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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章04 不揃いな二項、歪な三項 ①

 HRが終わり登校してきた生徒達の出欠確認と、必要な連絡事項の伝達を済ませた担任教師が退室していく。


 午前8時40分から開始されるHRには10分間の時間が与えられており、一限目の授業は9時ちょうどから開始となる。授業内容により特別教室やグラウンド、体育館へと移動することもある為、HR後にも一限目開始までに10分間の準備時間があるのだ。


 2年B組の本日の一限は『数学』だ。教室の移動はなく2年B組の教室で授業が行われるため、多数の生徒達は再び雑談に興じ始めている。大半の生徒が自席の近場の者達と歓談している他、机上に教科書とノートを広げこれから行われる授業の内容を確認している勤勉な者もいれば、スマホを手にSNSやゲーム、または必要な情報の収集に時間を充てる者もいる。

 それ以外では少数派ではあるが、席を立ちこの僅かな時間でも仲の良い級友の席まで訪れる者もいた。



 後方より近づく者があった。スッ、スッと長い左右の足を綺麗な歩調で交互に均等に動かし、やがて弥堂と水無瀬の席の間で立ち止まった。


「おはよ、愛苗」


  視界の外から声をかけられた水無瀬 愛苗(みなせ まな)は驚きで一度肩を弾ませるが、覚えのある声で訪問者の正体に見当がついたのだろう、振り返る動作の最中に声に喜色を浮かべる。


「ななみちゃんっ!」


 振り向き視認した顔と自分の予測が一致し、「おはよおぉぉぉっ」と返礼しながら自分を訪問してくれた友人の細い腰に座席に座ったまましがみ着く。


 抱き着かれた本人はというと彼女がそう動くことは予測済みだったようで、慣れたものとばかりに「はいはい」と姿勢を崩すことなく水無瀬を受け止めた。そのまま淀みのない動作で水無瀬の頭を撫でてやりながら、


「あんた今日ギリギリだったわねぇ。なに? 寝坊でもしたわけ?」


 と、声に若干の呆れを滲ませながら咎めたものの、その表情は酷く優し気だった。


 問われた水無瀬は顔を上げると「えへへ……」と照れ隠しのような曖昧な笑みを浮かべ、視線の先の自身の最も仲の良い友人である希咲 七海(きさき ななみ)と目を合わせる。


 その視線を受け取った希咲は、水無瀬の仕草から経緯を察して誤魔化されてあげることにしたようだ。


 吐息を漏らすだけの軽い溜息をついて「あーはいはい、もういいわよ」と彼女の頭を撫でていた手を上げて下ろし、ポンっと軽く水無瀬の頭を叩くとそれで追及を手打ちにしてあげた。


 そのまま水無瀬の両肩に手を置き彼女を優しく引き剥がしてあげると、急いで登校してきたらしいその姿をなるべく広く視界に収めるべく距離を空け、上から下へと目線を走らせ彼女の身嗜みにチェックを入れる。


「あー……あんたまさか走ってきたの? 髪がちょっと解れてる…………制服はー……だいじょぶね……汗は? かかなかった? とりあえず三つ編み直したげるからブラシ出しなさい」


 言いながらもうおさげを解き始めて手際よく自分のお世話をし始めている希咲に、「はぁーい」と嬉し気に返事をしながら水無瀬は鞄に手を突っ込みヘアブラシを探した。3回ほど鞄の中身を捏ねくり回し首尾よく目的の物を見つけ希咲へと手渡しながら、


「汗は大丈夫だったよー…………って――へ? 匂わないよね⁉ 嘘⁉ ななみちゃん、私くさい⁉ って――ほわぁっ⁉」


 と、わたわたと慌てだし予定調和のように手の中の物を取り落とす。


 希咲は「あん、もうっ」と悪態をつきながら、落ちてくるブラシを膝で打ち上げ、胸元まで上がってきたそれを事も無げに右手で掴むと、人差し指を支点にクルっと回しブラシの持ち手側を器用に掌に収め、そのまま何事もなかったかのように水無瀬の髪を解かし始めた。


