第二章 学校生活編 A
藤原一
この物語の主人公
齋藤真理
主人公のクラスメイト
八文字葉月
主人公のクラスメイト
薬師寺小鳥
主人公のクラスメイト
葛城愛子
主人公の担任教師
第二章 学校生活編 A
夏休みも終わり今日が初めての登校日。
あの花子さんとの一件が嘘だったみたいに夏休み中は何も変わったことがなかった。
それはそうだ、今まで生きてきてあそこまで身の危険を感じたことなんてなかったしあんなことが日常的に起きてしまうなんて命がいくつあっても足りない。
ほとんど家から出ることもなく過ごした夏休み。
家にいれば霊に出会うことはない。
「ねえねえ、はじめー!テレビのチャンネル変えてくれ!」
家にいれば霊に出会うことはないはず・・・
ポチッ
私は朝ごはんのトーストを齧りながらチャンネルを変えてあげる
「はじめー、ありがとう!」
「・・・ちょっと待って。あなた、なんで人間の生活に馴染んでるのよ・・・」
昔はよく家の中でも霊を見ていたけど、そういえばママがいなくなってから霊を見てなかった。
「わははは!おもしろーい!」
この霊を見て、実は私を喰おうとした霊なんですと言っても誰も信じてくれないだろうな。
そっと立ち上がると食べ終わった食器を持ってキッチンに行く。
食器などの洗い物を済ませると部屋に戻って学校に行く準備を始めた。
「はじめ、どこか行くのか?」
小狐の霊がフヨフヨと浮かびながら私に尋ねる。
「うん。今日から学校なんだよ。あなたと最初に会ったところ。」
私はそう言いながら制服のワンピースのファスナーを上げた。
「う・・・」
「怖かったらついてこなくてもいいよ?」
一つ間違えれば除霊されかねないしね・・・
「うーん・・・俺この家だとお前と一緒にいないと力が出なくなるんだ。だからとりあえずお前と一緒に行くことにする」
「? そうなんだ。わかった」
事情はわからないけど、お父さんにイタズラしたりしても嫌だしコイツは私が連れて行くか。
カバンを持ってお父さんの仕事部屋の前で扉越しに声を掛ける。
「おとうさーん、行ってくるねー」
すると部屋の扉がゆっくり開いた。
「はじめ、ごめん。父さん気づいたら寝てた・・・行ってらっしゃい。気をつけて行ってくるんだよ」
昨日も遅くまで仕事をしていたようだ
父さんの性格を考えると、きっと本心は早く起きて私を見送ろうとしてたんだと思う
「うん。」
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学校に行く道中、不思議なことに霊からイタズラはされなかった。
元々毎日されていたわけではないけどなんか嬉しい。
下駄箱に靴をしまうと教員室へと向かった。
「おはよう、藤原。改めて今日からよろしくな!」
葛城先生だ。
「はい、よろしくお願いします!」
「この前は大変だったな。齋藤や八文字たちから報告は受けているよ」
八文字?齋藤さんと一緒にいた子たちの一人かな?
「えっと、正直死ぬかと思いました・・・」
「まぁ、この学校ではそういう霊の対処法などを教えていく授業をメインに行なっている。藤原は二年生の二学期から転入で今までそう言う知識を持たなかった素人だから放課後などに私が補習も行なっていく予定だ。心してかかるように!」
「はいっ!」
新しい日常が始まるんだ。
ママや齋藤さんたちが歌っていた歌みたいなものとか私もできるようになるのかな・・・
「そういえば、お前。体の中に何かいるのか?」
葛城は机の上で書類をトントンとまとめながら藤原に言った。
「さすがにバレますよね・・・」
実は小狐の霊は時折自分の姿を私の体の中に隠すことがあった。
ドク、ドク、ドク・・・
私の中の狐の霊の心臓の音が聞こえた気がする
「実は先日の騒動で花子さんに化けていた狐の霊なんですけど・・・私についてきちゃって・・・可哀想なのでなんとなく一緒にいるんです」
「野狐憑きか」
「え?」
「古くから狐に憑かれることを野狐憑きと言うんだ。憑かれたものは病気にかかると言われているのだがお前にはそう言う症状が出ていない。ひとまず様子を見る形で問題はないだろう」
ほっ
小狐の霊は安心しているようだ
「じゃ、そろそろ教室に行くか。」
椅子から立ち上がった葛城は先ほど整理していた書類を持って藤原の前を歩き出した。
葛城と一緒に廊下を歩き二階へと上がるとあの花子さんの一件があった教室の前で止まった。
「ここ私の教室だったんだ」
外から窓を覗くと生徒たちが見える。
「じゃ、先に入るから呼んだら入ってきてくれ」
ガラガラと扉を開けると葛城は教室へ入って行った。
「起立、礼、着席」
齋藤さんの声だ。
「おはよう!みんな、今日から我がクラスに転校生が入ってくることになった。紹介する!藤原、入ってこい!」
緊張する・・・
俯きながらチラリと生徒の方を見ると齋藤さんがニコッと笑顔で迎えてくれた。
「あ、あの藤原一です。よろしくお願いします」
「藤原の席は・・・あ、すまん。用意してなかった。一旦、齋藤の後ろの空いている席に座ってくれ」
え、そんなことある?案外この先生は抜けているところがあるのかもしれない。
それにしても空いてるからそこが私の席だと思っていたけど違ったんだ。誰かの席?
