第二章 学校生活編 B
藤原一
この物語の主人公
齋藤真理
主人公のクラスメイト
八文字葉月
主人公のクラスメイト
薬師寺小鳥
主人公のクラスメイト
葛城愛子
主人公の担任教師
第二章 学校生活編 B
一日の授業が終わった。
あの移動教室の時の会話以降、八文字は藤原に話しかけてこなかった。
しかし、特にあの話を他のクラスメイトにした訳ではなさそうだ。
口は硬いのかもしれない。
それを証拠に他のクラスメイトは普通に私に接してくれていた。
授業は数学や化学など普通の教科に加えて、歌・・・正式には祝詞を習った。
昔からの祝詞を現代風にアレンジした歌のようなもので様々なものが生み出されているようだった。
凄く楽しみにしていたはずなのに、授業に全然集中できなかった・・・
そして齋藤さんとも朝の会話以降、接する機会がなかった
前後の席だけどどことなく壁を感じる
「藤原さん、また明日ー」
クラスメイトの一人が藤原に声をかける。
「また明日ー」
私は葛城先生のところに行かないと。
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「葛城先生」
「お、きたな」
デスクでノートパソコンに向かっていた葛城が振り向く
「回りくどい話は嫌いだ。単刀直入に聞く。お前いつから霊と話している?」
「・・・夏休みにこの学校に来た時です。トイレで声が聞こえて、普通に返してしまったのが最初だったと思います」
「ん?つまりお前はそれまで霊の声が聞こえたことがなかったということか?」
「はい」
「話せるのはどんな霊とだ?」
「今私に憑いているこの小狐の霊だけ・・・だと思います。」
「なるほど」
葛城は何か考え事をしているようだった。
「その霊とは今も話せるのか?」
「はい」
「今話してみろ」
「・・・ねえ、出てこれる?」
私は小狐の霊に呼びかけた。
すると、私の中から出てきて
「おい、こいつなんなんだ?やべー奴だぞ!今なんて言われてるんだ?」
早口でオドオドしながら小狐の霊は右往左往する
「なにか言ってるか?」
葛城先生には小狐の霊の声が聞こえていないようだ。
「“おい、こいつなんなんだ?やべー奴だぞ!今なんて言われてるんだ?“と言っております」
葛城先生はプッと吹いた。
小狐の霊の声は聞こえないにしても右往左往しているのは見えるからだろう。
しかしすぐ顔に緊張感を持たせると言葉を続けた。
「お前、本当にこの霊としか話せないんだよな?」
「はい。そうだと・・・思います。声が聞こえたあの日以降、ほとんど家から出てなくて霊を見かけていないので確信はもてませんが・・・」
今日の登校の時になぜか霊を見かけなかったし・・・確信が持てない部分はある
「本来ならば異界渡りの疑いがかかった場合、地域の霊術に特化した自警団の一人が常に監視することになっている。監視対象は自由を制限され、到底普通の生活は送れなくなるだろうな・・・」
葛城は手を口元に持っていき深く考え事をしている。
「そんな・・・」
せっかく新しい日常で楽しくなるかもしれないって少し希望が持てていたのに・・・
そんなの前の生活より酷くなってるよ・・・
涙出そう・・・
やばい、こらえないと・・・
「だが、一旦この件は見送りだ。」
「え」
パッと葛城の顔を見るとこらえていた涙が目からツーと流れた。
「え・・・?いいんですか?」
葛城の目は冗談を言っていない。
「でもな、藤原が何か不審な行動をとらないとも限らない。おいっ、そこにいるんだろ?」
パッと振り返ると教員室のドアが控えめにガラガラと開いた。
「あいちゃん・・・」
八文字が教員室の壁越しに聞き耳を立てていたようだ
「八文字、ちょうどいいところにいたな。お前の家は自警団を統率する一族だ。お前、藤原のことを監視して何かおかしなことをしたら私に報告しろ!」
「え、私が?」
八文字は藤原の方を見た。
