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『第4回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』

初恋のえんぴつ~夏祭りの夜、僕は再び恋をする~

作者: 佐藤そら
掲載日:2022/12/01

 僕は上京する。

 引き出しを開けると、一本のえんぴつが僕のもとへと転がって来た。

 それは、嘗て心の奥に仕舞い込んだ初恋だった。

 

 出逢いは小学生。赤と黒の二色が並ぶ中、ピンクのランドセルの君がいた。

 名簿番号順に並べられたその座席は、僕らを隣にした。

 彼女はいつもポーカーフェイスで、何を考えているのか分からなかった。

 

 ある日、僕は筆箱を忘れた。

 焦る僕に、彼女はえんぴつを差し出した。

 

「これ使って!」

 

 彼女がニコッとした。

 絵柄のひまわりのように眩しかった。

 

 これをきっかけに、僕らは仲良くなった。

 僕は、彼女を斜め後ろから見ていたいと思うようになった。

 真横では、ドキドキして直視できないからだ。

 気付けば、心は彼女にチェックメイトされていた。

 でも、高校進学と共に離れ離れになり、記憶は薄れていた。

 

 僕はまだ、えんぴつを返していない。

 何故だか処分できず、諸々を屋根裏に仕舞い込んだが、僕はこの初恋を引き連れて上京した。

 

 

 

 引越し先のアパートには、お隣さんがいた。

 チャイムを鳴らす。

 

「はい」

 

 女性の声がした。

 

「本日、隣に引っ越して来た桐谷と申します」

 

 扉が開く。

 現れたのは、まさかの初恋の君だった。

 

「また、お隣さんだね」

 

 彼女がニコッとした。

 

 

 

 僕らは同じ大学に進学していたのだった。

 

 僕は写真サークルに入った。

 部室には、体育祭でゴールテープを切る少年の写真が飾られていた。

 コンテストの優秀作品らしい。

 

 僕も写真を撮ろうと、サークルを言い訳に、彼女を夏祭りに誘った。

 あくまでも写真を撮るためで、彼女は被写体だ。

 

 花火がよく見える神社で、僕はファインダーを覗く。

 夕日に染まる浴衣姿の彼女が、こちらに振り向く。

 僕は何枚も彼女の姿をカメラに収めた。

 

 

 日が傾き、僕は境内におふだが貼られていることに気付き、ゾッとした。

 頬に冷たいものが触れる。

 

「ひぃい!」

 

 彼女が缶コーヒーを手に笑っていた。

 

「もう、なんだよ!」

 

 やはり僕は、彼女を斜め後ろから見ていたいと思った。

 真横では、ドキドキして直視できないからだ。

 

 彼女は、夜空を見て呟く。

 

「星を繋いだらさ、どんな星座にでもなりそうよね」

 

「昔の人の想像力は天才だよな」

 

 量子力学によって説明される宇宙論みたいなものは、凡人の僕には分からない。

 

 でも、今これだけは分かる。

 

 僕は、えんぴつを取り出した。

 

 彼女が驚いた顔をする。

 

「あの日、君を好きになった。そして今、もう一度」

 

 

 夜空に花火が上がった。

 

 缶コーヒーは、ほろ苦くて大人の味だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトル全部盛り、2作品ですか! 爽やかな恋愛ストーリーに、不自然になりがちなワードがとても自然に溶け込んでいて、主軸に邪魔をしないのが凄いです。
[良い点] 可愛らしくてキラキラした初恋のお話ですね。 男の子の少しシャイな性格が「斜め後ろから眺めたい」という表現で表されていて、素敵だなと思いました。 [一言] 全ての言葉を入れるという至難の業を…
[良い点] 初恋からの再会!夏祭り夜空を見上げながらの告白ステキです♪ 青春! [一言] キーワードをモリモリ盛り込み1,000文字にまとめるなんて!すごいです。
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