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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章07 unfinished ③




「ふむ」


 Energy Biteを一口齧る。

 

 咀嚼をしながら文字の流れに沿って画面上で目を滑らせていく。いつも通りの文面だ。このまま読んでいくと『愛してる』の連呼が『見て』の連呼に変わり、それが文章が終わりに近い合図となる。そして文末に本来の用件と『Y's』の署名で締められる。


 一見すると狂っているようにしか見えないこの文面に今でこそ慣れたものだが、初めてこのメールを読んだ時には弥堂としても眉を顰めざるを得なかった。


 暗号が酷いからだ。『愛してる』だのなんだのと意味のわからない単語の羅列は暗号に違いないと弥堂は考えていた。

 

 問題はその暗号をこちらが解読できないことなのだが、一度『意味がわからん。暗号を変えろ』と返信した際に、こちらの言い分には応えずに弥堂の返信に対して、弥堂の自宅住所と学園で行われた身体測定で計測された弥堂の身体情報だけを送り返してきた。

 これは恐らく『余計な口をきくな』『いつでもお前を狙える』という脅迫であろう。自分の方が立場は上なのだと主張しているのだ。強気な奴だ。


 しかし、暗号が解読不能では意味がないので一度、自身の所属する組織の上司である『サバイバル部』部長の廻夜にこれを見せて相談をしたところ、彼は意味深に笑うばかりで何も語らなかった。

『お前が知る必要のないこと』、そういうことなのだろう。心なしか廻夜の顔色が青褪めているようにも見えたが、彼は大きなサングラスを掛けていてその顔色は窺い難い。恐らくこちらの気のせいだったのだろう。

 


 現状の活動においては読める範囲の情報で不足はないと弥堂は割り切っていた。機密性に関しては完全とはとても言い難いが、万が一他人の手にこの端末が渡ってパスワードを突破されたとしてもまぁ、この狂気的な文章を最後まで読んでいく暇人もそうはいまい。それに、読まれたとしてもこちらにとって致命的な情報はここにはない。自分が内容確認後すぐに破棄をすればそれでほぼ問題はないであろう。


 どこまでも突き詰めたとしても恒久的に完璧な機密保持などは不可能だ。情報はいずれどこかで必ず漏れる。ならばそれに注力しすぎるのは効率が悪い。弥堂はそう考えていた。



 端末を持った左手の親指を画面上で幾度も上に滑らせていくと、ようやく目当ての箇所に辿りつく。そこには――


『あなたの誕生日・体重・靴のサイズを教えてください』


 という文章があり、その次にURLが記載されておりハイパーリンクが設定されていた。弥堂は迷わずリンクを踏む。


 自動的にブラウザアプリが起動し飛ばされた先のサイト情報が読み込まれる。すぐにパスワードを要求される。弥堂は考えもせずにそれを入力していく。


『4196827』


 誕生日4月19日、体重68㎏、靴のサイズ27㎝。先程の文章で質問された答えだ。このパスワードは毎回違う内容で、弥堂のパーソナルな情報を問われる。



 パスワードが認証されるとページが表示される。装飾の一切ない、白い背景に黒いテキストで文章が表示されているだけだ。


『あなたの名前・部屋番号・出席番号を教えてください』という文章が一番上に表示されており、その下にファイルのダウンロードリンクが2つ並んでいた。一番上のファイルをタップすると再度パスワードを要求される。


『yb30221』と入力するとダウンロードが開始されすぐにテキストファイルが開かれる。弥堂は慣れた様子でそれに目を通していく。


 一つ目のファイルに書かれているのは、仮想敵対部活動の弱みとなるような醜聞が殆どだ。

 それは噂レベルのものから信憑性の高いもの、時には確定した事実までをも情報の確度にちなんでランク付けをしてリスト化されている。こちらから攻撃をしかける先の候補リストだ。


 二つ目のファイルには逆にこちらに害を及ぼす可能性のある相手のリストが載っている。

 他の生徒や他校のグループに狙われていると情報が掴めた時や、職員会議や生徒会の議題で『サバイバル部』や『弥堂 優輝(びとう ゆうき)』個人が問題視された場合に、その計画や注意喚起等の報告がここに記される。



 一つ目のファイルには特に目ぼしいものはなかった。すぐに攻勢に出られるような目標はない。〇〇部の誰かが喫煙をしているかもしれない程度の優先度の低い情報だけであった。

 続けて二つ目のファイルに目を移す。こちらも緊急性の高い情報は特にはなかったが――


「正体不明の新勢力だと?」 


 見ると詳細は現状不明で、部活動や同好会などのように学園に正式に登録をされたコミュニティではなく、非正規の集団のようだ。


 放課後に一人で居る生徒を複数人で取り囲み迷惑行為を働いているらしい。


 現状被害報告は数件程度で、暴力行為を行っているわけではないが、被害者には女子生徒が多く何やら意味不明なことを主張してくるらしい。被害にあった男子生徒は仲間になるよう勧誘をされたようだ。彼らは自分たちを『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』であると名乗っているらしい。


(弱者の剣……慈善家気取りのテロリストか……?) 


