?」


「あいつなら、ちょっと前に何も言わないで出て行ったぞ。どこに行ったかまでは知らん」



「ッち、ほんといてほしいときにいないな」


 ラフタスさんは舌打ちをひとつすると、カウンターへと戻ってきた。


 そして、心配そうな表情で見つめていたおばさんの前に立ち、小さな声で何かを囁く。


 おばさんは一瞬だけ目を見開いたが、すぐにうなずくと、カウンターの奥へとラフタスさんと並んで歩いていった。


 二人の背中が、静かに扉の向こうへと消えていく。



 ……えっ、俺放置?



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