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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章20 奇人の箱庭 ③


 パラパラと拳が抉った部分からコンクリの破片が落ちていく光景を間近で見ながら法廷院たちは絶句し、少し離れた場所で揉み合っていた希咲と白井は、弥堂が床を踏み鳴らした際の大きな音に驚き、お互い抱き合ったままで硬直した。



「おい、喜べクズども。お前らの大好きな『公平』とやらをやってやる」


「――へ?」


 言われたことが理解できず呆けたまま法廷院は聞き返す。


「俺が強いのは不公平なんだろう? 安心しろ、俺がお前らを強くしてやろう。手始めにお前らにも『コレ』が出来るようにしてやる」


「……えーと、それはちょっと無理なんじゃあ……」


 コンクリから拳を引き抜いて自分たちの前で手首をプラプラ揺らして見せてくる弥堂に、西野が恐る恐る返答した。


「無理、か。そうだな。俺も最初に『コレ』を見せられた時はそう思った。だが、こうして今出来るようになっている。安心しろ」


「ひぃぃ」


 とても人に安心を促すような眼つきではなかったので本田は怯えた。


「少しコツが要るんだ。爪先から捩じりながら足裏で床を踏み抜いて生まれた力を、各関節を回しながら体内でうまく流して拳まで持ってくるんだが……何を言っているかわからないだろう? 体内で力を流すということがどういうことなのか――これは体感出来ないとまるで理解が出来ない。俺もそうだった。だが、な。俺にそれを理解させる為に俺の師が教えてくれた画期的なコツがあるんだ。それがなんだかわかるか?」


 表情は変わらないがどこか凄絶な雰囲気を放ち問いかける弥堂に、3人は言葉が出ず黙ってプルプルと震えながら首を横に振った。


「なに、難しいことじゃない。力を徹すということがわかるまで『コレ』をひたすら自分の身体にぶちこまれ続けるんだ。師は云った。『死にたくなければ死ぬ前に出来るようになるのです』ってな。それがコツだ。俺が師にやってもらったことを、今度は俺がお前らにやってやる。公平で平等だ。どうだ? 嬉しいだろ?」


 弥堂が当委員会は非常に公平性を重んじる団体であることを彼らに伝えると、彼らは涙ながらに許しを乞うた。「無理だ」「死んでしまう」などと口々に叫んだ。


「なんだ貴様ら。さっきと言っていることが違うじゃないか。公平がいいんだろ? 平等に同じ数だけ拳を打ち込んでやる」


「キミの言ってることは無茶苦茶だよ! 誰もが同じように出来るわけないだろぉ⁉」


「そうだな、俺も最初はそう思っていた。だが、俺は出来た。俺一人ではサンプル数が足りない。だからお前らを使って実験をしようと思う。修練の過程でお前らが死ねばお前らの勝ちだ。お前らの言い分が正しかったことになるからな。その時は俺は反省をしてもう二度と弱い者に修練を無理強いしないと約束しよう。つまり以後弱者が無理強いされずに救われるわけだ。それはお前らの活動方針に沿うものだろう? 」


「くっ――なんて暴論っ! 自分がやる分には楽しいけど他人にやられるとこうも腹が立つとは」


 滅茶苦茶な論理を展開する弥堂に対して法廷院は悔しそうに呻いた。


「反論がないということは承諾したということだな? では始めるぞ」


「ままままま待って! 待ちたまえよ、狂犬クン! それは無理だよ! だってそうだろぉ⁉」


「それは拒否をするということか?」


「当たり前だろぉ⁉」


 慌てふためく法廷院の両脇にいる西野と本田も全力で拒絶の意思を示した。


「そうか。せっかくこの俺が譲歩してお前らのやり方に合わせてやったというのに拒否をするのか。ということは、俺のやり方でやっていいということになるな? まぁ、俺もお前らのようなグズに出来るとは思っていないから別に構わんがな。どうだ? 俺は優しいだろう? 」


 そう言って弥堂は手近な場所にいた西野に無表情のまま口の端だけ持ち上げて笑ってみせ、同意をするように圧力をかけた。


 西野はその弥堂に向って卑屈な笑みを浮かべ「あはは……」と曖昧な声をあげた。


「笑ってんじゃねえよクズ」


 スッと表情を落とした弥堂が、パァンと乾いた音を立てて西野の頬を平手で張った。


 西野は「あぁっ――」と情けない悲鳴をあげながら床に倒れ込むと叩かれた頬を抑えた。そこに彼の仲間の二人が心配そうに駆け寄る。


「では、優しい俺が不公平にやってやろう。そうだな……お前らの中で一人だけ見逃してやる」


「えっ?」


「さっきあそこの女から一通り情報は得た。それが正確なものであるかどうか確かめるためにお前らにも同じ質問をする。だが、それは一人で十分だ。面倒だからな。だから一番最初に俺が満足をするような情報を提供した者一人だけを助けてやる」


「なっ、なんてひどい! 一人だけなんてそんなの『不公平』じゃないか!」


 左手の親指を立てて自身の後方にいる白井を指し示しながら通告する弥堂に法廷院たち3名は口々に抗議した。


「そうだな、結果は不公平かもしれん。だが機会は平等だ。誰でも得られる資格はある。ただし、早い者勝ちだがな」


 そう無茶な諭し方をする弥堂に彼らは声を大にして人権の大切さを訴えたが、


「わからないか? つまり俺はこう言っているんだ――助かりたければ仲間を売れ、とな」


「なっ――」


 その言葉に彼ら3人は絶句した。



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