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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章21 罪を補闕する罪 ②


「おい、お前らうるさいぞ。大体俺は何故騒ぎを起こしたのかと訊いたんだ。お前らの生殖活動になど興味はない。話を逸らすな」


「あんたが言うなっ‼」

「私から話を訊きたいなら私の味方をしなさいよ‼」


 風紀委員の弥堂 優輝は事件の聴取に応じようとしない女生徒たちを注意したが、その女どもから猛反発を受けて心底面倒そうな顔をした。


「こいつが悪いのよ!」

「この女のせいなの!」


 あくまで自分は悪くなく相手に過失があったのだと、そうお互いに主張する女どもに弥堂はまた人間の醜さを確認したようでうんざりとする。うんざりとするがここで下手な対応をとれば仲違いをしていたはずの女どもは突如として結託してこちらに牙を剝いてくるものだ。

 

 弥堂は慎重に我慢強く女どもの話を聴いた。



「つまり、そこの女が個人的に希咲に恨みを抱いた為に、所属組織の連中を焚きつけて襲撃に至ったと。そういうわけだな?」


 弥堂は罵り合い混じりの女どもの証言から何とかそれだけ要領を得た。


「そうよ!」

「ちょっと! それだと私が悪いみたいじゃない! こうなるまでに希咲に追い込まれたという前提をもっと尊重してちょうだい!」


 弥堂なりに中立的に判断をしたつもりであったが白井からクレームが入った。


「そうか。では希咲、お前が悪いそうだ。謝れ」


「なんでそうなんのよ! 大体聖人のことが好きだからって嫉妬からきてるんでしょうけど、そもそもあたしと聖人は付き合ってないし、お互いそんな感情もないのよ」


「そうなのか。おい、逆恨みだそうだぞ。謝れ」


「いやよ! それに私の主張は紅月くんのことがメインではないわ! こいつらギャルのせいで他の女性が不当に貶められているっていうことよ! 実際に私個人としても被害を被ったわ!」


「なるほど。おい、ギャルですいませんと謝れ」


「…………ねぇ? あんためんどくさくなって適当に応答してない?」


「…………」


 弥堂は希咲にそう懐疑的な視線で問われたが、それについては答えることが出来なかった。図星だったからだ。



「それで結局お前の要求はなんなんだ? 希咲に謝らせれば満足なのか?」


 希咲には応えずそう白井に質問する。顔を背けた希咲からのジトっとした視線が横顔に突き刺さるのを感じたが、弥堂のメンタルはその程度では揺るがなかった。



「そうね。謝ってもらうのはもちろんだけれど、その程度では到底許せるものではないわ。私と同じ苦しみを味わってもらうところまでを私は要求するわ」


「同じ苦しみだと? 一応校則で私刑は禁止されているが、それはどんな内容のものだ?」


「聞く必要ないわよ! だって元々言いがかりもいいとこだし、要求だって無茶苦茶だもの!」


「不当な要求かどうかは俺が判断する。とっとと何を要求されたか言え」


「こっ、こいつぅ、偉そうに……――まぁ、いいわ。あのね、男子の居る前でパンツ見せろとか言ってきてんのよ! 無茶苦茶でしょ!」


「おぱんつだと?」


「そうよ! こいつらったら――ん? おぱんつ?」


 先程自分が要求された過剰な贖罪の説明に再燃した怒りのままに、起こった事実を捲し立てようとした希咲だったが、弥堂の口から零れ出た『おぱんつ』という単語に引っ掛かりその勢いを失った。

 弥堂は希咲のその様子には構わず白井へと確認をする。


「おい、今のは真実か? 希咲におぱんつを開示しろというのがお前の要求なのか?」


「そうよ! 私はそいつらギャルのせいで着用しているおぱんつについて辱めを受けたのよ! だからそいつらにも同じ屈辱を要求するのも――え? おぱんつ?」


 白井の方も自身の身の内に宿す怒りを燃え上がらせようと、先程希咲にしたような持論を述べようとしたが、弥堂のおぱんつ発言に引っ掛かり言葉を途切れさせた。

 弥堂は白井のその様子にも構わず今度は法廷院たちへと顔を向ける。


「おい、貴様ら。これは本当か? 一人の女子生徒を複数人で取り囲んでおぱんつの開示を求めたというのであればこれは性犯罪だぞ。正直に言え。それからお前らの親はお前らの犯罪の示談のために慰謝料を支払う意思がありそうなのか、またその場合どれだけの金額を提示できる見立てなのか言え」


「ちょっと待ってくれよ、性犯罪だなんて。確かに僕らも白井さんが怖くて止められなかったから一部事実ではあるけれども、何も本気でおぱんつを見せろだなんてそんな――おぱんつだって?」


 弥堂からの追及にすかさずそのよく回る舌をフル稼働させて弁明をしようとした法廷院であったが、彼もまた弥堂の女子の下着を呼称する際の言葉のチョイスに引っ掛かり先が続かない。


