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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章16 公正なる執行者 ④


 弥堂 優輝(びとう ゆうき)法廷院 擁護(ほうていいん まもる)と対立する。


 お互いに向けあう敵意がこの場に不可視の圧力となって緊張を漂わせていた。


 もちろん敵はこの車椅子に座った男だけではない。彼の周囲を固める彼の仲間たちからも強い敵意が視線にのせて弥堂に向けられる。そして弥堂の左後方からも視線が向けられているのが首筋の肌で感じ取れた。しかしそれに載せられている意は敵意ではないものの、どこか居心地の悪さを感じさせられ、弥堂は目線だけを回し自身の左後方――希咲 七海(きさき ななみ)の方へと向けた。



 希咲は、普段は美しく弧を描く切れ長で涼やかなイメージを持たせるその猫目を、弥堂の持っていた彼女の印象としては珍しく、まん丸に開いてきょとんとした表情でこちらをじーっと見ていた。その意外さから弥堂はつい彼女へ問いかけてしまう。


「なんだ?」


「や。ちょっとびっくりしちゃって……あんたがそんなに喋ってるとこ初めて見たわ」


 弥堂は希咲から目線を外し、「あ、こら。なんであたしは無視すんのよっ」と喚く彼女を尻目に再び法廷院たちへと視線を向けた。


 というのも、希咲としては、弥堂 優輝という男の子は口下手で不器用な子という印象を持っており、先程自分が体験したように、言っていることは無茶苦茶でもペラペラとよく口が回る法廷院と口論をするのは彼には荷が勝つのではと、弥堂を心配し慮り忠告をしようとしたのだが、なかなかどうして対等以上に法廷院と舌戦を繰り広げている様子に虚を突かれたのだ。発言内容としてはもちろん弥堂の方も最悪なのだが。



「ふん、そうやってこまめに男に媚びて持ち上げてやって取入るのね。さっきはさりげなくボディタッチしてたし、なんていやらしいメス猫なのかしら……勉強になるわ」


「今のやりとりをどう見たらそうなるのよ、目ん玉腐ってんじゃないの……てか、顔くらい出せ」


 白井さんが余計な口を挟んだことにより、希咲はきょとんとした幼げな表情からいつもの不機嫌そうな顔に戻り発言主へと半眼を向ける。しかし、白井さんは弥堂が勧告という名の脅迫をし始めたあたりから、完全に高杉の背後へ隠れ、今では顏すら出していない。

 そのため、彼女の身代わりに希咲から半眼を向けられ、これまでずっと無言・無表情で静止していた高杉は、少々居心地が悪そうに身動ぎした。


 そして若干この場が弛緩したことを好機と見たか、すかさず法廷院が口を挟む。


「クフフ……それではこの機に名乗らせてもらおうか。意地でも名乗らせてもらおうか。ボクの名前は法廷院 擁護だよぉ、狂犬クン。『擁護(ようご)』と書いて『まもる』。『弱者』を『弱さ』を擁護する者さぁ」


 流暢に口を回し名乗りを挙げる車椅子に乗った法廷院を、弥堂はつまらなさそうに見下ろす。


「そしてここにいる彼らはね、ボクが組織した団体の仲間さ。おっと、組織したと言ってもボクの部下というわけじゃあない。『平等』がボクの信条だからね。ボクはただの代表者さ」


「組織だと?」


「おやぁ? おやおやおやぁどうしたんだい? やぁっとボクたちに興味を持ってくれたのかなぁ? フフフ、いいだろう、意地悪しないで親切にも教えて差し上げようじゃないかぁ! ボクたちはね、キミのような『強者』から、『持つ者』から取り上げて、全ての『弱者』に配当し、この世界を均して全ての『弱さ』を救ってあげるために集まったのさぁ! そう! ボクたちは『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』だ!――ハハハハハっ、こんにちは、初めまして、会いたかったぜぇ『強敵』‼」


「『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』……」


 それは弥堂としても記憶に新しい名であった。今日の昼休み、自身の所属するサバイバル部の情報統制担当である『Y's(ワイズ)』から送られてきた、今後粛清対象となる可能性の高い新興勢力であると。


「そう読んでくれて構わないぜ。なんなら頭文字をとって『N・N』と呼んでくれてもいいけれど、だけど『弱剣』と略すのは勘弁してくれたまえ。だってそうだろぉ? 『弱い人』は許されるべきだけど、『人の弱さ』を補うために作られた剣が『弱い』だなんてそんなのは許されないからねぇ。物には『人権』はないから、それはさすがにこのボクを以てしても擁護しきれないよぉ」


