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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章07 unfinished ①

 体育館裏へと辿り着く。

  

 西側の部室棟の北に体育館がありそのさらに北部にはプール施設がある。学園の敷地全体を見下ろすと学園内の北西部にあたる位置だ。

 弥堂はそこまでは通り抜けずに体育館裏手の、学園の敷地と公道とを隔てる外壁との間にある清掃員が仕事に利用する焼却炉設備の付近へと来ていた。こちらへ来る生徒は少なく静かな場所であり、その為に弥堂は自身の『一人飯スポット』の一つとして利用していた。


 外壁側に設置された清掃員が使用する特殊な焼却炉の向かい側には水道が引かれており、その脇の地面に腰掛けるのにちょうどいい高さのコンクリートの段差がある。


 弥堂は体育館の壁に背を預け腰を下ろす。身体の脇に持っていた荷物――コンビニで購入した商品の入った買い物袋と水無瀬 愛苗から手渡された弁当袋を置く。


 ポリ袋から水のペットボトルを取り出し、目を細め未開封であることを確認してからボトルキャップを回す。水を二口飲みキャップを締めて脇に置いてから、スマホを取り出すとタスクアプリを起動する。



 本日は4月16日の木曜日。土日は休みとなるため明日の金曜日で今週の学園の日程は終了となる。なので今週中にやらねばならない仕事は、必然的に明日までに終わらせなければならないことになる。弥堂は自身に課されたタスクリストを手元の画面に目を向け確認していく。


 順に目で追う。いくつかの教科での課題。風紀委員の活動レポート。廻夜からの課題は――クリア。『バイト』の予定。そして、最後の一つで目が止まる。



『反省文の提出』


「ちぃっ」


 思わず舌を打つ。


 弥堂はとにかくこの反省文というものが嫌いだった。要は始末書だ。

 自身がミスをしたのならばそれを作成するのは仕方のないことではあると思うが、成果を出せなかったのならばともかく、『不適切』『不健全』だのと意味のわからない難癖を教員どもに付けられ、不要な時間的コストの消費を強いられる。非常に強いストレスを感じていた。


(――まさか)


 敵性部活動の者どもの息が教員の一部にかかっていて、それでこちらに妨害工作を……?


 証拠はない。ないが、その可能性は考慮しておくべきだと弥堂は判断した。そしてそれは的外れではないと、そう強い確信があった。

 でなければ説明がつかないことがある。


 この反省文の要求が毎週複数件あるのだ。このような意味のない作文をこれだけ大量に作成させられることが『普通』だとは考えづらい。

 それとも自分が知らないだけで、高校生とは意味もなく毎週多大な反省を強いられることが『普通』のことなのであろうか。

 でなければ、この学園に転入してから今までの期間、遅刻も欠席もなく真面目に通学をし、学園の治安維持に努める風紀委員としての職務を全うしている自分のような模範生が、このような憂き目にあうはずがないのだ。


 やはりこれは何らかの陰謀である。弥堂はそう結論づける。

 しかし公式な手順で以って作業として課された以上は、現状はそれに甘んじる他ない。今まで気づかなかった自分が間抜けだったのだ。今は大人しく従っておこう。


(今はな――)



 そのような思惑を巡らせつつ、弥堂は今回の反省文が一体何についての反省なのか、という部分に思いを馳せる。


 先日の『自己紹介』の件だ。

 

 自身の所属する部活動の先輩であり部長である廻夜 朝次(めぐりや あさつぐ)には『一年間を諦めるしかないレベルのやらかし』、担任教師の木ノ下 遥香には『考えられないレベルの失言』と評された、およそ一週間ほど前の4月8日水曜日。


 二年生へと進学して、新しいクラスに新しいクラスメイト達と編成されて迎えた新しい学期が開始された日の、体育館で行われた新入生のための入学式兼在校生の始業式が終わり、それぞれの生徒が各クラスへと戻ってから行われた最初のHRでの出来事である。


 出席番号順に各生徒が教壇に立ち、クラスメイト達に向けて自身のプロフィールなどを喋る。ありふれた自己紹介だ。


 弥堂の順番が廻って来たので席を立ち教壇へと向かう時のことだった。その道中、以前の自分の保護者のような立場にいたルビア=レッドルーツ、記憶の中でも鮮烈に燃えるあの緋い女の言葉を思い出しそれを実行した。

