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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章26 蠱惑の縄墨 ②


 その男は車椅子に鎮座し悠然とそこに居た。


 側近二人があっという間に馬脚を現したが彼だけは何も憚ることなく、白井の視線を受け止めた。まるで玉座に君臨する王のように。童貞の王、法廷院である。



 突然自分から矛先を変えた白井に戸惑う希咲は所在無さげにし、弥堂は少し目を離すとすぐに争いを始めるこの学園の生徒の民度の低さに辟易とした。

 弥堂が何かを要求するように、一人だけこの諍いに参加していない高杉に視線を遣ると、彼は瞑目してただ首を横に振る。弥堂はイラっときた。



「代表……あなたもなのね。もちろん本気――なのでしょうね。でも果たしてあなたにやれるのかしら?」


「白井さん。そうじゃない。そうじゃないんだよ。結果の保証なんてボクらは望んじゃあいないんだ。これは可能性の問題なんだよ。それを否定するなんてとっても『ひどいこと』だぜ? だってそうだろぉ? より良い未来を望むことは誰にだって許された『権利』なはずだ」


 まるで「テメェにワシが殺れんのか? おぉん?」というように聞こえもする会話だが、もちろん彼らの言う『やれる』とはそういう意味ではない。


 決別の気配が場に漂い、白井は少し寂しそうに薄く笑うと他の二人にも視線を向ける。


「あなた達も同じ、なのかしら?」


「…………」

「……確かに僕たちは陰の者かもしれない。でも、だからこそ光に焦がれるのさ。だって、仕方ないだろう? 彼女はっ……こんな僕たちにも……優しかった……優しかったんだ……っ……!」


 本田は黙って先程希咲に貸してもらったハンカチを大事そうにギュッと両手で握りしめ、西野は泣き笑いのような表情でそう答えた。彼も先程希咲に弥堂の暴虐から庇ってもらったことを忘れてはいない。



 普段なにかと悪目立ちをし、時には自分たちのような陰の者を蔑むような言動をする者もいる所謂ギャル系という陽の者ども。

 そんな陽の者どもに対して彼らは勝手にコンプレックスを抱き、時には陰口を叩き、恐れながらも内心で見下してみたり嫌いだと嘯いてみせたりもした。


 しかし、この場を借りて誤解を恐れずにはっきりと断言をしてしまえば、それでもギャルものが嫌いなオタクなどこの世に存在しないのだ。理屈ではなく真理なのだから仕方がない。


 それが真実であることは何よりも売上げが証明してくれている。一時期よりは衰えたとはいえ、しかし未だに根強くギャルものは売れ続けている。大きな声では言えないが、もちろんAVの話だ。


 アイドルは嘘を吐くし、Vの者だって嘘を吐く。


 しかしAVだけは自分に嘘を吐かない。人は時間を停止させることだって出来るのだ。信じれば1割くらいは本当になる。

 当然彼らは健全な高校生なので視聴をしたことはない。もしも仮に公式プロフィールを作成するのならばそう記入することになる。閲覧履歴の公開は諸事情により困難だが、そういうことになる。

 だが、見たことがないからこそ信じられるものもあるのだ。


 童貞たちは強くそう信じていた。



 しかし、それが許せない者もいる。


「……気に入らないわね」


 もちろん白井さんだ。


 ギリッと親指の爪を噛む音が静まった廊下に響く。


 腹の奥底から煮え滾るような温度の嫉妬と憎悪が湧き出てくる。氾濫した溝川から溢れてきた吐泥(へどろ)のように、悪意で穢れたオーラが彼女から漏れだしその身に纏わりついていく――くらいの勢いで彼女は憤怒した。実際にそんなオーラのようなものは通常は人からは出ない。


 しかし目玉の白黒が反転しているように錯覚するほどの白井の凶相にはそれくらいの迫力があった。

 ガチガチと西野と本田が歯を打ち鳴らして怯える。


「私を裏切るなんて……あなたたち絶対に許さないわよ……」


 彼女は怒り狂っていた。


 もともと白井が彼らの組織する『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』に所属することになったのは、リーダーである法廷院に勧誘されてのことであった。

