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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章20 奇人の箱庭 ②


 希咲の方も希咲の方で、内心で必死にメンタルを切り替えようとしていた。


(うぅ……情けない、恥ずかしい……こんなとこでこんな奴らの前で泣くとか……)


 思えば『弱者の剣』とかいうこの連中に絡まれてから調子を狂わされっぱなしであった。ここ数年でそれなりに精神的にも強くなり多少大人になったつもりであったが、今までの苦難とはあまりにも種類の異なり過ぎる出来事が、突発的に連続して起こったものだから完全に翻弄されてしまった。こんな風によく知らない人たちの前でみっともなく泣くのは何年ぶりであろう。


 そもそもその前に、白井の身の上話を訊いて一緒になってびーびー泣いていたのだが、彼女的にそれはノーカンのようであった。



 兎も角、想定外の出来事に弱いのは自分の欠点だと改めて自覚し反省するとしても、問題はこのむっつり顏のクソ野郎だ。


 チラッと相手に悟られないように弥堂へ目線だけ向ける。


 このクラスメイト兼イカレ風紀委員兼親友の好きな人という微妙に近くも遠くもない関係性の昆虫男には、盛大に文句を言ってやりたいところではあるが、それをしてしまえば先程の事実を認めてしまうことになる。


(だいじょうぶ……セーフ。セーフよ、七海。だってもう舐められたとこ乾いてたしそれに拭いたもん。だから論理的にも科学的にもセーフよ)


 勿論その前だって自分は何も見てはいないので絶対にセーフなのだ。だって見てないから。


(こんなことで意識して騒いでるとかバレたらナメられるわ。大体中学生じゃあるまいし、別に関節キスくらいで……いえそれは違うわよ七海っ。拭いたし乾いてたから、かかっかかか関節キッキキキキッ――でもないからっ! てか、関節キスだとしてもちょっとあれは生々しくない⁉)


『関節ベロチュー』という新たな概念との邂逅を果たしてしまったうら若き乙女はキッと再燃した怒りをこめて弥堂へ向ける眦を上げる。いつもと変わらず何事もないかのような無表情をしていて余計に腹が立つ。歯ぎしりでもしそうなくらいに睨みつけていると、こちらの剣呑な空気に気付いた弥堂も目を向けてきてバチッと目があった。


「ノーカンだからっ‼」


「なにがだよ」


 ブワっと腕を振り上げてからビシッと指を彼の眼前に突き出してノーカウントである旨を伝えるが、希咲に何が起こっているのかわかっていない弥堂にはそもそも最初からノーカン(なかったこと)なので柳に風だ。


 その余裕ぶっているように希咲からは見える弥堂の態度が何故だか無性に気に入らない。


(なんなのよ。なんであたしだけこんなに大騒ぎしなきゃなんないわけ。あたしやっぱこいつ嫌いだわ)



「ふん、そうやってこれ見よがしに泣いてみせたり怒ってるフリをしてみせたりして男の気を惹くのね。節操のないメスだこと」


「あんだとぉ。あんたにだけは言われたくないわよっ」


「なによ。紅月クンという人がいながら同じクラスの男子にまで色目を使うなんて私にはとてもマネできないわね。少しでも女として恥じ入る気持ちがあるのなら紅月クンと別れなさいよ」


「はぁ? だから別れるも何も付き合ってねぇって言って――ちょっと待った。あんた今、紅月くんって言った? んのやろぉ、本性出しやがったな。結局聖人(まさと)がらみか、あんたも!」


「あなたみたいな淫乱は彼にはふさわしくないのよ! 紅月クンを惑わせる性悪めっ‼」


「淫乱も性悪もあんたの方でしょーがっ! こんにゃろーひっぱたいてやる!」



 少しは落ち着いたと思ったら、またすぐにいがみ合って騒ぎ出す女どもが『にゃーにゃー』掴み合っている姿に、弥堂は侮蔑の視線をぶつけて放置し、床に座り込んで男同士で身を寄せ合って励まし合っている気持ち悪い法廷院以下3名の方へと歩く。



「なんだい? 言っておくけど今日はもう無理だよ。オーバーキルもいいとこだよ。正直早く帰ってシャワーを浴びたいね」

「まったくですよ、代表。僕なんかはすでに泣き止んでいることに自分で自分を褒めてあげたい気分です」

「死体蹴りとかやめてくださいよ? 弥堂君。今日はもうお開きにしましょう」


 辛い現実に打ちのめされた彼らはすっかり意気消沈をし、どこか投げやりになっていて、弥堂が近づいてきたことに気付くと口々に勝手なことを言ってきた。


「じゃあ、そういうことだから狂犬クン、また今度一緒に遊んであげるから今日のところは――おやぁ……?」


 自分たちの方へと近づいてくる弥堂に対して、本日は解散をする旨を伝えるが、弥堂はそのまま彼ら3人の脇を通り抜けると壁際で立ち止まった。

 弥堂は呆けた彼らの視線を気にすることなく、直立したまま壁に右の拳を押し当てて一拍を置くと――


――ズダンっと床を踏み抜くような音ともに押し当てた拳をコンクリートの壁にめり込ませた。



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