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ラッキーエンド〜死ぬ前に宝くじ買ったら10億円当たったので、やっぱ死ぬことにした〜

10億円あれば、人生はハッピーエンドになると思ってた。

……ま、そう単純な話じゃないよね。


ラッキーな奴の、アンラッキーな話です。

10億円が当たった。その瞬間、僕は死ぬのをやめた。

――でも今、やっぱり死のうと思っている。


いや、ふざけてるわけじゃない。本気でそう思ってる。


もともと今日、自殺する予定だった。駅のホームでタイミングを見計らって電車に飛び込むつもりだった。でも、ふと立ち寄ったコンビニで、なんとなく買っていた宝くじを確認したら、見事に一等。当選金額、10億円。


それを見た瞬間、頭の中が真っ白になって、全身から汗が噴き出した。死ぬ直前だった僕は、駅のホームからフラフラと離れ、コンビニの裏の喫煙所に倒れ込むように座り込んだ。


スマホを取り出して番号を三度見、四度見、公式サイトを何度もリロードしても、間違いなく僕の手元の数字が表示されている。


僕は、10億円を手に入れてしまったのだ。



信じられなかった。いや、今でもどこか夢の中にいるような気分だ。


その後、指定された手続きを経て、あっという間に僕の口座に「それ」が振り込まれた。桁が違う。見慣れたネットバンクの画面に並ぶ数字が現実のものとは思えなかった。


そして、奇妙なことが起きた。


毎日が“急に”変わり始めたのだ。



まず、親戚。十年以上会っていなかった叔父やらいとこやらが、どこで聞きつけたのか連絡をしてきた。


「おめでとう! 昔お世話したの覚えてる? 実はちょっとした相談があってさ」


SNSのDMも鳴りやまない。学生時代に話した記憶すらおぼろげな同級生から、「久しぶり! 一回ご飯でも」とか「ビジネスの話があるんだけど」とか、そんなメッセージが次々と届いた。


それから、テレビの取材依頼。匿名での出演が可能です、とか、顔は映しませんので安心を、とか。やたら親切そうな口調だけど、誰がそんな地雷踏むか。


気づけば、僕は「ラッキーボーイ」として、世間の注目を浴びていた。



お金があると、何でも買える。


一週間後には、分不相応なタワマンの高層階に引っ越していた。家具も最新、家電も最高、ベッドなんてふかふかすぎて沈んだまま二度と起き上がれないかと思った。


高級レストランでステーキを食べ、誰かのおすすめしていたシャンパンを片手に夜景を眺めた。


でも、何も感じなかった。


舌の上で肉がとろけようが、ワインが芳醇な香りを漂わせようが、心が動かなかった。いや、むしろどこか冷めていた。何を食べても、どこに行っても、何も満たされない。僕の中は、からっぽのままだった。



そもそも、なぜ僕は死のうと思ったのか。


きっかけなんて、大したことじゃない。会社の上司に毎日のように詰められ、ミスをすれば晒され、何もしていなくてもため息をつかれた。


同僚とは表面上は仲良くしていたけれど、裏では誰も信じていなかった。家に帰ればひとり。誰も自分を必要としていない世界で、息をしている意味がわからなくなった。


「ミスが許されない社会」なんて言葉がニュースに流れるたび、笑ってしまう。僕なんて、ミスをしていなくても責められていた。

じゃあ、生きている意味って、何?



そんな風にぼんやりと考えながら過ごす日々の中で、僕はふと思った。


――10億円があっても、僕はやっぱり空っぽだ。


金があっても、人の目が変わっただけ。僕自身が変わったわけじゃない。欲しかったのは金じゃなくて、誰かに「生きてていいよ」って言ってもらえることだったのかもしれない。


でも、その「誰か」はいなかったし、探す気力もなかった。


気づいたら、またあの日と同じホームに立っていた。


手にはスマホ。口座残高の「10億円」を確認して、僕はふっと笑った。


「まさか、本当に当たるなんてね」


そうつぶやいた瞬間、電車の音が遠くから聞こえてきた。


その音に包まれるように、僕はそっと目を閉じた。

10億円は確かに当たった。

でも「生きててよかった」って言える日は、最後まで来なかった。


幸運って、ほんと厄介だよね。


読んでくれて、ありがとう。皮肉な結末を楽しんでもらえたなら、それが一番の”当たり”かもしれません。

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― 新着の感想 ―
せっかく10億当たっても、けっきょく空っぽのままだった主人公。 俺ならいくらかは、こども食堂とかに寄付するけどなぁ、とか思いながら、モヤモヤしたまま終わった話。 1ミリも他者を見ていないから、空っ…
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