第一章 学校転入編 C
藤原一
この物語の主人公。転校先で霊と遭遇して困っている
齋藤真理
主人公のクラスメイトになる少女
校舎を案内している
八文字葉月
主人公のクラスメイトになる黒髪ボブヘアーの少女
部活で夏休みに学校にきていた
薬師寺小鳥
主人公のクラスメイトになる銀髪で背が低い少女
部活で夏休みに学校にきていた
花子さん
主人公がトイレで出会ってしまった霊
第一章 学校転入編 C
齋藤さんとは三階の階段の踊り場で別れた。
下に降りていくのも確認してる。
「よし」
心は決まった。
今日一日、齋藤さんと話をして気づいたことがある。
今まで諦めてたけど
私は普通に友達を作って、楽しく学校に通いたい。
花子さんにはきちんと話をしてみる。
霊だってきっと話をしたらわかってもらえる。
浅はかかもしれない。
でも齋藤さんを・・・友達を捧げるなんて私には無理だ。
「いるんだろ?出てこい!」
三階のトイレは最初に来た時よりもどことなく暗い。
花子さんが空中に現れた。
窓から差し込む夕日の赤い光を背に、暗いトイレの中でより一層不気味な存在に感じる。
「命令はどうシた?早くあイつを殺して私に捧ゲろ」
「できない」
「?」
「だから、できないって言ってるんです!」
あまり怒ったことがないから思わず敬語になった。
「デはどうする?他の人間ヲ殺して私に捧げるカ?」
「それもできません」
お願いしてみよう・・・
「どうか、今回だけは見逃してください。学校が始まったらいっぱい言うことを聞きます。人を殺したりはできないけど何かお役に立てるように頑張りますから」
「・・・ダメダ」
「なんでですか?お願いします。」
「時間ガないンだ」
「え?」
時間がない?私は言っていることがよくわからなかった。
「と二かくダメダ!そレならばオ前を喰って少しデも霊力の足しにシてヤる!」
「!!!!!!」
どす黒い霧状の何かが花子さんの周りに吹き出した
先ほどまでとは比べ物にならない恐怖を感じる
そして花子さんが私をめがけて飛びついてきた。
「うわっ」
間一髪で避けることができた私は廊下を走り、階段を降りて曲がってすぐの教室に入った。
掃除道具を入れるロッカー、ここでやり過ごそう。
隠れて隙間から外を見る・・・
教室は外からの夕日の光で赤いが、徐々に暗闇が広がっていっている。
「ドコダ」
花子さんは私を探している。
だけどおかしい。
この学校に来て花子さんと最初に会った時、花子さんは外で待っていた齋藤さんを把握していた。
なぜ、自分は気づかれていないんだ?
いや、今はそんなことはいい。
ここをやり過ごす。
ブーー、ブーー、ブーー・・・
「あ・・・」
スマホに着信が来てバイブの音がロッカーの側面に当たって響いてしまった。
きっと、お父さんだ・・・私が帰らないから心配して電話をかけてきてくれたんだ
でも今じゃなーーーい
「ソコカーーーーーーーー!!!!!!!」
「助けて!!!!誰かーーー!!!!!」
チリーン・・・
鈴の音が聞こえる。
チリーン・・・
他の鈴の音だ。
チリーン・・・
複数の鈴の音が聞こえる。
花子さんの動きが止まった。
歌が聞こえる・・・
懐かしい歌だ
「ーーー♩」
ママがよく歌っていた・・・あの歌だ・・・
「ク、クソ・・・動ケない」
学生服を着た少女たちが歌を歌いながら教室に入ってきた。
丁寧に鈴を鳴らし、歌が教室に響く。
「齋藤さん・・・?」
齋藤は藤原の方を見てニコっと笑うと花子さんの方に視線を向けて歌を続ける
銀髪の小さい少女は目を瞑って丁寧に歌い、黒髪のボブヘアーの生徒は花子さんの挙動を伺っている
他の生徒たちの歌もそこに混ざり合う
「ーーー♩」
生徒たちは円を組むように花子さんの周りを囲んだ
「ヤ、ヤメローーーー頼ム、助けテ・・・」
花子さんの体から出ていた黒い霧状の何かが弾けて閃光と共に子狐の霊が正体を現した
「助ケて・・・オ願い・・・」
“こら!はじめちゃん!またホワホワちゃんをいじめてるの?あまり意地悪しちゃダメって言ってるでしょ?“
ママの声が聞こえた気がした
確かに色々あった
自分はもしかするとこの霊に喰われていたかもしれない・・・
けど・・・
「ちょ、ちょっと・・・すいません!見逃してあげてくれませんかね・・・?」
歌を歌っている少女たちが一斉に藤原の方を向き
そして歌が止まった
「え、どう言うこと?」
黒髪のボブヘアーの少女が齋藤に向かって尋ねる。
齋藤は藤原の様子をじっと見ている。
小狐の霊は歌による苦しみから解かれたようで藤原をチラリと見るとその場から消えた
「ふーーーー」
藤原はその場でへたり込んだ。
「怖かったよーーーーー」
そう叫ぶと藤原に少女たちが駆け寄る
「大丈夫でしたか?」
齋藤が藤原に問いかける。
「なんとか・・・でもなんで齋藤さんが?てか、今の・・・え?」
全く状況を掴めないでいた私に齋藤が説明を始めた。
「藤原さん、ご存知なかったんですか?ここは霊力を持つものたちが通う霊能力学校ですよ」
「え?」
今まで霊は当たり前のように見てきたがこうした能力を用いて霊を除霊できるなんて考えたこともなかった。
