序章21 罪を補闕する罪 ④
「おいクズども。とんでもないことをしでかしてくれたな」
弥堂は背後の金づる候補から意識を戻し、法廷院たち獲物どもへと迫る。
「待ってくれよ、さっきも言いかけたけど大分誤解があると思うんだ。白井さんを止められなかったボクらも悪かったけどさぁ、でも結局は未遂だったんだ。性犯罪だなんて言い方はちょっと大袈裟なんじゃないかなぁ? だってそうだろぉ?」
法廷院は先程自分たちが被害者ぶっていた時とは論調をガラっと変えて弁明をしてきた。自らの主義主張を変えてでも責任を負いたくなかったからである。彼は紛うことなくクズであった。
「未遂? それに大袈裟だと? 被害者を目の前に随分と軽い物言いだな。例え実際にお前らが希咲のおぱんつを目にしなかったとしても、か弱き少女である希咲がお前らのような野卑な男どもに囲まれて、服を開けろなどと要求されることがどれだけの恐怖になると思っている? よくも日頃から懇意にある俺の大事なクラスメイトを傷つけてくれたな、俺は断固とした姿勢を崩さんぞ」
弥堂は懐に忍ばせた録音中のレコーダーを意識して、自分が日頃から被害者に近しい者であることを強調した。後々に自分にも金を受け取る権利があると主張する為である。彼もまた正真正銘のクズであった。
そして希咲は自分の為に争うそんな男達へ溝鼠を見るような眼を向け軽蔑していた。
「おいおい、狂犬クンさぁ、最初と言ってることが違うじゃないかぁ。キミ知ったことじゃないって言ってたよね」
「あぁ、俺が間違っていた。軽率で浅はかだったと反省している。希咲の受けた心の傷を思うと悔やんでも悔やみきれん」
弥堂は拳を握りしめ虚空を見上げながら瞑目をし、被害者の少女に対して真摯に心を痛めていることをアピールした。
「何を白々しいことを。今更キミがそんなこと言ったって一体誰が信じるっていうんだい」
「ふん、他人の心配をしている場合か? 今お前が気にすることは俺が信用に足るかどうかではなく、自分自身の無実をどう信じてもらうかだろう? 卑劣なレイプ魔が」
「レッ――⁉」
「おいおい、レイプだなんてそれは話を飛躍させすぎじゃないかぁ? 事実以上の罪に発展させようだなんてきっぱりと冤罪だし、ここまでいくと名誉棄損だぜぇ。だってそうだろぉ?」
突然飛び出した過激な単語に希咲が、自分がその被害者として仕立て上げられようとしているとまでは瞬時に思い至らず硬直する中、それでも勝手に自分の代理人のような立場に立った男と加害者の男の弁論は続いていく。
「飛躍だと? その認識の甘さからすると罪の意識も良心の呵責の欠片もないと見ていいんだな? お前らの罪が重くなったぞ。どういうことかと言うと、慰謝料の金額が上がる」
「罪? 罪かどうかを決める立場にキミがいるのかい? 起こったことを大袈裟に盛って在りもしない罪に仕立て上げるだなんて恥を知るといいよ」
「僕が言うのもなんですけど、代表よくもそんなこと堂々と言えますね」
余りに厚顔無恥な自分たちのリーダーの頼もしさに思わず西野が口を開いた。しかし本当にこいつが言うのもなんだったので特に誰も反応しなかった。
「恥を知らんのはお前だ。ついでにモノも知らん。いいか――まずお前らのような者が女子生徒の視界に入った段階で1割レイプだ」
「はぁっ⁉」
弥堂の口から語られ始めた検察側の主張に法廷院は驚愕した。
「次に希咲の半径2m以内に近づいて2割、話しかけて3割、複数人で行ったのは心象が悪いから4割、仲間に女を混ぜているのに犯罪を誤魔化そうという悪意を感じるから5割、通行を妨げたから6割、3分以上同じ空気を吸ったから7割、何かしらの要求をしたから8割、その要求が卑猥なものだったので9割、残り1割は実際に行為に至ったのかという点で物議を醸すが、もうすでに9割だ。5割も犯されていれば四捨五入によりもう全レイプされたと言っても過言ではないのでこれはもうレイプとみていいだろう。よって貴様らは懲役50年と1億円の罰金だ」
「生きづらすぎる‼」