 しかしそのルビアに教えられた通りの『自己紹介』がどうも拙かったらしい。

 

 反省文を作成するにあたっては一体何が悪かったのか、その情報は必須となる。

 廻夜は多くを語らなかったし、自分を呼び出し説教を行った担任教師の木ノ下に至っては、興奮しすぎていてその言動は支離滅裂であった。教職に就いて二年目のまだまだ新任教師といえる彼女だが、いい歳をした大人の女性があれほど顔を赤くして怒り狂う理由とは一体どんな……



 弥堂は自らの所業を思い出すべく記憶から記録を取り出す。








――4月8日水曜日 9時20分頃 場所:2年B組教室 



 席を立つ。俺の順番だ。席を離れる際に隣の座席の水無瀬 愛苗(みなせ まな)が「がんばってねっ」と言った。前に立って自分のプロフィールを読み上げるだけだ。何を頑張ると言うのだ。

 まるで小さな子供を送り出す若い母親のように不安を滲ませた顔で、励ます声音でそう言った。ナメているのか。子供はお前だろう。と俺は考えた。


 数歩進んだところでルビアの教えを思い出した。こういう場面での作法だったはずだ。当時のルビア=レッドルーツとの会話の記録を取り出す。不完全な記録。何も出来ない甘ったれのガキの思い出を幾年か後に記録としたもの。正確性は疑わしい。彼女は笑っていた。恐らくこんな顔で笑っていた。そして彼女はこう言った。恐らくこんな声で言った。彼女の言いそうなことではあるし、実際に教わった通りに何度か振舞ったこともある。記録は不完全だが大体このような感じだろう。問題はない。と俺は考えた。


 大雑把でいい加減な女だったが、あの女の教えが俺を生かした。彼女がそうしろと言うのならばそれでいいのだろう。と俺は考えた。


 教壇に立つ。左から順にクラスメイト達を見渡す。大体は覚えのある顔だ。数名ほど警戒が必要な対象はいるが問題はない。敵性存在も現状いない。どうにでも出来る。と俺は考えた。


『まずは見下ろせ。んで睨みつけろ』ルビアの言葉だ。不完全な記録。了解。と俺は考えた。


 ネクタイを緩めシャツのボタンを2つ外す。以前にクソの役にも立たない消耗品のチンピラ崩れどもを相手に、よくそうしてやっていたように見下ろす。どいつもこいつも平和ボケした腑抜けた顔だ。ルビアの世話になっていた時の自分のようだ。と俺は考えた。


 教室全体を睥睨するように無言で見下ろす。気の短い者ならもうここで仕掛けてくるはずだ。それを待つ。教壇の脇に立った女が「び、弥堂君……あの……?」と遠慮がちに声をかけてくる。木ノ下 遥香。この新しいクラスの担任教師だ。教師2年目で担任を任されたという情報だが、一目でわかる。使えない女だ。この女に教わることなど何かあるのだろうか。と俺は考えた。


 15秒待ったが反応はない。戸惑う者、怯える者、嫌悪する者、わずかに敵意を放つ者。慌ただしく挙動不審な水無瀬。次の段階へ進もう。と俺は考えた。


『ハッタリでもなんでもいいから一発カマしてやんな』『テメェはこう言ってやんな……』 ルビアの言葉だ。その先の言葉も憶えている。不完全な記録。了解。と俺は考えた。


 左手を握る。破壊はしない程度に、だが出来るだけ大きな音が鳴るように、教卓へとこの手を叩きつける。俺は実行した。


 そのまま教室を黙って見渡す。怯える者、嫌悪する者、臨戦態勢に入った者、慌ただしく挙動不審な水無瀬。だが動く者はいない。次の段階へ進もう。と俺は考えた。


 名を名乗る。「俺の名前は弥堂 優輝だ。俺は――」一度言葉を切り目に力を込める。動く者はいない。ルビアの次の指示。不完全な記録。了解。次の段階へ進もう。と俺は考えた。


 ゆっくりと間を作ってから言葉を発する。俺は実行した。





「――俺は、抜かずに三発出せる」と俺は言った。

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