 彼女の丈を短くしたスカートで膝を上げようものならば、その内に隠された下着など簡単に衆目に晒してしまいそうだが、幸いにも水無瀬の座席は最窓際の列だ。その席に座る水無瀬の背後は窓だし、左右には女生徒しかいない。水無瀬側を向いて足を上げても男子生徒達に下着を見られる心配はない。


 内心で「完璧な仕事だったわ」と一人ごち、希咲は得意げに鼻を鳴らした。


 一方、不始末を起こした側は、左手の指で挟んでいた水無瀬の髪が引っ張られることがないよう、一切体勢を崩すことなく一連の動作をやってのけた目の前の友人を、ぽかーんと口を開けながら数秒ぼーっと見つめてから再起動し、その大きな丸目をさらにまん丸にして「おぉー」などと称賛の声を上げながらぱちぱちと手を叩いた。


 その拍手を受けた希咲は「はいはい、あんがと」と気のない返事をしながら、丁寧に水無瀬の髪を編み直していく。普通の女子高生とは思えない離れ業をやってのけておきながら、まるでそれは大したことではないといったようにクールに振舞う彼女であった。


 が、しかし、よく見るとその口元はによによと波打ったようにニヤており、左側だけサイドアップにした髪から露わになった耳輪を朱に染めて、大好きな親友に褒めてもらって余程嬉しかったのか、手元では正確に作業を行いつつも上機嫌を隠し切れず、小さく尻を左右に振っていた。



 他方、水無瀬の隣の座席で一限目の開始を待つ弥堂はというと、眼前で左右に揺れる希咲の尻を眺めていた。


 ヘアブラシを取り落とした際に上げた水無瀬の奇声で事件かとそちらへと目線を向けたのだが、その先にあったのは控えめにフリフリと振られる小ぶりな尻であった。


 際どいラインで揺れ踊る学園指定の制服のスカートの裾は、尻の振られる動きに合わせ右側が持ち上れば左側が尻に張り付き、逆に振られれば今度は右側が尻に張り付き、その中身の形状を想像させた。


 異常を確認する為に数秒ほど尻の様子を注意深く観察したが、左右の中殿筋と大殿筋を包んだきれいな曲線に交互にピタリと張り付くスカートの動きから、その中に武器の類を隠し持っている様子はないと判断を下すと、弥堂は興味を失い自身の机の上のノートへと視線を戻した。



 弥堂の様子には当事者たる希咲と水無瀬は気付いていなかったが、周囲の生徒達をまた騒めかせた。


「あ、あの野郎……今度は希咲のケツをガン見してやがったぞ……怖いもんなんてないのか奴には……」

「待て、今重要なのは奴が乳派なのか尻派なのかということだ。その答え如何では我々は或いは友にもなれる……」

「は? 女は足だろ? 何で足を省いた? ……どうやら先に決着をつけなきゃならねえ奴がいるようだなァ⁉」


「ビトオォォォォ……‼ 神聖なる愛苗×七海の尊い光景を穢す薄汚い野良犬がアァァァァァ……‼」

「ちょっ、ちょっと! アンタ目がやばいわよ⁉ 女の子がしていい顔じゃないからそれ!」

「あわわわ……やっぱり性獣さんなんだよぅ……人の心を失った性欲のバケモノなんだよぅ……きっと今の一瞬で七海ちゃんのパンツまでばっちり確認したはずだよぅ……さすがぬか――」


 

 若干2名ほどの胸倉を掴み合って揉み合いながら廊下に出ていく男子生徒と、それを冷ややかに見遣る女子生徒数名が居たものの、ヒソヒソと囁きあう周囲の様子など他所に、当事者たる水無瀬と希咲は完全に二人の世界を創り出していた。


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