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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章14 悲運に捧ぐアーシャーム ④

『まだ終わりではない』


 被害者を名乗る白井から冷酷に告げられたその言葉に、希咲の目から光が消え、その表情は絶望に染まる。尻もちをついたまま床を擦り白井から逃げるように後退る。



「――いや……むりっ……もうむりぃ……」


「ふふふ……ダメよ、許さないわ――ねぇ希咲。黒のTバックって男と女で認識が違うと思わない?」

「え?」


 突如投げかけられた質問に希咲は答えられない。思考が着いていかない。


「私たちからしてみたらさ、とっても実用的じゃない 黒のTバックって」

「え? う、うん……そうね。さっき白井さんも言ってたけど、透けないようにとか下着のラインがわからないようにとか対策に使うし、ローライズのパンツ着るなら下着もローライズじゃないと見えちゃうし……あ、あと、その……黒だと汚れも目立ちづらいし……」

「まぁ、そうよね。でも男どもってなんかやたらとありがたがってるじゃない? まるで男を誘う用の特別えっちな下着って感じで……この童貞どもがっ」


 希咲と話しながらキッと鋭い視線を童貞どもに向ける。


 しかし高杉君を除く男性陣3名はそれどころではなかった。

 希咲 七海(きさき ななみ)の口から『女の子の下着は汚れるもの』、という世界的な新事実が公表され若干前かがみにならざるを得なかったからである。ピッチ上ではリアルタイムで緻密なポジション修正が必要とされていた。


 心の余裕を失くした七海ちゃんは言わんでもいいことまで答えてしまっていたのだ。



「こっちは必要に駆られてるんだからもっと気軽に使いたいってのにバカな男どものせいで、世の女性全員が迷惑して損をしてるのよ。そうでしょ?」

「え? あーーうーーん……まぁ、わかるような気もするけどぉ……」

「そうでしょ? 別に黒のローライズTバックなんて誰でも持ってるのに。希咲だって1枚くらい持ってるでしょ?」

「う、うん。まぁ。便利だし。あと黒はやっぱ締まって見えるから、下着に限らず普通に着たいよねぇ」

「ほら。聞いた? クソ童貞ども。黒のTバックはあんた達が信仰してるようなものじゃないのよ」


 女性の立場からの切実な事情を投げかけられたが、高杉君を除く3名のクソ童貞たちはそれどころではなかった。

 わりと女子のレベルが高いと市内外でも評判であるこの私立美景台学園の中でも、トップクラスにかわいいと評判の希咲 七海の口から『黒のローライズTバックを所有している』という歴史的な新事実が世界的に発表が成され、クソ童貞たちは興奮を禁じえなかったからである。



「まぁ、でも。性別が違うし、多少お互いの事情に疎くなるのは仕方のない部分もあるわ。私も男子の下着とかさっぱりわからないしね。希咲は詳しいでしょうけれど」

「あ、あたしだって別にそんなの詳しくないしっ」

「でもね、恐ろしいことに。同じ女性でもそこのクソ童貞どもと同じ認識の奴がいるのよ」

「え? そんなひといるの?」

「えぇ、悲しいことにね……さて、話の続きだったわね」

「う、うん」


 白井さんはさっきまで号泣していた希咲が泣き止んで少し落ち着いてきた様子を確認し、話を進める。彼女は自分でも気づかないうちに若干七海ちゃんに絆されてきていた。


「私が無様にケツを曝け出した時にね、もちろんだけどその場に居たのは彼だけじゃないわ。彼の友人の男子も女子も、関係ない人たちだっていたわ……くそがっ!」

「ケ、ケツって……」

「その中にね、居たのよ。そのクソ童貞と同じ価値観を持ったクソババアが」

「え、それってまさか――」

「そうよ。教頭よ。あのクッソババアのせいで私はさらなるクッソ地獄に叩き落されたのよ!」


 希咲は『ここまでで全然あたし関係ないじゃん』と思ったが、白井さんに同情していたので大袈裟に「ナ、ナンダッテー」と驚いて見せた。


「あんの行き遅れがよぉぉっ! タイミング悪く居合わせやがってばっちり私のパンツ見やがったのよ! 希咲も知ってるでしょ? あいつがどういう奴か!」

「あー、まぁ、ね。ちょぉーっと口うるさいわよね」


 希咲さんは若干言葉を濁した。



 この私立美景台学園の教頭である三田村先生は昨今の社会における女性の立場や男女平等などの、そういった問題に非常に熱心な方で、45歳という教職という業界においては比較的若い年齢で教頭という役職に抜擢され、生徒指導に関しての責任者は別に居るのだが何かにつけて口を出し、学園に通う生徒や同じ教師たちに対して非常に熱心な指導という名のご活動をされていらっしゃるご立派な方である。

