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登場人物
藤原一
この物語の主人公 4歳の女児
他の人には見えない何かが見える
お母さんが大好き
藤原吉音
はじめの母親
はじめ同様に他の人には見えない何かが見えている
優しくはじめのことをいつも見守っている
序章
私には普通の人には見えない何かが見える。
ほわほわ浮かぶ小さな虫みたいなのとか
人の形をしてるのとか
幼い時から当たり前のように身の回りに存在していたからそれが
何かっていうのがわからなくてママに「あれなあに?」ってよく聞いてたっけ。
ほわほわ浮かんだ虫が私のところにゆっくりと飛んできた。
パンッ
私は両手でその虫みたいな何かを捕まえた。
そしてゆっくりと手を離して隙間から中を覗く。
「こら!はじめちゃん!またホワホワちゃんをいじめてるの?あまり意地悪しちゃダメって言ってるでしょ?」
わっ、と私はびっくりしてすぐに手を離し
コクっと頭を下げた。
はじめ、は私の名前だ。
よく男の子と間違われるけどれっきとした女の子だ。
「ホワホワちゃんたちは私たちと姿形は違うけど仲良くしてあげようねー!」
「うん」
私はさっきまで手のひらにいた虫みたいな何かを目で追う。
それにしてもママはキッチンで洗い物をしていたはずだったのに。
まさか見られていると思わなかった・・・
今思うとどんな時でも何よりも優先して私を見てくれていたんだよね。
そしてママはニコっと笑って洗い物の最後のコップを置くとこちらに近づいてきてエプロンを外した。
「はじめちゃーん、ママとお買い物にいこっか?」
「うん」
そう頷いた私はママに上着を着せられ手を繋いでいつもの道を歩いた。
買い物が一通り済んだママは左手でたくさんの買い物袋を持ちながら、右手でしっかりと私の手を握ってくれた。
「さあ、今晩はカレーかな?美味しいの作るよー!」
「うん」
引っ込み思案だった私は感情があまり豊かではなかった。
でもママはそんな私にとにかくたくさん話しかけてくれた。
「はじめちゃんにお手伝いしてもらおうかなー?できるー?」
「うん」
ふふふ、とママは笑うと私の手を一際強くギュッと握った。
いつもの日常だった。
前を向いたママは一歩進むとすぐに立ち止まった。
私はそれに気づかず、足がニ歩、三歩と前へ進む。
「はじめちゃん!!」
ビクッ
驚いて足を止め、ママを見る
「はじめちゃん、そのまま。そのままこっちにおいで。」
ママは持っていた買い物袋を半ば捨てるように地面に置き、私を抱き寄せた。
何かが起きている。ママの異常な身体の震えが物語っていた。
周りには人もたくさんいたし、道路には車も走っていたのだけれど
音が聞こえなくなった。
だけどママの声はしっかりと聞こえる。
「はじめちゃん、目を瞑って。今からママはお歌を歌うからねー。」
私の背中をトン、トンと軽く叩きながら
「お歌が終わるまで目を開けちゃダメよー?」
「うん」
その返事を聞くとママは歌を歌いはじめた。
この歌を昔からよく歌ってくれていた、不思議と暖かく感じるしすごく落ち着く。
「はじめちゃん、ママはちょっと離れるけどそのままね!」
「うん」
ママと身体が離れ、私はその場で立ち尽くした。
歌がどんどん遠くなる。
そして、少し経つと歌がやんだ。
パッと目を開けると道に置きざりになった買い物袋が見える。
キョロキョロと周りを見渡してもママはいなかった。
私はびっくりして泣いてしまった。
たくさんの人が私に駆け寄ってくる
「どうしたの?」
「お母さんかお父さんは?」
「怪我でもしたの?」
その後の記憶は曖昧だった。
お父さんが交番に迎えにきてくれて警察官に頭を下げていたのは覚えている。
あの日からママはいなくなった。
ハジ×マリ 序章)終