第一章 学校転入編 A
藤原一
この物語の主人公である少女
霊が見え他者との関わりを深く持とうとしない
藤原寿
はじめの父親
母親が行方不明になり一人親ではじめを育てている
いつもニコニコしていてとても優しい
婿養子
藤原陽子
はじめの祖母
母方の親
白髪ではあるが見た目が異常に若い
葛城愛子
はじめの転校先の学校で担任になる女性教師
齋藤真理
はじめの転校先で出会うクラスメイトになる少女
第一章 学校転入編 A
「お父さん、行ってきまーす!」
中学2年生になった私はあの日のことを時折思い出す。
「車とかにはくれぐれも気をつけるんだよー!あと・・・」
「わかってるよー。気をつけまーす」
私は小さい時から人には見えない何かが見える。
そしてそれは霊であるとおばあちゃんに教えられた。
ママがいなくなってから、必死に一人で私を育ててくれているお父さんは
あの日あった出来事を私に一切聞かない。
私も正直何が起きていたのかさっぱりわからないから断言はできないけど、ママは霊に何かされたのかもしれないと思うようになった。
当たり前のように日常に馴染んでいるから時々勘違いしてしまうけど
アレとはあまり関わっちゃいけないって、見えても見えないフリをするようになった。
ママが最後に歌を歌って消えたあの日から
私の最悪の日常が始まった。
お父さんは私のことをすごく心配している。
時々、おばあちゃんに電話をしては何か相談しているようだった。
ドンッ
「わっ。」
何かに背中を押された。
しかし後ろを振り返ると何もいない。
時々こうしたイタズラをされる。
ママと外を歩いていた時はこんなことなかったのに。
「ーーー♩」
ママがよく歌っていたあの歌を小さめに鼻歌で歌う。
これをすると不思議とイタズラに合わない気がするのだ。
だけど歌詞はよく思い出せない。
普通に学校に行って家に帰宅するとお父さんが仕事部屋から「おかえりー」と声を掛けてきた。
「ただいまー」
お父さんはあの日から自宅で仕事をするようになった。
いわゆるリモートワークだ。いつでも私のことを見ていられるようにってことなんだと思う。
「今日は大丈夫だった?」
「ちょっとドンってされたけど」
小さい声で私が言うとお父さんはいつも以上に神妙な顔つきで
「はじめ、おばあちゃんに相談したんだけど・・・学校を転校しないか?そこに行けば安心だって、おばあちゃんが言ってくれてて・・・」
「いいよ」
「・・・え?そんな簡単に決めていいのか?」
「特に今の学校にこだわりはないし」
よく霊にイタズラされるから下手に友達とか作ってしまうともしかしたらその人たちにも霊がイタズラするんじゃないかって。
そんな心配から特に仲のいい友達もいないし正直今の学校にこだわりはないのが本当のところ。
「ならおばあちゃんに今から電話してくる」
そう言うとお父さんはスマホを取り出し廊下に出た。
「学校が変わったからって、何が変わるんだか・・・」
きっと何も変わらないんだと思う。私はどこか諦めていた。
そしてお父さんが電話をかけた後
おばあちゃんは数日で手続きを済ませて、一学期の終わりに転校が決まった。
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夏休み。私は連休を謳歌していた。
通学する必要がない休み中は霊に会うことが少なくなるから気持ち的にとても幸せだった。
家で過ごす日々・・・
「凄く幸せ・・・」
居間で扇風機の前を陣取り、風に当たりながらテレビを見ているとお父さんが二階から降りてきた。
「はじめ、まだ提出できていない書類が少しあるんだけど新しい学校に持っていってもらえないか?」
「えー?夏休みももうすぐ終わっちゃうんだよ?家は私の楽園なのに・・・」
正直、家から出るのは本当にめんどくさい。
「お父さんが行ければよかったんだけど、今日中にクライアントに送らなきゃ行けない資料があって。本当にすまん・・・」
お父さんは普段ならあまり私に外に行くような用事をお願いしてこない。
多分、相当仕事が詰まってるんだろうな・・・
「わかったよ」
「ごめんな。助かるよ」
私は書類の封筒を受け取ると自分の部屋に向かい、前の学校の制服を着た。
「それじゃ、行ってきまーす」
2階の階段から見える仕事部屋の扉が開きお父さんが顔を出した
「行ってらっしゃい!あ、くれぐれも・・・」
私は話を遮るように
「どの口が言うんですか、わかってますー!」
新しく転入する学校は前の学校と同じ地域に存在していた。
正直、あまり意識していなかったから気づかなかったのかもしれないけど凄く遠いって程の距離でもない。
