第二章 学校生活編 C
藤原一
この物語の主人公
齋藤真理
主人公のクラスメイト
八文字葉月
主人公のクラスメイト
薬師寺小鳥
主人公のクラスメイト
アリス・アベ
主人公のクラスメイト
葛城愛子カツラギアイコ
主人公の担任教師
第二章 学校生活編 C
翌日、普通に登校すると昨日の疑いが嘘のように八文字が話しかけてきた。
「おっはよー!はじめ!」
急に呼び捨てになってるし、監視対象である私にこんなにフランクでいいのだろうか
「お、おはよう。八文字さん」
「葉月でいいよ!」
「葉月・・・ちゃん」
昨日もやったくだりな気がする。デジャブだろうか
教室の後ろの方を見ると一番後ろの角に机が追加されている。
もしかしてあそこが私の席かな?
でも、わからないし一旦昨日と同じ席に座ろう・・・
席についてカバンから教科書などを出していると私の中の小狐の霊が何かに怯え出した。
「お、おい、はじめ・・・くる」
小狐の霊は今までにない震え方をしている
「え?」
背後に殺気を感じる
ふと振り返るとそこにはボサボサの金髪にボロボロの胴着を着た同年代の少女が立っていた
大きいリュックサックを背負いながら腕組みをしている
「え、えーと」
どうしよう、こういう時どうすればいいかわからない
金髪だしもしかしてこのクラスの番長みたいな感じ?
「そこ」
「え?」
「そこ、私の席!」
「あ、すいません!今どきます!」
凄い圧だ・・・やっぱり座る前に自分の席がどっちか誰かに聞いておくべきだった・・・
「おーい!アリスー!ひっさびさー!」
八文字がこちらにやってきた。助かった
「おー!葉月!久々ー!元気してたかー!」
この、この、とお互いの腕をぶつけ合う二人のノリ
恐らく相当仲がいいのだろう
「あ、アリス紹介するよ!この子、新しくうちのクラスメイトになった藤原一さん!」
「なんだ!クラスメイトか!知らん奴があたしの席に座ってるから何かと思ったぞ!よろしくな!はじめ」
アリスは八文字の紹介により急にフランクになった
「あたしはアリス・アベ!アリスでいいよ!」
「アリス・・・ちゃん」
「アリス」
アリスはズイっと顔を近づける
「アリス・・・・・・・・ちゃん」
今日、何回こういうくだりをやるんだろうか
「まっ、今日はこれくらいで許してやるか!」
ニヤニヤしながら藤原を見ている
齋藤が入り口から教室に入ってきた。
手にはノートとペンケースを持っている。真面目な性格だから恐らく早い時間に登校してどこかで自習でもしていたのだろう。
「葛城先生に先ほど伺いました。この話はまた。」
齋藤は席に座ると小さい声で私の方を見ずに言った
「あ、うん」
後ろで雑談していた八文字とアリスだったが
アリスは髪を結っているゴムを外してボロボロの胴着を脱ぎ、大きなリュックから制服を取り出すと人目も気にせず着替えだした
この学校が女子校だから当たり前の風景なのかもしれないが慣れていないので目を逸らした
「そうそう、そういえばさ。教室に入ってきた時から気になってたんだけどはじめの中にいるその狐の霊・・・見覚えがあるんだけど?」
息を潜めていた小狐の霊はガタガタと震えだした
「・・・ば、化け物」
小狐の霊は小さい声で言った
「うーん・・・」
アリスは制服に着替え終わり、髪をとかしながら髪を結いなおした。
「は、はじめ・・・逃げよう・・・化け物だ・・・」
クラスでは霊と話せることは内緒にしておかないといけない
だから家と違って小狐の霊に返事をすることはできない
「あーーーー!!!」
準備万端になったアリスが大きな声を上げる。
「そいつ、この前あたしが裏山で修行していた時にサンドバックにしようと思って追いかけたやつだーーーー!」
修行・・・!?
ってか小狐の霊が言っていた化け物ってお前かーーーーーい
巡り巡って私がこいつに喰われそうになっていたんだよーーー
アリスさーーーん
「あ、あのね、この子何かしたのかな?確か悪事を行わない霊は除霊してはいけないって決まりがあったはずなんだけど・・・」
藤原はアリスに尋ねる
「そいつな、あたしが霊気を抑える特訓をしている時に熊に化けてあたしに襲い掛かろうとしたんだ!」
「ち、違うんだ、はじめ!ちょっと脅かそうと思っただけなんだ・・・そしたら霊気が急に強くなって俺を追いかけてきたんだ!」
悪いのお前じゃんか・・・
「ソイツを差し出せ!!」
花子さんに言われたようなセリフだな!
