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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章05 間接正犯 ③

「あ、あのねっ、お弁当作ってきたのっ‼」



 ――浮かしかけていた机を静かに下ろす。


(またこちらの行動の頭を抑えられた……偶然か? ……呼吸を読まれたとでもいうのか……?)


 水無瀬は後ろを向き机の上の自分の鞄の中から何かを取り出そうとしている。

 それに合わせてかどうかは不明だが、自分の中で何かしらの折り合いがついたのか、希咲が緩慢な動作で立ち上がりこちらに不機嫌そうな眼差しを向けてくる。


 弥堂は内心で舌を打った。


 事ここに至ってはもはや逃走は諦めるしかあるまい。机から手を離し、水無瀬の動向を見守る。

 弁当を自作したからなんだというのかは不明だが、何れにせよ、このまま厄介なこの二人組に付き合う他ないと覚悟を決める。弥堂はチラと腕時計に目を遣った。昼休みに入ってからもう10分以上が経過していた。


(無駄な時間だ)


 胸中で一人ごち水無瀬を待つ。


 振り返った彼女は弁当袋と思われる布の袋を二つ抱えていた。何故二つ? と弥堂は怪訝な目を向ける。


「あのね。今日もお弁当用意してたりしないよね? 弥堂くんいつも変なの食べてるから、ちゃんとしたごはん食べた方がいいってずっと思ってて、それで私……」


 そういえば――と思い出す。確かに一年生時から弥堂の食事メニューについてそういった指摘を受けてはいた。

 希咲が「変なの?」と首を傾げている横で水無瀬は言葉を探しながら続ける。


「……お母さんのね、お手伝いしながら教えてもらって……おいしくないの食べさせちゃったらかわいそうだし、恥ずかしいし……それでね? ずっと練習してて……」


 いまいち要領を得ない言葉が錯綜し、結論まですぐに辿り着かない。しかし、自作したというその弁当を大事そうに胸に抱いて、視線だけは真摯にこちらへしっかりと合わせ何かを必死に伝えようとするそんな彼女を――水無瀬 愛苗を見て弥堂 優輝のその心は――



「……あのね? だから。このお弁当、たべてくださいっ!」


 ギュッと目を瞑り二つ持った内の片方の包みを差し出してくる、そんな水無瀬 愛苗の姿に――



――弥堂 優輝の精神は芯まで冷え渡った。キンっと鞘から刃を抜き放ったかのような冷たい音が脳内に響き思考が静まる。



 今朝の希咲とのやり取りを思い出す。


 なるほど、どうやら彼女らは『共犯者』だったようだ。水無瀬への対応を改善しろとはこれの為だったのだろう。


「あたし昨日同じの作ってもらって毒見――もとい味見してるからメニューと味は保証したげるわよ」


 軽い口調とは裏腹に希咲のその眼差しは「受け取らないなんて選択は許さない」と言っている。そんな希咲と、彼女に顔だけ向けて「毒見はひどいよぉ」などと言っている水無瀬を見て、



(くだらない茶番だ)



 弥堂 優輝はそう思った。心の底からそう思った。そして、酷く面倒になった。



 弥堂は席から立ちあがる。


 それを見て「お?」と目を軽く見開く希咲と、その彼女の様子に気付いてこちらに向き直る水無瀬の元へと一歩踏み出す。


 期待するような視線を送ってくる希咲と、再び緊張したような面持ちになって差し出す弁当袋を持つ手に力を込める水無瀬を見下ろす。


 

(このお弁当、たべてくださいっ!)

(特に、今日は、お願い。優しくしてあげて? ……お願いよ)


 

 真摯で必死で切実な二つの声。



 きっと――



 きっと、たかだか、こんな、くだらないことが、彼女たちには重要で、『特別』なことなのだろう。

 


 水無瀬 愛苗(みなせ まな)弥堂 優輝(びとう ゆうき)に弁当を食べさせることで。

 希咲 七海(きさき ななみ)は水無瀬 愛苗のそんな願いが叶うことで。



 彼女たちは何かしらの充足感を得て、いつかの未来で顔を会わせて、今日という日が『楽しかった』とそう声を合わせて、笑い合い、お互いの青春が、人生が、豊かだったと、口裏を合わせてそういうことにする。

 そんな『共犯関係』なのだろう。


 廻夜 朝次(めぐりや あさつぐ)の言葉に照らし合わせれば、これはそういうことなのだろう。



『それならば、自分は――』


 廻夜の言葉の続きを再び思い出しながら弥堂は目を細め、水無瀬と希咲を視て、弁当袋を視て――



 その包みを受け取った。



 瞳を輝かせ、何やら姦しく喜び合う少女二人を見て思う。



 絶対にありえないことだが、仮にいつかの未来とやらが訪れたとして――



――これで自分はどちらの少女の『共犯者』となったのだろうか。

 


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