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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章21 罪を補闕する罪 ③

『知ったことか』、反射的にそう言い返そうとして弥堂は言葉を飲み込んだ。


 今の弥堂の関心は女性用下着のことではなく、法廷院たち『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』の面々の両親の資産だ。現在考案しているプラン通りに進めるのであれば、目の前のこのキャンキャン喧しい女の機嫌を損ねるわけにはいかない。希咲 七海の存在は重要なファクターとなる公算が大きい。


 弥堂はさりげない動作で胸元に潜ませたすでに録音状態のレコーダーとは別に所持している、もう一つのボイスレコーダーの録音開始ボタンを押した。


「…………」


「なっ、なによ」


 ジーっと値踏みするように無言で自分を見つめる弥堂の視線に居心地の悪さを感じて、希咲は胸を隠すように己の身体を掻き抱いて守りつつ、正対していた身体の向きを逸らした。


「安心するがいい、希咲 七海」


「は、はぁ?」


 希咲は目の前で自分を無遠慮に見ていた男から脈絡もなく安心を促されたが、その眼つきがとても安心をできるような類のものではなかったので不信感を強めた。


「酷い体験をしたな。随分と怖い思いもしただろう」


「はぁ……」


「これは決して許されるべきことではない、俺はそう考えている」


「……あんたなに言ってんの?」


 突然論調を変えて、何やらこちらに寄り添おうという気配を見せ始めた弥堂に希咲は警戒心を高めた。半眼で彼の顔を見遣りその仏頂面から真意を探ろうと試みる。


「か弱き女の身一つで複数人の野蛮な男たちに寄ってたかって……これは大変に卑劣な行いだ」


「……ねぇ、なんかその言い回し誤解を招きそうだからやめてくんない?」


「そうだな。確かに敏感な年頃の女子高生だ。周りの目も気になるだろう。無理矢理に己の身に刻まれた不幸な出来事を詳細には語りたくはないだろうし、また知られたくはないだろうな」


「だからそれやめろっての! 知らない人が聞いたらあたしとんでもないことされたって思われるでしょうが!」


 被害者女性の心の痛みを顕すかのような激しい希咲の声に、弥堂は義憤を燃やすと彼女へと痛ましい目を向け、壊れ物を扱うようにその肩に優しく手をのせる。


「俺は男だ。女性であるお前が受けた痛みや屈辱の全てを理解できるなどと安易には言えん。だが我が事のように心を痛めている。わかるな?」


「何言ってんのか全然わかんないんだけど。てか、さわんなっ」


 最大限の配慮をしたつもりだったが被害者自身からその肩にのせた手を払われた。心のケアとは難しいものだと弥堂は感じた。ぺちんと払われた手を見つめながら被害者の信頼を得る方法を考える。


「ふむ…………おい、希咲」


「あによ」


「かわいいぞ」


「…………あんたぶっとばされたいわけ?」


 考えた結果とりあえず見た目を褒めとくかと実行してみたら殺意でも籠っていそうな眼を向けられた。希咲も白井さんからしっかりと殺意の籠った視線を向けられていたが、死角からのため気付いていなかった。


「まぁいい。とにかく俺はお前を泣き寝入りさせたりなどはしない。決してお前を見捨てるようなことはしない。俺はお前にとって信頼の出来るパートナーだ。わかるな?」


「あたし、あんたが何言ってんのかマジで全然わかんないんだけど」


「そうだな。お前のような若い娘はこんな時どのように対処したらいいかわからないであろう。だが俺は専門家だ。俺は普段から女性の尊厳と立場を守る為に戦っている。実績も十分にある。俺に任せるといい」


「あたしがわかんないのはあんたへの対処の仕方なんだけど。てか、あんたあたしとタメで同じクラスだろうが。何の専門家だってのよ」


「うるさい黙れ。女のくせに口答えをするな。いいから俺に一任すると言え」


「あんたつい数秒前に女性の尊厳がとか言ってなかった? うさんくさすぎるんだけど」


「チッ、強情な女だ。だがいいだろう。俺はプロフェッショナルだ。お前が頷くまでこのままいつまででも続けてやる」


「はぁ? そんなのイヤに決まってんでしょうが! てか、めんどくさいわね。何がしたいのかわかんないけど勝手にしたらいいじゃない。あたし関係ないか――「よし、承諾したな」――えっ?」