両手を熊のようにあげながら私に迫ってくる
横でその様子を見ながらケラケラ笑っていた八文字がフォローを入れる
「その狐の霊、今ははじめに憑いてるんだって。害はないみたいだから見逃してあげて」
「ナイスだ!女!」
小狐の霊が私の中で呟く
「むむむむ」
納得できないアリス
「私たちも除霊しようとしたんだけど・・・まぁ事情があってさ。私の顔に免じて頼む!アリス!」
両手を合わせて八文字がお願いした
「よし、今回は葉月の顔に免じて見逃してやる!」
どうやら諦めてくれたみたいだ
「あ、アリスちゃん。きっと小狐の霊も感謝していると思うよ、見逃してくれてありがとう」
それを聞いた八文字は手を顎のとこに添えながら言った。
「そういえばさ、はじめってその狐の霊のことをずっと“小狐の霊“って言ってるけど、いちいちめんどくさくないの?もっと簡単な呼び名を考えたら?」
「え、霊に名前をつけるなんて変じゃね?」
アリスはすかさずそれに反応する
「確かに・・・」
八文字は私がこの小狐の霊と会話できることを知っているからふと発したのだろうとなんとなく思った
“ホワホワちゃん”
そういえばママも霊にあだ名みたいなのをつけてたっけ
「・・・レッド」
私は思わず思いつきで名前をつけた
「え?」
八文字とアリスがそれに反応する。
前の座席にいた齋藤さんもピクッと反応した気がする
「こいつと出会った時なんだけど夕日の光が印象的だったし、体毛も軽く赤みがかかってるから・・・レッドにする。あと最近見た映画の主人公の名前がレッドだったんだよね」
夕日については軽くトラウマなんだけど・・・まっ、名前のきっかけなんてそんなもんだよね
「なんか性別わかんねーのに、男みたいな名前だな!まっ性別なんてわからないしなんでもいいか!」
アリスさん、すいません。この子男の子なんです・・・
言えないけどね
「ほら、席につけ!おいっ、アベ!お前昨日なにしてたんだ。無断で学校休みやがって」
葛城が教室に入ってきた
「え、学校って今日からじゃないの!?」
クラスが笑いに包まれる
こんな騒ぎの中でも薬師寺は机に突っ伏して寝ている・・・
逆に尊敬する・・・
葛城はため息を吐きながら片手で頭を抱えた
「もういいや・・・お前の席は藤原が使う。あの一番後ろの角の空いてる席に座れ!」
「え!一番後ろの角の席!?まじナイス、あいちゃん!最高の席だーー」
授業中に居眠りする気満々な笑みを浮かべている
葛城は気のせいか少しアリスに甘い気がする。
教室に入ってきた葛城は教壇には行かずスタスタと私たちの方に歩いてくると薬師寺の頭を出席簿でコンっと叩いた。
「いでっ」
薬師寺も目を覚ましたようだ
「齋藤、号令頼む」
薬師寺が起きたのを確認して葛城が言った
「起立、礼、着席」
騒がしい朝を過ごし、アリスがきたことで教室は昨日よりも賑やかな気がする
いわゆるムードメーカーという奴なのだろう
午前の授業を一通り終えると齋藤からノートの切れ端を渡された
ー昼休みに屋上ドア前の踊り場でー
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昼休みになり、すぐに教室を出て待ち合わせの場所に向かった。
「齋藤さんはまだ来ていないよね・・・」
待たせてはいけないと思い誰よりも早く教室を出ていたから当然だ
すると下から誰かが上がってくる。
齋藤
と八文字だ。
「葉月ちゃんも来てくれたんだ」
齋藤と二人だと思っていたから少し驚いた。
「うん。はじめが出ていくところが見えて、その後に齋藤さんが出て行ったからもしかしたらってついて来てみた!」
八文字はおちゃらけて見えるが結構周りのことをちゃんと見ている
藤原は二人に向かって頭を下げた
「齋藤さん、それと葉月ちゃん、今回は私のせいで変な仕事を増やしちゃってごめんね」
「・・・」
齋藤は黙っている。
この監視役が迷惑そうな雰囲気が表に滲み出ている。
付き合いの浅い私がそういうのは失礼かもしれないが、彼女らしくない。
昨日と今日、真後ろの席から彼女を見ていたけど
どんな時でも基本的にはニコニコしながら答えていた。
そんな彼女がこんな雰囲気を出すなんて・・・
恐らくは相当迷惑に思っているのだろう
本当は言いたいことがあったのかもしれないけど八文字がついて来たことで言いづらくなってしまったのかもしれない。
八文字はそんな空気を察して斎藤に話しかける
「あいちゃんは斎藤さんになんて言ってたの?」
「藤原さんは転入してきて間もないから色々フォローしてあげてくれと言われました。何かあったら私に報告してほしいとも・・・」
「あのね。はじめ、異界渡りかもしれないって」
八文字が食い気味で言った。
!?
