序章27 別たれる偏り ①
「ご来場中のみなさまぁー、たぁいへん長らくお待たせ致しましたぁっ! これより判定結果の発表を行いたいと思いまぁっす‼」
「ふざけんなっ! やめろっつってんでしょ、ばかやろー!」
フルラウンドの勝負を終えた希咲 七海VS白井 雅のおぱんつバトルの判定を厳正に審査し、その結果を告げようと高らかに宣言をした審査委員長である法廷院 擁護に対してすかさず品のない野次が飛んだ。
その野次はあろうことか競技者の片方からのものであったが、審査委員長としての使命感に燃える法廷院のモチベーションはそのような些事では揺るがなかった。
大会委員長である法廷院は審査委員でもあるが一流のパフォーマーだ。車椅子の座席上で立ち上がると片足をガッと背もたれにかける。
オーディエンスを意識したパフォーマンスだ。一つ問題があるとすればオーディエンスが一人もいないことだが、プロフェッショナルを自負する彼はそれくらいのことで自らの仕事に手抜きをすることはない。
背もたれに重心を乗せた際に一度大きくバランスを崩しそうになったが、弥堂と希咲が口論している間にいつの間にか法廷院の元まで移動していた高杉が、さりげなく車椅子を支えたので事無きを得た。
「それでは読み上げます! ジャッジ本田っ! 120対98ぃっー! 青っ、希咲 七海っ!」
バッと左手で希咲を指し示すとそのままの姿勢で会場の歓声が治まるのを待つ。
もちろん観客などいないので歓声などない。あくまで雰囲気だ。
「ジャッジ本田。今回の判定について一言お願いします」
「はい」
法廷院にコメントを求められると本田は神妙な顔で一歩進み出る。
「えー、今回の判定についてはですね、実は然程も悩みませんでした。試合内容としては圧倒的と言ってしまっても過言ではないと思います」
「ほうほう。と言いますと?」
「はい。やはり何といってもまずデザインですね。実に僕好みです。個人的な嗜好だろと言われてしまえば反論は出来ませんが、しかし競技の性質上そこに嘘は吐けないなと」
「なるほどですねー。ちなみにどのような点を高く評価されたのでしょうか?」
「やめてってばっ! 言わなくていいっ!」
「そうですねー。えー、やっぱり清純さ……でしょうか。白井さんからは子供っぽいなどと暴言を吐かれていましたが、僕としてはですね、むしろそれがいいと言いますか。色合いに形状と申し分ないのは説明の必要はないと思いますが、そこにあの装飾ですよ! 地味にもならず下品な派手さに傾くこともなく! これを選ぶ彼女の非常に優れたバランス感覚を評価したいですね。Jr.アイドルのイメージビデオで使われてもおかしくはない優れた逸品だと思います!」
「なるほどですねー、ありがとうございました。審査員席へどうぞお戻りください」
徐々に饒舌になるジャッジ本田の興奮具合を見て取り、法廷院は彼に着席を促した。ジャッジ本田は一歩下がり床に正座をすると目を閉じる。白井と目を合わせたくなかったからだ。批評をしている間ずっと彼女に睨まれ続けていたジャッジ本田は、白井を視界に入れないことで己の責任を全うしたのだ。
「Jr.アイドルって小中学生のこと……? あ、あいつらバカにしやがって……っ!」
「おい、やめとけ」
「うっさいっ! あんたは黙ってて! もう怒ったんだから――ぶにゃっ」
「いいから大人しくしてろ」
腕まくりしながら彼らを物理的に黙らせるために突撃しようとする希咲の襟首を掴んで強引に止めると、彼女は室内シューズのゴム底を床に叩きつけて暴れた。
パンパン、キュッキュッという音と希咲の喚き声のあまりの煩さに弥堂は顏を顰める。
「はーなーせーっ! あいつらもうぶっとばしてやるんだからーっ!」
「……お前意外とガキっぽいな」
「はぁーっ⁉ ちっ、ちがうって言ってんでしょ! 今日はたまたまこれ穿いてただけで、ちゃんと他のも持ってるって言ったじゃんっ!」
「何の話をしてるんだお前は」
今までちゃんと話したことのなかったクラスメイトの女の子に、普段と違う一面が見えてちょっと印象が変わったよと伝えたら、何故か彼女はよくわからない言い訳のようなことを並べ立てた。
希咲が弥堂に気を取られている間に茶番は滞りなく進行していく。
「えー、それではー続いて読み上げます! ジャッジ西野っ! 判定118対110ぅ…………」
右手で持ったスマホの画面を読み上げながら法廷院はそこで一度言葉を切りタメを造った。スマホに目線を向けたまま間接視野で周囲を測り、静寂に包まれた場の緊張感が最高潮に達するその時を待つ。
希咲が大声で喚く声が響きまくっているのだが、雰囲気を重視する彼らの耳には入らなくなっている。
やがて十分な間を作った法廷院は先程と同様にその手を勝者へと差し向ける。
「青っ! 希咲 七海ぃっ‼」
わっと複数の人間から歓声があがると同時、希咲の対戦者である白井は愕然と膝を着いた。
初見である弥堂と希咲は全くルールを把握していないが、審査員は3名でその内の2名の票を獲得すれば判定勝ちとなる仕組みのようだ。
彼らは雰囲気を重視する余り、ルールを周知することはさして重要ではないと考えていた。
そのため彼ら以外の人間からしたら、只の身内ノリを見せられているだけなので通常はお寒い雰囲気にしかならないであろう。
しかし、勝手に競技に参加させられている希咲が重大なセクハラを受けているため非常に怒り心頭であり、彼女がキャンキャンと喚くからなんとなく盛り上がっているように見えなくもない様相を醸し出していた。
やはり雰囲気と勢いで大抵のことはどうにかなると、大会組織委員長である法廷院は確かな手応えを感じ目立たぬようグッと握り拳を固めた。
「えー、では早速話を聞いてみたいと思います。ジャッジ西野? 今回の審査のポイントは?」
「そうですね。えー、やっぱりですね、この競技はあくまで対人競技でありますので、パンツだけではなくそれを纏うプレイヤー自身にも目を向けてみた……というのが今回の私の審査のポイントになりますかね」
「ほう……プレイヤーの評価……と言いますと?」
「やめてよ! やだって言ってんでしょ! ききたくないっ!」
ジャッジ本田とは違った切り口での審査基準を語るジャッジ西野の言葉に強い関心を抱いた法廷院はさらに切り込む。
外野からの激しい野次も飛んでいたが滞りなく進行していく。