「……貴様らがここ最近放課後に孤立した生徒を取り囲んで、迷惑行為を働いているという団体か」

「は? あんたら、あたしにだけじゃなくて普段からこんなことばっかしてるわけ?」


「ハハハッ! うれしいねぇ! かの有名な『風紀の狂犬』の耳にまでボクらの高尚な活動と名がすでに届いているとはっ!」


「なにが高尚よっ! ふざけんじゃないわよっ! ただの迷惑な私刑行為じゃないっ!」



 何やら調子をとりもどした希咲と法廷院の言い争いを背景に、弥堂は思考する。



弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』。


 Y'sからの申告では対応レベルは3。可能な限り早急に対応する必要があるとのことであったが、弥堂としては部活動でもないこいつらを潰したところで自身が正式に身を置くサバイバル部には何の益もないと評価をした。そのため、風紀委員会所属とはいってもあくまでスパイである弥堂としては、風紀委員の通常業務以上のコストをかけてまで、こいつらを相手にする必要などないと昼休みに判断をしたばかりであった。

 

 しかし、風紀委員会の方から弥堂に対応にあたるようにとの命令が下されるか、それとも――


「――こうして業務中に遭遇してしまったのならば仕方がない。これはもう俺の仕事だ」



 そう結論付けた弥堂の声に希咲と法廷院も言い争いをやめて彼へと視線を戻す。


「こいつらって有名なの? あたし初めて聞いたんだけど」

「…………」

「おいこらっ、だからなんであんたはあたしだけ無視するわけ⁉」

「お前には知る資格がない」

「あんだとこらー!」


 ぎゃーぎゃーと言い募る希咲に対して、弥堂は職務に忠実に守秘義務を遵守した。


「いいだろう、気が変わった」

「ほう? ボクらの話を聞く気に――「貴様らの選択肢はなくなった」――なんだって?」



「貴様らは誰一人帰らせん。全員打ちのめして風紀の拷問部屋に連行してやる。簡単に解放されると思うなよ。他の関係者、他の協力団体、背後関係から資金の提供元まで洗いざらい吐き出すまで日の当たる場所に戻れると思うな」


「おいおい拷問だって? 乱暴だなぁ。大体それは『人権の侵害』だぜ? だってそうだ――ん? 拷問? 今拷問って言った?」


 先程より圧を強めて身柄の拘束を要求する弥堂に、基本的には臆病な『弱者の剣』の面々は急速に不安に駆られた。


「だっ、代表。なんですか拷問部屋って? この学園そんなものあるんですか?」

「い、いやだなぁ、本田君。そんなもの置いてる学校なんてあるわけないじゃない。そうだろぉ?」

「で、でもっ、この学園ちょっとおかしいですし」

「ハハハ……そんなまさ――」

「――それに見てくださいよ、あいつの目っ! マジすぎてやばいですよ! 白井さんよりやばいです! 」

「そうですよ! 人権どころか人の生命すらゴミだと思ってるに決まってますって。あいつにとって拷問なんてデイリークエ感覚なんですよ!」

「おいおい西野君、白井さんを引き合いに出すのは彼女に失礼だよ。ねぇ、白井さん?」

「あの、どなたですか? 気安く話しかけないでもらえます? 関係者だと誤解されたくないので」

「ちょっと白井さん⁉ 嘘でしょ⁉⁉」


 白井さんは光にも迫る速さで裏切り、自分は偶然通りがかっただけの無関係な一般人なのであると主張した。だが――


「安心しろ。一人も逃がさん。お前らの言うように男も女も関係なく公平で平等に同じ扱いをしてやる」


 無慈悲にも、当委員会は男女の性差の存在しない完全なる世界を目指す団体であると、弥堂から告げられ青褪める。


「ちょっと冗談でしょう⁉ 私は女の子なのよ! 私だけは丁重に扱いなさいよ!」

「よかったじゃない。お望み通り、平等に拷問を受ける機会がもらえて」

「黙れ淫乱っ! 私はあなたと違って凌辱されて悦ぶ趣味はないの!」

「あたしだってそんなのないわよ! いっぺん痛い目みてこい、ダブスタ女っ!」


 キャンキャンと吠えあう女どもは無視して、弥堂は男子生徒たちに最終勧告を告げる。


「両手を頭の後ろに組んで壁際に並べ。抵抗しても別に構わんが、その時は両腕をへし折って首に括り付けてやる」


 その感情を覗かせることはなくとも、確かな強い圧力を発する瞳に彼らは慄くが――


「くっ、こうなったら仕方ない――白井さん、西野君、本田君、『トライアングル・フォーメーション』だ‼‼」


 法廷院の号令で自分だけは助かりたいと喚いていた同志3名は、訓練されたような俊敏な動作でバババッと弥堂を取り囲んだ。正確に描かれた三角形の中央に彼を閉じ込める。


「フフフ……油断したね、狂犬クン。キミはもう終わりだよ」

「なんだと?」

「おっと、下手に問答にのって逆転のチャンスなんて与えないよ――さぁ、同志たちよ、撃ち方よーい!」


 法廷院のその言葉に弥堂を囲んだ構成員たちはジリッジリっと僅かに間合いを詰める。

 弥堂はその彼らを見回しながら重心を下げ、どんな攻撃にも対応できるよう油断なく備えた。

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