 Y'sの評価では、楽観視はするべきではなく早期解決推奨。来週初めの風紀委員会の会議で議題に上がると予想。対応LEVELは3。


(レベルは3か……だが……)


 対応LEVELとは緊急性の目安のランクで1~5まであり、5が最も緊急性の高い案件となる。


 だが、レベル5までいってしまえばそれはもう手遅れということであり、場合によっては総力戦も辞さない、そういったケースを想定している。実質的にレベル3はすぐに対応にあたらねばならないような案件なのだが、弥堂としてはこの案件にあまり興味が湧かなかった。



『非正規集団』なのだ。


 つまり、学園から予算を割り振られ活動しているわけではないので、こいつらを潰したところで『サバイバル部』には何のメリットもないのだ。『風紀委員』としての立場で考えるのであればそうもいかないのだが、自分はあくまでスパイである。自ら積極的に関わる必要はないと判断をした。

 もしも来週の風紀委員会の会議でこの件の対応を命じられれば、それから対応をすればいいだろう。



(とは言え……)


 スマホの画面から一度目を離し思索する。


 このところなにやらキナくさい。


 『弱者の剣』といい、先程の山田君の件といい、事件が増えている気がする。山田君の場合は彼自身がそうなるように仕向けたのではあるが、それを抜きにしても事件が、と言うよりはそれを起こす者、所謂『不良生徒』が増加傾向にあるようだ。

 去年、弥堂がこの学校に転入してきた時よりも校内にガラの悪い者の姿が増え、それに伴い事件や騒ぎが明らかに増えている気がするのだ。


 それは校内に限った話だけではない。そういった素行の悪い生徒達は学園外で放課後や休日にも一般市民や他校の生徒と揉め事を起こし、各所からの苦情が学園に上げられているという話も聞いたことがある。時には警察沙汰になることもあり、学園の治安は明らかに悪化を辿っている。


(一度調べてみるべきか……)


 物事に変化がある時、それには必ず『理由』がある。

 衰退するにしても発展するにしても、そこには必ず誰かの意志と仕掛けがある。偶然そうなるなどという可能性は極めて低く、またそれを期待をするべきではない。


 このまま彼らの行動を放っておけば他校や街の半グレどもの不興を買い、大きな揉め事に発展する可能性もある。そうなってしまえば『サバイバル部』が無関係でいられる保証もない。調査の結果次第ではこの件はレベル4として対応に当たらなければならないだろう。出来れば風紀委員会の方で本格的に問題視されるよりも先に。


 風紀委員としてこれを『仕事』として割り振られてしまえば、その対応をする際にはどうしても採れる手段に制約が付く。いざと為れば手段を選ぶつもりはないが、事後のことも考慮すればそれは弥堂としても面白くはないことになるだろう。難しい案件だ。だが――


(これは俺向きの『仕事』だ)


 弥堂は一旦メールアプリへ戻り『Y's』への返信メールを作成する。

 内容は『学園内の不良生徒のここ一年間での増加数とその傾向及び学園内の不良生徒の現在数』と『校内校外での我が校の生徒の関与した事件数とその詳細内容及び学園へのクレーム数とその内容』、これらを可能な限り詳細に調べ上げて報告をするように、という要請だ。


 簡潔に指示だけを入力して一度内容を確認してから送信ボタンを押す。


 そしてファイルの残りの内容を確認するためにブラウザアプリへ戻ろうと――したところで手に持ったスマホが振動する。画面上部にはメールの受信を知らせるアイコンだ。


「…………」


 弥堂は無言でメールを開封する。そのメールには


『唾液をください。』


 それだけ記されていた。


「…………」


 弥堂は数秒文章を認証した。


 念のため確認したが差出人は不明で相手のアドレスは先程の未登録の恐らく捨てアドレスと思われるものからであった。


 つまり、Y'sからだ。



 返信が異常に速すぎることも気になるが、それよりも内容だ。


『唾液をください。』


 もう一度確認したが見間違いではなさそうだ。


 いつもの怪文の中に確かに唾液だの髪の毛だの爪だのといった、体組織を寄こせという文言はあったが、まさか暗号ではなく本気だったのかと訝しむ。


 とりあえず返信をする。


『ダメだ。』


『爪をください。』


 間髪入れずにまた返信が飛んでくる。


『ダメだ。』


『足の爪でいいので‼』


「そういう問題じゃねえんだよ」


 思わずメールの文章に声を出してツッコんでしまったことを弥堂は悔いた。そして疲労感が沸き上がる。


『黙れさっさとやれ』


 弥堂は投げやりに返した。すると、


『じゃあ靴下で! 使用済みの靴下で‼』


 弥堂は目を閉じて、他人の使用済みの靴下を入手することの意味とそれから得られる成果とそれにより自分が失う可能性のあるものは何かという、人類の殆どが無縁なままその人生を終えるであろう疑問に思いを馳せた。


 10秒だろうか20秒だろうかその場で瞑目し、それから目を開けると、


『いいだろう。その代わり仕事は色をつけてやれ。』


 弥堂はもう面倒になってY'sの要求を飲むことにした。


『よろこんでええぇぇぇぇ‼‼』


 歓喜の返信が届き、その数秒後にもう一通メールが届く。最後のメールにはまたいつもの『愛してる』連呼の長文が書かれていた。正直もう見たくなかったが、いつもの形態をとっている以上これは『仕事』の情報かもしれない。疲労を滲ませながらも本文の最下部まで辿り着くと、そこには画像リンクと『Y's』の署名だけがあった。


 いつものパスワードなどはない。これは初めてのことだった。先のやりとりで弥堂は大分うんざりとしつつあったので特に気にせずにその画像を開いた。



「――――⁉」



 一瞬目を見開き、そしてすぐにそれは細められる。



 手に持った端末のディスプレイに映ったのは弥堂の想像だにしないもので――


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