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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章26 蠱惑の縄墨 ③


 一方、その彼らの様子を見守る形になった希咲は、突然醜い争いが始まったことに対する困惑と、自分がその争いの原因の一部となっているらしいことに、絶対に自分は悪くないという確信はあるものの気まずくなりキョドキョドとした。


 助けを求めるように弥堂の方へと視線を向けると、彼はちょうど踵を返し立ち去ろうとしていた。希咲は慌てて彼の制服をガッと掴んだ。


「ちょっと! あんたどこに行こうとしてんのよ!」


「帰るんだが?」


「はぁっ⁉ 散々好き放題しといてふざけたこと言ってんじゃないわよ! あれどうにかしなさいよ!」


「ほっとけ」


「ほっとけ……って、でも……」


 迷惑そうに言い捨てる弥堂に困ったように眉をふにゃっとさせて見上げる。


「ねぇ、揉め事解決するのがあんたの仕事なんでしょ? どうにかしてよ」


「もうじき完全下校時刻だ。俺の勤務時間はそこまでだ」


「……あんたの物事の判断基準ってどうなってんの……? あたし全然わかんない」


「キミが知る必要はない」


「わかってるわよ! べつに知りたいとか興味あるとか言ってんじゃないから! 勘違いしないでっ」


「では話はこれで終わりだな。俺は帰る。あいつらも時間になったら勝手に帰るだろ」


「あっ、こら! 待ちなさいよっ」


 再び踵を返そうとする弥堂の制服を先程の再現のようにガッと掴み強く引っ張る。

 首が少し締まったのか、「ぐっ」と短い呻き声が弥堂の口から漏れ、非常に不服そうな表情で彼は振り返った。


「なんのつもりだ」


「ねぇ、あんたもここにいてよ。全然いみわかんないけど、なんかあいつらあたしが原因みたいなこと言って揉めてるし……気まずいのよ。一緒にいてよ」


「ふざけるな。どうにかしたいならお前が乱入して全員殴り倒せばいいだろうが。お前なら簡単だろう」


「そんなあんたみたいなことできるわけないでしょうがっ」


「だったら尚更俺に出来ることは一つもないな。諦めろ」


「……暴力以外に出来ることがない風紀委員ってどうなのよ……」


 正々堂々と社会に適合していない旨を告げる弥堂にげんなりとした顏になる希咲だが、絶対に一人だけ逃がしはしないという強い意志のもと、弥堂の制服のより掴みやすいブレザーの前裾部分にちゃっかりと持ち替えて拘束を図る。


 両手でギュッと握りながら強気に眦を上げる彼女の視線に、弥堂は溜め息を吐くと顎を振って指し示す。


「そいつに頼んだらどうだ。俺よりはマシだろう」


「ん? 俺か?」


 その言葉に応えたのはすぐ近くに居た高杉だった。


「……ねぇ、あんたあれほっといていいの?」


 高杉が反応したことで希咲も若干渋々とではあるが、彼に要請してみる。ただし弥堂の制服は絶対に放さない。

 希咲が高杉に話しかけた瞬間を見計らって拘束を逃れようとした弥堂だったが、思ったよりもがっちり掴まれていて、眉根を寄せて希咲の顏を見るが彼女は意識して無視をした。


「ふむ……まぁ、弥堂の言う通り問題ないだろう。そう酷いことにはならん」


「……そうなの? 白井さんめちゃキレてるけど?」


「よくあることだ。時間がくれば今日はこれでもう解散だろう」


「ふ~ん……ならいいけど…………あっ! ねぇ、今更だけどあんた身体大丈夫なわけ?」


「む? なんのことだ?」


 彼らの仲間である高杉が大丈夫だろうと言うので、多少杞憂が晴れた影響か、余裕を取り戻したことでついさっきまで気絶していた高杉の容態について思い当たり彼に尋ねる。


「なにって……あんたさっきまで気絶してたじゃん。けっこういいの顎に入ってたし。だいじょぶなの?」


「あぁ」


 自身のカーディガンの萌え袖から出た手でゆるく拳を作り、自分の顏に当ててみせることで、先程のKOシーンを示唆する希咲に高杉も合点がいく。


「なに、問題はない。もともと俺は顔面ありの道場上がりだからな。それこそよくあることだ」


「そ? ならいいけど。具合悪くなったらちゃんと病院いくのよ」


「気遣いは受け取っておこう。恥ずかしい話だが綺麗に貰いすぎたからな。あれならば、例え気絶に至らなくとも中途半端に避けて急所以外を何発も殴られるより却って安全だろう」


「へー、そういうもんなんだ。ま、いいけど……あ! 元気になったからってまたこいつとケンカ始めないでよ? あんたもよ? わかってんでしょうね!」


 言葉の途中で高杉から弥堂の方へ顏を向けキッと睨みつけてくる希咲に対して、弥堂はただ肩を竦めてみせYESともNOとも明言しなかった。


「代表から命じられでもしなければ、少なくとも俺の方はもうやり合うつもりはない。今日のところはな」


「ホントでしょうね……あんたたちってすぐ言うこと変わるから疑わしいのよ。とにかく! 今日はもうこれ以上のトラブルはイヤよ」


 高杉へと懐疑的な目を向けながら両手の人差し指でバッテンを作り拒否の意思を表す。

 その機を逃さぬと、希咲が手を放した瞬間に脱出を図った弥堂だったが、高杉の方を向いたままの希咲がノータイム・ノールックでハシッと制服の裾を掴み直す。彼が舌打ちする音が聴こえたがやはり彼女は無視をした。


「ククッ、目の前でじゃれあって見せつけてくれる……妬けるじゃあないか」


 その二人の様子を受けて高杉が粘着いた視線を主に弥堂に対して向けると、希咲は「ゔっ」と慄いたように呻き、弥堂もまた不快そうに眉間に皺を寄せ、示し合わすでもなくじゃれあうのをやめた。