「あなた、わかってます!?私がそれを知らなかったらどうするつもりだったんですか?」
「大丈夫、あいちゃんには授業の間の休憩の時に確認しておいた」
齋藤は言葉を詰まらす
八文字は言葉を続ける
「あいちゃんは斎藤さんなら大丈夫って言ってたよ。誰にも喋らないって。凄く信頼されてるんだね。私なんか一人じゃ心配だー、斎藤にもお願いするーって、全然信頼されてないの」
葛城のモノマネを交えながら八文字は話した、正直似ていない
「でもね。大丈夫。はじめはきっと異界渡りじゃないよ!」
八文字は葛城が言ったことを信じ、一度決めたら信じ続けるという信念があるのだろう
「だからさ、面倒なことなんてないよ。一緒に移動教室行ったり、一緒にお昼ごはん食べたり、一緒に昼休みに遊んだり。友達として普通に接してたら監視は成立するんじゃないかな?」
少し沈黙が続いた後、少しして齋藤は屋上のドアの窓から外の空を見て呟いた
「レッド・・・シャンクジョーンズの空の主人公・・・」
「あ、うん。」
やっぱり、あの時少し反応していたのは私の勘違いじゃなかった
「・・・学校では、あまり不自然な行動はとらないでくださいね」
空気が変わった。
ほっとした。
さっきまでの齋藤さんはどことなく怖かったから迷惑だって怒られると思ったから。
藤原と齋藤の表情を伺っていた八文字が息を吸い込んだ
スゥーー
「よし!これで私と齋藤さんは“はじめ監視同盟“だー!そうと決まったら親睦会も兼ねて肝試しに行くぞー!!」
「「?」」
藤原と齋藤の頭にハテナマークが浮かぶ。
しっかりと裏付けを取りながら会話を組み立てていたさっきまでの賢そうな印象はなんだったんだろうか・・・?
「肝試し・・・?」
齋藤が尋ねる
「うん。私のお父さんが刑事なんだけど、郊外のデパート跡地で肝試しに行ったyoutuberが消える事件が多数報告されてる・・・って電話をしてるとこ聞いたんだよね。これ霊の仕業じゃね?」
(部屋のドア越しに聞き耳を立ててたとは言えない)
「それって事件じゃ・・・何かあったらどうするんですか?バカなことを言わないでください」
齋藤は至極当然なことを言っている
「ヤバいのいたら逃げれば大丈夫っしょ!はじめはどう?」
いや、何を言ってるのかさっぱりわからないけど
正直、友達なんていたことなかったからこういうの初めてで嬉しい
「あ、あの・・・私、行きたい・・・です。」
まだ祝詞も歌えないし、術とかそういうの全然わからないけど最悪逃げれば大丈夫だよね・・・?
齋藤は少し怒った顔でこちらを見た。
それを見た八文字はどこか嬉しそうな顔をした。
「齋藤さんもそうやって感情を表に出すことあるんだね!学校に入る前から見てきたけど、そんな齋藤さんを初めて見たよ!ほれ、委員長さん。あなたはどうする?先生の信頼を裏切って職務放棄かい?」
「先生に言います」
「そしたら齋藤さんが実は猫をかぶってるってクラスのみんなに言っちゃうかも!」
真面目でクラスメイトからの人望はある齋藤だが、クラスメイトと隈なく仲良しの八文字がそれを言ったらめんどくさいことになるだろう
この一連の会話から理解したが齋藤はめんどくさいことを極端に嫌っている
まぁ、これに関してはみんなそうだと思うのだけど
齋藤はため息を吐きながら少し間をおいた。
「何かあったらすぐ逃げますよ。あと、このことはいずれ先生に報告しますから」
私たちの長い夜が始まることをこの時誰も想像していなかった。
第二章 学校生活編 ALL 終)
>第三章 デパート跡地の攻防編 A
第二章で本当はデパート跡地の攻防戦までを書く予定だったのですが
重要なことが多くて書いていたら長くなってしまいました・・・
次回はいよいよバトルパートがメインとなります!
本当は今日そこまで書く予定だったんですが・・・
是非続けて読んでいただけますと幸いです