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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章18 偽計に散る義侠の火花 ③


(思った通り高杉の奴もけっこう『やる』けど、弥堂――あいつただの乱暴者ってわけじゃないのね)


 両腕の袖口と胸元をポンポンと払う弥堂を見ながら、離れた場所で希咲 七海(きさき ななみ)は目を細めた。


(高杉の空手は多分あと1・2回見れば真似できそう。だけど弥堂のはなんか変。よくわかんなくて多分真似できない)


 手慰みに指先で唇を撫でながら思考する。


(でも、あのハイキックは覚えた。あんな蹴り方もあるんだ。ちょっといいもの見たわ)


 クスリと笑みを漏らす。


(このままやったら弥堂が勝つ。格闘技のことはわかんないけど、弥堂の方が戦うのが上手い。多分人を攻撃したり、人に攻撃されたりするのにすごい慣れてる。普通じゃないくらいに……あいつ、どういう奴なんだろう)


 おそらくこの時が、希咲 七海が自信の親友である水無瀬 愛苗(みなせ まな)との関連性以外で、初めて弥堂 優輝(びとう ゆうき)という個人に対して関心を持った時であった。


(興奮してるように見えるけど、高杉は息を整える時間稼ぎで喋ってる。弥堂も多分それがわかってて付き合ってる。なんで? 正々堂々とか本気の勝負をとかそういうタイプじゃないわよね。そういえば師匠さん? メイドさん? メンヘラの――その人が彼女ってことなのかな? てことは年上? さっきの話と合わせるとそういうこと、でいいのかしら……)


 思考が少しずつズレていく。


(てか、制服の汚れとか気にするんだ。ズボンの毛玉は無視したくせにっ。でも喧嘩中にそんなのに気を取られるようなデリカシーなさそうだけど、変なの。あっ、てかてか、普段から聞いたことまともに答えないくせに、そのメイド彼女さんのことだけは答えてる気がする。気のせい? ないと思うけど、もしも彼女さん大好きでつい余計にその話題だけ喋っちゃうとかだったら――) 


 揃えて伸ばした手の指先で口元を隠す。


(――ちょっとかわいいかも――なぁんて)


 もはや戦況の考察でもなんでもなく、弥堂が聞いたら怒りそうな想像に発展し、手で隠した唇で緩やかな弧を描きニンマリとした笑みを浮かべ、弥堂の後頭部に生温い視線を向ける。



 高杉もまた息を整えながら弥堂 優輝について考察していた。


(先輩たちを倒したというのが事実ならば俺よりも強い可能性は想定していたが……まさかここまで技術に差があるとはな。これは参った)


 頬に垂れてきた汗を腕で拭う。


(稚拙、などと言っていたが素晴らしい技術と立ち回りの完成度だ。道場などで習う種類のものではない、おそらく膨大な実戦経験を積んでいる。あの年齢で、どうやって?)


 視線の先の弥堂は息も乱さず表情も乱さず、ここに現れてからずっと変わらず同じ調子だ。


(このまま同じように挑んでは技術で圧倒されるだけであろう、だが――)


 コオォォォォと下腹から息を吐き出し、呼吸を整える。


(――だが、パワーとタフネスならば俺に分があると見た。先程のハイキック。速度と精度は見事だが、しかしあれならば耐えられる。相打ちに持ち込んで強引に叩き込む……先手の一撃はくれてやる。だが、その一撃で俺を仕留められなければ俺の勝ちだ、弥堂っ)



 拳を握りしめる高杉の背後で彼の守るべき『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』の仲間たちが不安そうに戦況を見守る。


「だ、代表。なんか思ってたよりずっと本格的なバトルが始まって困惑してるんですけど、これ大丈夫なんですか?」


「どっちが勝っても酷いことになりませんかこれ? 傷害事件の臭いしかしないんですけど! やばいですよ!」


「くっ……暴力を止めることの出来ない弱いボクを許してくれ、同志たちよ。こうなったら仲間を……高杉君を信じようじゃあないか。ねぇ、白井さん」


「えっ? あの、なんで私の名前知ってるんですか? 初対面ですよね? 気持ち悪いです…… 」


「キミのクズっぷりは清々しいねぇ……それもまた弱さかぁ……はぁ……」



 仲間たちの熱い応援の気持ちを背中に受け高杉は覚悟を決めた。


高杉 源正(たかすぎ もとまさ)だ。この名を憶えておくがいい、弥堂 優輝っ!」


「いいだろう。レポートに書いておいてやる。取るに足らないクズだったとな」


「連れないではないか。嫌いではないぞ。その胸に俺の名をしっかりと刻ませてやる。次で決着をつけるぞ!」


 気炎を上げる高杉に弥堂はもう答えず、しかしここで初めて構えを見せた。



 先程同様に左肩を前に出す半身のまま右足に重心を置き腰を落とす。先程までは腕を垂らしガードは下げっぱなしであった左腕を上げて、拳は握らず指は緩く開けたまま手の甲を高杉へと向ける。そして右手は腰の裏に回し相手からは見えないように隠した。

 先程までのアウトボクサーの様に後ろ足に重心を置いて、素早く回避をすることを重視した立ち方ではなく、その場にずっしりと根を下ろすような構えだ。


 その姿に高杉は相手にも必殺の意志を見た。


(形意拳……? 中国拳法は詳しくはないがそのあたりと似ている気はする、が、後ろに隠した右手はなんだ? 暗器でも使う気か? ……ふん、ナイフでもなんでも好きに使うがいい。こちらのやることは変わらんっ)


 脇の下で手の甲を下に向けて引き絞るように構えた右の拳を堅く握る。左手は大きく前に突き出し開いた掌を弥堂へと向ける。開いた両足でしっかりと大地を踏みしめ、コオオォォォと息吹を行う。


(こちらから仕掛けて右のハイキックを誘う。その蹴りかもしくは隠し武器の攻撃をもらいながら強引に捕まえて手刀をくれてやる。20枚の瓦を叩き割る俺の手刀に耐えられるはずがない。一撃耐えれば俺の勝ち――仕留め切れればお前の勝ちだ弥堂っ)

 

 息を吐ききり、意を決め、筋肉はリラックスし集中は高まった。後は実行するのみ。



「征くぞっ!!――」


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