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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章19 剥き出しの幻想に包まれし者たち ④

 如何ともしがたい身体的特徴を散々弥堂に侮辱をされ、怒りのままに翻弄されていた法廷院から一転して逆転の宣言が為された。


 不敵に眼を光らせる法廷院 擁護(ほうていいん まもる)の言葉に弥堂 優輝(びとう ゆうき)は慎重にその真意を探る。


 その弥堂の足元では床にへたり込んだままの希咲が「うぅ……」と涙目で情けない呻きをしながら、弥堂のズボンの膝上あたりで先程舐められた手をゴシゴシしており、そしてさらにその希咲の様子を見て、白井が舌打ちをし苛立たし気にガリガリと爪を噛んだ。



「まさかこんな諸刃の剣があったとはね……だがこうなった以上はキミも道連れだ。ボクと一緒に高杉君の待つ地獄へ行こうゼェ」

「代表、高杉さん死んでないです」

「しっ――バカっ本田、声を出すな。気付かれるぞ」


 勝利を確信したかのように不敵さを取り戻した法廷院を向こうにして弥堂は油断なく見据える。



「フフフ。ボクのことばかり言ってくれるけどね、狂犬クン。そういうキミはどうなんだい?」


「……どういう意味だ」


「ハハハッ、さっき言っただろう。日本人男性の7・8割は包茎だって! ここには男子が5人いる。計算上その中で4人は包茎だってことさ」


「それがどうした」


「ククク……つまりボクはこう言っているのさ。ねぇ狂犬クン――キミも包茎なんじゃあないのかなぁ?」


 法廷院のその言葉に『どん』っと空間に激震が走ったかどうかは定かではないが、少なくとも法廷院の仲間である西野と本田はキョドった。確実に話の流れがマズイ方向になってきていると敏感に察知した彼らは、必死に己の存在感を薄めてどうか自分に話が回ってきませんようにと祈った。


 弥堂は何言ってんだこいつという気持ちで無言で眉を顰めたが、その弥堂の無言の隙を『効いている』と捉えた法廷院は俄かに調子づいた。



「だってそうだろぉ? まぁ8割って言ったらほぼ全員って言ってもいいかもねぇ。ひょっとしたら全員包茎だって可能性も十分にあり得るぜぇ? 『平等』に『公平』にみぃんな包まれているのさぁ! 素晴らしいことじゃあないかぁ」


 ドヤ顏で持論を展開する法廷院の言葉に西野と本田はビクっと肩を竦ませた。そんな彼らの様子を白井さんはじっと見ていた。


「ねぇねぇ、狂犬クンさぁ、キミはどうなんだい? キミも『包まれ棒』なんだろぉ? 恥ずかしがらずに言ってごらんよぉ?」


「下らんな。お前と一緒にするな包茎院」


 その呼称に包茎院はコメカミにビキっと血管を浮き上がらせるが、かろうじて笑顔を保ちスルーした。ここで仕留め損なえば自分たちはもうノーチャンスだ。今有利なのは間違いなく己なのだと戒める。慎重かつ確実に事を進める必要があると彼は感じていた。


 心底から下らないとつまらなさそうに返答する弥堂の股間部分を白井さんはじっと見ていた。


「ちょっと男子ども! そういう会話は女子のいないとこでやってよね」


 少しばかり気を持ち直したらしい希咲が、まだ床にぺたんと座ったままだが咎めるように軽蔑の眼差しで、お手本のような女子台詞でコンプライアンスの重要性を訴えるが、法廷院はそれを無視して続ける。


「一緒にするなって? それはどういう意味なんだい? まさか自分は『むきだし棒』を所有しているとでも主張するのかな? おいおい、見栄を張るなよぉ。いいじゃないか、ほんとぉのことを言ってごらんよぉ。なぁに、恥ずかしがる必要なんてないんだ。みぃんな同じなんだよぉ。ねぇ、西野君、本田君?」