 否定はしたいものの色んな意味でこの話題を広げたくなかったので、希咲は誤魔化すように咳払いをし話を逸らした。


「んんっ。ま、まぁ? ケンカしないってんなら文句はないわ。え、えと、ほら? こいつがけっこうヒキョーなことしたから恨んでたりしないかなぁって思って……」


「そんなことはない。俺は尋常な勝負だったと思っている。結果に文句などあろうはずがない」


「そ、そう? ならいいけど……」


「うむ、むしろ素晴らしい体験であった」


「あ、そっすか。じゃあ本日はお忙しい中どうもありがとうございました」


 高杉の視線の粘度が増したことを敏感に察知し鳥肌をたてた希咲が、これ以上は語らせまいとペコリとお辞儀をして雑に締めに入ったが、彼を止めることは叶わなかった。


「ククク……そこの男はどうか知らんが俺はベストを尽くした。間違いなく今日の俺は過去最高のデキだった! これほどに血沸き肉躍ったことはない。弥堂……お前はどうだったのだ? 俺との行為はよかったか?」


 でろんと舌を垂らし恍惚の表情をする高杉に、希咲は嫌悪感から「うぇっ」と声を漏らし思わず顏を背ける。


 すると自然と背後にいた弥堂と顔を合わせることになり、そこに居た彼はいつも通りの無表情で、これでも動じないとかメンタル強いわねーなどと感想を抱くも束の間、パチッと目が合った彼が徐に希咲の襟首を掴む。


「うにゃっ」


 希咲に抵抗をする間も与えず簡単に持ち上げると、弥堂は彼女を自分と高杉との間に置いてあっさりと手を放した。


 無理矢理立ち位置を変えさせられた格好の希咲は、衣服の乱れを直しながらぱちぱちと瞬きをすると弥堂の顏を見て、振り返って高杉を見て、それからもう一回弥堂の方を見て彼の意図を察した。


「言いたいこといっぱいあるけど、とりあえずあたしを盾にすんじゃないわよ。気持ちはわかるけど」


「気にするな」


「あんたは色々気にしろ、ばかっ」


 さすがの弥堂も高杉のような屈強な男に著しい興味を向けられることに不快感を抱いていたようだ。


「そんな鶏ガラ女ではなく俺を見ろ弥堂。フィジカルの強い俺の方がお前を満たしてやれるぞ。俺とお前はもはや他人ではないのだ」


「どういう意味だ」


 ここにきてグイグイ迫ってくるホモに眉を顰めて問う。『鶏ガラ女』呼ばわりにピキっていた希咲さんは頑張って口を噤んでいた。


「ククッ、惚けおって。焦らしてくれるじゃあないか……嫌いではないぞ。いいか? 俺とお前は肉体と肉体を以てぶつかりあった。少なくとも俺は全力で、だ。そうだな?」


「気色の悪いことを抜かすな。意味がわかるように言え」


「随分せっかちだな、嫌いではないぞ。つまり、だ。猛るお前の肉体を俺の肉体が全力を以て受け止めた! これはもはやセックスだ‼ そうだろう⁉」


「…………」

「…………」


 弥堂も希咲も言葉を失う。二人ともに、普段自炊をしない人が夏場に気まぐれで米を焚いたことをすっかり忘れていて二週間後に炊飯ジャーを開けてしまった時の顏をした。


「今日を以てお前は俺を抱いた男として俺の思い出に永遠に刻まれ、そしてお前の男性経験回数に1がカウントされたのだ!」


「死にたいようだな」

「ちょっ! まっ、まって! わかるけど! 気持ちはすっごくわかるけどもっ! 経験回数2になっちゃうわよ? だから、ね? がまんして? あとで話きいたげるから、ね?」


 ズイと前に出ようとする弥堂の胸に両手を当てて懸命に押し留める。なるべく彼を刺激せぬよう言葉と声色に気を遣いながら愛想笑いを浮かべて宥めると、『経験回数2』が効いたのか、どうにか踏み留めることに成功した。


 この機を逃さず畳みかけようと、彼の気を紛らわせるため多少無理にでも話題の転換を試みる。


「そ、そういえばぁー? あんたってどんなことにも動じなくってすごいなぁーって、あたし思ってたんだけどぉ……さすがに男にセクハラされるのはイヤなのね」


 努めて明るい声を出そうとしたらやりすぎて、普段出したことのないような猫撫で声が自分の口から出たことにびっくりし、思わず笑顔が引き攣る。

 弥堂の顔色を窺うと彼も気味の悪いものを見るように眉を顰めていて、自分でも自覚はあるものの彼女はムッとした。


(誰のためにやってると思ってんのよ!)


「あの物体に不快にならない人類がいるのか?」


「んんっ。わかる。わかるけども。ちょぉ~っとお口が悪いわよ弥堂くん」


 もはや高杉に配慮など一切不要だとも思えたが、希咲は念のため弥堂の暴言を窘めた。


「まぁ、あんたもこれに懲りてもうセクハラすんのやめなさいよね。自分がされてイヤなことは他人にしちゃダメよ」


「俺がいつセクハラなどした」


「はぁ?」


 幼稚園児にするような当たり前の注意をしたら、この期に及んでまだすっとぼけられて希咲のサイドのしっぽがピーンと跳ねる。


「したじゃん! あたしにいっぱいしたでしょ!」


「自意識過剰だバカめ。男が誰でも皆お前に興味を持つと思うなよ。思い上がるなガキが」


「あははー。あんなこと言っておいてゴメンだけどぉ、あたしが先にキレそうだわ」



 再び希咲の目が攻撃色に染まり――


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