あまりに理不尽な立証と、一切の弁論が認められないあんまりなスピードで下された頭の悪そうな判決に仰天した。
「そしてこれから先を、貴様らのようなクズに9割犯された女として生きていかねばならない希咲の境遇を儚んで、そのストレスにより傷ついた俺の精神的被害に対する慰謝料が5千万円だ」
「なんでキミにまで払わなきゃならないんだ!」
「ふん、文句は法廷で裁判官にでも言え。厳正なる法の下に必ず同じ判決が下るだろう。お前の人生はもうおしまいだ」
「無茶苦茶すぎるだろおおおお‼」
被告人が法の冷酷さに絶叫する中、先程からフリーズしていた希咲がハッとなって再起動する。そしてすぐさま喰ってかかる。
「ちょっと弥堂! あんたなに勝手なこと言ってくれてんのよ!」
「ちっ」
「なに舌打ちしてんだコラ。あんたいい加減にしなさいよね。誰が9割犯された女だアホ!」
黙って聞いている間に付けられたとんでもなく不名誉なレッテルについて抗議を入れる。弥堂としてはこの女に自由に喋られると非常に都合が悪くなりそうな気配を察した。
「そうだ希咲さん! 冤罪だなんて間違ってるぜ、もっと言ってやってくれ!」
「チョーシのんなボケ! 完全に冤罪でもないでしょうがこの変態!」
まさかの被害者自身からの自分への弁護にすかさず法廷院は便乗したが、彼女は全く以て味方ではなかった。
「落ち着け希咲。あのような凄惨な事件に見舞われたのだ、感情的になるのも無理はないだろう。だがそれでは卑劣な犯罪者どもの思うつぼだ」
「大人しく黙ってたらあんたの思うつぼだろうが!」
「そうだ。俺ならば思うままにできる。何故ならばプロフェッショナルだからだ。お前にもいいようにしてやるから大人しくしていろ。具体的に言うとまとまった金が入る」
「プロって詐欺のプロか! あんたのやろうとしてることって、こいつらのやり口を10倍くらい反社会的にした感じにしか見えないんだけど」
「それは誤解だ。俺はあくまでも厳正なる法の下に正義を行おうとしている。しかしそれは決して自己満足の為などではなく大事な友人であるお前を傷つけられた怒りと、そしてこんなことで今後のお前の人生を台無しにはさせはしないという強い使命感が俺を正義へと駆り立てている」
「あんたとあたしって友達だったっけ? 話すたびにケンカしかしてないと思うんだけど。だいたい正義って……」
急に友達ヅラし始めた男に胡乱な瞳になり、言いながら弥堂の目をよく見る。長い付き合いになる自身の幼馴染に正義大好きマンがいるので、希咲は正義とか言い出す人間にはそれなりに詳しいのだ。目の前の男もそうなのか検分をする為にじーっと目を見つめる。
「神に誓って真実だ」
「嘘ね」
検分をした結果、神どころかこの世界に信じているものなど何一つとしてないと言わんばかりの荒んだ眼をしていたので即座に斬って捨てた。
「てか、あんたさ。さっきから聞いてるとまるで裁判でも起こそうっていう風に聞こえるんだけど、どういうつもりなわけ?」
「まるでもなにも、裁判を起こすんだが」
「はぁ⁉」
依頼もしていないのに勝手に代理人ヅラをしていた男から、頼んでもいないのに勝手に法的な手続きをしようとしていたという驚愕の事実が決定事項かのように告げられ、びっくりした七海ちゃんのサイドテールがみょーんってなった。
「ざけんなぼけっ! あたしそんなことしてくれなんて言ってない!」
「そうだな。こういった悲惨な性犯罪では女性の被害者が口を閉ざしたくなってしまうのも無理はなく、そして実際に泣き寝入りしてしまうことも往々としてある。だが、それはよくない。俺に任せるといい。お前を一人にさせはしない」
「そういうこと言ってんじゃねぇわよ! あんた最後に何かいい風な台詞足しとけば騙せると思ってんだろ。バカにすんな!」
「お前の境遇を鑑みれば男に対して疑心暗鬼になるのも無理はない。だが俺だけはお前の味方だ」
「信用できるかアホ!」
酷く興奮した様子の被害者に弥堂は危機感を覚えた。これは一度落ち着かせる必要があると、そう判断をする。




