第三章 デパート跡地の攻防編 (前)
藤原一
この物語の主人公
齋藤真理
主人公のクラスメイト
八文字葉月
主人公のクラスメイト
薬師寺小鳥
主人公のクラスメイト
アリス・アベ
主人公のクラスメイト
レッド
主人公に憑いている小狐の霊
第三章 デパート跡地の攻防編 A
放課後、私たちは校門前で集まることにしていた。
誰よりも早くついた私はポケットからスマホを取り出してLINEを送っていた
「今日は、少し、遅くなります、と」
これでよし。
ブーブーブー
すぐに返信がきた
「くれぐれも気をつけて」
お父さんは心配性だなー
自分でも驚いている。
前ならこんな外出をすることは考えもしなかったからだ。
けど今は違う
仮に霊に出くわしたとして、花子さんの一件で私を助けてくれた齋藤さんたちが一緒なら大丈夫だろうと。
「お待たせー!」
八文字の声だ
「おっす!」
「あれアリスちゃん?」
齋藤と八文字と三人で行くものだと思っていたから藤原は少し驚いた
そして薬師寺が口を尖らせながら後ろからトボトボ歩いてきた
「放課後は部室でからくりのパーツを組む作業をする・・・予定だった・・・」
薬師寺はしょぼんとしている
藤原は薬師寺がこんなに長文を話していることに少し感心していた
「そう言いなさんな!こんなに面白いこと滅多にあるもんじゃないよ!せっかくはじめも転入してきたんだから交流を深めよーう!」
薬師寺に手を回して肩組みした八文字がそう掛け声を上げた
ヨロっとよろけた薬師寺は八文字に肩を組まれながらゆっくりと姿勢を戻した
「おー!」
八文字とアリスだけが掛け声と共に腕を上げている
そこに齋藤が来た
「もしかしたら来ないんじゃないかって思ってたよ!」
ニヤニヤしながら八文字が言う
「いえ、遅れてすいません」
齋藤はアリスと薬師寺がいることに気を遣ったのか昼休みに会話をした時のような感情はあまり表に出していなかった
「では出発!」
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目的地へはバスで近くまで行きそこから20分ほど歩く必要があった
周辺には施設はないようで本当にデパートだけを目的に人が訪れるような
それくらい何もない場所にそのデパートの跡地はあった
見晴らしもよく遠くからでもデパート跡地を視認できた
「大っきいね、デパート」
藤原はそのデパートの大きさに驚いた
「なんで跡地なんだろうね?」
アリスが八文字に質問した
「んー、車じゃないと来れない感じだしやっぱ経営が成り立たなかったんじゃないかなー?」
考察が的を得ている気がして藤原は八文字がおバカなのか賢いのかわからなくなっていた
「すげー!葉月、お前天才だわ!」
アリスが言うと、ウェーイと両手でハイタッチしながら二人は前を歩いていく
「そういえばアリスちゃんって金髪で青い瞳だけどハーフなの?」
藤原は純粋な質問をした
「そうだよ、お父さんがアメリカ人」
「やっぱりそうだよね」
「まっ、なんかあればアリスが私たちを守ってくれるよ!今回は護衛に連れてきたんだから!」
八文字がそういうとアリスは自信満々に腕組みして鼻を伸ばした
後ろからは齋藤が薬師寺の歩幅に合わせながらついてきている。
「あの薬師寺さんはどうして今回一緒に来てくれたの?」
藤原は薬師寺にも質問をした
「む・・・」
「ことりと私は幼馴染でねー、まぁ昔からの腐れ縁ってやつですよ」
八文字が代わりに答えた
なんだかんだで薬師寺さんも葉月ちゃんを心配してついてきてくれたんだろうな・・・
なんとなく察しがついた
「みんなは一年生の時からクラスが一緒なの?凄く仲がいいけど」
聞きたいことは山ほどあってキリがない
「うん。みんな一年から一緒!アリスとはこの学校に入ってから仲良くなった感じ!ことりもアリスも私も元々術師の家系」
八文字は続ける
「齋藤さんは一般家系の出身でさ。この学校に入学する前に公園でたまたま出会ってね。悪さをしていた悪霊を私が除霊したところに居合わせて“私も霊が見える“から力の使い方を知りたいって言ってさ。それで私の親に話をしてこの学校に入学できるように繋いだ感じ」
「そうだったんだ」
齋藤さんは一般家系だったんだ。祝詞も完璧だし術師の家系かと勝手に思ってた
藤原は齋藤の方をチラッと見た
やはりこの肝試しには気が進まない様子だ。ずっと黙っている