「え⁉ いや、それはまぁ、そういうデータが出ている以上そういう事実が存在する可能性は高いと、客観的にはそう捉える必要があると言わざるをえないかもしれませんね」

「あー、高杉さんが動いたー目を覚ましたのかなー? あれー違ったー、勘違いかー」


 西野君と本田君は明確な回答を避けた。



「ほら彼らもこう言ってるじゃあないかぁ。キミもそうなんだろぉ? 正直に言ってごらんよぉ」


「同じことを何度も言わせるな。この質問に何の意味がある」

「サイッテー」


「おいおいおい、話を逸らそうとするなよぉ。もしかして必死かいぃ? もう素直に認めちゃいなよぉ、狂犬クゥン。自分は『包まれし者』だってさ。キミがいくら『むきだし』の申告をしてもボクらには真実はむきだされないからねぇ。だったら信頼の出来る機関がむきだしたデータの方を信じちゃうよぉ。だってそうだろぉ? キミが『包まれし者』ではないと証明しようとするならもう実際にむきだすしかないんだ。でもそんなの出来るはず――「――見せなさいよ」――えっ⁉」


 完全に勝利ムードの法廷院が畳みかけようとした時、なんか知ってるパターンで白井が口を挟んだ。先程同様に『弱者の剣』男子メンバー3人はギョッとして白井の方へとバッと顔を向けた。



「何よ。見せればいいじゃない。証明なんて簡単でしょ? むきだせばいいじゃない」


「白井さん、キミはその方向性でいいのかい?」


「あんた完全に痴女じゃない……そこまで追い詰められてるの……?」


 希咲と法廷院が同情の眼差しを向けたが白井さんは自分に向けられる憐憫には気が付かなかった。何故ならば、彼女は先程からずっと目ん玉かっ開いて弥堂の股間を凝視し続けていたからである。彼女はもう誰にも救えない。



 完全に正気を失っているとしか思えない白井が常軌を逸した要求を弥堂へと叩きつける。


「どうしたのよ、弥堂 優輝。さっさとむきだして見せなさいよ。いつまで包まれているつもり?」


「この女はイカレてるのか?」


「アハハハ、そ、そうなんですよ。彼女ちょっとおかしくて……」

「ほ、ほら、白井さん。下がりましょう。普通に殴られますよ」


 西野と本田が弥堂へと卑屈な笑みを浮かべ誤魔化すようにしながら白井を回収しようと彼女に近づく。


「邪魔をするなああぁぁぁっ」

「あぁっ」

「ひぃっ」


 しかし、腕をぶん回した彼女にあっさりと振りほどかれ、続いてギンっと血走った眼を向けられると彼ら二人はあっさりと引き下がった。

 

「さぁ、邪魔者はいなくなったわ。心置きなくむきだすのよ、弥堂クン……だってずるいじゃない? あなたさっき私のむきだしのお尻を鑑賞した挙句にその足でじっくりと感触まで楽しんだじゃないの。私にも見るくらいの権利があるはずだわ」


「お前程度の女の尻で俺を楽しませられたとでも思っているのか? 思い上がるなよブスが」


「んっ……なんてオレ様なの……嫌いじゃないわ。でもこれは貴方の為でもあるのよ? 弥堂クン」


「なんだと?」


 公衆の面前でむきだすことで何かしらのメリットが自分にむきだされるようなことがあるのかと、弥堂はつい聞き返してしまった。


「むきだしてみてもちょうだい――考えてみてもちょうだい。このコンプレックス拗らせたクソ童貞どもは何としてでも貴方を貶めてやろうと必死なのよ。きっとこのままいつまででも粘着してくるわ、他にやることがないから。だったらさっさとむきだしてしまった方が、貴方的にも他の仕事に早く取り掛かれるから効率がいいと思わないかしら」


「ほう、一考の余地はあるな」


 自分の仲間を貶める発言をしてでも男子の男子的な部分を目視したい。花も恥じらうはずの地味系JK白井さんは欲望と好奇心を剥き出しにして必死だった。

 彼女は普段は比較的大人しく真面目に学園生活を送っている生徒なのだが、この『弱者の剣』の活動中は何かが開放されるのか、普段被っている一般人の皮の中身が剥きだされすぎてしまう傾向があった。



 その白井の説得に弥堂は一定の理解を示す。効率がいいというフレーズが気に入ったのだ。


「ちょっ、ちょっと弥堂もなに納得してんのよ! そんなのダメに決まってるじゃないっ」


「黙りなさいよクソビッチが! なに? 自分はいつでもそんなもの好きなだけ見放題だからって余裕を見せつけているわけ⁉ 見下さないでちょうだい‼――あ、弥堂クン、ちなみにむきだしてくれたら私は知ってること何でも喋ります」


「誰がクソビッチよ! あたしだってそんなもん見たこと――「――よし、いいだろう」――は?」


 白井へと怒りの反論をしようとした希咲は、耳を疑うような了承の言葉が弥堂の口から放たれ、ビシッと固まった。


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