道で見かける霊を無視しながらスマホのマップを見ながら歩く。
私に何かあったらすぐに連絡を取れるようにってお父さんは私にスマホを持たせてくれている。
「あった。ここだ」
今までもここは通りがかったことはあったはず。
はず・・・
いや曖昧になってしまうのは、通っていたら嫌でも覚えてしまうような大きい学校だ。
なんで私はここに学校があることを知らなかったんだろう。
「あー、家でトイレに行っておけばよかったな・・・とりあえず書類を出してトイレに行こ」
学校に入ると女の人が通りがかった。
「おや、、見ない顔だねー?制服も違う学校のものだし。どうしたんだい?」
綺麗な女の人だ。
「あ、すいません。実は二学期からこちらの学校でお世話になる藤原一と申します。あの・・・」
「あー!聞いてるよ!私は君の担任になる葛城愛子だ。あいちゃんって呼んでくれていいよ!」
あまり話したことのないタイプの人間だ。そしてとても頼もしい空気を感じる。
「あの、転入に必要な書類を持ってきたんです。」
やばい、トイレが限界かも。
「あー、なるほど!ありがとう。あ、藤原はこの後・・・」
「せんせ・・・すいません、お手洗いって・・・」
先生が話してるのに申し訳ないのだけど、かなり急を要する。
「すまない藤原、実は今日は二学期に向けて朝から業者がトイレの点検を行なっていてね・・・今だと三階のトイレは終わってるはずだから少し遠いがそこに行くといい」
え、三階と思ったがもう考えるのをやめた。
「わかりました!ありがとうございます!」
私は走って先生の元を後にした。
「先生、こんにちわ」
この学校の学生が葛城に挨拶をする。
葛城が振り返るとサラサラの黒髪のロングヘアーの少女が視界に入る。
「あー、齋藤か。お前部活に入ってないのに学校で勉強か?あいちゃん、感心だわ!」
齋藤は整った顔つきに成績も優秀。
年不相応な落ち着いた雰囲気は学校でも人気がある生徒だ。
「ええ。そういう感じです。それはそうと、先ほどの方は?」
「二学期から転校してくる藤原だ。お前らのクラスだぞ」
葛城は思いつきで言葉を続ける
「齋藤、ちょうどよかった!あいつを少し校舎案内してあげてくれないか?私が案内しようと思ったんだが、クラスメイトのお前の方が何かとあいつも楽だろうし」
齋藤は一瞬迷った顔を見せるが、真面目な性格であるが故に断ることに抵抗を感じた。
「わかりました。あの方はどちらへ?」
「三階のトイレ!」
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「間に合った・・・」
三階に上がる階段の途中で漏らすかと思った・・・
カラカラとトイレットペーパーに手を掛けるとトイレの扉がノックされた。
ノックを返すが、その後すぐにまたノックされた。
「すいません。入ってます」
急いでたから真っ先にこの個室に入っちゃったけど他もいっぱいだったっけ?
確か一階と二階のトイレはまだ点検中って言ってたから案外混んでるのかも。
トイレを流すとすぐに扉を開けて
「お待たせしました。」
前を見ると黒髪が視界に映り
目の前ギリギリまで瞬時にそれがやってきた。
「え」
目がパキッと開き血走っているのが近距離からもわかる。
「ク ル ナ」
驚いて思わず声が漏れた
「何?クルナ?意味わかんないよー!」
霊だ。
普段見慣れてるのもあって、至近距離に来られた時は流石に驚いたが
少し落ち着きが戻ってきた。
しかし、霊の方が驚いている。
黒髪のおかっぱ頭、赤いワンピース。
都市伝説などで聞いていたトイレの花子さんだ。
「オ前、ヨワい癖に私ノ声が聞こえルノカ?」
「え、聞こえるよ?」
徐々に声が鮮明になってきた。
「お前を食ってやろうと思ったがやめた。霊力が弱くて力にならない。」
ありがたい・・・けど、転校前にも関わらずこんな目にあって先が思いやられる・・・
「あ、ありがとう。じゃ。私用事あるので行きます。」
その場を去ろうとしたが霊は引き止める。
「待て、逃すとは言ってない。」
そりゃそうだよな・・・
「はい、はい。私は何をすれば良いですかね?焼きそばパンでも買ってきましょうか?」
普段から霊を見ることに慣れてる私はこの時、油断していたのかもしれない。
“当たり前のように日常に馴染んでいるから時々勘違いしてしまうけど
アレとはあまり関わっちゃいけないって、見えても見えないフリをするようになった。“
ママが消えた日がなぜか頭によぎる
「人間を一人殺して私に捧げろ」
ハジ×マリ 学校転入編A)終