「だがな、恐らくだが・・・藤原は異界渡りではない。断言はできないが」
「そうですか・・・」
八文字はほっとしているようだった。
葛城の言ったことであっさり納得するなんて信頼感がすごい。
しかしその理由はすぐにわかる。
「もしも・・・」
葛城は袖口からスッと札を出した。
何か文字が入っていて模様が書いてある
指二本でその札を挟み込んだ瞬間に空気が変わった・・・
バチバチバチバチッ
札が黒い稲妻のようなものを発生させ空気が震える
そして、頭上からすごい圧のようなものを感じた
「!?」
私はびっくりした。それと同時に小狐の霊が私の中に戻りブルブルと震えている。
立っているのがやっとだ
バチバチとしたその稲妻が徐々に真っ二つに開いていく
「もしも・・・こいつが異界渡りでその能力を悪事に使うようなことがあったら・・・」
その瞬間、黒い稲妻のようなものがギンッと開きその中から同様にバチバチと稲妻のようなものを纏った刀が出てきた
葛城はそれをパシッと手で持つと
少しだけ刀を鞘から抜いて一言
「私がぶった斬る!」
ニコッと笑った
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教員室から出ると八文字は私に向かって語りかけてきた。
「あいちゃんが大丈夫って言うんなら多分大丈夫なんだと思う!実はあいちゃんって現役で活躍している凄い霊術士なんだよ」
さっきまでの八文字の接し方が嘘みたいにフランクに話してくれる。
「信用されてるんだね、葛城先生。でも今ので葛城先生がめちゃくちゃ凄いっていうのは理解したよ」
廊下の階段を登りながら藤原は言った。
「うん。まぁ、嫌でもその理由がわかるようになるよ!」
八文字は笑いながら言った。
「本当いうとさ、私も藤原さんのこと疑いながら学校生活を送るなんてちょっと嫌だなって思ってたんだ」
藤原の方を見ながらニコニコ笑うその表情はとてもスッキリとしているのが窺える顔つきだった。
単純・・・いや違う。とてもまっすぐな性格なんだなと思う
「それよりさ、あいちゃんもひどいよねー。私はたまに周囲が見えなくなるからって学級委員の齋藤さんにも明日監視をお願いするってさ・・・」
朝礼で声掛けを行なっていたけど齋藤さんは学級委員だったんだ
「うん・・・」
私としては齋藤さんとの接点ができるのはとても嬉しかったけど
巻き込んでしまって申し訳ないなとも思う。
「まっ、何はともあれ改めて明日からまたよろしくね!」
疑いは100%晴れたわけではないんだろうけど本当に良かった。
「あ、」
藤原はモジモジとしだした
「ん、どうしたの?」
「あの・・・この件をクラスメイトに言わないでくれてありがとう」
本当に感謝している
「疑わしきは罰せず!」
八文字は藤原に向かってピースした。
教室に入り荷物をまとめていると廊下をトコトコと薬師寺が歩いて通過しようとしていた。
「あ、ことりだ!じゃ、藤原さんまた明日ね!おーい!ことりー!」
そういうと八文字は教室を出て薬師寺に合流した。
廊下の会話が聞こえる
「部活の帰り?」
「うん」
「今日もからくり作ってたの?」
「うん。ムズい・・・あとパーツ足らん・・・」
「なるほどねー」
声が遠くなった
監視対象であるはずなのに藤原をおいてあっさりと八文字は帰ってしまったけど
こういう部分も含めて葛城が齋藤にも監視をお願いすると言ったんだろうな、と
藤原は思った
「私も帰ろ」
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「午前に報告したうちのクラスの生徒・藤原一の件ですが・・・恐らく異界渡りではないと思います」
学園長室で葛城が誰かと話している。
「そうですか」
学園長だ。
「私の憶測ですが恐らくは藤原のおばあさまの・・・」
「えぇ」
学園長は窓から下校中の藤原を見ながら頷いた。
ハジ×マリ 学校生活編 B 終)