第二話 人語を解す不思議なてんとう虫
今回から三人称視点です
エルは混乱していた。
というのも今まで人語を解し、自在に操るのは古代龍などの膨大な寿命と高い知性を持つ魔物だけと聞いていたからだ。
冒険者ランクがCのエルは当然そのような存在と出会ったことがないため、判断はできないが明らかに目の前のてんとう虫にそのような知性があるとは思えなかった。
「あなた、何者?」
『俺は田中浩二。いわゆる転生者ってやつだな』
「タ、タナカ…?ずいぶん珍妙な名前をしてるのね。それに転生者って…?」
『名前に関してはコージと呼んでくれればいい。まあ詳しい説明は省くが俺は異世界で死んでこの世界に転生してきたんだ。てんとう虫としてな』
当然この世にも転生者は存在している。しかし、転生者というのは基本的に元の世界の肉体に近い状態で転生してくる。つまりはヒト型であることが多いのだ。
基本的にとついているようにたまに例外もあるが魔物に転生してきたというのはこのコージが初めての例だった。
しかしそんなことを知る由もない二人は会話を続ける。
「へぇ、転生って人以外になることもあるのね。知らなかったわ」
『そんなことはどうでもいい。突然で申し訳ないんだが一つ頼みがある』
「頼み?」
『ああ___』
『俺が、人間としての姿を取り戻すのを手伝ってくれないか?』
「だるい、却下で」
『即答かよ!』
エルは今まで自分のやりたいことしかやってこなかった。よって興味もなく、また見返りも提示されていないことなどやりたくもない、と切り捨てるのはごく自然な流れだっただろう。
『ちゃんと見返りも用意するから手伝ってくれよぉ!』
「いやよ、私じゃなきゃダメな理由なんてないでしょ」
『だってまともに話聞いてくれたのはお前が初めてだし…。みんな俺が話しかけるたび捕まえようとしたり、つぶそうとしたりしてくるから…』
「…まあ、見返り次第では考えてあげないことはないわ。あと私の名前はエルステインよ。」
『本当か!助かるよエル!』
さらっと愛称で呼んできたことは無視し、エルは続きを急かす。
「それで見返りってのは?」
『ああ、エルは冒険者なんだろ?それもソロの』
「まあそうだけど…何で知ってるの?」
『そりゃお前、俺この街に結構いるからな。見目麗しいハーフエルフのソロ冒険者の情報なんていくらでも入ってくる』
「ふ、ふーん、そう?」
エルはまんざらでもない顔をしている。
そこへさらに続けていくコージ。
『そこでだ。冒険者活動をするにあたって俺の固有スキル…それも〈ユニークスキル〉を使って補助をしようじゃないか。もちろんまだ効果は言ってないからな、次の依頼やなんかの機会にでも披露するから効果のほどを確かめてくれ』
「へぇ、スキルまで使えるのね」
『ああ、いろいろ持ってるからどんなことでも役には立つはずだ』
と会話をしていると、
「はあ、やっと全員起きてきたわ」
「『!!!』」
「リ、リリィ!準備は済んだの?」
「ええ、ようやくね」
リリィがちらっと見た後ろにはまだ寝ぐせが残ったままの少女と、立ったまま舟をこいでいる女騎士が。
パーティーの火力担当、【元素術師】ユウリと、タンク担当【聖騎士】エメラだ。
「相変わらず寝起きの悪いことね」
「まったくよ。それで、あなたの準備が終わってるならもう行こうと思うのだけど大丈夫?」
「もちろん。いつでも行けるわ」
じゃあすぐにでも出発しよう、と張り切っているリリィをよそにエルとコージはひそひそと話を再開する。
「よかったね、出番が来たよ」
『あ、ああ。タイミングがばっちりすぎてびっくりしたよ…』
かくして出会ってから一時間もしないうちに戦闘に行くことが決まったのだった。
この世界ではスキルは基本人間と亜人種しか使えません。魔物はスキルがなくても単純な筋力で押し切ってきたり豊富な魔力にものを言わせて魔法のようなものを放ってきたりします。