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秒速のイカロス  作者: ほろよい
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第一章 疑惑 ~陸上選手・伊田~

あらすじ


伊田俊介は病的に勝つことにこだわる、陸上選手。

不慮の事故で片足を失った伊田だったが、義足の陸上選手として事故の前よりもタイムを伸ばし、オリンピック出場候補の健常者選手よりタイムが早くなっていた。

やがて、義足選手としてオリンピックに出場するという前代未聞の報道も飛び交うように。


そんな伊田のスキャンダルをとってこいと命を受けた週刊ワイドスパの記者・鮫島は、伊田が義足になるために偽装事故を仕組んだのではないかと考え始める。


―――――――――――――――――――――――――――


登場人物


鮫島郁夫(34)『週刊ワイドスパ』記者

伊田俊介(21)(7)(14)(17)スプリンター

真野桜子(22)『週刊ワイドスパ』記者・鮫島の後輩


川畑春樹(21)スプリンター

桑原信之(20代)テクニカル・スポーツ社員

上妻夏海(19)伊田の彼女・読者モデル

棚橋昌哉(17)伊田の高校時代の同級生

伊田孝明(42)(30)(31)(38)伊田の父親

伊田芳江(44)(29)伊田の母親

坂上竜哉(53)『週刊ワイドスパ』編集長

谷口慶介(20)伊田の部活仲間

時本翼(21)伊田の部活仲間

堀越巧(35)伊田の高校時代の部活顧問

栗原愛(24)キャバクラ嬢

ゆらゆら。


ゆらゆら。



伊田の目の前で揺れているのは、脚。

人間の脚だ。

誰の脚だろう。


脚の主を知るために、伊田は顔を上げる。

見上げた先にはロープに吊るされた父親、伊田孝明の顔。


「勝つことは正義だ!」


目の前で首を吊っているはずの孝明の声がこだまする。

伊田は声にならない悲鳴を上げた。




気付くと、伊田は夏海の部屋にいた。

ベッドで横たわっていたはずの伊田の体は、上半身が起き上がっている。

息は荒かった。胸糞悪い。

また、あの夢を見た。

叫び出したいぐらいやるせなくて、目についた物を全部ぶっ壊したくなるぐらい、ムカつく夢だ。


「大丈夫? うなされてたよ」

隣にいる半裸の上妻夏海が、心配そうに伊田の顔を覗き込む。

半裸の夏海を見て、伊田も自分が半裸である事実を思い出す。

夏海の心配など聞えていないように、伊田は周囲の散らかった衣服を掻き集め、せかせかと服を着る。


「また、お父さんの夢?」

夏海の言葉に反応しないまま、服を全て着終えた伊田は、義足を手繰り寄せる。

極力何も考えないようにしながら義足を装着して顔を上げると、風になびく白いレースのカーテンが目に付いた。



ゆらゆら。


ゆらゆら。



ベランダへ続くガラス戸が少し開いたままで、隙間風が吹いている。

朝日に照らされたカーテンは、伊田を嘲笑うように揺れていた。



ゆらゆら。


ゆらゆら。


ゆらゆら。



ふいに言いようのないムカつきが押し寄せて、負の感情で心が決壊しそうになる。

伊田はコンセントからコードを乱暴に引っこ抜くみたいに、思考回路を遮断すると、ガラス戸に近付いた。



ピシャ。

ガラス戸を閉めると、つい先ほどまで伊田を弄ぶように朝日の光を操っていたカーテンは嘘のように静止した。



また、一日が始まる。

冷蔵庫にある牛乳パックをラッパ飲みしたら、ジャージに着替えて、いつものコースを走りに行く。走り終えたら、準備をして、そのまま大学へ。そこでまたトレーニングを――。



思考を巡らせながら冷蔵庫に向かう姿を見つめる夏海の寂しそうな顔に、伊田は気付いていたが、気付かないフリをした。

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