 自立した女性として教育に身を捧げるためにと生涯独身を公言し、ステータス値にちょっとデフォで全男性へのヘイトがカンストしてらっしゃる不具合が発生している疑いがあるところが玉に瑕な、多様な意味で声の大きな女性であった。



「あんの売れ残りがよおお、よりによって彼の目の前で! 公衆の面前で! 私に『その下着はなんなんだ? そんな男性に媚びるような下着を身に付けて神聖な学び舎に来るとは不謹慎だ。あなたのような男に媚びる女がいるせいで世の女性の立場は一向に上がらず、いつまでも男性に搾取され続けるんだ。あなたは女性の社会的立場の向上を阻害するつもりか』とかなんとかよお、わっけわかんねえことぬかしやがって!」

「あーー、言いそう。絵が浮かぶわ」

「しかもさ、怒られてる私を見かねてさ、これもよりによって私の好きな彼がね? 止めに入ってくれたのよ! その優しさが死ぬほどつらかったわ! でも好きぃぃぃっ」

「うわぁ……」

「そしたらさ、あのババア、彼に絡み始めやがってさ! 『やっぱり男に媚びてくる女を優遇するの? あなたのような女性を蔑視する男性がいるせいでどれだけの女性が機会を与えられずに泣いていると思うの? あなたはこれからの社会での男女平等をどう考えてるの?』とかってさ、私と彼を並べて説教始めるのよ!  彼、小声で私に『ごめんね』って言ってくれたわ。私が悪いのに! 私もごめんなさいとしか言えなかったわ……ねぇ、信じられる? これが1年片想いした挙句の彼との初会話なのよ⁉ 彼のあの時の気まずそうな顔! 今でも夢に出るわ! あの時もうその場で舌噛んで死のうかと思ったわよ! ちくしょおおお!」

「き、きっつぅぅ」

「これが私よ! 白井 雅という女よ! 好きな男の前で年上の女から『お前はいかにいやらしい下着を着用しているのか』ってくどくど30分もかけて丁寧に説明された憐れな女よ!」

「は、はい……なんか、あの、申し訳ございません……」


 天井なしに吹き上がっていく白井さんの怒りの様相に希咲はもう罪過もないのに謝るしかなかった。

 

「大体、黒のTバックごときでいやらしいとかいつの価値観よ! あの脳みそアプデされてねえババアが社会問題とか笑わせるわ! テッメェらがわっけわかんねえお立ち台の上でセンス悪ぃ扇子振り回してケツ見せびらかしてた時代とはもう違ぇんだよ! あんなんただの実用品だわボケがっ!」

「んんっ、白井さん? ちょぉ~っとお口が悪いかなぁって」

「テメェが結婚絶望的だからってよぉコンプレックス拗らせやがってこっちの足まで引っ張ってくんじゃねえっつーのよ! 若い時に調子こいてテメェの価値高く見積もって売り渋ったから売れ残っただけの不良在庫がよおお! テメェが一番の女の敵なんだよ、あんのどブスがあああああ!」

「ちょ、ちょっと……」


「くそが! くそが! くそが!」と喚きながら白井さんは手近にあった法廷院が座る車椅子に蹴りを入れる。申告どおり運動能力に乏しいのか大して威力はないものの、男性陣は身を寄せ合って震え上がり「ごめんなさい、ごめんなさい」と罪過もないのに謝罪をすることしかできなかった。


 希咲が慌てて羽交い絞めにして車椅子から彼女を引き離すと、ようやく落ち着いたのか「ぜーぜー」と肩で息をしながら大人しくなる。男子生徒たちは涙目で口々に「ありがとね、ありがとね」と希咲に礼を言った。



 まだ何も全容は見えてこない。


 ただただ疲労感だけが希咲を苛んだ。




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