 そう目立つような存在でもない自分をどうやって見つけて選んで声をかけてきたのか、その理由は全くを以て不明だったが、彼女が参加することを決めたのはなにも彼らの目的や思想に感銘を受けたからなどではない。


 白井 雅は地味な少女であった。それは容姿が特筆して優れているわけではないという点だけでなく、性格的にも騒ぎを起こしたり他人に迷惑をかけるようなことをしたりすることもなかった。


 そんな彼女が『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』などという特級迷惑集団に加わったのは、先に彼女自身が述べた他の女性に対して逆恨みをぶつけるという理由よりも先にまず、なによりも自らの承認欲求からであった。


弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』の男子メンバー達は謂ってしまえば冴えない男子たちである。とてもそうとは思えない過激な活動をしているが、基本的に各々の所属クラスでは陰キャとして日々の生活を慎ましく送っている。


 白井から見ても、そんな程度の低い所謂カースト下位の者どもではあるが、だからこそそんなメンバーの中でなら少しだけ地味めだから目立たないだけの自分のような女子でも、きっと下に置かない扱いをしてもらえると、そう期待をしたためである。


 要するに、彼女は男にちやほやされたかったのだ。こいつら程度だったら容易にオタサーの姫的ポジションに納まることが出来る。当時の彼女はそう安易に考えた。そして多少キモイ連中ではあるが、実際に高杉以外の者たちはとりあえず優しくはしてくれた。

 それに味を占めて調子にのり段々とエスカレートしていった結果が現在の人間関係である。


 オタサーの姫というか完全に悪の女幹部とその手下のようにしか傍からは見えないが、白井本人はそれなりに現状の立ち位置に満足をしていた。


 もちろん白井が恋する相手は、この学園内や町内に留まらずもしかしたら市内都内でもトップクラスと云っても過言ではないかもしれない、ウルトライケメン紅月 聖人さまである。


 仮に『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』のメンバーの誰かが自分に告白をしてきたとしても、交際を承諾することなどは決してありえない。

 しかし、例えそうだったとしても、それでも彼らが他の女に色目を使うことなど断じて許さないのだ。



「飼い犬に手を噛まれるとはこのことを言うのかしら」


「ぼっ、僕達は白井さんの犬なんかじゃないぞ!」

「そっ、そうだ! 白井さんは優しくないんだよ! 最初はあんなに大人しかったのに……」


「黙りなさい!」


 口答えをしたことで白井に一喝されるが、本田も西野も退かなかった。震えながらも視線を強めて彼女を見返す。


「なによ。私のこと可愛いって言ったくせに……本田? じっとり湿った気持ち悪い手で私の手を握りながら言ったあれは嘘だったのかしら?」


「おごぉっ――」


「西野、あなたもよ。僕だけはどんな時もキミの味方だよって言ったわよね? 言っておくけど、恋人でもない男に頭を撫でられて喜ぶのはあなたが愛読している気持ち悪い小説に出てくる女だけよ」


「ひぎぃっ――」


 勇ましく立ち向かった彼らだったが、過去にとられていた恥ずかしい言質を暴露され即座に白目を剥いた。



 白井も白井で『アレ』な女だが、彼らも彼らで大分『アレ』であった。


 今でこそ『一生推せる』くらいのノリで希咲を庇っているが、それは自分たちとは対極の陽キャの権化のように思っていた、見た目は可愛いがちょっと怖いギャルに優しくしてもらったり、気が強そうで性に奔放だと決めつけていたら、ちょっとしたことで恥ずかしがったり泣いてしまったりと、そういった彼女が見せたギャップに簡単にコロッといってしまっただけのことである。


 以前は以前で初期の出会ったばかりの白井に対しても、こんな自分の話も聞いてくれるし大人しくて話しかけやすい子ということで、簡単にコロッといってしまいその結果少々燥ぎすぎてしまったら、この度無事に黒歴史として暴露されてしまった。

 モテない男の宿命である。



 つまりは、彼ら彼女らの人間性とは所詮そんなものであり、彼ら彼女らの人間関係とは所詮こんなものであった。



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