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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章17 適応異なる異なら不る因子 ④


「でも、ミスってどういうこと? その、普通にしてればそんな簡単にバレたりはしないわよね」


 法廷院たちへと問いかける。


「そうだな。今にしてみれば俺も若かったのだろう――」

「あ、また例の語りですね、はい、どうぞ」


 同じ高校生であるはずの高杉君はやたらと老成した仕草でまたスッと遠い目をした。その意図を敏感に察知し速やかに続きを促す希咲は、この短時間で聞き手役がかなり板についてきた。


「うちの空手部は中々に成績のいい部でな、この学園の中でも所謂本気系と呼ばれる部活動なのだ。学園自体が設立して十数年程度のまだまだ新設校と呼ばれるようなうちの学園ではあるが、空手部はその学園設立当初から活動をしている、我が校ではそれなりに伝統のある部なのだ」


「あ、そうなんだ。あたしが入学した時ってなんかやたら格闘技の部活多かったからそういうの全然知らなかったわ」


「そうだな。今ではそこの弥堂のおかげでファッション感覚の軟派な格闘部は大分減ったが、本気で活動をしていたのは空手部に柔道部とあとは精々ボクシング部くらいで、残りはもう過ぎ去ったがここ数年の格闘ブームの影響で設立された遊びでやっているような部活なのだ」


「はー、そうだったんだ。なんか全部一緒くたに見ちゃってたわ。ごめんね」


「よい。直接的な関わりのない者には意外と知られていない、そういうことは間々ある」


 知ろうとしなければ得られない知識、こうして偶発的に遭遇しなければ知らないままであること。


 希咲は自分が1年間毎日通った学園でもまだまだ知らないものは多くあるのだろうと、自身の通う学園への理解をより深めることを決める。今後自身が卒業をして何年か経てば自分の弟や妹たちの進学先の選択肢として、当然この私立美景台学園もその候補に挙がってくる。その時にしっかりと自身の母校となるこの学園を紹介できるように、もっと色々知っておかねばと『うん、うん』と頷き胸中に留め置く。



「つまり空手部は本気で武を志す者たちの集いであったのだが、そうすると当然俺好みの屈強な男たちが多くてな」


「あっそ」


「今時――という風に思われるかもしれぬが、そういう気質の運動部であるから当然上下関係には厳しい」


「まぁ、ありがちよね」


「うむ。なので当時――俺が在籍時の去年は一年生だったわけだが――下級生の俺たちはなかなか組手などをさせて貰える時間やスペースは与えられなくてな、専ら基礎トレーニングや雑用仕事が主な活動となっていたのだ」


「は? ちょっと待って、てことはあんた今二年生? あたしとタメ? 先輩だと思ってたわ」



 三年生として見たとしても実年齢の割に老成していて、制服を着ていないと高校生としてすら認識されないことに慣れていた高杉はスルーした。


「当時の三年生は空手部歴代最高の黄金世代と謂われていてな、元々幼少から空手の経験のあった俺などは彼らとの本気のぶつかり合いを望んでいたのだが、道場や部室などの清掃、トレーニング器具の手入れ、それに先輩方の道着の洗濯などの雑用仕事に日々を追われ、生憎そのような機会には恵まれなかったよ」


「はー、やっぱそういうもんなのね。度合の差はあるだろうけどサッカー部とかもそういうのはあるって聞いたわ」


 希咲は自身の幼馴染でクラスメイトの紅月 聖人(あかつき まさと)から彼が所属するサッカー部の話をたまに聞いていたので、脳裏でその話を想起し照らし合わせる。


「先輩の言うことは絶対!――とか、あたしもちょっと苦手だけど、ふふっ――あんたは絶対無理よね? 誰の言うことも聞かなそうだもの」


 そう揶揄うような調子で人差し指を立てて、弥堂へと悪戯そうな視線を向ける。


「お前と一緒にするな。上司・上官の言うことは絶対だ。厳格な規律がなければ組織は維持できん」

「軍人かあんたは。てか、どの口が言ってんのよ……」


 今度は半眼になり懐疑的な視線で刺してくる。弥堂はそんな希咲を、『ただし、スパイである自分は必ずしもそれに従う必要はないがな』と胸中で呟き鼻で嘲笑った。そんな自分の仕草に今度は眉を吊り上げ「あによっその態度」と言い募る、コロコロと表情を変える彼女の顏から面倒そうに視線を外し、希咲 七海に対する印象を上書きした。



「弥堂の言う通りだ。規律は大事である。規律を守ること、守ろうとすることによって遵法精神や公徳心が養われ、それに雑用とは謂え他者の為に労働をすることで奉仕の精神を身に付けることもできる。精神修養もまた自己を高めてくれるものだ。現在の巷で『精神論』などと一括りに謂われると悪いイメージが先に連想されてしまうようになったが、その総てが軽視されていいようなものではないと俺は考える」


「そうだ。人間は何をするにしても肉体を操作することによって行動をする。その操作精度と継続性を担保するのは精神の強度だ。辛いのならばやらなくてもいい、出来なくてもいいなどと謳う連中が増えたが、そいつがやらなくても出来なくても環境が保たれるのは、他の誰かがそのやらなかった分を肩代わりして日常を維持しているだけだ。自分が放棄した分の精神負荷を代わりに負っている者がいる可能性がある。それを忘れてはならない」


「でもだからって全ての人が同じことを出来るわけじゃあないんだ。自分が出来たからってお前も出来るはず、だなんて理屈で安易に押し付けられた荷物に潰されてしまう人だっている。その出来なかった人の出来ることを見つけて、居場所を作ってあげることの出来る寛容さと懐の深さ・広さも社会には必要だとボクは思うね。だってそうだろぉ?」


「この会話部分だけを切り取ったらあんたたちがまともな人間に見えるから怖いわね。テレビとかSNSでご立派なこと言ってる人たちの中にも、あんたら3人みたいに頭おかしいのが居る可能性もあるってことよね……あたし人間不信になりそうよ」


 精悍な顔つきで議論する男3人に希咲は人間の恐ろしさを垣間見た気がした。


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