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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章11 眼窩の窓 ①

 経緯はどうあれ、弥堂 優輝(びとう ゆうき)が無事に地上へと降り立ったことで、一応は水無瀬 愛苗(みなせ まな)による『びとーくんきゅうしゅつさくせん』は成功を遂げた。


 周囲に集まっていた人々も安堵し、その場に漂っていた緊張感も霧散した――と思いきや、多くの者が微妙な表情で気味が悪そうに弥堂を見ていた。



「なぁ……見たかよ? なんだよあの気持ち悪い動き……」

「あの着地のやつだろ? なんかめっちゃ足動いてたぞ……」

「あたし夢に見そうなんだけど……」

「マジきもいわ……」



 どうやら高所から無傷で着地をキメた際に弥堂が見せた動作に関して、みなさんお気に召さなかったようだ。


 というのも、ぴょんっと飛んで普通にスタっと二本の足で着地をしたわけではなく、身体にダメージを負わぬよう接地の際の衝撃を殺す為に、少々特殊な着地の仕方を――例によって彼の師である女性に教わった技法を弥堂は使用していた。



――『五点接地』という技術がある。


 高所からの着地時に、衝撃が一か所に集中しないよう、足からの着地後地面を転がりながら順に接地場所を移して衝撃を分散させる技術である。

 両足を揃え膝を柔らかく力を抜いて、つま先から着地をしながら転がる。足の側面、尻、背中、肩と転がりながら接地面をズラしていく、謂わば『受け身』の延長線上にあるような技術だ。十分に熟達をすれば地上から5~6m程度の高さならば、危なげなく着地を成功させられるとも謂われている。


 もちろん、特殊な訓練が必要であるので、よいこや良識のある大人は安易に真似をしようなどとは思ってはいけない。そしてわるいこや良識の備わっていない大人は好きにやって、せめて他人の迷惑にならない場所で勝手に死ねばいい。



 しかし、これを弥堂の師に謂わせれば、着地するだけでいいのならばそれでもいいが、もしもそこが敵地の真っ只中だった場合、悠長に地面を転がっていては格好の的になる、と。実戦では、戦時下では使えない技である、と。そう仰っていた。

 故に彼女は弥堂に『手ほどき』をした。敵の集団のど真ん中に着地をしても速やかに戦闘に移行出来る業を。



 その技法とはこうだ。


 まず片足、どっちでもいいので仮に左足からとしよう。左足のつま先から地面に接する。次に踵を着けてから膝を曲げ衝撃を抜く。そして左の膝を抜くと同時に右足のつま先を着け同様の工程を熟す。そのままではそれで終わりなのだが、右足の踵が着くと同時に、先に接地していた左足を上げ地面から離し、右足の膝を曲げて衝撃を抜いたと同時に再度左足のつま先を設置させて同じ工程を行い、そして右足もまた一回上げてまた下すことで何度でも再利用できるのだ。

 五点接地では身体の各部分で順に衝撃を受け止めていくわけだが、このように高速で足踏みをすることで、なんと足だけで全ての衝撃をいなすことが可能となるのだ!


 初めて彼女からこれを聞かされた弥堂はちょっと何を言ってるのかよくわからなかったので、率直に忌憚なく「ちょっと何を言ってるのかよくわからない」と彼女に伝えたところ、首根っこを掴まれ「死にたくなければ死ぬ前に出来るようになるのです」と画期的なコツを教わり、建物三階ほどの高さから出来るようになるまで突き落とされ続けた。


 骨が折れようが皮膚が破れようが彼女は許してくれなかったので、必死に頑張った結果、弥堂は自分でも何がどうなっているのかよくわからないが、なんとなく出来ようになった。今回は校舎二階の床面より少し高い程度、約5m程の高さであったが、これくらいなら特に意識しなくとも着地を成功させられるようになっていた。


 普通の人からしてみればここまででも十分にビックリ芸であったが、この業にはさらに続きがあった。


 師は云った。


「――いいですかユウキ。聞いているのですか? まずは着地を無事に済ませるところまでで初歩です。あなたはまだ入り口に立っただけに過ぎません。今は地面と人体が衝突した際に生まれた衝撃を抜いて身体の外へ徹して流していますよね? この衝撃を攻撃に転用するのです。今回は修練の為に特別に許されていますが、本来それが生物ではないとはいえ、生まれたものをそのまま消失させるなどということは罪深いことなのです。神はそのような無駄をお許しにはなりません。ですので試練は次の段階です。足を接地することで生じたエネルギーを人体の中で流し周回させ一点に集約させます。その集めた力を敵の身体の内部に直接徹すのです。これが出来るようになれば――ユウキ? 人の話はきちんと目を見て聞きなさい。目線を隠すのは敵に対してだけです。私はあなたの敵ではありません。――いいですか? これは理論上は飛び降りる場所が高所であれば高所であるほど、その高度に比例して得られる衝撃は上がり、つまり比例して打撃の威力も天井なしに上がっていくわけです。ということは、とても高い所から飛び降りればとても強い力になるのでどんな敵であろうと一撃で……ユウキ? どこに行くのです? 話はまだ終わっていません。待ちなさいユウ――おねがいまって、おいてかないで……無視するのやだぁ――」

 

 記録を切る。



 普通の人から見たらビックリ芸な着地を習得した弥堂ではあるが、これは本当に何を言ってるかわからなかったので、習得は固辞させてもらった。彼女の言う“試練”とやらに付き合っていると流血は免れないので、これ以降弥堂は何かと屁理屈を捏ねて逃げた。


 だが、実際に弥堂の目の前で彼女はこれをやって見せ、小柄な彼女が自身の倍はあろうかという大男を10mほどぶっ飛ばしていたのを目撃したことはある。確かに彼女の言うとおり『りろんじょう』は可能なのであろう。


 実際にこの着地までの技法はとても便利で、弥堂はこの学園に編入してからもよく、校舎の二階窓を突き破って逃走する時などに運用していた。


 しかし、どんなに便利な技術にも欠点はある。


 この技法に限って言えば、その欠点は絵面がひどい、という点だ。


 簡単に言えば高速足踏みで着地をするのでバタバタ動かす足の動きがとても無様で見栄えが悪いということである。弥堂は他人の目を気にしないので問題はないといえばないのだが、それを見た人々はこうしてみな気味悪がるのである。


 弥堂の師である彼女はいつもメイド服を着用していて、ロングスカートにより足の動きが見えづらい為その動作の優雅さは然程損なわれないのだが、男性である弥堂は基本的にはズボン――今も学園指定制服のスラックスを着用しているので、傍から見れば高速タップダンスで着地をキメる変態にしか見えないのである。


 故にこうして今も人々は遠巻きにどん引きしていた。人間は自分の理解の及ばないものを畏れるのだ。

  

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