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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章16 公正なる執行者 ⑥

 希咲 七海(きさき ななみ)は、無慈悲な暴力に曝され身を寄せ合いながら本気で涙を流し怯える男たちの様子に若干引いて頬を引きつらせながら、このような地獄絵図を生み出した元凶である弥堂 優輝(びとう ゆうき)へと向き直る。



「弥堂、あんたやりすぎよ」


 弥堂は何の感情の揺らぎもないまま、そんな希咲を目に映す。希咲は「何であたしがこいつら守ってんの?」と自身の立ち位置に激しく疑問を感じたが退くわけにもいかなかった。


「やり過ぎか……そうだな、やり過ぎだ」

「へ?」


 まさか話が通じるとは思っていなかったので、あっさりと聞き入れた弥堂へと訝し気な視線を送る。


「だが、これは必要なことだ。口頭で言ってやって従わないのであれば、こちらとしてもやり過ぎるしかない。で? ――お前にはどこまでする必要があるんだ?」

「ちょっ、ちょっと」


 弥堂は振り返りながら、その問いは希咲にではなく背後にいた白井へと向けた。


「ひっひぃぃぃぃっ、犯されるぅぅぅぅっ」


 振り返る弥堂と目が合った白井はすぐに踵を返し逃げ出そうとするが、先に触れ本人が申告した通りに運動神経が鈍いのか、それとも恐怖に身体の操作が覚束無くなったのか、振り返ると同時に足をもつれさせ転倒した。


「誰がお前程度の女をわざわざ犯すか、ブスが」


 彼女が語った過去話の再現のように弥堂へと尻を突き出し床に顔を打ち付けた白井に弥堂は歩み寄り、スカートが捲れ剥き出しになった彼女の尻肉に室内シューズの踵を食い込ませると床へと押し付けた。そのまま「ぶもぅっ」と豚のような呻き声を上げる彼女の尻をぐりぐりと踏み躙る。


「あっ、あんた女の子になんてことすんのよっ! やめなさいっ!」


 さすがにこれは看過できないと希咲が割って入り、白井の尻を蹂躙する弥堂の足を両腕で抱えて持ち上げようとする。


「こんのっ、やめろって言ってん――んん?」


 持ち上げようとしたが、その時に無様に天へと突きあげる白井の尻を包んだ下着が目に入る。


 スッと表情を落とした希咲は弥堂の足を放し、白井の頭の脇へとしゃがみ込むと彼女の髪をガっと掴んで顏を上げさせた。


「おい」


 自分でもちょっとびっくりするくらい低い声が出た。


「なっ何よ⁉ 今新しい世界の扉が開きそうなの! 邪魔をしないで!」


 白井さんはもうダメだった。だが、希咲はそんな彼女にも怯むことなく訊く。


「あんたさ、下着は白しか穿かないんじゃなかったっけ?」


 ジト目を向けて尋問をする希咲から白井さんはそっと目を逸らした。



 現在何も隠すものなく堂々と白日の下に晒される白井さんの下着は、その造形について詳細に表現するのは倫理的に憚れるようなセンシティブな代物であった。男に媚びるどころか、一度男に食らいついたら貪り尽くすまで決して離さないといった、断固とした決意の見て取れる攻撃的なデザインであった。


「ねぇ? 毎朝甲斐甲斐しくも純白パンツ見せて清楚アピールしてんじゃなかったっけ? ねぇ? どうなのよ? あぁん?」

「しょうがないでしょおおお‼ 私だって女なのよおおおお‼‼」


 白井さんの筆舌に尽くしがたい程に不謹慎な下着に包まれた尻をぺちぺちと叩いてその真意を問うと、白井さんは自身の下着が名状しがたいほどに性的であるのは仕方のないことなのだと涙ながらに訴えた。


