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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章19 剥き出しの幻想に包まれし者たち ①

 弥堂 優輝(びとう ゆうき)法廷院 擁護(ほうていいん まもる)は対立し対峙する。


 彼らの保有する暴力装置であった元空手部の高杉は弥堂によって倒された。それにより『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』のメンバー達が劣勢に震える中で、彼らのリーダーである法廷院だけは不敵な態度を崩さず弥堂の前へと立った。



 放課後の私立美景台(みかげだい)学園の敷地内東側にある、主に文化系の部活動の活動場所となるこの文化講堂にて、交友のある上級生への所用を済ませた希咲 七海(きさき ななみ)が、下校をするため生徒用の昇降口棟へと向かう目的で、文化講堂から南側に隣接する文化系クラブ用の部室棟へと繋がる講堂内の二階連絡通路を通行しようとした時に、この集団――『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』と名乗る法廷院率いる一団に行く手を阻まれた。


 希咲に用があると彼女の行く手を阻んだ一団の中の一人の女生徒――白井 雅(しらい みやび)が過去に希咲から受けた被害により恨みを抱いていると申し立て、一方的な言い分から仲間とともに希咲を取り囲み糾弾をした。

 所以なき罪過で理不尽に贖罪を強要された希咲だが、明確な冤罪ではあるものの、この場には彼女の味方はおらず大きく心を揺るがすこととなる。そして危ういところでその場に介入してきたのが、クラスメイトである弥堂 優輝であった。


 風紀委員会に所属している弥堂は、放課後に部活動などの正式な活動目的があるわけでもなく、不用に居残りをしている生徒が校舎内に居た場合、その者に対して速やかな帰宅を促すことが通常業務である為、職務に従い校内の見回りをしていたのだ。

 その見回りでここ文化講堂を訪れた際に、希咲と法廷院一行との間で起こっている騒乱を発見し状況に介入した。


 校則の下に帰宅を命じる弥堂と、権力を行使する風紀委員への組織的な敵対を宣言する法廷院。『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』という迷惑行為を働く新勢力がいるとすでに報告を受けていた弥堂は、彼らがその組織であると名乗ったことにより、粛清・捕縛を決断した。


 偶発的な遭遇ではあったが、構成員の一人である高杉 源正(たかすぎ もとまさ)は弥堂によって潰された空手部の元部員であると名乗り、弥堂が以前に行った空手部に対する指導の強制執行について問い質した。

 話は決裂し暴力を以てぶつかり合った両者であったが、結果は弥堂の圧勝であった。


 しかし勝利はしたものの、過剰で悪辣で卑劣な弥堂のやり方に憤慨した希咲は彼を糾弾した。

 だが、あまりに冷淡な態度をとり続ける弥堂に対して、クラスメイトでもある彼を心配する想いもあり道理を説くが、何を言ってもまるでとり合ってもらえず、現況の立場上は彼は自分を助けてくれた味方であるはずなのに、そのあまりの不透明さから心乱される。


 そんな希咲の心境を置き去りにしたまま、彼女を中心として起こったはずのこの対立は弥堂 優輝と法廷院 擁護の対峙によって今、希咲 七海の目の前で確実に終幕へと向おうとしていた。





 口火を開いたのは弥堂へと粘着いた視線を絡めて、挑戦的に歯を剥いた法廷院であった。


「まったくひどいことをするねぇ、狂犬クン。高杉君は空手部解散の真相を知りたいと言っていたのに、それを教えてあげもしないまま殴り倒すだなんて。こいつは大問題だぜぇ? だってそうだろぉ? 風紀委員ってのは生徒を守るもんじゃあないのかい」


「違うな。風紀委員が守るのは風紀、つまり貴様らグズに規律・校則を守らせるのが仕事だ」


「その校則ってやつは生徒みんなが快適な学園生活を送るためのものだろぉ? いくら決まりだからってそのためには個人の気持ちや主張を蔑ろにしてもいいって、キミはそう言うのかなぁ?」


