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ハジ×マリ  作者: 森俊輔
9/9

第三章 デパート跡地の攻防編 (後)

藤原一フジワラハジメ

この物語の主人公


齋藤真理サイトウマリ

主人公のクラスメイト


八文字葉月ハチモンジハヅキ

主人公のクラスメイト


薬師寺小鳥ヤクシジコトリ

主人公のクラスメイト


アリス・アベ

主人公のクラスメイト


レッド

主人公に憑いている小狐の霊

映画館の大きいスクリーンにはとてもリアルな不気味な映像が流れていた

何かの能力で映像を投写している・・・


ただの霊にこんなことは無理だ



「こんなことができるなんて・・・恐らく相当喰ってる・・・」

八文字はスクリーンを見て言った



「おい見ろよ。霊がシートに座って映画を見てやがるぜ・・・」


恐らくここで亡くなった人たちの霊だろう


入ってきた私たちの方を一切見ることはなくただ脱力しているような感じでスクリーンをぼんやり眺めている



「とにかく薬師寺さんを探そう」



齋藤は迷わずスクリーンがある壁の逆側を見た


「あそこ!映写室のところ!!」


よく見ると映写機からスクリーンに映し出すための光の奥に何かの影が見えた


レッドが告げる

「あれ、相当やばいぜ・・・霊気が炎のように燃えてやがる」



「葉月ちゃん、あそこにいるの悪霊で間違いなさそう!」



私を見てコクっと頷き

「アリス!ぶちかまして!!」と八文字は叫んだ


それを合図と言わんばかりにアリスは拳の部分に金属が取り付けられたグローブを装着



バチィーーーン!


両拳をぶつけ合わせた瞬間にバチバチッと赤い雷のようなものがグローブの周囲に発生した

触れている空気が時折爆ぜる


「行ってくる!」


アリスはそう言うとスカートを手でブワッと広げ、ふとももに巻いた革のポーチから札をスッと取り出し空中に向かって投げた


札は空中で光る円状の陣を生み出し空中にジャンプしたアリスはそれを足で踏みつけた


陣は踏んだ瞬間に大きな轟音と共に砕け散りカタパルトのようにアリスを押し出す



ドガァァアアアーーーーーーン!!!




壁がパラパラ崩れ、土煙で視界は遮られた




「アリスちゃんってこんなに凄かったんだ・・・」

思わず藤原の口から言葉が溢れた


目の前では齋藤が札を八文字が鈴を持ち戦闘に備えて構えをとっている


三人の視線は同じ

今は土煙で見えない映写室の方





アリスは映写室の壁をぶち破って中に侵入した


「はーい!悪霊さん、夢の時間はお終いだぞ!」


スーツにハットのようなものを身につけた人型の悪霊の横には大量の死体が横たわっていた

恐らくこのデパート跡地に肝試しに来た人間の死体だろう


死体の頭からフィルムのようなものを抜き出し映写機でスクリーンに流し、それを見てケタケタと笑っている


スクリーンにはその人が死ぬ直前に恐怖している映像が流れていた



絶望して声も出さないで生き絶える人

必死に命乞いをする人

一緒に来た仲間を蹴り飛ばして自分だけは生き残ろうとする人


色々な映像がコラージュのようにツギハギされてスクリーンに映し出された


スクリーンに映し出された映像を見て齋藤は唇を噛み締めた

「許さない・・・!」




悪霊は手に持ったポップコーンの容器に入っている魂を喰いながら

アリスの方を向いてケタケタ笑った


この映画館に生きた人間を招き入れては意識を奪い、魂を食うタイミングまで催眠状態で自我を奪っているのだろう。


ここはいわば悪霊の食糧保存庫のようなものだ




その様をじっと睨みつけながらアリスは無言で対峙する




バチィーーン!


