序章28 終リ裁キ ④
弥堂 優輝は二人の女子生徒にどちらのおぱんつが好みなのかを公衆の面前で発言するよう圧力をかけられている。
「希咲。お前さっきは嫌がってたのにどういう風の吹き回しだ?」
「ふんっ。もうめんどくさくなったのよ。まぁ~? どうせ~? あたしが勝っちゃうしぃ~? さっさとシロクロつけた方が効率いいでしょ?」
「……ふむ…………」
どこかヤケクソ気味な様子にも見える、顎を軽く持ち上げ高慢な態度をとる希咲の真意を探る――が、女が前言を翻すことなど特段珍しくもないし、考えたところで女性の心理が解った経験も一度もないのですぐに考えることをやめる。
ただ、効率がいいというフレーズは気に入った。
「決着の時よ。訊かせてちょうだい、弥堂クン。私のパンツと希咲のパンツ――どちらが真にシコいかを‼‼」
「おい、シコいってなんだ?」
「あ、あたしに訊かないでよバカっ!」
審査に関わる重要な項目のようだったのでその意味をクラスメイトの女の子に尋ねたら、弥堂は理不尽にも怒られてしまった。
(だが……)
考える。
(希咲の態度の変化を鑑みるにあいつも俺に審査とやらをさせる意向のようだが……)
希咲の顏を見て、次に白井の方を見る。
ついさっきまで立ち上がって希咲とやり合っていた白井さんは、何故か床にまた座りなおし、さりげない動作でスカートの裾を乱すと特別審査員に媚びた。
(希咲を勝たせるということでいいのだろうか。それとも……――む?)
白井から希咲の方へと視点を戻したところで気付く。
対面の希咲がさりげなく、それでいて器用にパチパチとウィンクを送って目配せをしてきていた。
(この場をとっとと終わらせたいのは弥堂もいっしょのはず! 白井を勝たせればもう満足して帰ってくれるんだから、さっさとお望みを叶えてあげればいい)
気持ちが伝われと彼への眼差しにより一層力を籠める。
(無茶苦茶なヤツだけど多分バカではないはず! 汲み取れぇ~、つ~た~わ~れぇ~~!)
その熱烈な視線を受け止めた弥堂は――
(――ほう……なるほどな)
得心した。
(つまりは俺に忖度をしろと、そういうことか)
理解をしたという意を籠めて、希咲に向って一つ頷いてやる。
アイコンタクトによるコミュニケーションの成立に二人ともに気分をよくする。
精悍な顔つきで合図を返してくれたクラスメイトの男の子の頼もしさに、七海ちゃんのお顔はパァーっと輝いた。
そして弥堂も希咲の心意気を気に入る。
状況を自分たちにとって都合のよい結果に導く――その為には卑怯な手すら厭わない。今後子飼いとして便利に使っていく予定の者が、目的の為ならば手段を選ばない女であると解って一定の満足感を得た。
弥堂の脳内で希咲 七海の評価が6段階上昇した。
「いいだろう。この俺が裁定を下してやる」
静かに、しかし確かな意思でそう宣言した。
弥堂のその宣言を受け、審査委員長であり大会組織委員長でもある法廷院が手早く身を正すと前に進み出てくる。
しかし、先程の希咲と白井による、女子のこわいとこを目撃した影響で彼は若干腰がひけていた。
彼が――というか、高杉が法廷院の乗る車椅子を全員の視界に入る位置まで押してきてそこで止めると、法廷院の脇の下に手を入れて持ち上げて座席の上に慎重に立たせてやった。
完備された介護であった。
「フフっ。では訊かせてもらおうか。キミが思う勝利者の名を‼‼ 頼んだよ、狂犬クン――いや! ジャッジ弥堂っ‼‼」
ジャッジ弥堂は応えた。
「勝者は希咲だ。スコアは……そうだな、10億対0だ」
「はぁっ⁉」
「なっ――そんな…………」
