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俺は普通の高校生なので、 【序章】  作者: 雨ノ千雨
序章 俺は普通の高校生なので。
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序章28 終リ裁キ ②


 白井から呼びかけられた弥堂は特にどこを見るともなしに見ていて何も返さない。またも大騒ぎを始めた彼らの様子を先程から見ていたので、確実に顏はそちらに向けているのにも関わらず、一切の反応をしなかった。



「…………ねぇ」


「なんだ?」



 弥堂が反応しないせいで奇妙な静寂が形成された場の空気に耐えられず、先程まで満身創痍に近い状態であった希咲が気を遣って、未だ彼の肩に頭を乗せて寄りかかったままで割とすぐ近くにある彼の顔を気怠げに見上げて話しかけると、彼は普通に言葉を返してきた。


 希咲はイラっとした。



 しかし彼女はプロのJKだ。例えこうなるとわかってはいても、場に妙な無言の時間が蔓延るのは許せないのである。



「……呼んでるわよ?」


「呼ばれてなどいない」


「呼ばれてるってば。めっちゃこっち見てるし」


「気のせいだろう」


「や、あんたね。いくらなんでもそんなパワープレー通らないって」


「問題な――「――弥堂くんっ‼‼」――…………」


「ほら」


「…………」


 希咲にジト目でそう促されると、弥堂は無言で小さく舌を打った。こうなっては仕方ないと白井の呼びかけに応じる。



「簡潔に言え」


 弥堂は簡潔に伝えた。


 本人にその()があるのかは不明だが、およそ人間が人間に向けるべきではない侮蔑の混じった冷酷な眼差しに、明確にその()のある白井はブルリと一度その背筋を震わせると努めて自制し、己が要望を発言する。



「判定を……訊かせて欲しいの……」


「判定だと? 何の話だ? きちんと理解出来るように発言をしろ、無能が」


 簡潔にと言われたから簡潔に言ったのに今度は言葉の足りない無能だと罵られる。これぞパワハラと謂わんばかりの余りに理不尽な弥堂の物言いにしかし、白井は鼻息を荒くした。



「……もちろん、下着の話よ。私の下着と希咲の下着、一体どちらが優れているのか忌憚のない意見を訊かせて欲しいの」


「はぁっ⁉」

「ほう……」



 白井のその言葉に嫌悪の声をあげたのが希咲で、感嘆の意を漏らしたのが法廷院だった。弥堂は眉を顰めた。



「それを俺に訊くことに何の意味がある? 特殊な嗜好でもなければ、男の俺やそいつらに女性用品の機能の優劣などつけようがないだろう。違うか?」


「違うわ。機能の話をしているんじゃないの――いえ、ある意味、機能ね。つまり私のパンツと希咲のパンツ、どちらがより煽情的で男性の情欲を煽るか。どちらが弥堂くん――貴方の仰角をより急斜にする性能に優れた機能を保有しているのか。貴方はそれをはっきりと口にする責任があると思うの」


『お前は頭がおかしいのか?』



 そう声にしかけて弥堂は口を閉ざした。代わりに眼を細めて白井を視定めようとする。


 高確率で気が狂っていると思われる人間に対してその真偽を問いかけることに意味はないからだ。



 すると弥堂が黙したことで出来た会話の間隙に希咲が割り込んだ。


「ちょっと! 白井、あんたいい加減に――」

「――黙りなさいよおおぉぉぉっ‼‼」


 割り込もうとしたが、即座に爆炎の如き強烈な怒りを叩き返された。



 地に這ったままの姿勢で憎悪の眼差しを希咲へと向けてくる。昏い情念とは裏腹に色鮮やかな毛細血管が眼球を彩る。


「余裕ぶって見下してんじゃないわよっ! あれで勝っただなんて思わないでちょうだい!」


「別にあんたの勝ちでいいわよ。結果がどうとかじゃなくって、どっちがどうとかって話されるのがイヤだっつってんの!」


「真面目に勝負する価値すらないって言いたいの⁉ どこまで私をバカにすれば気が済むのよ‼‼」


「うぅ……もぉやだよぅ……」


 七海ちゃんはヘタれた。



 あまりの会話の成立の成功率の低さに憔悴したのだが、白井はそれすらも言葉を返す価値すら感じていないほどに見下されていると受け取る。


 白井さん視点で現状の弥堂に寄りかかる希咲を見ると、自分をマットに沈めた歴戦のチャンピオンがロープに腕をかけニュートラルコーナーで優雅に佇みながら、『BOY、キミにタイトルマッチのリングはまだ早いぜ。出直してきな』と言わんばかりの眼で見下ろしてきているように映っている。



