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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章12 梔子の花 ①

 やがて、ぽつぽつと居合わせた者たちもそれぞれの帰路へと着きだす。口々に別れの言葉を投げ合いながら、或いは連れ立って歩き出す。


 多くの者が水無瀬へと別れの言葉を告げていた。その殆どの者が山下君同様に「ありがとうございます」と礼を口にし、そしてさらにその中の何割かの人間は金を渡してきたが、水無瀬はその全てを固辞した。


「じゃあ代わりに水無瀬ちゃんにはこのアメちゃんをあげよう。舐めると甘いぞー」

「わぁ、ありがとうございますっ」

「んじゃ、またお姉ちゃんと遊ぼうねー、ばいばーい」

「あ、はい。さようならー……おねえちゃん?」


 終始何もわからずじまいな水無瀬は驚いたり、困惑したり、喜んだり、また首をかしげたりと忙しない。


 一方で、基本的に殆どの者に無視され避けられていた弥堂だったが、何人かの生徒からは「チョーシのんなよ?」「いずれ決着をつける」「てめぇも帰り道にはせいぜい気をつけな」などの温かいお言葉を頂いていた。そして彼はそんな言葉をかけてくれた気のいい生徒たち一人一人の顏を記憶の中にしっかりと記録をした。



「そういえば弥堂くん、結局木登りして何してたの? おさんぽ?」

「どんなルートだよ」


 うっかりらしくもなくツッコんでしまった自分を恥じるように弥堂は咳払いをすると答え直す。


「調査だ。仕事だ」


 全く答えになっていないのだが、水無瀬は特に疑問を持たず「そっかぁ、ちょーさかぁ」と納得をした。



 そう、調査と謂えばと、弥堂は先程タスクに加えたクラスメイトへの聴取への件で水無瀬に尋ねる。


「水無瀬、訊きたいことがある」


 問われた水無瀬はきょとんと目を丸くし、言われた内容を飲み込むとすぐにまた瞳をキラキラと嬉しそうに輝かせ、


「いいよ! 何でもきいてっ」


 握った両の手を顏の下に構え、ふんっふんっと鼻息荒く自らの意気込みを強調した。弥堂はそんな彼女から目は離さずにさりげない動作で、制服の胸ポケットに忍ばせたボイスレコーダーのスイッチを悟られぬように『ON』にし、録音を開始した。



「生命を狙われる覚えはあるか?」


「あるわけないよ⁉」


 確かに何でも聞いてとは言ったが想像だにしない方向性からの質問に、愛苗ちゃんはびっくり仰天し、おさげがみょーんっと跳ね上がった。


「そうか」


 それに弥堂は特にどうということもなく、そうとだけ返した。


「あ、あの……弥堂くん。調査って風紀委員のだよね? 風紀委員って殺人事件とかもお仕事なの?」


 さすがの水無瀬さんもあんまりな質問内容に怪訝に思い、弥堂に尋ねる。


「そうだ。必要があればな」


 そんなわけはないが、弥堂は即答した。殺人事件は紛れもなく警察のお仕事である。


「で、でも殺人って……えっ⁉ まさか学校でそんな事件あったの⁉」

「ない。今はまだな。だから、そうはならぬようこうして調査を行っている」


 自分が平和に過ごしている学園にまさかそんな危機が訪れようとしているとは、完全に想像の外だった水無瀬は茫然と「そ、そーなんだ……」と呟くと、すぐに気をとりなおし


「でっでもでも、普通の学校なのにそんな事件なんて……あっ!」

「む?」


「そんなことあるわけない」そう言おうとしていた水無瀬だが、何かに思い当たったのか、急にダラダラと汗を流し出し、キョロキョロと目を泳がせた。


 当然そんな彼女の仕草を学園の治安維持の業務に忠実な弥堂が見逃すことはない。


「おい。貴様何を思い当たった? 話せ。隠すと為にならんぞ」

「かっ隠してないもんっ知らないもんっ」


 ずいと詰め寄る弥堂に愛苗ちゃんはお顔を左右にぶんぶんっと振ることで潔白を訴えた。

 ぺしぺしと自分の胸を叩く彼女のおさげを鬱陶しそうに払うと尋ねる。


「嘘を吐くな。風紀の拷問部屋に連れて行かれたいか?」

「ごーもんっ⁉」


 もちろん健全な青少年を育成するべく設立された当学園にそのような不健全な施設は存在しないのだが、風紀委員にはいくつかある生徒指導室の内の1室を使用する権限が与えられており、たまに取り調べとも言えないような、簡単な生徒への聞き取りなどを行う際にそこを使用することがある。弥堂の中ではその部屋は拷問部屋ということになっているようで、割と頻繁にその部屋を彼は使用するのだが、その時そこで何が行われているかは……。