「はい!」
気になることはあるけど私は返事を返した。
「それでは朝礼終わり。」
席に座ると生徒が何人か私に寄ってきた。
「藤原さん、よろしく!この前は災難だったね!」
黒髪のボブヘアーのあの子だ。
「私の名前は八文字葉月、葉月でいいよ!」
「葉月・・・ちゃん、よろしく」
あの時はちょっと怖そうだったけどいい人っぽい。
「あと、君の後ろで突っ伏して寝ているこの子は薬師寺小鳥。ことりー、起きろー」
後ろを振り返ると薬師寺が突っ伏しながら右手をひらひらと振った。
その様に呆れながら八文字はまた藤原の方を見て言葉を続ける
「あいちゃんからなんとなくは聞いてるよー!今まで特に霊術に触れてこなかったみたいだね。何かわからないことがあったらなんでも頼って!」
そういえば葛城先生は初めて会った時にあいちゃんって呼んでくれていいよって言ってたけど本当に先生をあだ名で呼ぶ生徒がいるんだ・・・
八文字との会話は嬉しいのだが、なんとなく目の前の齋藤を目で追ってしまう。
八文字と会話していると齋藤は席を立ち、教室の外に出て行ってしまった。
「あ、八文字さんちょっとごめんね!」
そういうと藤原は齋藤を追いかけた。
「齋藤さん!」
廊下に出ると齋藤に向かって呼びかけた。
齋藤は振り返ると
「藤原さん、今日からよろしく」
とニコッと笑った。
校舎案内してくれたあの日の印象とちょっと違ってそっけない気がしたけど
あの話をしよう。
「あの映画見たよ!夏休みに!」
齋藤の顔がパァーと明るくなる
「『シャンクジョーンズの空』ですか?どうでした?」
「面白かった!特に主人公が地下から出る時、スプーンを使ってさ・・・」
「それ私も思いました!まさかスプーンって!」
凄く笑顔で話してくれる齋藤さん。
映画の話をしている時の齋藤さんは少し印象が変わる。
「あ、失礼しました。藤原さん、一限目は移動教室なんです。準備を急いだほうがいいかもしれません。それでは」
そう言うと齋藤は横の階段を下って行った。
「あ、」
一緒に行こうって誘おうと思ったけど・・・
行ってしまった。
「藤原さん、次の授業は移動教室だから私たちが案内するよ!」
八文字が後ろから話しかけてきてくれた。
「ありがとう。お願いします!」
私はそそくさと教室に戻り一限目の教科書やノートなどを持って廊下で待つ八文字たちのところに合流した。
八文字の横にはあの銀髪で背の低い子がボーと立っている。
時折あくびをして眠そうだ。
「そういえばさ、藤原さんに憑いているその子ってあの時の?」
階段を下りながら八文字が問いかけてきた。
「あ、うん。あの時は私のわがままでごめんね」
葛城先生もそうだったけどやっぱりみんなわかるんだな
「いや、どういう事情かわからないけど霊が憑いていることは珍しいことじゃないし。普通の人は見えてないから気づかないけどご先祖様とかが憑いて守護していたりするんだよ。肩に三人くらい乗ってる人もざらにいるし!」
笑いながら八文字は返してくれた。
「へぇー!」
この子たちと話していると自分は本当に知らないことばかりなんだなと感じる。
「で、その子って今のところ悪さはしてないんだよね?」
さっきの笑顔のまま八文字は続ける。
「あ、うん!家で一緒にテレビを観たり、話す言葉も現代語みたいになって凄く馴染んじゃってさ」
私は笑いながら言った。
その次の瞬間、八文字の表情が変わった。
「・・・異界渡り?」
「え?」
八文字は続ける
「藤原さん、その霊の話していることがわかるの?」
「う、うん・・・やっぱり変なのかな・・・」
階段を下った先の廊下で八文字は立ち止まる。
「異界渡りというのは霊と話したりコンタクトできる能力を生まれながらに持つものの総称」
藤原はじっと八文字の顔を見る。
「昔ね、蘆屋道満って陰陽師がいたの。彼が異界渡りを使って悪霊を従わせて悪事を働いていた時代があってね。彼は霊の話す言葉を理解し、時には異界とこの現世を行き来することができたと言われているわ」
八文字の話を聞きながら藤原は思った。
もしかして自分は何か疑われている?
すると横から違う人物が会話に割って入ってきた
「霊と話せることは普通じゃない。霊と話している内容は私たちには理解できないし、強力な霊力を有していれば霊を誘導して結託し悪事を行うことだってできる」
葛城先生だ。
「私たちは霊と対峙する時、奴らが考えてることがわからないから躊躇なく除霊することができている。もしも奴らの考えていることがわかったらどうだろうか。実際、お前は同情してその狐の霊を助けている」
「あいちゃん・・・」
八文字は意表をつかれた顔をしている
「おい、お前ら!授業始まってるぞ。とりあえず授業にこい!」
「はいっ」
私たちは一斉に返事をした。
私やっぱり普通じゃないのかな・・・
せっかく友達ができると思ったのに・・・
「藤原、放課後に職員室に来い」
葛城は藤原の方を振り返って言った。
ハジ×マリ 学校生活編 A 終)