「生徒が規則を守るものであって、規則は生徒を守るものではない。社会――この場合は学園を正常に維持するために規則は存在する。貴様ら一人一人の意思などどうでもいい。生徒などいくらでも替えがきく。そんなものに個別に構っていられるか、効率が悪い」


「おいおい、キミだってその生徒の一人だろぉ? 色々噂は聞いてるぜぇ? キミはその規則とやらを守らせるために随分と規則を破ってるんじゃあないのかぁ? それは許されるのかい? 自分は特別だとでもぉ? そんなの『不公平』じゃあないかぁ」


「誰の許しを得る必要がある? 規則を破る連中相手にこちらが規則を守ってやる義理などない」


「それって本当に風紀委員会の方針であり総意なのかい? そんなことをしてるのはキミだけじゃあないのかぁ? キミのやってることが表沙汰になったら処分されちゃうんじゃないのかなぁ? それでも構わないんだよねぇ? だってそうだろぉ? 生徒なんていくらでも替えがきくって言ったもんなぁ」


「そうだ。俺の代わりなどいくらでもいる。不要となれば切られるだろう。だが、現状そうはなっていない。つまり貴様らのようなクズをもっと粛清しろという意味だ」


「なんてこった。粛清だなんて野蛮だねぇ。そのためなら暴力も脅迫も厭わないって言うのかい? 」


「俺の役目は学園の風紀を守ることだ。結果的にそうなるのであれば、それまでの過程や手段などどうでもいい。大事なのは現在治安と風紀が維持されているという事実と実績だ。それを乱すものを全て消してしまえば治安は守られているということになる」


「ハハハハッ! こいつは参ったね、まさしく狂犬だっ! イカレまくってるぜぇ!」


「狂ってなどいない。正常で優秀な犬だ。お前らを潰すことでまた一つ俺の有用さを証明することができる。お前らクズが何かの役に立つことなど、お前らの人生の中でこれが最初で最後だ。俺が有効活用してやる、感謝しろ」



 途切れることなく矢継ぎ早に応酬される弥堂と法廷院の問答。


 希咲はそれを何とも言えない気持ちで見守っていた。



 成り行き上というか立場上、どう表現するのが最適なのかわからないが、一応は立ち位置的には弥堂は自分の味方ということになる。首をかしげたくはなるが、仮にも所属としてはクラスメイトでもあるし、風紀委員会の報告にあがるような迷惑集団に絡まれていた自分を助けてくれたような形にはなっている。だから多分、自信はないけどきっと、限りなく味方に近いニュアンスがそこはかともなく見てとれるような気がするかもしれない感じの何かなのだ。


 その味方的存在のここまでの発言を聞いていると、何というか、どこぞの軍事力によって圧政を布いている独裁国家の軍部が民主化を求める自国民を既得権益を独占するために弾圧しているかのような台詞ばかりが、ポンポンと弥堂の口から飛び出してきていたものだから、希咲は味方的な立場の自分まで何かとてつもなく悪いことをしているような気がしてきて、大変に居心地が悪くなっていた。弥堂は自信満々に断言口調で色々言い放っているが、希咲の持つ普遍的な常識や知識の中にある一般的な風紀委員とは決してそういうものではなかったはずだ。


 法廷院たちも法廷院たちで十二分にアレなのだが、ここまでの展開だと4:6くらいで、まだ向こうの方がマシなような気もしなくもなくて、正しさとは一体何なのかという答えの出ない命題の沼に沈んでしまいそうだ。

 このまま弥堂に喋らせていてもいいのか、もう止めた方がいいのではないか――その判断は非常に難しく、また先程弥堂に対してかなり本気で声を荒げてしまった気まずさも手伝って軽口をはさむのも憚れてしまい、七海ちゃんはお口をもにょもにょさせた。


