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『第4回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』

初恋のえんぴつ~夏祭りの夜、僕は再び恋をする~

作者: 佐藤そら

 僕は上京する。

 引き出しを開けると、一本のえんぴつが僕のもとへと転がって来た。

 それは、嘗て心の奥に仕舞い込んだ初恋だった。

 

 出逢いは小学生。赤と黒の二色が並ぶ中、ピンクのランドセルの君がいた。

 名簿番号順に並べられたその座席は、僕らを隣にした。

 彼女はいつもポーカーフェイスで、何を考えているのか分からなかった。

 

 ある日、僕は筆箱を忘れた。

 焦る僕に、彼女はえんぴつを差し出した。

 

「これ使って!」

 

 彼女がニコッとした。

 絵柄のひまわりのように眩しかった。

 

 これをきっかけに、僕らは仲良くなった。

 僕は、彼女を斜め後ろから見ていたいと思うようになった。

 真横では、ドキドキして直視できないからだ。

 気付けば、心は彼女にチェックメイトされていた。

 でも、高校進学と共に離れ離れになり、記憶は薄れていた。

 

 僕はまだ、えんぴつを返していない。

 何故だか処分できず、諸々を屋根裏に仕舞い込んだが、僕はこの初恋を引き連れて上京した。

 

 

 

 引越し先のアパートには、お隣さんがいた。

 チャイムを鳴らす。

 

「はい」

 

 女性の声がした。

 

「本日、隣に引っ越して来た桐谷と申します」

 

 扉が開く。

 現れたのは、まさかの初恋の君だった。

 

「また、お隣さんだね」

 

 彼女がニコッとした。

 

 

 

 僕らは同じ大学に進学していたのだった。

 

 僕は写真サークルに入った。

 部室には、体育祭でゴールテープを切る少年の写真が飾られていた。

 コンテストの優秀作品らしい。

 

 僕も写真を撮ろうと、サークルを言い訳に、彼女を夏祭りに誘った。

 あくまでも写真を撮るためで、彼女は被写体だ。

 

 花火がよく見える神社で、僕はファインダーを覗く。

 夕日に染まる浴衣姿の彼女が、こちらに振り向く。

 僕は何枚も彼女の姿をカメラに収めた。

 

 

 日が傾き、僕は境内におふだが貼られていることに気付き、ゾッとした。

 頬に冷たいものが触れる。

 

「ひぃい!」

 

 彼女が缶コーヒーを手に笑っていた。

 

「もう、なんだよ!」

 

 やはり僕は、彼女を斜め後ろから見ていたいと思った。

 真横では、ドキドキして直視できないからだ。

 

 彼女は、夜空を見て呟く。

 

「星を繋いだらさ、どんな星座にでもなりそうよね」

 

「昔の人の想像力は天才だよな」

 

 量子力学によって説明される宇宙論みたいなものは、凡人の僕には分からない。

 

 でも、今これだけは分かる。

 

 僕は、えんぴつを取り出した。

 

 彼女が驚いた顔をする。

 

「あの日、君を好きになった。そして今、もう一度」

 

 

 夜空に花火が上がった。

 

 缶コーヒーは、ほろ苦くて大人の味だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトル全部盛り、2作品ですか! 爽やかな恋愛ストーリーに、不自然になりがちなワードがとても自然に溶け込んでいて、主軸に邪魔をしないのが凄いです。
[良い点] 可愛らしくてキラキラした初恋のお話ですね。 男の子の少しシャイな性格が「斜め後ろから眺めたい」という表現で表されていて、素敵だなと思いました。 [一言] 全ての言葉を入れるという至難の業を…
[良い点] 初恋からの再会!夏祭り夜空を見上げながらの告白ステキです♪ 青春! [一言] キーワードをモリモリ盛り込み1,000文字にまとめるなんて!すごいです。
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