またアリスは両拳をぶつけ合わせる


アリスは両拳をぶつけることで霊気を凝縮させ弾丸のように装填しグローブから放たれる打撃の威力を爆発的に上昇させることができる




「うりゃああああああああああ!!!!!」


また轟音が上がる



しかしアリスは手応えを感じなかった




「ごめん!逃した!こいつ思ってる以上に速い・・・!」



悪霊は物凄い速さで映画館の上空へ移動していた



そして耳をつんざくような音を発した



「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイ!!!!!」



それを合図にさっきまでシートから動かずにスクリーンを見ていた霊たちが一斉に藤原たちの方へ向かってくる



「八文字さん、結界をお願いします」

齋藤がそういうと八文字は頷いた。




チリーン

鈴が鳴る


「ーーー♩」

八文字は祝詞ノリトを歌い出した



すると次第に私たちの周りを囲むように防御結界が張られた



「そんなに長く持たないよ、結界が切れるまでにあいつをなんとかしないと!」


チリーン

鈴の音と共に八文字は歌を再開した



「ねぇ、上空にいた霊が消えてる・・・レッド、あいつの霊気を辿れない?」



「ダメだ・・・霊の数が多すぎてあいつの霊気をピンポイントで把握できないくらいごちゃごちゃしてる」



客席を埋め尽くしていた霊が全て動き出している


霊たちの動きはそんなに早くない。だけどゆっくりと確実にこちらへ向かってくる




齋藤は札を取り出して構えたが唇を噛み締めてその場で静止している




「声だ・・・声が聞こえる。この霊たち助けてって言ってる。苦しそうだ」



「齋藤さん、待って!この人たち助けてって言ってるみたい・・・」


「はい・・・タイミングを伺いましょう・・・」





シュタッ、と映写室の方からアリスがこちらへ戻ってきた



「めんどくせーから全部吹っ飛ばす?」




「ダメだよ!この霊たちは悪霊じゃない・・・きっとこの悪霊の被害にあった人たちなんだ・・・」



「じゃあどうすんだよ!今あたしたちを襲おうとしてるんだから悪霊と一緒だろ!それともこいつらに捕まってあの悪霊に喰われろって言うのかよ!」



「・・・」


アリスちゃんの言うことは間違ってない。でもなんだかこの霊たちをこんな形で除霊するのは間違っている気がする・・・




「みんな、ごめん。私の力が尽きかけてる・・・結界ももう長くは張れない・・・」





「はじめ、待って。たくさんの声の中から違う声が聞こえる・・・」


「え!?」


齋藤がいつでも大丈夫と言わんばかりに札に霊気を込める






「あそこ!!あの左側の奥のところ!!霊たちがコイツ、コイツって!小さい声だけど聞こえる!!あの悪霊はそこの霊たちに紛れてるんだ!」



「ダメ・・・結界がもう限界・・・急いで・・・」

結界が最初に張った時よりも小さくなっている




「齋藤さん!」

藤原が呼びかける



「はい!霊を一気に剥がします!」


「あの左側の奥のところ!お願いします!」



藤原の言葉と同時のタイミングで齋藤の札が霊に目掛けて飛んでいく



齋藤が言葉を連ねはじめた

結界などを張る祝詞ノリトが歌を歌うものだとするとこれは呪文の詠唱・・・


手は素早く印を結ぶ




「『神旋風じんせんぷう!』」




札が霊たちの上空で光を放ち竜巻を作り出した。



ビュゥゥゥゥゥウウウ!!!



物凄い数の霊が上空へ吹き飛ばされていく




そして悪霊の姿が見えた一瞬の隙を見逃さない






バチィーーン!バチィーーン!


拳をぶつけ合わせる音・・・




「チャンスは作りました!」





「おうっ」



バチバチバチッ

赤い雷がさっき以上に拳の周りで弾けている


「詠唱は省略だ!行くぞ!」




既に空中には札が投げられており、光る円状の陣がすでに展開されている


空中に飛んだアリスは陣を踏みつけるとその陣は大きな轟音と共に再びアリスを凄い勢いで押し出した



「一撃でほふる!」


悪霊が逃げる一瞬の隙も与えない神速

反応しようにも速すぎて動けない





「必殺『泣不動縁起絵巻ナキフドウエンギエマキ』」






一瞬全ての音が止んでそして広がる




赤い一閃






「地獄で閻魔によろしくな」






ドォォォォォオオオオン!!!!!!









悪霊は跡形もなく消し飛んだ





まだ霊たちは動いている


「ダメだ・・・結界が解ける・・・!ごめん!」


八文字の力が尽き結界は消えてしまった



霊たちの無数の手が伸びてくる


「う・・・・・!!!」

藤原はその瞬間、頭を抑えながら目を瞑った





「え・・・?」





ゆっくりと目を開けると

霊たちの動きが止まっている



「やった・・・の?」


「それ、フラグだよ・・・」

地面に大の字に寝転がった八文字が笑いながら言った




霊たちはただこちらを見ている




「レッド、なんて言ってるの?」




「・・・ありがとうって言ってる」





霊たちは悪霊の呪縛から解かれ自ら成仏していく


空に向かって光が登っていく



「綺麗だね・・・」

藤原は思わず見惚れてしまった


「霊に感謝されるなんて、今まで考えたこともなかったよ」

八文字はケラケラ笑っている


それに釣られて齋藤も笑い出した


「齋藤さん?」



「いえ・・・昔見たホラー映画の“アンデッド・ウォーキング“を思い出して・・・つい」


「それは見たくないかも・・・」



「藤原さん、ありがとうございました」


きっと齋藤さんは両親と昔来た思い出の映画館を悪霊から取り戻せて嬉しいんだ

本当によかった







「ねえねえ、戦ってる間ずっと気になってたんだけどさ・・・」

アリスがこちらに向かって歩いてきた



「ん?」







「なんではじめはレッドと会話してたんだ?」



一瞬で空気が凍りついた








バチィーーン!


