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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章06 となりの戦場 ①

 屋外へ出る。


 教室で水無瀬と希咲に暇を告げ、水無瀬が自分の為に作ってきたという弁当の入った弁当袋と、今朝登校前にコンビニで元々昼食にする予定で購入した商品が入ったポリ袋の二つを手に持っている。


 水無瀬の弁当を受け取ったもののさすがにそのまま食事を共にする気にはなれず、なんだかんだと理由を付けて、というか最終的には怒った希咲に追い出される形で教室を後にし、現在は屋外にて昼食を摂るべく体育館裏へと向かっていた。



 何故体育館裏なのかというと、弥堂 優輝(びとう ゆうき)が所属する部活動の最高権力者であるところの廻夜 朝次(めぐりや あさつぐ)部長が、『プロの高校生たるもの一人飯スポットは複数持っていて当然である』という持論を展開しており、部員であるところの弥堂としてはその教えに従う義務があった。体育館裏はその一人飯スポットの一つだ。


 日によってランダムでスポットを変えることは、敵に己の居場所を特定させず、行動サイクル、それに伴う行動選択の思考パターンなどを掴ませないようにするのには効果的だと考えていた。そもそも敵とは誰なのかという問題もあるが、それは弥堂にとってはどうでもよかった。


 廻夜はしつこく自分の『スポット』を教えようとし、また弥堂の『スポット』を聞き出そうとしてきたが、万が一同席している時にヤサに突入をしかけられてしまっては、一網打尽にされる恐れがある。


 また個別に捕虜とされた場合には自白を強要される恐れもある。弥堂はどんな尋問にも拷問にも屈さない自信はあったが、現代の進んだ化学により開発された自白剤がどの程度の効果を持つのかについては寡聞にして知らない。そこは甘く考えるべきではないと、そう判断をした。その為、弥堂はお互いの情報の共有を固辞した。


 廻夜は心なしか寂しそうにしていたが、まさか『一緒に昼食を摂りたい』というわけでもあるまいし気のせいだろう。彼はトレードマークのサングラスのせいで表情が読みづらいのだ。



 一年生校舎を通り過ぎ三年生校舎の壁沿いに歩く。このまま北上していけば部室棟があり、その先が目的の体育館だ。


 弥堂はチラリと左手に持った弁当袋を見た。


 水無瀬の私物であるそれはよく晴れた青空のような色をした布製の袋に、やたらとデフォルメされた動物のアップリケが縫い付けられている。耳にリボンなどをつけスカートを穿いたタヌキさんとネコさんと一緒に、こちらは雄と思われるズボンを穿いたワンちゃんが、はらっぱで広げた敷物の上でなかよくごはんを食べている。そんな風な絵だ。


 このような女児が喜びそうなファンシーな袋を自分が持ち歩いている。その事実に弥堂は眩暈を覚えそうになったが、ここ数年間の自分の身に起きたロクでもない出来事のハイライトシーンを頭に浮かべ、どうにか正気を保つことに成功した。



(仔猫ではなく仔狸だったか……)


 水無瀬 愛苗(みなせ まな)に思考を戻す。


 先程、彼女の異常性について考察をしていたが、それに加えてもう一つ。

 自分、弥堂 優輝に対しての執着のように見えるモノだ。


 冷たくされようと変わらずにニコやかに話しかけ続ける。そんな彼女の異常性だが、それを向けている対象が知る限りでは弥堂に対してだけであった。

 もちろんそもそもの話、彼女に対して冷たくするといった対応をしているのも知る限りでは自分だけなので、それだけのことなのかもしれないが。


 頭の中で現在弱みを握っている生徒達のリストを並べる。


 彼らを使って、彼らにとっての『爆弾』を対価にして、水無瀬 愛苗を脅迫、もしくは襲撃させるのはどうだろうか。


 そこまでの行動をとらせなくても、弥堂以外に彼女に対して『冷たい』人間を用意してそれらへの反応を観察すれば、彼女の執着に似た何かが自分に対してだけのものなのかどうかがわかるのではないだろうか。


 弥堂は制服のポケットから自身のスマホを取り出し、パスワードを入力してタスク管理アプリを開く。

 そして直近での自分のやるべき『仕事』の予定を確認し、舌打ちする。


 行動に移すにしても今すぐには無理だ。予定が詰まっている。水無瀬の執着のようなモノについては放置しておいていいものではないが、現状では後回しにせざるをえない。弥堂はスマホを操作する。


 学園の風紀を守り、時には自警団のように困っている生徒を助けることも業務に含まれる風紀委員会に所属するその男子生徒は、同じ学園に通う他の男子生徒を脅迫して、同じ学園に通う女子生徒に嫌がらせをさせる予定を『優先度 中』のリストに入力をし、スマホを制服のポケットに仕舞った。



