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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章12 梔子の花 ④


 再び水無瀬への尋問を行おうとした弥堂だったが、何人かの男子生徒が不自然に体育座りで地面に座り込んだままで動こうとしないことに気付いた。彼らは無暗に公言することは難しい諸事情により、すぐには立ち上がることが出来なかったのだ。

 そんな彼らに速やかに帰宅するようにと命じたが、「後生だからしばらく放っておいてくれ」「絶対に問題は起こさない、邪魔もしない、約束する」と、とても必死な様子で口々に嘆願してきた。面倒になった弥堂がそれを許可すると、彼らは不自然に体育座りで座り込んだまま凪いだ目で空を眺めていた。


 ようやく尋問を再開するも愛苗ちゃんはすっかり何のお話をしていたのか忘れてしまっており、また最初から似たような話を言って聞かせるが、凪いだ目で空を見つめていた男たちが一人一人それぞれのタイミングで何かしらの折り合いがつくと、尋問中の水無瀬に礼を告げ金を渡してこようとする。

 その度に何度も何度も中断をされ、いい加減業を煮やした弥堂によって一人一人蹴り飛ばされ追い払われた。


 さすがの弥堂もこれ以上の追及は断念せざるを得なかった。





「――いいか、 今日のところはここまでにしておいてやるが、まだ貴様の容疑は完全に晴れたわけじゃない。我々はいつでもどこでも貴様を監視しているぞ」

「えぇ……まだ信じてくれないのぉ……」


 困った時のゴリ押しでとりあえず強気な姿勢だけ見せて警告してくる弥堂に、水無瀬は情けなくふにゃっと眉を下げた。だが、すぐに表情を改めると弥堂の手をとりぎゅっと握る。


 彼の顔を見上げ彼の目をまっすぐに見つめて言う。


「あのね、びっくりしてなんかちょっと変な態度しちゃったけど、私はほんとに悪いことはしてないし、他の人に狙われてたりもしてない、だいじょうぶだよ。ほんとにほんとだから。ね? 信じて?」


 弥堂はそう言った彼女を見つめる。


 目線は揺れず、発汗も認められず、妙な仕草もない。



「いいだろう。とりあえずは信じておいてやる。自分の言葉が真実となるかどうかは今後の貴様の心がけ次第だということを忘れるなよ」 

「もーー、がんこだなぁ」


 そう言って水無瀬は苦笑いをした。



「ではお前はもう用済みだ。行っていいぞ。さっさと帰れ」

「ひどいっ‼」


 やんわりと水無瀬の手を解きつつ人間味のかけらもない言葉をかけてくる弥堂にショックを受ける。しかしそんなことを言われても、どんなことをされても、彼女は何も変わらない。


「捜査への協力は感謝してやる。ご苦労だったな」

「うん。えへへ。だいじょうぶだよ。弥堂くんといっぱいお話出来て楽しかったし」


 変わらず楽しそうに笑う。


「ほう、それはこの程度の尋問などお遊びのようなものだと、そういう意味か?」

「ちがうよっ! 弥堂くんのこといっぱい知れてうれしかったの!」


『じんもんはもうやだよぅ』と眉をふにゃっとさせる彼女を見て、先程自分が思考していたことを反芻する。



 水無瀬 愛苗を視て、彼女の奥底を覗いて、彼女を――その根源を知る。

 それは弥堂には出来なかった。視えなかったし、何もわからなかった。ただ、彼女が他の何とも違うモノだと、ただそれだけがわかった。


 そして弥堂が彼女を目に映しているのなら、その時は同時に彼女も弥堂を目に映す。

 自分には彼女はわからなかった。だが彼女は弥堂を見て弥堂がわかったのだろうか。知ったと言った。


 当然、弥堂の思考など知る由もない水無瀬が同じ意味で言っているわけがないのだが、そんなことはわかりきっていることで、聞くまでも考えるまでもないことなのだが、弥堂は彼にしては珍しいことに戯れに聞いてみたくなった。


「何を知った?」

「え?」


 端的すぎる質問に水無瀬は一瞬きょとんとするが、すぐに嬉しそうに目を輝かせる。


「えっとね。お仕事にまじめなとこと。あとはぁ……ちょっといじわるなとこっ」


 胸の高さまで上げた手で、指を二本折り、そう言って彼女は笑った。


「そうか……」


 全くを以て弥堂が知りたかった答えでも期待したようなものでもなかったが、


(――だが、)


「――正解だ。よくわかったじゃないか」


「えへへー。でしょー? 私すぅぱぁーー! ……ん? スーパーってなんだっけ……?」


 弥堂は笑わなかった。だが、特に不快にもならなかった。



「それじゃ弥堂くんまたねっ、さようなら」


 ぺこりとおじぎをして水無瀬は正門へと歩き出した。弥堂は先と同様、自らの職務を遂行する為に彼女の背中へと声をかける。


「水無瀬、帰り道には気を付けることだな」


 きょとんと目を丸くしたまま振り返った彼女はすぐに満面の笑みを浮かべ


「うんっ、弥堂くんも委員会がんばってね。ばいばいっ」


 手を振って嬉しそうに瞳を輝かせまた笑った。


 また一段と彼女の存在が、存在する力が増したような気がした。そう視えた。



 不器用なスキップでもするようなそんな足取りで帰っていく彼女の背中をそれ以上はもう視るのをやめた。


 弥堂は振り返り校舎へと歩いていく。



 歩きながら、考える。


 水無瀬 愛苗について――


 彼女の証言内容について考える。


『生命を狙われる覚えはあるか?』


 この質問に対してあからさまに怪しい態度。しかし先程の彼女の言葉。


『あのね、びっくりしてなんかちょっと変な態度しちゃったけど、私はほんとに悪いことはしてないし、他の人に狙われてたりもしてない、だいじょうぶだよ。ほんとにほんとだから。ね? 信じて?』


 これは、おそらく本当だろう。真実を語った。と、思う。

 彼女は嘘を吐かない。まだ嘘を覚えてはいない。騙ってはいない。



 普通に考えて。


 この平和な日本のどこにでもあるような普通の学校の普通の女子高校生が狙われることなどあるか。そんな理由があるか。


 まぁ、ないだろう。


 ゼロではないだろうが、もっと突発的で衝動的な性犯罪などであればいくらでもあるだろうが、専門的な知識・技術が必要となる学園の警備ドローンのハック。或いは特殊な入手ルートが必要になるような狙撃銃もしくは高額な高性能望遠カメラ。または、現在の弥堂には見当もついていないようなもっと別の他の方法。

 いずれにしても簡単に思いつきで用意できる手段で撮影されたような写真画像ではない。


 無数にいる普通の女子高校生の中から、そんなものを用意してまで狙われるような特定の一個人に当選する確率とはどれほどのものだろう。


 故に――普通に考えて、普通の学校の普通の女子高校生がそんなものに狙われることはない。絶対にゼロではなくとも、そう考える必要などない。弥堂もそう考える。


 ならば――水無瀬 愛苗が語った言葉は真実だ。弥堂もそう考えている。


 だから――ただの女子高校生である水無瀬 愛苗が狙われているなどということはありえない。そんな理由などどこにも存在しない。



 しかしそれに関しては、弥堂 優輝はまったくそうとは考えていなかった。



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