「ちょっと事情を説明してよ!なんで逃したの?」
黒髪のボブヘアーの少女が私に捲し立てる。
「もう帰っていいっすか?」
銀髪の小さい少女は眠そうだ。
「逃した理由はわかりません。ですがこれに懲りたらあの霊も藤原さんに悪さはしてこないでしょう」
齋藤はそう言うと続けて色々な説明をしてくれた。
初めに会った時点で狐の霊気を感じていたが、弱い霊気だったためそこまで問題視していなかったこと。
基本的には悪事を働く霊にしか除霊を行ってはいけない決まりがあり、藤原の周りに感じる狐の霊が悪さをした場合は除霊するつもりだったこと。
一階に鍵を返却しに行ったタイミングで上の階から先ほどまでに感じなかった負の霊気を感じ、部活を終えて帰ろうとしていた他の生徒たちを連れて助けを求める私の声がしたここに駆けつけてくれたこと。
そして、あの歌が除霊や防御を兼ねた結界を張る歌だと言うこと。
まだまだ知らないことはたくさんある。けれど、とにかく疲れた。
「また新学期が始まったら嫌でも学ぶことになります。これからよろしくお願いしますね、藤原さん」
齋藤たちは今回の除霊について葛城先生に報告の義務があるようで教員室に寄ってから帰るそうだ。
長い一日が終わった。
「あ、お父さんに連絡しなきゃ」
そう思ってスマホをポケットから取り出した時に後ろから声がした
「おい」
さっきの小狐の霊だ
「さっきはなんで助けたんだよ」
藤原はもう小狐の霊に恐怖を感じない
「だって、助けてってあなたが言ってたから」
出したスマホでお父さんにLINEを送りながら藤原は答えた。
「いや、俺はお前を殺そうとしたんだぞ?」
「あなたさー、さっきまで花子さんに化けてたくせに男の子だったの?」
茶化す藤原に小狐の霊はムスッとしながらプイッとそっぽを向く
「ってか、あなたこそなんであんなところにいたのよ。下手すれば除霊されかねないような危険なところだったんじゃないの?」
小狐の霊は下を向きながら話し出した
「今朝・・・」
「ん?」
「俺はこの学校の裏の山に住んでいたんだ。だけど今朝、物凄く怖い化け物に襲われて・・・」
「怖い化け物って・・・あなた霊じゃないの?」
藤原は笑いながら尋ねた
「追いかけられてここに逃げ込んだはいいが、出ようとしたらすごく強力な霊気がいくつも近づいてきて・・・」
「あー、部活の生徒が登校してきたのね・・・」
「それで上の方に逃げていたら下に戻れなくなって・・・困っていた時にお前がきたんだ。霊気が全然感じられないからちょっと驚かして追い出そうとしたら何故かお前の言葉が理解できて・・・」
「・・・?」
「それでお前を利用して強い霊気を持つ人間から力を奪い、俺を襲ってきたあの化け物に復讐しようと思ったんだ・・・」
「・・・ちょっと待って。話しかけてきたのはあなたでしょ?あなたの能力なんじゃないの?」
「いや、俺にそんな能力はないぞ。今まで一度も人間の言葉を理解できたことなんかなかった」
「私も霊と会話したのなんか初めてだよ」
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「ただいまー」
「おかえり!遅かったね、大丈夫だった?書類を渡してくるだけだったはずなのに中々帰ってこないから何かあったんじゃないかって心配していたよ・・・」
お父さんは帰るなり言葉を続ける
「大丈夫だったよー!ほんと色々あって疲れちゃった。」
「色々?」
「うん、また話すー。それより今日の夕飯当番私だったよね!?ごめん今から作る」
エプロンを着けながら台所に向かうともう鍋が火にかけられている
色々あって気づかなかったけど、美味しそうな匂いが家の中に充満していた
「あ、今日は・・・」
「もう、父さんが作ったぞ。はじめの好きなカレーだ」
カレーを食べ終わり部屋に戻った私はベッドにすぐ横たわった
「ねえねえ、人間がさっき食べていたあれはなんだ?」
小狐の霊は私についてきた。お父さんは霊が見えないから小狐の霊には気づいていない。
「ねえねえ」
すっかり懐いてしまった小狐の霊は人間と話せたことが嬉しかったのか随分とおしゃべりになった。
「ああああ!今日は疲れたの。ちょっと静かにして!」
色々振り返る。
ママが歌を歌って消えたあの日から私が霊にイタズラを受ける最悪な日常が始まった。
きっとママは日常的にあの歌で霊から私を守ってくれていたんだ。
長い間、友達も作らず学校で授業を受けて帰るだけの日常を繰り返していた私。
転校したところで何も変わらないって思っていた。
でも違った。
色々あったけど、齋藤さんや葛城先生、そして他の生徒
色んな人と話をした。
そして・・・
今日またあの歌を聞いた。
「始まったんだ、またこの歌から。」
前とは違う。最悪の日常ではない。
ワクワクしている。今までこんな気持ちを感じたことがなかった。
「齋藤さんと友達になれるかな・・・」
私は目を閉じて気づいたら眠っていた。
「ーーー♩」
夢でママの歌が聞こえた気がした
ハジ×マリ 学校転入編 ALL)終