とてつもなく広い駐車場を抜けるとそこに今回の目的地があった
「着いたーーーー!」
かなり老朽化が進んでいると思われるデパートの建物の周りには立ち入り禁止と言う看板が至る所にあり、入れないように金網の柵がたてられていた
この柵は新しい
つまりyoutuberなどが行方不明になる事件を受けて最近たてられたものなのだろう
金網越しに中を見ると入り口のガラスは割られており誰かが中に侵入していたのが予想できる
「よっ、と」
アリスはひょいっと柵を飛び越えて中に入った
すごい身体能力だ
ふと横にいる齋藤に目を向けるとこのデパート跡地を見上げていた。
「本当に大きいデパートだったんだね」
「そうですね・・・」
柵の上には有刺鉄線などはなく、金網に手や足を掛けながらよじ登れば容易に中に入ることができた
「まぁ、流石に事件が多発してたらみんな怖がってこなくなるよね」
先に柵を飛び越えていたアリスが中を覗きながら言った
「ワクワク!」
目がキラキラとしているアリスに他の面々が合流する
「もし霊がいる場合、夜になると活性化します。お二人には早く満足していただいて帰りましょう」
齋藤が口を開くとそれに八文字が反応した
「そうだね。とりあえず一時間見て回ったら帰ろう」
確かに帰るのにも時間がかかりそうだから早めに切り上げた方が良さそうだ。
「あ、館内の地図があるよ!」
「どれどれ・・・」
アリスと八文字がスタスタと前をいく
本当に大きい
「あっ」
齋藤は一際広い面積を占めている映画館が気になっているようだった
「映画館、行ってみる?」
ふと私は尋ねた
「え」
「いや、なんか気になっているようだったから」
「少し興味があって・・・」
齋藤は俯いている
「ねーみんな!私たち映画館の方に行ってみるー!」
齋藤は藤原の顔を見た
そしてまた俯いたがその表情はどこか嬉しそうだった
「オッケー!齋藤さんいるし大丈夫だと思うけど何かあったら連絡ちょうだい!LINE教えておく!」
そう言うと八文字は藤原のスマホに自分の連絡先を共有した。
お父さんとおばあちゃん以外のLINE連絡先を登録するのはこれが初めてだ・・・
「じゃあ、後ほど!」
「うん」
私と齋藤さんは左の端にある映画館の方に向けて歩き出した
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二人きりになった私たちは初めは無言だったものの意外にも齋藤さんの方から話しかけてきてくれた。
「あの、ありがとうございます。なんか私に気を遣ってくれたみたいで・・・」
「いや、なんか気になってる感じだったから」
「実は・・・昔、ここに何度か来たことがあるんです。両親に連れられて」
なるほど、だからここに入る時に建物を見上げていたんだ
「へー、そうだったんだ。映画館にも行ったことがある感じ?」
「はい」
「齋藤さん、映画好きだもんね。」
「はい・・・」
「『ララミュージカル』という歌と踊りだけで構成されている映画をここで見ました。幼かった私は帰りにこの通路を歩きながらララミュージカルのヒロインを真似して踊っていたのを覚えています」
「なんか今の齋藤さんからは想像できないね」
私は笑いながら言った
「ここ!アイスクリーム屋があったんですよ!買ってもらって食べたのを覚えています!」
齋藤さんが少し元気になった。夏休みのあの日に少しだけ見せてくれた表情だけど、これが本当の齋藤さんなのかもしれない。
「ほら、カラフルな看板がうっすら見えます!懐かしい・・・」
齋藤さんは抑えてるつもりなのかもしれないけど興奮が口元に溢れている
整った顔つきも相まって凄く可愛い
「ここを真っ直ぐ行くと映画館の手前にゲームセンターがあって、そこでぬいぐるみを取ってもらったこともありました!」
そうこうしていると映画館に着いた
目の前にはチケット売り場や売店が見える
「齋藤さん、中に入ってみる?」
腕につけた時計をチラリとみた
時間を気にしているようだ
ブーブーブー
スマホに着信が来ている
「ごめん、葉月ちゃんからだ。ちょっと電話に出るね」
コクっと齋藤さんは頷いた。
「もしもし、藤原です」
「ねえねえ、はじめたちの方にことりって行ってない!?はぐれちゃったみたいで!」
「え?」
周囲を見渡すが薬師寺の姿はない
齋藤さんをチラリと見て私はレッドに話しかけた
