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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章15 箱の中の猫 ③


「とにかく、希咲。あなたが、あなた達が好んで黒のローライズTバックを着用して、軽率にガニ股スクワットなんてするものだから、同じ女だからってだけで、私までいやらしい目で見られているの。たまたま黒のローライズTバックを穿いていただけなのに。私とっても傷ついたわ」


「そういうことさ、希咲さん。キミが、キミたちギャルという強者がね、好き勝手に振舞っているその足元では、か弱い民衆が理不尽な重税を課されて苦しんでいるんだよ。これは『搾取』だぜぇ。そうだろぉ?」


 白井、法廷院に追従するように西野と本田も希咲を責め立てる声を出す。


「そ、そんなこと言われたって……ギャルがいつもそれ穿いてるってあんた達が勝手に決めつけてるだけじゃない。てか、あたし別にギャルじゃないし」

「口では何とでも言えるねぇ。でもね、こっちはしっかり情報ソースを提示しただろぉ? 決めつけだなんて『ひどい』ぜぇ。だってそうだろぉ? 何せ『専門家がそう分析したんだ』、間違いなんてあるはずがないじゃあないかぁ」

「何よ、専門家って。バッカじゃないの? どこのどいつよ、そいつ」

「おっとぉ。それは軽々しくは明かせないよぉ。ボクは個人情報の扱いには特別厳しい男なんだ。だってそうだろぉ? 勝手に喋ったら『プライバシーの侵害』じゃあないかぁ」

「だったらそんなの言ったもん勝ちじゃない!」


 狂信的な『弱さ』への信仰を掲げて不条理に断罪を迫る集団に、希咲はまた畏れを抱きつつあった。同じ言語で話しているはずなのに会話が全く成立しない。同じ人間、同じ生物に見えるのにその思考に理念に全く理解が及ばない。


 しかし、勢いに飲まれるわけにはいかない。正しいのは間違いなく自分のはずなのだ。何か言い返さなきゃと、焦燥に駆られ彼らに言葉を投げ返す。


「で、でもだからって、あたしがそんなの穿いてるなんて、あたしがあんた達の言う変な女だってそんな証拠もないじゃないっ」

「へぇ? じゃあキミは黒のローライズTバックなんてそんな物は所有してはいないと、そんないやらしい女ではないと、そう主張するんだね?」

「そ、そうよ! あたし別に遊んでる女じゃないしっ」

「――嘘ね」

「え?」


 法廷院との問答に白井が口を挟む。希咲の主張に異議を唱えた。


「嘘つくんじゃないわよ、このアバズレが。あなたさっき自分で言ったじゃない。黒のローライズTバックを持ってるって。しかも便利で重宝してるみたいに言ってたじゃない」


 先程の白井との話の中で確かに希咲はそのように言っていた。そう証言してしまっていた。

 まさか、あんなアホみたいな話の中で自分を嵌める為にこんな罠を張っていたのか――希咲は裏切られたような気分になって白井を見た。


「そ――それは……確かに持ってはいるけど、でもっ――「――謝りなさいよ」――えっ?」

「嘘をついたでしょ? いけないことよね? 謝りなさいよ」

「う、嘘って……そんなの……でも……」

「嘘をついたら、ごめんなさい。小学生でも出来るわ。あなたそんなこともできないの?」


 白井を援護するように彼女の仲間たちからも「そうだ」「あやまれ」と次々に希咲を責め立てる言葉が飛ぶ。



 納得など出来なかった。


 確かに嘘を吐いたことになるのかもしれない。だけど、男の子との会話の中で自分がどんな下着を持っているかなんて、そんな事実を細やかに明かす必要なんてないと思っていた。しかし、同性である白井との会話では女の子同士だしという気持ちもあって、普通に気兼ねなくそれを話してしまっていた。


 先程の法廷院とのやりとりだって別に彼を騙そうとして、言いくるめようとして本当のことを言わなかったわけではない。だが、自分の口から出た言葉は相手によって相違してしまっていて、証言に矛盾が生じてしまっていて。


 嘘を吐いた。そこの部分だけを、事実だけを切り取ってしまえばそうなのかもしれない。


 だが、希咲は認めたくなくて、到底納得など出来ようはずもない。しかし――



「――ごめんなさい……」


 大きな、はっきりとした声ではなかった。しかし、彼女は、希咲 七海は確かに自分のその口で、その言葉を、「ごめんなさい」と、そう言ってしまった。


 納得もしていないし、今でも自分は間違っていないと思っている。しかし、場の空気に、雰囲気に、この場に居る自分以外の全ての人間から「お前が間違っている」と、そう責め立てられる情勢に、希咲は屈してしまったのだ。



 悔しかった。

 絶対に自分は悪くなんてないのに。


 希咲はそのキレイで大きな猫目を揺らす。瞼の奥から溢れてくるもので視界が滲む。

 だけど悔しくて、悔しいから、それだけは絶対に嫌だと、強く歯を噛み締めて堪えた。




「ふん。謝ったわね? つまり自分が悪いって認めたってことよね」

「そ、それは――あの、言ってることが食い違っちゃったのは認めるけど、でも、だからってそれであたしのせいになるなんておかしいじゃないっ」

「やれやれ、強情だねぇ。キミが黒のローライズTバックを穿いていやらしい活動をしてるせいで、白井さんはとっても辛い思いをしたんだよ? 彼女が『かわいそう』だと、彼女に悪いと思わないのかい? ボクなんかは怒りに震えて涙が止まらないよぉ」

「だって、あたしそんなの学校に穿いてきたことないもん!」

「おいおい、それをどうやって証明するんだよぉ? ついさっき自分の口で『嘘をついた』って、そう認めたばかりのキミの証言を、何の証拠もなく鵜呑みにしろって言うのかい?」

「でもっ、だってっ、そんなの証明しようがないじゃないのっ」

「その通りだよ希咲さん。証明しようがない。でもね、この法治国家では証明できないことは事実として認められないんだぁ。ボクだってキミを信じてあげたいよぉ。心が痛いね。でもさぁ、さっきキミは嘘を吐いたばかりだし、黒のローライズTバックなんて穿いてない、その口でそう言ってはいるけれど、もしかしたら今日――今のこの瞬間だって、そのスカートの下に黒のローライズTバックを着用しているかもしれないじゃないかぁ。だってそうだろおぉぉっ!」


 追い詰めた犯人に名探偵がそうするように、法廷院は希咲のスカートを指さした。

 希咲は彼の突きつける冤罪から守るように、明るみに出さぬようにスカートを手で抑え、言い逃れる。


「き、今日違うっ、そんなパンツ穿いてないもんっ」

「ふふっ、どうかなぁ? キミはそう言うけれどもボクにはわからないなぁ」


 法廷院はすっかり調子を取り戻しニヤニヤと粘着いた笑みを顏に張り付けながら、その目を激しくギラつかせる。


「そんなこと言われても……じゃあ、どうしたらいいの……」

「なぁに、そう難しいことじゃないさ。証明できないことは証言にはできない。だからここは被害者に寄り添ってね、キミは過失を認めて素直に謝罪を――「見せなさいよ」――えっ⁉」

「――え?」

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