「こんなもん朝から見せられても、誘う気まんまんすぎてどん引きされるでしょうが」


 希咲は呆れたようにそう言うと、「はぁ」と溜め息を吐き弥堂の足の下から彼女を引っ張り出して立ち上がらせ、はしたなく乱れたスカートを払って直してやった。しかし、白井は希咲が手を離すと脱力し床へと座り込んで「ワンチャン、ワンチャンあると思ったのよおおお、一発ヤってしまえばイケると思ったのおおおお」と、その心の内を余すことなく赤裸々に言語化し、完全に泣き出してしまった。


 その様子にどん引いて、希咲はススッと彼女から距離をとると弥堂の横へと並んだ。白井さんはもう誰にも救うことは出来ないのだ。



「なんかもう色々と怒涛すぎて頭がおいつかないんだけど?」


 希咲は不満いっぱいの顏で弥堂をジト目で見遣るが、この混沌の中でも一切表情を変えない彼のことを、常軌を逸した行動をしたとんでもない奴と思えばいいのか、やり方はどうあれこの厄介極まりない連中をあっという間に半数無力化した手際を称賛していいのか判断できずに、「あたし今日バイト行けるのかしら」と、トホホと心中で泣いた。


 すぐに何かしらの動きを見せる様子のない弥堂に「このバカには期待できない」と、こちらも望み薄だがとりあえず法廷院の方へと目を向けた。この一連の弥堂の暴挙の中で彼が何も動きを見せなかったのも気にかかる。



 法廷院は静かにそこにいた。

 静かに、だが車椅子の肘掛にのせた腕を怒りを堪えるように震わせ、静かな怒りを漲らせていた。


「やってくれたじゃあないか。狂犬クン……あぁ、確かに狂犬だ。思っていた以上に狂っていたよ。これはボクのミスだ。ボクの想定が甘かった。認めようじゃないか 」

「代表」

「いいんだ、高杉君。これは受け止めなければならないボクの失態だよ。大切な同志たちに新たな心の傷を植え付けてしまった」


 自分のミスを認める――しかし、その言葉とは裏腹に、その声には確かな怒りが滲んでいた。


「すまないね、高杉君。結局キミに頼ることになりそうだよ」

「承知」


 その男は――高杉と呼ばれる、これまでほとんど口を開くことのなかったその男は、法廷院に短く了承の意を伝えると、彼の座る車椅子の背後からヌッとその巨体を前に出し立ちはだかった。


 前に立つと、法廷院の背後に居た時よりもさらにその体躯の威容が増したように感じられる。


 弥堂よりもわずかに背が高いだろうか、制服の上からでもわかるほどにその筋肉の鎧の強固さが見て取れる。それなりに鍛えていそうな弥堂よりも一回り以上も大きく視覚からは感じられた。そして、その佇まいも完全な素人ではない、『何か』を習得している気配を希咲は察して――


「弥堂こいつ――」

「――あぁ、わかっている」


 弥堂に伝えようとするが、彼もまた同様の見解のようだった。



 女だからといって自分は安全だとは考えない。むしろさっきのような奴らを相手にするよりは、こちらの方が自分としてもずっと『やりやすい』。希咲は弥堂の横で半身を彼らに向けて立ち、やるなら自分が受けて立つと戦意を顕わにする。先程彼らにやり込められた借りを返してやろうと、左手で髪を後ろに払い嘲るように挑発をする。


「はんっ――なによ。あれだけ暴力はーとかほざいといて結局そいつ頼りってわけ? 上等よ、あたしが――「――俺はホモだ」――はぇ?」


 しかし、希咲の口上は最後まで切られることなく耳を疑うようなことを高杉が発した。


 聞き間違いかと希咲がぽかーんと口を開けていると、高杉は鋭い眼差しで弥堂と希咲を貫き再度口を開く。



「俺はホモだ」


 満を持して登場したその男が放った、昨今の世情的に究極的にセンシティブな唐突で脈絡のないカミングアウトに場に緊張が張り詰める。

 混迷極まる戦場に最大の激震が走った。



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