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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章30 その福音は唯独りの勝利者の為に鳴る ③


「お前らっ! 何をしとるかっ‼‼」



 別方向から現れた誰かのその図太く重い怒声に場の空気が一瞬で静まった。



 大きく天井付近まで浮かび上がった希咲は嫌な予感がし眼下を確認すると、落下をする自分を受け止めるべきはずの者たちの誰もが新たな闖入者を確かめようと外方を向いていた。



「――えっ? ちょ、ちょっと――!」



 言いながらも慌てて落下中にどうにか着地するため姿勢を変えようとするが――



「――ぶぇっ」



 突如首元に負荷がかかり喉が締まって、決して自分が出したとは認めたくないかわいくない声が出た。



 何事かと確認すると、他所に視線を向けたままで落ちてくる希咲をキャッチした弥堂に奥襟を掴まれていた。


 ちゃんと受け止めてくれたことには感謝しなければなのだが、先に何回も注意をしたようにそのやり方がよくなかった。


「これやめてっていったでしょ! おなかでちゃうからやなのっ!」



 先までに何回か同じように襟を持って持ち上げた時とは違って、高所からの落下で体重が乗った状態で掴んだ今回は、彼女の懸念どおりの事態になる。


 スカートの中にしまっていたブラウスの裾が引っ張られ、羽織ったカーディガンの前を閉じていなかったために、希咲の白くきれいなお腹が露わになる。



 おなかが――という指摘につられ、自然とそこに視線を向けてしまった弥堂の眼に、縦長のおへそとその両サイドにうっすらと筋のとおった、よく締まった腹が写る。



 すると、そのお腹を滑るように服の中からポロっポロっと何かが二つ床にこぼれ落ちていき、そちらに関心を奪われた。



 興味がなくなったので弥堂に雑に放られ解放された希咲は「ぉととっ」とバランスを調整し、床に降り立つとすぐさま弥堂に詰め寄る。彼に指を突き付けながらギャーギャーと文句をつける。


 弥堂はそれを無視して床に落ちた物を腰を折って拾い上げた。



 手に取って眼に映したそれは布製のもので、柔らかいのだがしっかりと形を保つように作られていて、しかし決して固くはないという不思議な感触だった。


 手触りもよく指で押し込むとゆっくりと膨らむ様に形が戻る。



 弥堂はそれを『ふにっふにっ』と二回ほど指で揉んでから、どうやら隠し武器や薬物などの非合法なものではないと確認し、持ち主に返してやることにする。



「――ってんでしょ! やっていいことと悪いことわかんないわけ⁉ ねぇちょっと、きいてん――」


「――おい、落としたぞ」


「――はぁ? 今そんなことどうでもいいでしょ⁉ あたしの言ったことちゃんと聞いてたわけ? だいたい落としたってなに、を…………みゃっ――⁉」



 ポッケから落ちた何かを拾ってくれたくらいでこの怒りがおさまると思うなよと言わんばかりに勢いづいていたが、弥堂が手に持って出してきたものの正体を実際にその目で認めると、ビシッと希咲は固まった。



 ぷるぷると小刻みに震えながら僅かに俯き、垂れさがった揺れる前髪でその目が隠れる。



「ちょ、ちょっとキミたち。イチャつくのは後にした方がいいよぉ」


 闖入者の正体を確認した法廷院が若干怯えながら小声で忠告をしてくれるが、今はそれどころではない彼女には届かない。本当はそれどころなのだが。



「これはお前のものではないのか?」


 弥堂は念のため拾得物を希咲の眼前に持っていきよく見せてやって確認をする。ついでに『ふにふに』と再度親指でもみもみした。感触が気に入ったのかもしれない。



 目の前でそれを見せつけられた希咲の髪がざわざわと波立つ。



「おい、さっさと受け取れ」


 一向に動く気配のない持ち主に焦れた弥堂は、希咲の右手――左右の手をそれぞれ両の胸に片方ずつあてて抑えていた――を丁寧にとると、掌を上に向けさせそこに落とし物をのせてやろうとする。



 希咲のサイドテールがゆらりと一度大きく揺れた。



 希咲の掌の上へと持ってきた弥堂の右手が、その握った物品を手放そうと指を解いた瞬間――下から上へとパシンと手を払われる。



 弥堂の眼前で打ち上げられていくそれを、彼は反射的に眼で追ってしまった。



 大した高度まではいかずにくるりくるりと回転しながら落ちてくる謎の拾得物を、今度は上から下へと視線を追従させていく。



 やがてその『何か』と希咲の姿が直線上に並んだその刹那――



――雷が迸り、バチンっと弥堂の視界が弾けた。



 意識が眩む。



 希咲が、落下してきた胸パッドがちょうどブラインドとなった一瞬を狙い、腕を伸ばす道すがら器用に片方のパッドを回収しつつ、それを握りしめたままで神速の右ストレートを弥堂の顔面に叩き込んだのだ。



 身長差の影響で下から打ち上げるような軌道となったその攻撃で、弥堂の顏は天を向き上体が仰け反る恰好となる。



 希咲は右手を引き戻しながらさらに左フックを軽く振るように、落下中のもう片乳分をパシッとキャッチすると、その勢いを利用しグルンと大きく身体を回転させる。



(何が起きた――⁉)



 バチバチと火花が散るように眩む視界の中で、弥堂はかろうじて攻撃を受けたということだけは理解した。


 グッと奥歯を噛み、仰け反った上体を無理矢理にでも戻す。



 次に彼の視界に飛び込んできたのは、本日何度も目撃したためにすっかりと覚えた、かわいらしく装飾されたミントブルーのMVPだった。



 そしてすぐに顔面間近に迫った学園指定の室内シューズのゴム製の靴底が視界を埋め尽くし、そのスカートの奥の光景は消え去った。



 捻りを加えながら渾身の力で放たれた希咲の後ろ回し蹴りが弥堂の顔面に突き刺さる。



 必殺の意思をこめた希咲のフィニッシュワークが直撃し、弥堂は鈍い音を立てながら派手に後方に吹っ飛ぶと背中から壁にぶち当たって後頭部も強打し、ガクンと首を垂れて昏倒した。


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