 弥堂も弥堂でやはり法廷院たちのそんな様子にも構わずに思考を巡らせる。彼らの両親の経済状況がどれほどのものか、今はそれだけが重要であった。



 そしてそんな急にやる気を見せ始めた弥堂の様子を希咲が訝し気に見ていると、ふと二の腕を突かれた。そちらに視線を向けてみると隣にいた白井が指で突いてきたのである。無意味にちょっかいをかけてきたわけではなく、白井の意図するところが希咲にはそのコミュニケーション能力の高さから正確に把握できてしまった。ツッコめということであろう。希咲は顔を顰めた。


 正直触れたくはなかったが気になっていたことも事実である。希咲は渋々と何やら考え事に耽る弥堂に声をかけた。


「ね、ねぇ、弥堂?」


「……なんだ? 希咲」


 彼の性格的に『邪魔をするな』とでも悪態をつくか、単純に無視でもされそうだと予想していたが、意外と普通に応対してきた。いっそコミュニケーション拒否してくれた方がそれを理由に身を退き易かったのであるが、こんな時ばかり! と希咲は若干の憤りを感じつつ、しかし態度には出さぬよう彼に尋ねる。


「えっとさ……その、それなんなの?」


「それ? どれのことだ? ちゃんとわかるように言え」


「えっとぉ……」


 言葉を濁しに濁しまくった結果まったくと言っていいほど質問の意図が伝わらず、また希咲も自分でそれは十分に予想できていたので再度言葉を選びながら視線を宙に彷徨わせる。


 すると希咲が弥堂に声をかけた瞬間から隣を離れこちらと距離をとっていた白井と目が合った。彼女は顎をしゃくって弥堂を指し『行け』と言外に伝えてきた。グッと悔し気に歯を噛み締めながら弥堂へと言葉を重ねる。


「そのさ、おぱんつって一体なんなわけ?」


「質問の意図がわからんな」


「いや、だからさぁ――」


「言いたいことがあるのならばはっきりと言え。時間の無駄だ。お前が今現在その無意味に短いスカートの下に着用しているものが何かわからずに質問しているわけでは――貴様まさかおぱんつを着用していないわけではないだろうな? それは校則違反になる可能性があるぞ。おい、どうなんだ?」


「んなわけあるか! あほ!」


 こちらのスカートの股間部分を指差し、そう真顔で問い詰めてくるクラスメイトに、自分から振った話題ではあるが酷いセクハラを受けた気分になり思わずスカートを守るように抑え眦を吊り上げる。


 しかしここで激昂してはまた話が進まない上にわけのわからない方向に脱線をしかねない。希咲は努めて感情の抑制をし冷静に問い直す。


「じゃあもうぶっちゃけて聞くわ。あのさ、下着とかパンツとか何ていうかもっと一般的な名詞のチョイスがあるじゃない。なんで『おぱんつ』なわけ? あんたのそのむっつり真顔でそんなオタクが言いそうな単語言われると、キモイ通り越してなんか怖いんだけど」


 冷静に問うつもりであったがしっかりと余計な一言を付け加えた。この文化講堂での一幕が始まって以降、出会った全ての人物にセクハラしかされていないことに、七海ちゃんは内心激オコであった。


 しかし、そう罵られたも同然の弥堂は特に何を思うこともなくただつまらなそうに「あぁ、そんなことか」と理解をした。


「掟だ」


「はぁ?」


 簡潔にすぎる弥堂の返答では求めていた理解には足らず希咲は言葉尻と共に片眉を吊り上げる。


「俺の所属する部の掟で妙齢の女性が着用する下着については『おぱんつ』と呼称するように定められている」


「…………あんたの部活って一体何の活動をする部なわけ?」


「貴様には知る資格がない」


「あんたってさ、不器用で口下手な無口キャラだと思ってたけど、実はめちゃくちゃ口が減らないわよね」


 おぱんつ呼びの理由はなんとなくわかったような気もしなくもないが、今度は弥堂の部活動についての謎が現出する。特段必須な情報というわけでもなく強く知りたいわけでもないが、わけがわからなすぎて喉に刺さった魚の小骨のような不快さが残って気になるのだ。


 この弥堂 優輝という男を知るとそんなところばかりが次々と浮かび上がってきて、希咲は苛立ちに似たような落ち着かなさに苛まれる。



「ていうか、その掟って何のための決まりなのよ? そんな呼び方して何か意味あるわけ?」


「俺の上司が言うには、下着やパンツと呼ぶのは素っ気なくてリスペクトが足りんそうだ。だからおぱんつと呼称しろと強く言い含められている」


「いみわかんない。なんなのそれ」


「知るか。俺としてはお前らの股やケツを覆う布の名称などどうでもいい。だが上からそうしろと言われたらそうするまでだ」


「どうしよう。股だのケツだの布だの言われたら確かにリスペクトが足りないって思っちゃった。納得しちゃったじゃない、どうしてくれんのよ」


「…………」


『知ったことか』、反射的にそう言い返そうとして弥堂は言葉を飲み込んだ。


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