「早めに喋った方が楽だぞ」

「ほんとに! ほんとに知らないのっ! 信じてっ。ごーもんしないでっ!」


 わりと物騒な単語が飛んでいるが、彼女の口から出ると何処か緊迫感に欠けた。


「そうか。だがお前は俺にそれを信じさせる為に自らの潔白を証明しなければならない――そうだな?」

「そうですっ」

「何も知らない――であればこれから俺がする質問に答えることには何も問題はないはずだ。答えられるな?」

「られますっ」


 変わらず挙動不審ではあるが、今はしっかりと弥堂の目を見て水無瀬は答える。


 弥堂はふんっと鼻を鳴らすと、水無瀬の両肩を掴み屈みこんで無遠慮に彼女の顏を下から覗き込むと尋問を開始した。


「もう一度同じ質問をしよう。水無瀬。お前は生命を狙われる覚えはあるか?」

「なななななっないもんっ」


 一瞬でまた彼女の目が泳いだ。


「…………」


 怪しすぎる。


 弥堂はY's(ワイズ)から送られてきた例の画像を脳裏に浮かべる。


 希咲 七海(きさき ななみ)が無様におぱんつを晒した写真。そしてその画像内には一緒に水無瀬 愛苗(みなせ まな)が――


――希咲の手前で無防備にカメラへと後頭部を晒した水無瀬 愛苗が一緒に写ってもいるのだ。



 胡乱な目で自分を見つめる弥堂の懐疑的な視線にハッと気が付くと、愛苗ちゃんはぎゅっとおめめを瞑って、お顔の前で両手を交差させてバッテンした。ないもんのポーズだ。


「…………」


 まぁ、いい。尋問はまだ始まったばかりだと弥堂は一旦流した。


「では、質問を変えよう。水無瀬、お前は誰かを殺害する予定はあるか?」

「私ようぎしゃ⁉」


 びっくりして目を見開いた愛苗ちゃんではあるが、すぐに「そんなのあるわけありません」とお顔をぶんぶん振って否定した。弥堂の頬をおさげがバシーンバシーンっと叩いた。


「……では、日頃から殺したいと常々思っている奴はいるか?」

「いるわけないですっ!」


 おさげが弥堂の頬を打った。


「…………水無瀬、お前自身に生命を狙われる覚えは?」

「ななななないもんっないもんないもんっ」


 愛苗ちゃんはおめめをぎゅっと瞑ってお顔をぶんぶんした。ぱしーんぱしーんぱしーんと三度肉を打つ音がした。


 弥堂は額に青筋を浮かべながらも、ぐっと色々なものを飲み込むことに成功した。


「……では水無瀬、お前は誰かを殺害する予定はあるか?」

「またおんなじしつもんっ⁉」


 チッと舌を打つと弥堂は一旦追及を止めた。

 このままYESと言うまで延々と同じ質問を繰り返すつもりだったが、また新たに下校の為に通りすがった生徒たちの注目を集め出している。


「ねぇ、あれ何やってんの? キスしてんの?」


「え? おっぱい? 胸に顔つっこんでない?」


 そんな声が聞こえてくる。このまま立ち止まられてはまた面倒が起きる。


 弥堂は水無瀬から顏を離した。しかし肩は掴んだままで決して逃がしはしない。



「では、違う質問をしようか。水無瀬、貴様ハッキング技術は堪能か?」

「たんのーじゃないよぅ」


 じーっと水無瀬を見つめる。


「ほんとだもんっ! 私スマホもあんまり上手く使えなくて、時々ななみちゃんにやってもらうこととかあるし……」


「ふん、いいだろう。では次だ。水無瀬よ、貴様女生徒のおぱんつに並々ならぬ関心はあるか?」

「おぱんつ⁉」


 愛苗ちゃんはびっくりの連続に若干息切れしてきた。


「ないよっ、あるわけないですっ!」

「それは本当か?」

「ほんとだもんっ」

「ならば男子生徒の下着には関心があるのか?」

「なんのしつもんなのっ⁉」


 矢継ぎ早に繰り出される自分の理解の及ばない質問の数々におめめがぐるぐるしてきた。


「ないっ。そんなのだめだもんっ」

「ほう。では神に誓えるか?」

「神さま⁉ ――ち、誓えます!」

「では誓え」

「えっ⁉ え、えっと……かみさまっ、私はぱんつにかんしんありませんっ!」

「いいだろう」


 弥堂は尋問対象が目を回し息切れをして疲弊してきている様子を確認して、頃合いかと少し踏み込んでみることを決めた。


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