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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章20 奇人の箱庭 ④


「ひ……ひどすぎる……」


 その様子を後方で見ていた希咲は呆れるとともに、やはりあの男と味方的な関係でいることに強い恥じらいを覚え、たまらず顔を両手で覆う。


「ステキ……なんてドSなの……」


「あんた聖人が好きなんじゃないの?」


「ふふっ、それはそれ――これはこれよ」


「クソ女が」


 そして自身の隣でそれをうっとりとした目で見つめる白井に対して、自身の顏を覆う指の隙間からチラっと覗きながら貞淑さを問うと、あまりに都合がよく節操のない言葉が返ってきたので軽蔑の眼差しに変えた。




「くっ、なんて悪辣で横暴なんだ。だけど甘くみないでほしいね。確かにボクらは弱いけれどその分仲間同士の結束は固いんだ! 白井さん以外。自分が助かりたいからって仲間を売るような奴は一人もいないよ! 白井さん以外。だってそうだろぉ⁉ 西野君! 本田君!」


 圧倒的に不利な状況の中で突きつけられた悪辣で非人道的な要求に、法廷院は悔し気に顔を歪めながらもしかし、自分たちは決してそのようなやり方には屈しないと自らの意思を表明し仲間たちにも同意を求める。だが――


「――僕は命令されただけなんです! 本当はこんなことしたくなんてなかったんだ!」

「――お願いします! なんでも喋ります! 僕だけは許してください!」


「あんれぇ~?」


 しかし、自身の両サイドに居たはずの仲間たちはすでに弥堂の足元に縋りついていた。結束の固い信頼できるはずの味方は、仲間を売ることを秒で決断し助命を嘆願していた。

 法廷院はチラっと高杉を見遣った。彼はまだ気絶して床に倒れ込んでいた。


「ふぅ、やれやれだよ。まぁ、これも人の持つ弱さだよね。仕方ない、ボクは許そうじゃないかぁ」


 法廷院は諦めたように嘆息すると車椅子に座り直し、背もたれに自重を預けた。



「僕たちに背後団体なんていません。ここにいるメンバーで全員です!」

「ずるいよ西野君、それ僕が言おうと思ってたのに!――あ、ちなみにお金とかもちろん貰ってないです、自費で活動というかそもそも予算が必要になるような大層なことはやってません。放課後に適当に誰かに難癖つけるだけの活動です」

「おい、本田っ。今僕が喋ってるんだぞ!――あ、ちなみにこの本田は過食症とか言ってましたが只の自称です。医者には単なる食べすぎだと診断されてます」

「ひどいよ! 何で言うのさ! そういう西野君だって、さも高尚な意識高いビジネス書的なのを読んでるのをクラスで馬鹿にされたみたいな体でいつも語るけど、バレて晒されたのはエロ小説だろ⁉ 『メスガキ』とか『わからせ』とか品性を疑うね! なんで教室で読んじゃったのさ!」

「仕方ないだろう⁉ 難しい本買い集めすぎて何から何まで全部積んじゃってるんだよ! 時間がいくらあっても足りないんだ!」



 自分だけは助かりたい一心でお互いの恥部を暴露しあい醜く仲間割れを始めた目の前の二人に弥堂はまたも失望した。白井から得られた情報と大差がなかったからである。視線を法廷院の方へと向けてみると彼は無様に味方同士で蹴落とし合う同志二人を微笑ましそうに眺めていた。


 こいつを尋問して吐かせるべきか――と弥堂が思考を巡らせたところで法廷院の目がこちらを向き、


「あぁ、ボクから聞いても無駄だよ。彼らが言ったことで全部さ。キミの望むような新しい情報は残念ながら与えてあげられないね」


 先回りしてそう返答してくる。


「…………」


 法廷院の言っていることをそのまま信用するわけではないが、何か隠していることがあったとしても、今日彼らと対峙してみてわかった。彼らはただの高校生だ。例え裏があったとしてもどうせ大した脅威にはならないだろう。


 弥堂はそのように見切りをつけると同時に彼らへの興味を失い、急速にやる気もなくなった。こいつらを捕まえたところで、得られる評価から書類作成などにかかる手間を差し引いたら赤字になるのではないかと気が重くなる。


 まともに対処をするにもやっていることがしょぼすぎて、まず一発退学なんてことには出来ない。だとすれば解散するよう指導をしてその後定期的に監視をすることになるのだが、とてもではないがこんなチンケな連中にそんな時間と労力は割けない。

