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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章07 unfinished ②



 記録を切る――


(この後は俺は発言をしていない。恐らくここまでの中での行動のどれかが問題だったのだろう)


 弥堂は胸中でそうつぶやく。




 実際、問題どころではなかった。


『俺は、抜かずに三発出せる』


 この発言で教室は静まり返った。当然だ。生徒さん達は白目を剥いた。当然だ。木ノ下先生も白目を剥いた。当然だ。水無瀬 愛苗(みなせ まな)だけは意味がわからなかったのだろう首を傾げていた。


 完全に全員の度肝を抜いて、満足げに自席へと引き返していく弥堂にクラスメイト達は戦慄していた。弥堂が教卓へと拳を叩きつけたことによって、臨戦態勢をとっていた数名の生徒も思考停止をしていた。

 弥堂が席に座るとようやく教室は騒めき始める。水無瀬とは逆側の隣の席の女生徒は弥堂が席に着く際に「ひっ」と悲鳴を上げていた。


 女子生徒達の殆どは顔を赤らめるか青褪めるかして怯えている者が多かった。男子生徒は敵愾心を剥き出しにする者もいたが、大半は雄としての敗北感に心を折られていた。悔しさに顔を歪める者、絶望的な戦力差に涙を流す者もいた。

 以上に該当しない生徒達は男女問わず弥堂の常識外れな言動を軽蔑していた。



 水無瀬さんだけはよくわかっていないのだろう、戻ってきた弥堂に笑顔で声をかけた。


「おかえり弥堂くんっ、おつかれさま! ……ねえねえ、抜かずに三発出せるってどういう意味? 何が三発出るの?」


 再び教室に激震が走る。


 普段は水無瀬を邪険にしてロクに受け答えをしない弥堂だが、こういう時に限って律儀に反応をする。


 他にも意味がわかっていない者もいるかもしれない。ここで上下をはっきりさせる、廻夜流に言うのならば『マウントをとる』為にはしっかりと『わからせて』やった方がいいだろう。そう考え水無瀬の方を向く。


 教室後方でガタッと大きく椅子を蹴倒す音が聞こえた。弥堂の蛮行を止めるべく、大好きな親友の愛苗ちゃんに汚い言葉を聞かせない為に希咲 七海(きさき ななみ)が慌てて立ち上がったのだ。


 弥堂が口を開く。

 

 しかし、弥堂 優輝(びとう ゆうき)が言葉を発する前に、希咲 七海が不埒者にドロップキックを叩きこむその前に、それよりも先に動く者があった。


「びっびびびびびとおくんっ‼ あっ、あとで指導室まで来なさああぁぁぁぁいっ‼」


 この学校に勤務してまだ1年、というか教職に就いてまだ1年だが、生徒達からは優しい、穏やかで大人っぽいと評判だった木ノ下先生は、今までの人生でも一度も出したことのないような声量で、無事に弥堂の発言を止めることに成功した。このクラスに就任して最初の重要な仕事であった。本人にとっては甚だ不本意なことであろうが。


 その後生徒指導室へと呼び出した弥堂との間でまた一悶着あったのだがそれは今は別の話。




 時は戻り体育館裏。


 弥堂は脇に置いたポリ袋からコンビニで購入した昼食を取り出す。手に持っているのはブロック状のバランス栄養食だ。


Energy(エナジー) Biteバイト


 人間が生きる上で必要なありとあらゆる栄養素を親の仇の様に詰め込んで圧縮した商品である。

 弥堂が嗜食している一品で何か特別必要性に駆られて外食をするわけでもない限りは、ほぼ三食全てこのEnergy Biteで食事を済ませていた。


 先程教室で水無瀬に『変なの』呼ばわりをされ、その流れで希咲に『あんた一体何食べてるわけ?』と問われこの商品を紹介したのだが、二人掛かりでクソミソに貶された一品である。と言っても好き放題に罵ってくれたのは9割が希咲であったが。


(ふん、素人どもが)


 道理を解さぬ愚か者どもへの嘲りが甦り、先程奴らに説明してやったこの商品の素晴らしい点を頭の中で羅列しようとした瞬間――



 “ヴヴヴっ” と手の中の端末が短く震える。着信を知らせる通知音だ。液晶画面の上部を見ればE-MAILの着信を示すアイコンが表示されている。

 サバイバル部や風紀委員会との連絡は、最もユーザー数の多いと言われている『edge』というメッセンジャーアプリを使用している。電子メールの方で連絡が来るのは主に『バイト先』からと――


 弥堂は受信メール一覧を開いて、その最上段に表示された未読の新着メール、それの差出人を見て目を細める。予想通りの相手からであった。メールを送信してきた相手の名前を示す欄に記載されていたのは――


――差出人不明――


(……Y'sか)



 Y's(ワイズ)


 弥堂 優輝(びとう ゆうき)が所属する部活動である通称『サバイバル部』、そして正式名称『災害対策方法並びに遍く状況下での生存方法の研究模索及び実践する部活動』。これに所属する廻夜・山田君・弥堂に次ぐ第4のメンバーで、恐らく情報収集及び管理統制に特化している、と思われる部員である。


 山田君以上に謎に包まれた部員で顔を見せたことがないどころか、学園に提出している部員の登録名簿にもその名前は記載されていない正体不明の生徒だ。Y'sというのは仮称であり偽名もしくはコードネームのようなものなのだろう。彼、もしくは彼女から送られてくる様々な情報文書のその文末に『Y's』と、署名のように必ずそう記されており、もしかしたら名前ですらないのかもしれないが、そこから弥堂は『ワイズ』と、便宜上そう呼称していた。


 このY'sからはこうやってEメールや紙の文書でこちらが必要とする情報、これから必要となるかもしれない情報、各種テストの極めて精度の高い出題予想から近所のスーパーの耳寄りなお得情報に加え、お住いの地域のゴミ収集の日のお知らせまで、ありとあらゆるお役立ち情報を網羅してこちらに提供してくる。

 

 反省文について詰めようとしていたが、緊急性の高い案件の可能性もある。弥堂は瞬時に頭を切り替えてメール本文を画面に表示させる。『無題』、『差出人不明』のそのメール本文には――







『愛してる愛してる愛してる好き愛してる愛してる愛してる愛してるいつも見てる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる好き愛してる愛してる死にたい愛してる愛してる愛してる愛してる産みたい愛してる好き愛してる愛してる愛してる好き愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる気付いて愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる好き愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる見て愛してる愛してる愛してる愛してる私を見て愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる何でもします愛してる愛してる愛してる愛してる下さい愛してる愛してる欲しい愛してる愛してる欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる爪が欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる髪の毛が欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる唾液が欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる血が欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる全部欲しい愛してる愛してる愛してる愛してる死にたい愛してる好き好き愛してる愛してる愛してる殴って愛してる愛してる首を絞めて愛してる愛してる愛してる踏みつけて愛してる愛してる愛してる愛してる研いで愛してる愛してる愛してる愛し

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