 聞きたい言葉が聞けてもう用は済んだとばかりに、弥堂はクルッと身体の向きを希咲から法廷院たちの方へと向けた。


 突然態度を変えた弥堂に希咲は自分が面倒だからと適当に返事をしたら、なにかとんでもないことを承諾させられたのではと不安に駆られ、「ちょ、ちょっと――」と言い募ろうとする。

 しかし弥堂はもはや聞く耳を持たなかった。



 承諾を得るためにもっと強引な方法をとることも出来たが、この女は貴重な金づるになるかもしれない。その為にはある程度優しくしてやる必要があった。だがそれももう十分だ。


 つい今ほど行われていた会話は弥堂的に優しくしていたつもりなのである。


 背後で喚く希咲の声をシャットアウトする。この女にはもうこんなものでいいだろうと、そう判断をした弥堂は法廷院たちへと歩み寄る。



 近づいてくる弥堂の姿を見る法廷院たちはその迫力に呑まれた。


 先程まではどこか面倒そうにしていた弥堂であったが、今は無表情ながらもその眼に明確な目的を持った確かな強い意志を宿している。彼の放つその目に見えない空気感に怖気た。



 弥堂は彼らの目の前で立ち止まると怯える被疑者どもの姿を満足げに眺めつつ、先程考案しこれから進めていく自身の立てたプランを胸中で確認する。


 

 弥堂の計画とはこうだ。


 まず目の前にいる被疑者たちに自分たちが希咲へと性的暴行を加えたと認めさせる。その為の手段は問わない。


 次に、この話を大きくし必要であれば被害者である希咲自身にも大袈裟に騒がせ、表沙汰にすることを匂わせる。そして未成年者である彼らの両親を引っ張り出す。そこまでの手段は問わない。


 さらに、この件をなかったことにして欲しければと、こちらが納得するに足る金額を相手方から提示させ支払わせ、それに加え学園にも追加で寄付金を払わせる。それにより学園側にもこの件を黙認させる。当然これに至る手段は問わない。


 最後に協力者である希咲 七海に報酬として十分な金を渡してやる。放課後の貴重な時間を使って毎週決して少なくない日数をアルバイトに充てている女だ。金が好きなはずだ。当然これには口止めの意味も込められている。無論手段は問わない。



 完璧なプランであった。弥堂は再度確認しそう自認した。



 望外に降って湧いたまとまった資金を得るチャンスである。確実にモノにしたい。多額の示談金を巻き上げることは勿論だが、それに加えて寄付金まで支払わせれば学園側の覚えもよくなり、今後のこちらの活動に対する融通も利かせやすくなるであろう。弥堂はそう考えている。



 さらに――と。弥堂は肩越しに背後の希咲へとチラリと視線を向ける。


 今回の件と同様に、生徒に限らず他の男をこの女の色香で釣って脅して金を巻き上げることが出来れば、継続的な資金源とすることが可能となる。この女は永続的に金を産み出す鶏となるかもしれない。


 今日この時にこのような事件が起こったのならば、条件さえ整えてやれば同じ現象を意図的に再現することは可能なはずだ。男子高校生などというシケた獲物ではなく、もっと自己で資産を所有する社会的立場のある者を標的にすることが出来れば、より効率よく稼ぐことが可能となるであろう。


 連日のニュースなどを見る限り今のご時世、女が被害を受けたと騒げば大抵どうにかできる。弥堂はそう考えると同時に、金を産み出す女性という存在に対するリスペクトを深めた。


 希咲 七海――こいつは『使える』女だ。


 弥堂はそう考え、希咲に対する脳内評価を三段階ほど上方修正した。

 

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