 そうして希咲が逡巡している間にも二人の舌戦は続いている。



「大体ね、ボクらが一体何をしたっていうんだい? 何の罪に問うって言うのさ?」


「この時間にここに居る時点で規則違反だ。何度も同じことを言わせるなグズが」


「おいおい、風紀委員だってのに校則を正確に把握してないのかい? 部活や委員会のない生徒の速やかな帰宅ってのはあくまで『推奨』だろぉ? 強制ではないはずだぜぇ? まさかそこんとこ勘違いして指導してるってんならこんな間抜けな話はないよなぁ! そこんとこどうなんだい? 狂犬クゥン?」


「間抜けはお前だ。いいか? 推奨とは望ましいということだ。この場合、我が校の理事長並びに生徒会長閣下が貴様ら生徒どもが速やかに帰ることを望んでいるわけだ。この意味がわかるか?」


「ああん? だから強制はしないってことだろぉ?」


「ハッ――無能が。頭の悪いお前に教えてやる。強制ではないだと? 阿呆が。推奨と表現しているのは、こうしてお前らのように学園の支配者や上司の望みを汲み取ってそれを実行することの出来ない役立たずを炙り出す為だ。そして――その足手まといを始末することが俺達風紀委員会の役目だ」


「ハハッ――頭おかしすぎるぜぇ! そんな学校組織あるはずないだろう? そんな教育機関のどこに正義があるっていうんだい」


「正義だと? 反抗勢力を名乗っておいて白々しいことを抜かすな――慈善家気どりのテロリストが」


「反抗勢力だって? おいおい、変なレッテルを貼るのはやめてくれよぅ。誤解されてしまったらどうしてくれるんだい? ボクらはあくまで『弱者』を守るための活動をしているだけだよ。なにせキミたちがやらないからねぇ。それどころか『権力』を自慢げに振りかざして『弱者』を生み出しているみたいじゃあないか」


「一人歩きしている生徒を取り囲んでわけのわからないことを喚きたてることが弱者の救済になるのか? 随分先鋭的な活動だな」


「それは『弱者』の知恵ってやつさぁ。せめて数的有利でないととても『強者』には挑めないからねぇ。ボクたち『弱者』の手で『強者』を倒して同じ場所まで引き摺り降ろすのさぁ。均等に均すためにねぇ。まさか正々堂々一対一で正面から挑めと言うのかい? でもさそれじゃあ『公平』にならないと思うんだぜ。だってそうだろぉ? 普通に戦ったら絶対に『強い』方が勝つに決まっている。そんなの『不公平』じゃあないかぁ。『強い』者しか勝てないだなんて、『強い』者の言い分しか通らないだなんて、そんなの『ひどい』じゃあないか。そうやってキミたち『強者』がボクたちに『弱者』でいることを強いているんだぁ。『平等』にボクらにも勝利する機会を寄こせよぉ。『ズルい』じゃあないかぁ。ボクら『弱者』にはいつだっていつまでだって負け続けていろとでも言うのかい?」


「被害者ぶるなクズが。これも勘違いしているようだが、強い者が勝つのではない。勝った者が結果的に強かっただけだ」


「それこそ『強者』の理屈だぜぇ。勝っているからこそそんなことが言えるのさ。だってそうだろぉ?」


「いいや、違うな。お前らは弱いから負けるのではない。そこで無様に寝ている男が負けたのもそいつが弱いからではなく、ましてや俺が強いからでもない」


「はぁ? じゃあ何だっていうのさ? 何の故あってボクらは常に不遇なままで煮え湯を飲み続けていなければならないと言うのさぁ。納得のいく理由を説明してごらんよぉ。何故だよぉ?」


「何故だと? 簡単なことだ――」


 何の感情も宿さない冷酷な瞳が法廷院を見下す。


「――運がなかったのさ」


「そんなことが認められるかよおおぉぉぉっ‼」



(うぅ……ひどすぎる……)


 延々と続くかと思われた二人の言い争いは趨勢が見え始める。


 希咲は自分の味方的な立場の男の言い分の酷さに頭を抱えた。

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