バチバチバチッ


拳に赤い雷が再度展開される






八文字は地面から起き上がると藤原を庇うように前へ出た




「アリス!はじめは異界渡りじゃないよ!あいちゃんが違うって言ってた!」







じっと藤原を見つめるアリス









そして拳から赤い雷が消えた





「なははー!よかったー!異界渡りならここでぶっ放してたかも知んねー!」


笑いながらアリスは手に嵌めていたグローブを外した



「バカなの?大体、異界渡りでも殺すのは現代で御法度よ!」




アリスちゃんも葉月ちゃんと同じタイプの人間で助かった・・・

私の周り、いい人多いな・・・




「そうだ。さっきの齋藤さんとはじめの連携なんだけど息ぴったりだったな!はじめが場所を特定するのと同時くらいのタイミングで齋藤さんがすでに札を投げてたぞ」


「アリスちゃんこそ凄く強かったんだね!“地獄で閻魔によろしくな“だってさ!」

小馬鹿にしながら藤原は言ったが、アリスは“かっけーっしょ?“って感じで腰に手を当てていた



思わず笑みがこぼれた


アリスちゃんが面白いからではない





終わったんだ・・・










「ねぇ、私たち何か忘れてない?」

八文字がふと我に返った




「あ・・・薬師寺さん!」




「ああああ!」





その後、薬師寺さんは映画館の一番後ろの角のシートでぐっすり寝ているところを発見。



はぐれたところで霊に攫われてそこから記憶がなかったらしい。

自我がなかったからレッドでも霊気を辿ることができなかったのかな・・・


今回は悪霊が魂を食べるまで食糧保管庫に置いておく悠長なタイプで助かった。




薬師寺さんを連れて外に出る頃には外は明るくなってて



駆けつけてきた葉月ちゃんのお父さんと葛城先生にみっちり説教された。

その後、その場で簡単な事情聴取とかを受けたけど葛城先生と学園側の協力もあって上手いこと霊の仕業ということは隠蔽されるみたい。



私たちは事件を解決に導いたってことで署に連れて行かれたりってことはなく

親にも葛城先生がうまく誤魔化してくれていたとのこと。



葛城先生と警察の人たちが話をしてて

それが済んだら私たちを家の近所まで車で送ってくれるみたい。



その光景を見ながら私たちはしゃべってた。


「とりあえず、終わったな・・・」




「うん。すっごい疲れた」




「私も・・・疲れた・・・」




「いやあんたは寝てただけでしょうが!」






藤原と齋藤は隣同士で空を見上げていた。



「おい、ハジマリコンビも疲れただろ?はじめなんてこういうの初めてだったんじゃないか?」



「ハジマリコンビ?」

藤原が頭にハテナマークを浮かべる




「あぁ、あの連携のお陰であたしはあいつを屠ることができた。あんなの歴代のパートナーでも中々できることじゃないと思うぞ」



「え、いやそれはさっきも聞いたけど、ハジマリって?」




「“はじめ“ と“まり“ だからハジマリコンビ!我ながら頭いいっしょ!」




「おーい。車に乗れ!家の近くまで送ってやる!」


一同は車に乗り込んだ




————————————————————————————————



「今日もこの数時間後に学校があるんだからな!遅刻してくるんじゃねーぞ」


葛城先生の車は私と齋藤さんを下ろすと走り去っていった





「私の家の近くで一緒に降りちゃったけどよかったの?」



「はい。少し歩きたかったので。」




スズメの鳴き声と歩く音だけが聞こえる

静かな朝だ



「私、今日何もできなかった」



齋藤はじっと話を聞いてくれている



「もっとみんなの役に立てるようになりたい」



「きっとすぐになれますよ」



「ありがとう。頑張るよ」




少し間があいて齋藤が藤原に問いかけてきた




「藤原さんのその狐の霊と話せる能力のことなんですけど、それがもし仮に異界渡りだったとして・・・藤原さんはどのように使われますか?」



「うーん。正直わからない。でも今日みたいにみんなの役に立てる使い方を考える・・・のかな?」




足音が静かに響く



「齋藤さんの家、あっちだよね?」



「はい。それではまた学校で」



「うん、また学校で!」






——————————————————————————————


齋藤は家の鍵を開けると静かに家に入った

音を立てないように靴を脱いだつもりだったが・・・



居間で待っていた叔父が玄関にゆっくりときた




「遅かったね、真理マリ。先生から連絡は来たがとても心配していたんだよ?」


「はい。申し訳ありません」



「ダメじゃないか。あの学校に行ったことでグレちゃったのかと思ったよ?」



「学校は関係ありません」



「生意気な口を聞くな!お前にはお仕置きが必要なようだな!こっちへ来い!」







第三章 デパート跡地の攻防編 (後) 終 


NEXT>第四章 アリスのお気楽修行道中 A

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