霊と話しているのを見たら不気味かもしれないけどここはレッドに頼るほか手段は思い浮かばない
「レッド、聞こえる?」
「レッド・・・俺のことだよな?お前の声は聞こえていた。あのちっこい女がいなくなったんだよな?さっきから霊気を辿っているけど人間はお前たちと遠くにいる二つの霊気しか感じない」
まずいことになっている
「葉月ちゃん、レッドにも聞いたけど薬師寺さんの霊気がどこにも見当たらないみたい」
「そっか・・・まいったな・・・」
「一度合流しよっか」
「そうだね!今どこにいるの?」
「私たちはあれから右側の通路へ行ったんだけど、アリスがどんどん先を歩くから右側をぐるっと回って中央の奥側の・・・たぶんフードコートみたいなところにいる!」
「わかった。今から齋藤さんとそっちへ行くから二人は薬師寺さんが探してて見つかりやすいようにそこで待機してて!」
「了解!」
「齋藤さん、会話聞こえてた?」
「はい!」
「そういうわけだからみんなと一度合流しよう」
映画館には入れなかったけど薬師寺さんが何か事件に巻き込まれていたら大変なことになる
まずは二人と合流してみんなで薬師寺さんを探さなきゃ
「あの、フードコートでしたらさっき来た通路ではなく映画館の奥側の通路を行った方が近いと思います」
「わかった!そっちの通路から行こう」
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「おーい!」
八文字が大きく藤原たちの方に向かって呼びかけている。
「お待たせ!どうしようか・・・このままだと暗くなっちゃう」
「今は窓からうっすら外の光が入ってきてて前が見えるけど暗くなるときっと何も見えなくなる。」
八文字は焦りを隠せない
「私のせいだ・・・私がこんなこと言い出さなかったら・・・」
「今そんなこと言ってたってしょうがないだろ!とりあえず一旦さっき入ってきた場所に戻ろう。もうここから出てる可能性もあるだろ?」
アリスは真剣な表情で八文字に提案した
「そ、そうだね。一旦外に出てみよう」
四人は無言のまま歩き続け外に出たが薬師寺の姿は見当たらなかった。
「いないですね・・・」
齋藤が口を開く
藤原が八文字の方に目をやると顔を手で隠し責任を感じているようだった
「まずいな。暗くなる」
アリスが言った
「ごめん、みんな。私はことりのことを探してくる。みんなは先に帰ってていいよ」
八文字の声は震えていた
「おい。もしもお前までいなくなっちゃったらあたしたちも責任感じちゃうだろ!あたしは一緒に行くよ。はじめと齋藤さんは先に帰って。これは後ろを確認せずにどんどん前を歩いちゃったあたしの責任でもあるし」
「・・・私も行くよ。みんなを置いて私だけ戻れない」
「わかった。齋藤さん、もし私たちが明日学校に登校してなかったらあいちゃんにこの件を伝えてもらえる?」
齋藤は時計をじっと見ている。
「行こう」
三人がもう一度デパートの中に入ろうとすると藤原のブラウスの袖が掴まれた
齋藤だった
「私も・・・行きます。監視役・・・ですので」
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外はもうだいぶ暗いみたいだ
デパートの中はほとんど何も見えない
藤原と八文字のスマホのライトで照らしながら歩く
「おーい!ことりーーー!」
「おーい!薬師寺さーん!」
薬師寺の姿は見当たらない。
夜のせいか周囲に霊がちょこちょこ現れ出した
今のところ特に悪さはしてこないようだがこれ以上遅くなるとリスクが高まる
「おい、はじめ。流石にこれ以上ここにいるのはまずいかもしれねーぞ。霊が集まってきてる」
レッドが私に警告したが薬師寺を置いてここから出るわけにはいかない
たくさんの霊がゆっくりとこちらに向かってくる
出口付近には霊をどうにかしないと戻れない
「たぶん戦ってもキリがない。あの霊をどうにかするのはことりが見つかって出る時でいい・・・一度この奥に行こう」
八文字が冷静に判断した
「待って。なんかあそこから光が漏れてねーか?」
「あそこは映画館です」
齋藤が言った
扉が開いている。
「まるで私たちを招いてるようだ・・・」
アリスが言った
「ことりがこの中にいるかも!ことりーー!」
八文字が中に入っていってしまった
「齋藤さん、私たちも行こう」
「はい」
第三章 デパート跡地の攻防編 (前) 終