 出来ないものは仕方ないと切り替え、再び左手に持った荷物に目を向ける。


 面倒だからとこの弁当を受け取ってしまったが、実際のところあのまま彼女達と食事を共にし、もっと言うならば日々の彼女の要望にも付き合ってしまっても問題はあるのか、ということだが――問題はある。


 

 事実、一年生時の初期に彼女の好きにさせていた時期があったのだが、そうするとやたらと他の生徒、特に男子生徒に敵対行動をとられるのだ。無視・暴言・私物の紛失に時には直接的な武力行動に出られることもあった。


 それが今と何が違うのかといえば、現在の弥堂を取り巻く悪意・敵意はあくまでも『サバイバル部』そして『風紀委員会』に所属する者としての行動の結果であり、例えそれで悪意に晒されようとも、こちらは目的の成果は得ているので何も問題はない。


 しかし、水無瀬 愛苗と接触することによって被る被害には、対価として得られるものが何一つ存在しない。


 降りかかる火の粉を払える程度の力はあるという自負はあるが、問題は他にもある。


 去年の転入したばかりの時期ならばともかく、今の自分は風紀委員だ。


 特に出世などには興味はないが、しかし自分の本分はスパイである。サバイバル部の活動の一環として風紀委員会に潜入している以上、同委員会内で排斥されるようなことがあってはならない。

 数人の高校生に襲撃されようが物の数ではないが、学内の風紀を守るべき立場の自分が自ら無用な火種になるわけにはいかない。


 よって、水無瀬 愛苗との距離は測らねばならない。何故彼女と関わると襲撃を受けるのかは不明だが、廻夜に読まされた物語などでも、学校内で人気のある容姿の優れた女生徒に構われると、他の生徒からあらゆる手段をもって攻撃を受けるという事例は多数見られた。高校生とはそういう生態なのだろうと現在では弥堂は納得していた。


 水無瀬 愛苗(みなせ まな)


 クラス一の美少女、学園のアイドル、あとはマドンナ……などだろうか。

 廻夜の持っていた書物ではそんな表現がされることが多く、それに彼女が当て嵌まるか、といえば少々言いすぎな気もするが確かに整った容姿はしていると、弥堂から見てもそう思える。

 身長が低いことも手伝って、顔立ちや言動の幼さが年齢の割に目立つようにも思えるが、周囲の生徒達の彼女の持ち上げ方から見て、これはそういうことなのだろうと判断を下す。マスコットと称した方が本人像と合致はし易い気もするが、そこはまぁ誤差であろう。


 ただ、先に挙げた条件で当て嵌めるのならば、希咲 七海(きさき ななみ)――彼女の方がより条件に合致する美しい少女のように弥堂には思えるが、彼女と関わったことで何かしらの脅迫や襲撃を受けたことは今のところ一度もない。

 それは彼女本人の苛烈な性格のせいなのだろうか。彼女を恐れている生徒もいるようには見受けられる。


 ふむ、と歩きながら思考に耽る。しかしその歩調には乱れはない。



 自分は現在『普通』の高校生だ。


 そうなるべくこの学園に入学をして、それにふさわしい行動を心掛けて日々を過ごしている。そしてそれは概ね上手くいっていると自評している。

 だが、だからといって現状に甘んじているわけにもいかない。より一層、普通の高校生として溶け込める方法があるのであれば、それを実行しない理由などないのだ。


 美しい女生徒と距離の近い男子生徒を襲撃する。それが普通の男子高校生としての生態だというのならば、自分もそうするべきかもしれない。弥堂はそう考えた。


 素早く制服からスマホを取り出し再びタスク管理アプリを起動。『優先度 低』リストに希咲 七海と親交のある男子生徒の襲撃計画を入力しようとしていると、突然、絹を裂いたような悲鳴が上がる。



 現在地は三年生校舎が終わりに近づき、部室棟に差し掛かるあたりだ。悲鳴はそれほど大きい声ではなく、多少くぐもったように聞こえた。


 三年生校舎と西側部室棟の間の通路を右へと進めば学園内中心部の中庭と食堂がある。この時間帯そちらは人が多いはずなので、この学園においては校内で悲鳴が上がることなど何も珍しいことではないが、さすがに見える場所で事件が起きればすぐに騒ぎになる。

 だが現在中庭方面にそんな様子はない。


 中庭へは声が届かなく且つ死角になる場所。以上のことから現場は部室棟屋内であると推測を立てた。


 弥堂は素早くスマホを仕舞うと足音を殺し、部室棟の壁へと背を付けた。


 本日の昼休みは自分はシフト外で風紀委員の勤務時間ではないが、目の前で事件が起きた以上ポイントを稼いでおくのも悪くはない。弥堂は現場を特定、状況を確認し、可能であれば独力で制圧することを決めた。


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