 実際は嫌いな男を支えにしなければ立ってもいられないほどに消耗し、尚も蒸し返されようとしているセクハラにもう勘弁してくださいと懇願をしているのだが、ヒトは自分の目を通してでしか『世界』を見ることは出来ず、そして見たものも自分の性能でしか情報処理をすることが出来ないのだ。


 人の世の複雑さを嘆いて、七海ちゃんは室内シューズの爪先で床をグリグリしたかったが、そんな元気はなかった。



 そんな彼女へのこれ以上の追い打ちを防ぐ為――な心づもりは当然欠片もないが、希咲が会話を諦めたので、その空いたスペースに今度は弥堂が顔を出す。



「何故俺にそんな責任があるのかはわからんが、そもそも、さっきそいつらがお前が言ったようなことを長々と喋っていただろう。それで足りんのか?」


「不足ね。何故なら、彼らは謂わば身内同士よ。審査員全員が同じ団体から選出されるなんてそんなのとっても不公平だと思わない?」


「その上で、その審査員どもと同じ団体に所属するお前が負けたのならば、これ以上の公平性はないのではないのか?」


「綺麗事で誤魔化さないでっ‼‼ 私はそんな言葉が訊きたいんじゃないの!」


「何言ってんだこいつ」


 あまりの破綻ぶりに然しもの弥堂も返す言葉を失くす。すると、


「ねぇ」


 懐にいる希咲からジロリと視線を向けられる。



「なんだ」


「わかってると思うけど、余計なこと言ってこれ以上拗らせないでよね」


「わかっている」


「……ホントかしら」


 弥堂がクラスメイトの女の子からのお願いに快く応じていると、会話に法廷院が参入してきた。



「なるほどね。白井さんの言うことにも一理あるね」


「「ねーよ」」


 弥堂と希咲から異口同音で即座に全否定をくらったが、その程度のことでは彼は怯まなかった。


「さっきも言ったとおり、審査するにあたってどちらかに肩入れをして結果を捻じ曲げただなんてことは絶対にないよ。ボクらの誰一人としてね。それは間違いなく神にも誓える。だけどね――」


「なに勝手に語りだしてんのよ。訊いてねぇっ――「――だけどっ!」」


 無作法な妨害が入りそうになったが法廷院は勢いで乗り切る。


「――だけど、嗜好に偏りがなかったかと問われれば確かにその可能性は否めない。というのも、事実ボクたちはもともと同志であり同士――つまり同行の士だ。気の合う気のいい愉快な仲間たちさ。趣味嗜好という点において共通し共有しているということは紛れもなく事実さ。だってそうだろぉ?」


「代表……それじゃあ……?」


 光明を得たような表情で期待を含ませた眼差しを送る白井に対して、法廷院は安心させるように微笑んでみせた。



 そして続ける。



「つまり白井さんの指摘どおりの事実がある以上、彼女の提案どおり外部の審査員を招聘してその見解を伺う必要があるとボクは判断した。よって‼‼」


 一度言葉を切りつつ言葉尻で声を荒げ、余計な口を挟まれないように、さらに大袈裟なジェスチャーを入れて周囲を牽制した。

 片腕を振り上げたままの姿勢で間接視野にて仲間たちの表情を確認する。



 今行っているこれはパフォーマンスである。



 法廷院は同志たちに対して、自分は批判を受けたとしても貴重なご意見として真摯に受け止め、それに寄り添った形で解決案を出すことの出来るタイプのリーダーなのだとアピールしたのだ。


 見ると『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』の面々は一様に満足気な様子だ。法廷院もそれに一定の満足感を得た。バッと勢いよく掲げた腕を振り下ろす。


「よって! ここに延長戦の開始を宣言する‼‼」


 わっと歓声が湧きあがった。



「ちょっと! あんたまた――」

「――さぁ! 正真正銘の決着の瞬間だぁ! 最後の審判を下すのはキミだよ!」


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