 よって、なかったことにして放置しておくのが最も効率がいいと考える。こうしてつまらない小悪党が蔓延り続けるのだろうと世の無常を想った。



「お前らもう帰れ、用済みだ」


「えっ? 僕達帰れるんですか⁉」

「誰も死ななくていいんですか⁉」


 突然今までの強硬な姿勢を翻した弥堂に西野と本田は驚く。半ばやけくそになりながら洗いざらい聞かれてもいないことまで必死に喋っていたので若干疑心暗鬼だ。


「ちょっと待ってくれよ、狂犬クン。そんな風に僕たちに価値がないみたいな言い方はないんじゃないかなぁ? 『差別』する気かい?」


「代表⁉」

「ちょっと何余計なこと言ってんですか⁉」


 まさかの身柄解放に不満そうな態度を見せる自分たちのリーダーに西野と本田はさらに驚いた。


「価値がないどころかお前らは相手にするだけ労力の無駄だ。失せろ役立たず」


「なんてこった。役立たずだって? なんてひど――「ちょっと待った」――んん? 何だい希咲さん?」


 またも口論を始めそうな弥堂と法廷院の会話に希咲が口を挟んだ。


「それならあたしの方から質問させてもらうわ。てか、一度訊いたけど答えてもらってないことがある」


「はーん? なんだっけかなぁ。聞かれたからって簡単に答えるだなんて思わないでほしいなぁ」


 挑発的な言葉とは裏腹にその顔は構ってもらえてうれしそうだ。



「うっざ……まぁいいわ。ねぇ――あんたがさっき言ってたあたしが『過保護』って、あれなに? 誰のこと言ってるの?」


 彼らと対峙した最初の方で話題にあがりそのままうやむやになっていた件だ。まるで自身の親友である水無瀬 愛苗のことを知っているかのような口ぶりで話していた法廷院の意図がずっと気に掛かっていたのだ。


「ふふぅ~ん。なんのことだっけかなぁ。ボクそんなこと言ってたかなぁ」


「あんた、また惚け――「はったりですよ」――は?」


 意地の悪い顏で惚けようとした法廷院に希咲が苛立たし気に言い募ろうとしたが、その言葉を言い切るよりも早く、法廷院の仲間である西野が白状した。


「代表のよくやる手口なんです。あぁやって知っているように仄めかして、相手がうっかり誰かの個人名を出したら『そうそう、その〇〇ちゃん』みたいな感じで」


「はぁっ⁉」


 まるで詐欺師のようなやり口に驚きつつも拍子抜けした。


「ちょっと西野君、困るよぉ。もうちょっと引っ張りたかったのにぃ」


「勘弁してくださいよ、代表! せっかく見逃してくれそうなのに何でまた煽るんですか⁉」


「だってさぁ、なんか悔しいじゃん? ボクらは弱いから勝てないのは仕方ないけれど、相手にする価値なしみたいに無視されるのは腹立つじゃん?」


「なにめんどくさいこと言い出してるんですか! 今日はもうやめときましょうよ」


「待ちなさいよ。まだ、ちゃんと答えてもらってないわ」


 西野と内輪揉めをしている法廷院に強くそう問いかける。希咲のその眼差しの真剣さに法廷院は居住まいを正した。


「そうだね、真面目に答えようか。――希咲さん。ボクはキミのいうその誰かを知らない。少なくとも今は、まだ、ね」


「……なんか含みのある言い方ね」


「他意はないよ。言葉通りそのままの意味さ。知らないしボクの方からそれを積極的に知ろうとするつもりもない。最初に言ったとおりに元々ボク個人としてはキミに害意はないんだ。今日は白井さんがさ、どうしてもキミに痛い目を見せたいっていうから仕方なくこういった形になったんだ。本当だよ、信じてほしい」


「…………わかったわ。とりあえず、それで納得してあげる」


「やれやれ疑り深いねぇ――と言いたいとこだけど、そうしてくれると今回は助かるよ」


 完全に疑問が晴れたわけではないが一旦希咲と法廷院との間で折り合いがつく。この連中は『強い者』を標的にしているようだし、そうであるならば間違っても、小動物のように可愛らしい自身の親友である水無瀬 愛苗(みなせ まな)が、彼らの標的になることはまずないだろう。


 そのように希咲は納得をすることにした。



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