頭の悪さが伺い知れるような点数を添えて告げられた最後の判定に男子生徒たちは沸き立つが、選手である女子たちは二人とも『裏切られた!』といった表情を浮かべ、演出を一切考慮しない即答に法廷院は唇を尖らせた
「ばかああぁぁぁぁぁっ‼‼ あんたはぁっ! なんでっ⁉ なんでっ⁉ もおおぉぉぉぉっ‼‼」
ゴシャァっと崩れ落ちた白井を背後に置いて、希咲は即座に特別審査委員に詰め寄ると乱暴に胸倉を掴んで力いっぱい揺さぶった。
「鬱陶しい。離せ馬鹿」
「バカはあんたでしょおぉっ! なんであたしを勝たせんのよっ⁉」
「お前が目配せしてそうしろと云ってきただろうが」
「ゆってない! このコミュ障! へんたいっ! むっつり! ばかっ!」
「勝つ為に手段を選ばないその姿勢は見事だぞ。褒めてやる」
「うっさい! うれしくないわよっ! あんたマジで――ヒッ⁉」
このまま精魂尽き果てるまで罵り続けてやろうとしたが、ふと背後から聴こえてきたか細い声に気をとられ、弥堂への罵倒を続けながら目線を回しそちらを見ると、希咲は恐怖で硬直した。
「……ナン、デ……? ドウシテ……ナノ…………?」
先程崩れ落ちた白井が顔面を床に沈めながら、震え声で譫言のように魂の残滓にこびり付いた未練を吐き出す。乱れ髪が顔面を覆い僅かに空いた隙間からこちらへ向けてくるその目が怖すぎて、希咲は顔を引きつらせながらカタカタと震え弥堂の背後へと隠れた。
完膚無きまでにホラーすぎたのだ。
「そうだね。ルール無用の高得点の理由はボクたちにしても気になるところだね。だってそうだろぉ? 10億シコPなんて前代未聞だよぉ」
「ゆっ……夢にでそう……」
白井の疑問に法廷院も同意を示す。
先の西野と本田の判定発表に倣うならば、この後詳細な寸評が弥堂に求められるはずなので、希咲としてはそんなコメントは止めなければならないはずなのだが、白井の狂態がガチで怖すぎて彼女は気が回らなかったのだ。
「それではコメントを願おうか、ジャッジ弥堂?」
「コメントだと?」
ふむ、と顎に手を当て一息分思考をする。
「そうだな。そこの女のおぱんつはアレだ。チャーシューに巻き付いた紐みたいで外すのが面倒そうだ。0点だ」
「……ほう……チャーシュー、と……」
法廷院は辛うじて堪えたが端で西野と本田がプッと噴き出した。白井がギロッとそちらを睨む。
「そして希咲だが……」
「へ? あたし? なに? なんの話してんの?」
どのように褒めれば機嫌をとれるかと考えながら喋る弥堂に名前を呼ばれ、そこでようやく希咲は現状に気付く。
「あっ! ちょっとあんたもしかして! いいっ! いわな――」
「――そうだな。希咲のおぱんつはアレだ。まず機能面だが、やたらとカラフルであちこちにビラビラとなんか付いていて目に付きやすいから、その無意味に短いスカートが揺れ動いた時に容易に視認することが可能だ。あと、なんだ。掴みやすいし目立つから適当に部屋に脱ぎ捨てておいても紛失しづらいという利点もあるだろう。日常生活においてとても機能的で効率的な品物だ」
「――だからっ! 見せるために穿いてんじゃないって言ってんでしょ!」
自分たちとは違った視点からの斬新な斬り口に、法廷院たちは或いは感嘆の意を漏らし、或いは考え込むような姿勢を見せる。
その様子をチラリと確認しながら、弥堂は必死に何かを訴える希咲を無視して言葉を継ぐ。
希咲を持ち上げつつ、このイカれた催しを確実に終結させる。
その両方の結果を得るべく、先程の西野や本田の弁論を思い出しながらそれっぽく仕上げていく。




