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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章22 聖域の証左 ②


「おい、さっさと見せてやれ。早くしろ」


「いい加減にしときなさいよ、あんた。てか、さっきまでのあんたの理屈からいくと、あたしは今あんたに何割レイプされてることになるのかしら?」


「何の話だ? 知らんな」


「こっ、このクズやろう……」



 拳を握りしめプルプルと震えながら怒りをギリギリで堪える希咲の様子に、周囲の者は身を退くが、弥堂は何ら悪びれる様子もない。


「きょ、狂犬クン? ほら、さ? 実際問題ね、女子にそんなこと要求するのは普通に間違ってるし、キミがさっき言ってた通り犯罪だからさ、ね? やめよ?」


 何故か、法廷院が気を使って執り成しに入るが、すぐにギロッと白井に睨まれて口を閉ざす。



「ふむ、そうだな。では間をとろう」


「あいだ? こんなのに何の間があるってのよ」


 平和的に公平な解決方法をとろうと風紀委員の弥堂から提案を持ち掛けるが、希咲の険は緩まない。油断をするとこの男は突然何を言い出すかわからないので一層不信感を強めた。


「うむ、こいつらはお前のおぱんつが見たい。お前は見せたくない。そうだな?」


「当たり前じゃない」

「いや、ボクらがパンツ見たがっているって言い方はなんか誤解を生むんじゃないかな」

「事実でしょ、変態ども」


「では、見たくないのか?」


「忌憚のない意見を言わせてもらえるのであれば、正直なところそりゃ見たいよ」

「しね、へんたい」


 忌憚のない意見を述べた法廷院は希咲に害虫を見る時の眼を向けられるが、何故か彼は胸を張り己というものを曲げなかったことを堂々と誇った。



「では、こうしよう。直接の目視はなし、代わりにどのようなおぱんつを着用しているのかを口頭で情報開示する。これで双方折れろ」


「ほう」

「ふざけんじゃないわよ!」


 弥堂からの折衷案に弱者の剣側は一定の興味を示し、希咲は激昂した。


「そんなの生温いわ! 納得できるわけがないじゃない!」


「ちなみにこれで解決しないのであれば、俺は再びお前らに暴力の行使をする。次は手加減はしない」


 ついでに白井さんも激昂したが、弥堂からの無慈悲な脅迫に屈してすぐに黙った。


 ということで、この場で納得のいかない者は希咲だけとなった。当たり前だが。



「どこが間なのよ! 結局あたしだけ損してんじゃない! ちょっと、聞いてんの? こっち向きなさいよ!」


 弥堂へと抗議をするが、怒りの声を向けられている彼はじっと車椅子に座る法廷院の方を見て反応をしない。弥堂の視線に気づいた法廷院も不思議そうに首を傾げた。


「ちょっと、弥堂!」


「あぁ、少し待て」


 詰め寄ろうとする希咲を片手で制し、ズカズカと法廷院の方へと歩いていく。


「ヘっ? えっ? なに? なんだい?」


 無言で近づいてくる弥堂に危機感を感じ焦るが彼は何も答えない。法廷院の背後の高杉が警戒の体勢に移るよりも早く、弥堂は車椅子のフットレストに置かれた彼の足をガッと乱暴に掴むとそのまま引っ張り上げた。急に重心が派手に加わって背もたれからひっくり返りそうになる。


「うっ、うわわわわっ」

「くっ、代表っ」


 それにより車椅子を支えることを余儀なくされた高杉は法廷院を守るために割って入ることが出来なくなった。


「ちょっ、ちょっと、何するんだよ狂犬クン!」


 弥堂は尚も無言で作業を進める。法廷院の履いている室内シューズをこれまた乱暴に脱がせるとその辺に適当に放り、そのまま続いて彼の靴下を脱がせにかかる。


「あぁっ! やめてぇっ! いやぁっ、無理やり脱がせないでぇっ‼」


 暴漢に乱暴をされる乙女のような悲痛な叫びをあげるが、弥堂は当然無視をした。


 そして何の苦もなく法廷院の両足の靴下を剥ぎ取ると、制服の上着の内ポケットから押収した証拠品を一時的に保存する為に常に持ち歩いている大きめの密閉袋を取り出し、その中に靴下を放り込み淀みなくチャックを閉めると懐へと仕舞う。

 脱ぎたてほやほやの靴下の温もりが袋と制服越しに伝わって大変に不快だったので、腹いせに車椅子に一発蹴りを放ち、そのまま何事もなかったかのようにもとの場所へと引き返してくると、唖然と口を開けて自分を凝視している希咲へと向き直る。



「どこが間なのか、だったな。いいか、よく聞け――」


『いやいやいやいやいや‼』


 その場の全員からの総ツッコミが入った。希咲からの質問に真摯に答えようとしていた弥堂は気分を害した。



「なんだ」


「なんだ、じゃねぇわよ! 今のなんなのよ⁉」


「なんのことだ?」


「いや! あれっ! くつした!」


 何のことだと聞かれても、何が起こったのかさっぱりわからなくて説明のしようもなく、突然衣服を剥ぎ取られて大変なショックを受けたのか、高杉の逞しい胸元に顔を埋めて泣きじゃくる法廷院を指さして一連の弥堂の行動を示唆する。


「うん? まぁ、気にするな」


「あんた何もかもが脈絡なさすぎるのよ……」


 弥堂は面倒だったので説明を拒否したが、希咲ももうだいぶ疲れが色濃く、別にあのような凶行の理由がどうしても知りたいわけではないのでスルーすることにした。


「うぅ……突然無理矢理に身を晒される恐怖がよくわかったよ……やっぱりこんなことはよくない……」


 法廷院は涙ながらに深く反省をした。



「うむ、どうやら奴も自らの行いを悔いているようだ。お前も少しは歩み寄っておぱんつの色と形状だけでも教えてやれ」


「ちょっと待って……とりあえずいやだけど、あたしもう、ほんともう……頭が追い付かないの……あんたマジでなんなの……」


「風紀委員だ」


「…………」


 希咲は身に襲い掛かる未だ経験をしたことがないような途轍もない疲労感に押しつぶされそうで、眉間を指で揉み解しながら何かを言い返そうとして口を開け、しかし返す言葉が何も見つからなくて諦めた。

 

 風紀とは何だったか、正しさとは何か。もう何もかもがわからなかった。



「うやむやにしようたってそうはいかないわよ。あなたのその口からしっかり説明なさい」


「白井さんホントしつこい……」


「白井さん! もうやめよう! これはとっても『ひどいこと』なんだ! だってそうだろ――あの差支えなければで結構ですので、簡単に開示できる範囲でいいのでどうかお願いします」


 改心した法廷院が擁護に回ろうとしたが、白井の一瞥であっというまに寝返った。人はそう簡単には変われはしないのだ。



「ほれ、さっさと言ってしまえ。適当でいいそうだぞ」


「てっ、適当たって……なんであたしが…………その、ふ、ふつうよ。ふつうのやつ……」


 嫌がりながらも希咲は何故か答え始めた。彼女からはもうだいぶ正常な判断能力が失われていたのだ。主に弥堂のせいで。


「普通ですって……? 色は?」


 しかし白井さんはその程度では納得しない。懐疑的な視線だ。


「え? 色?…………しっ、白よ。ふつうに白」


「怪しいわね……Tバックでしょ?」


「ちっ、違うわよ! 普通の白いやつ!」


「嘘ね」


「なんで!」


 キョロキョロと目を泳がせ、何故か周囲の者の顔色を伺いながら答える希咲の様子から、白井は嘘であると断定した。


「希咲、いい加減に観念しなさい。あなたはギャルなんだからどうせ黒でしょう?」


「ちっ、ちがうわよ! 嘘じゃないから!」


 白井による尋問が続く中、希咲はあくまで自身はシロであると言い張る。


 そもそも、もはや適当に答えればいい状況になっているので、黒だと言って納得させてしまえばいいだけの話なのだ。弥堂なりに配慮した結果このような状況を作り出したのだが、その意図は全く以て彼女に伝わってはいなかった。重ねて言うが、彼女は判断能力が疲労により平時よりもはるかに低下していた。主に弥堂のせいで。



 その弥堂は、希咲の下着になど興味がないので、スマホのメールチェックをしていた。すると新たに届いていた情報を確認していく中で、ふと、昼休みにY’sから送られてきた画像のことを思い出した。その画像とはもちろん『希咲 七海おぱんつ撮影事件』の証拠画像である。


「ふむ」


 顎に手を置き一つ頷くと、シロだクロだと言い合う女たちに目を向ける。


 適当に相手に話を合わせて終わらせろというこちらの意図は希咲には伝わっていない様子だったので、弥堂はもう自身が介入して終わらせることを決めた。



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